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 それは一秒よりも短い時間だったかもしれない

 左手がアイリスに向けて魔法を放つ。


強炎呪文(ヤーバンフレイム)


 アイリスが炎に包まれるなか、ユウマはこの間に刀を肩にかつぎ、アイリスに向かって走った。


「アイリス!!」


 肩にかけた刀を上段の構えに変え、思い切りアイリスに振りおろした。

 強風が二人に吹き付け、炎がすぐに切れた。

 剣を持っていないアイリスの腕には紐がグルグルに巻きつき、更に剣のようにピーンと張っていた。その《紐の剣》がユウマの攻撃を防いでいた。自動では無くアイリスはそれを完全に剣として扱ってユウマの攻撃を《()太刀(だち)》していた。アイリスは微笑んだ。


「ユウマ、パパン村を思いだすわね。あの時の決着をつける?」


 ここで離れたら死ぬ。ユウマの本能がそう告げていた。ユウマは左手を《刀の(つか)》から離すと再び強炎呪文(ヤーバンフレイム)を放つ。アイリスは回転しながら炎を華麗に(かわ)し、更に紐の剣でなぎ払った。ユウマは咄嗟に刀を立て、わき腹への攻撃を守った――が、5mほど吹き飛ばされた。ユウマはどこかの住宅の壁に全身が激突した。


 ――くっ!!


 ユウマはすぐに起きあがった。口から血を吐いた。僅かな疑問がユウマの頭をかすめた。


 ――何故アイリスはこのチャンスに攻撃してこなかったのか?


 アイリスは既に攻撃は終わったと言わんばかりに悠然と歩いていた。そして、攻撃する代わりにゆっくりと話し始めた。


「流石ユウマね。風船みたいに破裂したマヌケな勇者達とは全然違うわ」

「……京太のことか?」


 アイリスはユウマが言葉を交わした事に満足そうに微笑む。


「やっと私と喋ってくれたわね。ずっとユウマとゆっくり喋りたかった。ねぇこれからお茶でもしない? だって首だけにしてからじゃ喋れないでしょ? だから生きているうちに少しでも未来の結婚相手の言葉を聞いておきたいの。愛してるわユウマ。ねぇあなたもそうなんでしょ? 私のことを愛しているんでしょ? だから私を助け、その後もお父様を殺したのに私を殺さなかったんでしょ? ねぇそうなんでしょ? ねぇ? ねぇったら! ねぇ……。…………答えなさいよ。答えなさいよユウマ!!」


 アイリスの叫び声で大気が震えた。

 ユウマは答えなかった。どんな答えでも嘘になる。いや、そうではない。答えたらもう戦えない気がしていたのだ。もうユウマしかいないのだ。この哀れな魔王を殺せる人材は不幸にも如月ユウマ(ただ)一人(ひとり)なのだ。

 ユウマは一歩足を前に出す。だが、この刹那、紐が物凄い速さで伸びてユウマの右足に巻き付いた。ユウマは視線を足下に落とした。


「答えなさい」


 アリスの問いをユウマは無視した。アイリスは紐を引っ張った。ユウマの右足が足首の少し上あたりから千切れ、血が噴き出した。


「ぐああああああああ」


 のたうちまわるユウマのまわりをアイリスが腕を組みながら歩く。


「話す気になったかしら。私を愛しているかどうかという事をよ。もちろんユウマが私を愛していることは分かるわ。でも、言葉にしてほしいの。男の人はそういうこと言わないモノだって誰かが言ってたらしいけど、私は思うのよ、それはただ恥ずかしがったり怠けているだけだって。そういうことを言われない女の子がどれだけ寂しいか考えた事ある? 思いは伝えるべきだわ。だから神様は私達に口を授けたのよ。愛を伝えあう為に。さぁ言って私のことをどれだけ愛しているか! 言って!! そうしないと人類の全てを皆殺しにするわ! まぁどっちみちそうするんだけど」


 またも紐がユウマの左手に巻きつき、瞬時に切断した。


「があああああああああああああ」

「早く言ってユウマ……、私この体になってから気が短くなってきるみたいなの。抑えられないの気持ちを……。人類なんて皆死ねばいいのよ。全員殺して私も死ぬわ! お願い……言って!」


 最早、アイリスさえ自分が何を言っているか分かっていないみたいだった。アイリスが右手を動かす。

 ユウマの首に紐が巻きついた。

 終わりの時である。

 アイリスは紐を持つ右手に力を入れ、思い切り叫んだ。言おうが言うまいが、2~3秒後には確実に死が待ち受けていた。


「言ってええええええええええええええええ!!」 


 ユウマはこの時、本当の意味での覚悟ができた。全てを捨て去る覚悟が。

 ようやくユウマは声を出した。


「すまない、アイリス……。君を生き延びさせる事で不幸のドン底に叩き落としてしまった。すまない……。君を救うべきじゃなった。ナディアも俺じゃなかったとしても幸せになっただろう。すまない。すべて俺という底なし沼に運命を変えられたせいだ。無理だった、どうあっても俺の運命は変えられなかったらしい。お前はきっとこの国の全ての人々を滅ぼすだろう……。呪い、恨み、魔の時代が1000年訪れる。もうその頃には人が果たして生きているのかどうか。お前の人格も、まだあるのかどうか……。内乱より酷い……。どうして俺はこういつも選択を間違え続けてきたのか……。愛していた。アイリス、ナディア。二人とも愛を教えてくれた。二人が伴に笑ってくれる未来を見たかった。そんな未来を……。だが、この時間軸に大きく干渉した俺の責任は重い。俺の間違えだらけの選択で、全てに不幸が訪れる。なら俺は……せめてマシな方を選びたい。このあとすぐにナディアが殺され、アイリスが永遠に苦しみつづけるだけなんて。俺には耐えられない。…………発動《因果律(いんがりつ)除去(じょきょ)》、対象は《三度目の如月ユウマの人生》」

「ユウマ何を言ってるの? ユウマ?」

「この世界が闇に満ちて死ぬのなら……、混沌とした世で死にたい……。1%でも希望のある死を望みたい」


 世界の全てが白くなってゆく。

 アイリスは紐を引っ張った。ユウマの首が落ち、首から大量の血が飛び出した。しかし、世界は白く更に加速してゆく。


「ユウマ! これは何なの? ユウマ!! ユウマあああああああああああ!!」


 ユウマの亡骸はもう答えない。

 したがって、これがユウマのユニークスキル《因果律(いんがりつ)除去(じょきょ)》であったというもの分からない。

 アイリスは自分の段々白くなってゆく手を見て。何かを理解した。そこで終わった。

 如月ユウマの三度目の人生とそれに伴い発生した時間軸が消滅した。


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