狩りは続くにゃん
○帝国暦 二七三〇年〇七月十二日
○王都タリス 文教地区 王立魔法大学 王室専用宿舎
王都タリスの城壁内の文教地区にある王立魔法大学。
さらにその奥まった場所に王室専用宿舎がある。
宿舎と名前が付けられてるが上級貴族の屋敷に引けを足らない重厚な建物だ。
まだ朝早い時間だったが、その車寄せに王都守備隊の騎馬に護衛された王宮の馬車が停められた。
磨き上げられた馬車の扉が御者の手で開く。
馬車を降りた細身の中年紳士が宿舎の使用人たちに出迎えられ案内される。
向かったのは食堂だ。
「おはようございますエドモンド殿下、いかがでございましたプリンキピウムからの旅は?」
まだ朝食の最中の第二王子に声を掛けたニエマイア・マクアルパインは人好きのする笑みを浮かべた。
アナトリの宰相にして貴族派の中核を成すフェルティリータ連合の盟主でもある王国一の実力者だ。
「おはよう宰相殿、わざわざご足労いただき済まない、昨夜王都に着いたばかりで先ほど起き出したところだ」
「エドモンド殿下には長旅を強いてしまい申し訳ございませんでした」
天賦の才である人たらしな五五歳のニエマイアは、親子ほど歳の違う第二王子に友人の様に遇されていた。
「なに、遺跡相手なら幾ら遠かろうと問題ない、この目で確かめたプリンキピウムの遺跡は実に素晴らしいものであった」
「報告では『当たり』とのことでしたが?」
「そう、当たりだ、プリンキピウムは生きてる遺跡だ」
「やはり」
「プリンキピウムの遺跡が開封されれば、クーストース遺跡群の全ての遺跡が息を吹き返すのではないだろうか?」
「それは真ですか?」
「可能性は高い、開封には首席殿に骨を折って貰う必要があるが、勝算は低くないはずだ」
「おお、素晴らしい! エドモンド殿下は人類の救世主となられるでしょう!」
「宰相殿、救世主はいくらなんでも大げさだ、それに私よりも首席殿の比重のほうがずっと大きいぞ」
「エドガー・クルシュマン首席も喜んでお手伝いするでしょうが、あくまでエドモンド殿下の指示が有ってのことです」
「そう、持ち上げないでくれ」
犯罪奴隷たちの苦悶の表情が脳裏に蘇る。
「エドモンド殿下、私はクーストース遺跡群の探求に四〇年を掛けて参りました、これも滅びの道をたどる人の世を救いたいが為でございます」
第二王子の手を握るニエマイア。
「オリエーンス連邦、最後期のクーストース遺跡群の価値は計り知れないのは私も重々承知しているが、開封前では喜ぶのは早いぞ」
「これは失礼いたしました」
一歩下がるニエマイア。
「遺跡の防御結界が三層あることを突き止めた。第一層と第二層は私の知識で何とか開封できると思う。問題は第三層だ。魔導師の力量が問われることになる」
「無論、準備は抜かりございません、エドガー・クルシュマン首席が中心となりもう開封の準備を進めてございます」
「それなら安心だが」
「何かございましたか?」
「第一層と二層にしても犯罪奴隷とは言え、魔法使いを大量に使い潰さなくてはならないことに罪悪感を感じるよ」
エドモンドは正直な心境を吐露した。
「何を仰られますエドモンド殿下、彼らは魂に刻まれた罪を現世でそそぐ機会が与えられたのです、しかも人の世の新たな礎となるのです、きっと喜びに打ち震えながらその時を迎えることでしょう」
「それならいいのだが」
まだ迷いは払拭されなかった。
「間違いございません」
「宰相殿、クーストース遺跡群の調査だがフェルティリータ州の四遺跡の調査は可能だろうか?」
エドモンドは今回のプリンキピウムの遺跡の調査の帰路にレークトゥス州とタンピス州にある計五つの遺跡に立ち寄っていた。
まだ掘削前だが、友人の魔導師マリオン・カーターの助けを借りて調査した結果、いずれもプリンキピウム遺跡の配下であると確信を新たにしていた。
以前からクーストース遺跡群として知られていたが、その関係性を探り当てたのは今回が初めてだ。
クーストース遺跡群はただ形式を同じにしている遺跡ではない。もっと緊密な関係がありそのネットワークは現在も維持されてると思われる。
フェルティリータ州にある残り四遺跡も確認する必要があるのだが、フェルティリータ州の領主であるニエマイアからいまだ許可を得られていなかった。
「宰相殿、クーストース遺跡群の関連性を確かめるためにも早期の調査が必要なのだ」
「私もぜひお出で戴きたいのですが、エドモンド殿下と私の接近を警戒する貴族たちの目がございまして、いま彼らを刺激するのは得策ではないと思われます」
「国王派の連中か、ゲスな勘ぐりをするヤツらだ」
「彼らもエドモンド様の身を案じてのこと、どうかご理解下さい」
「わかってる、私も彼らと波風を立てるつもりはない」
「いずれ時が来れば叶うこともございましょう」
「そうだな、早く来て欲しいものだ」
エドモンドは深くため息をついた。
「ところでエドモンド様、お土産でございます」
ニエマイアはテーブルに一〇個の魔石を置いた。
「これは随分と見事な魔石だ、粒も大きいし純度も申し分ない」
「どうぞお使い下さい」
「ありがたいが、いいのかこんなに?」
「大公国から冒険者ギルド経由で大量に流通しているのでご心配なく」
「大公国、すると死霊の魔石か?」
「はい、死霊が大発生し、大公陛下と第一公子殿下がお亡くなりになられました」
「そうであったか」
「ですが、死霊はすべて退治されこのように魔石となった様です、それに悪しき奴隷の風習も禁じられたとか」
「それは良いことだな」
「ええ、出兵を目論む輩の大義名分が消滅いたしましたから」
「大公国など獲っても出費がかさむばかりであろうに」
「言えてますな」
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)
同日 同時刻
『『『ギャオォォォォォッ!』』』
「にゃあ!」
オレたちはもう怪獣の域に達しているティラノサウルス系の特異種、七匹からなる群れに囲まれていた。
「おお、こいつは歯ごたえのある獲物である!」
相変わらずアーヴィン様は愉快そうだ。
「あっちも同じことを考えていそう」
「同意です」
全員、馬を消して臨戦態勢だ。
三人はそれぞれ背中合わせに立って、真ん中にいるオレとリーリを守ってくれてる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
アーヴィン様が先に仕掛けた。
恐竜にアッパーカットとか人類かどうか怪しいぞ。
『ガァッ!』
頭が跳ね上がったが、まったく効いておらず、ギロッとオレたちを睨んだ。
「ほぉ、これは随分と硬いではないか? これは困ったのである」
口ではそう言ってるが愉快そうな表情は隠しきれてない。
「アーヴィン様のいまの一発がぜんぜん効かないなんてちょっとマズいですね」
「同感です」
キャサリンもエラも同じく表情は楽しそうだ。
「にゃあ、こいつら特異種じゃなくてもヤバいにゃん」
「そうだね、でも特異種の方が美味しいよ」
リーリはブレがない。
「それは楽しみであるな」
恐竜は特異種の特徴である眼が四つどころか、八つも有って更に額から角まで生えてる豪華仕様だ。
外皮もプレートメイルみたいな金属の輝きを持っていた。
「これは、簡単には狩れそうにないにゃんね」
「マコト、来るよ」
特異種の口がメリメリと八つに分かれてめくれる。
全部にびっしり歯が生えていた。映画で見たような化け物になったぞ。
特異種の口の中に魔力が集まる。
「にゃお、皆んな特異種の口に注意にゃん! こいつら魔法を使うにゃん!」
「特異種が魔法を使うの!?」
「にゃあ、オレは前にも出遭ったことがあるにゃん!」
「それって魔獣ではないですか!?」
「魔石が無かったから魔獣ではないにゃん、特異種は個体差が激しいので何が有っても不思議じゃないにゃんよ」
恐竜たちの口が次々とめくれた。
発動直前の魔法式が見えた。
音だ!
『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』』』
まるで音響兵器だ。
魔法で拡大した音で獲物を潰す攻撃だ。
耳を塞いだぐらいでは到底防ぐことは出来ず脳を破壊されてお終いだ。
「「「なっ!?」」」
弾き飛ばされたのはティラノサウルス系の特異種七匹だった。
「これは何事であるか!?」
「にゃあ、こいつらは自分の魔法を食らったにゃんよ」
「自分の魔法とな?」
「わかった、魔法馬の防御結界でしょう?」
「にゃあ、正解にゃん」
「防御結界が恐竜の魔法を跳ね返したのですね」
「そうにゃん」
自分の撃ち出した音で恐竜の特異種はそれぞれ脳をやられて昇天した。
早速、回収する。
「油断のならぬ敵であったわけだ、良かろう、次こそ吾輩の拳で沈めて見せるのである!」
アーヴィン様に火が点いた。
「にゃあ、すぐに次が来たにゃん」
アーヴィン様の熱気が引き寄せたのかゾウの特異種が来た。
「えっ、これってゾウなの!?」
「鼻が二本もありますね」
「にゃあ、眼も四つあるにゃん」
「特異種だね」
「ゾウの特異種であるか、吾輩の相手にとって不足なしである!」
アーヴィン様は両手に装着したガントレットをガチンと打ち付けゾウの特異種に立ちはだかった。
「化け物同士の対決ね」
「同意です」
何気に守護騎士から失礼な発言が聞こえたぞ。
『パォォォォォォォォォッ!』
ゾウの特異種が二本の鼻を振り上げて雄叫びを上げた。
「おおおおおおおおおおおおお!」
アーヴィン様も負けてない。ガントレットに魔力が集まる。
「アーヴィン様のガントレット、魔導具だったにゃんね」
いまさらながら気づいた。だっていままでぶん殴っていただけだし、衝撃波もアーヴィン様が繰り出した技でガントレットは関係なかった。
「爆炎のガントレットです」
エラが教えてくれた。
「行くのである!」
アーヴィン様は迫りくるゾウの特異種に自ら突っ込む。
新車セールス時代のオレの胴回りより太い二本の鼻が、まるで鞭の様にしなりアーヴィン様に襲いかかる。
「にゃ、避けたにゃん」
機敏な動きで打ち下ろされるゾウの鼻をするりと躱したアーヴィン様は、ガントレットに魔力を込めた。
おいおい六〇代の人間の動きじゃないぞ。
そのままガントレットでゾウの横っ面を殴った。
特異種の四つの目が「マジかこいつ!」みたいに見開いた。
『パッ!』
次の瞬間、四つの眼から炎を噴き上げた。
「にゃ!?」
口からも炎がチロチロと漏れ、そして轟音とともに前脚の膝を着きそこから横倒しになって倒れた。
焦げ臭い匂いが漂い鼻から白煙が上がっている。
ゾウの内側が燃えてるみたいだ。
「にゃあ、アーヴィン様のガントレットって、ぶん殴ると相手の身体が火を噴くにゃん?」
だとしたら危険極まりない魔導具だ。
「対象の内側から発火するんだよ、この前、盗賊を倒した時なんてね」
「みゃあ、聞きたくないにゃん」
オレは自分の耳を塞いだ。
ゾウの特異種を回収したが内側が炭化してぺちゃんこになっていた。
勿体ないので格納空間で復元した。
お昼は午前中に倒した恐竜の特異種とゾウの特異種を使ったカツサンドだ。
「マコト! これ最高だよ!」
リーリが絶賛してくれる。
「強いヤツがうまいという言葉を実感させてくれる味である」
アーヴィン様が豪快にカツサンドを食らう。
「ビールはどうにゃん?」
「飲みたいが午後の狩りに差し障りがあったら困るのである」
「にゃあ、休憩が終わったらアルコールを抜けばいいにゃん」
「なんと」
「ネコちゃん、アルコールを抜くってどういうこと?」
「にゃあ、魔法で身体からアルコールを抜けばシラフの状態に戻るにゃん」
「アルコールを抜く魔法があるとは驚きです」
「にゃあ、冒険者は良く使ってるにゃんよ、酔い覚ましは魔力がちょっとかかる生活魔法の一種にゃん」
実際には解毒系のごく弱い治癒魔法だが、冒険者たちは魔法の分類などに興味がないので応用はされてなかった。
風邪の引き始めに効きそうなのだが。
「面白い、吾輩も試してみるのである」
「にゃあ」
アーヴィン様の前にビールを注いだジョッキを置いた。早速ビールを飲みながらカツサンドを食べる。
「おお、カツサンドとビール、実に良く合うではないか! マコト、もっとビールが欲しいのである!」
アーヴィン様は、空になったジョッキを見せてすぐにビールのおかわりを要求する。
「ネコちゃん、私も試してみたい」
「こちらもお願いします」
「にゃあ、了解にゃん」
キャサリンとエラの前にもビールのジョッキを置いた。
「ああ、昼間から飲むビールは最高!」
「最高です」
誰もペロンペロンになるまで飲んでいいとは言ってないのだが。もしかして悪いことを教えてしまったかも。
午後は三人をアルコール抜きとウォッシュでシャキッとさせて送り出した。
「午前中の疲労が消え、またじっくり楽しめそうである」
まだまだやる気の六〇代だ。
拳で巨大な特異種をタコ殴りにする。
「うわ、何の特異種なのかわからなくなっちゃったよ」
リーリもドン引きだ。
「死にたくなかったら道を開けなさい!」
キャサリンは獣たちに空気の刃を飛ばして獣たちを切り刻む。口で言って避ける獣は一匹もいなかった。
それ以前に道を開ける暇も与えなかったけど。
「はああっ!」
エラは問答無用で獣たちの首を切り落とした。
「にゃあ、アーヴィン様たちの前では特異種たちが被害者に見えるにゃん」
「そうだね、一方的だもんね」
オレはかわいそうな特異種たちの亡骸を回収して格納空間で修復する。いずれにしろプリンキピウムの街に近い特異種は駆除しなくてはならない。
オレとリーリは、アーヴィン様たちの後をパカポコついて行く。
自由に狩りをしていいことになってるが、三人の倒した獣たちを拾い集める方が自分で狩るより効率が良かったりする。
「マコト、ウシだよ!」
リーリが叫んでオレは顔を上げた。
「にゃ?」
大きな角のウシの群れが横いっぱいに広がってこちらに向かって来た。
『『『ムゥオオオオオオオオオオオオオオオ!』』』
ざっと探査したところ約三〇〇頭の群れだ。
「ウシというよりスイギュウにゃんね」
「スイギュウっていうの?」
「にゃあ、そうにゃん、しかも特異種が率いてる群れじゃないにゃん」
「うん、群れの中に特異種はいないね」
スイギュウの群れがアーヴィン様たちに迫る。特異種がいなくても大迫力だ。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
アーヴィン様がうなり、ガントレットを突き出した。
破裂音とともに衝撃波がスイギュウの群れを襲った。
デカいスイギュウたちが打ち上げられ回転しながら飛んで行く。
アーヴィン様は二発三発と衝撃波を打ち込んでスイギュウたちを飛ばす。
衝撃波の届かなかった他のスイギュウたちは、そのまま通り過ぎた。
「にゃあ、もしかしてオレたちが目的じゃないにゃん?」
「そうだね、群れの移動に偶然かち合っただけみたいだね」
「にゃお、紛らわしいヤツらにゃん」
「お肉から来てくれたんだからいいんじゃない?」
「それもそうにゃんね、にゃあ!」
オレは通り過ぎたスイギュウたちに電撃を浴びせた。感電したスイギュウは走ってる途中に膝が抜けて倒れる。
「例え特異種がいなくても、オレがあの数の群れを街に近づけるわけないにゃん」
スイギュウを一匹残らず群れごと回収した。
その後はまた特異種のラッシュが続いた。
「にゃあ、今回は嫌に特異種の数が多いにゃんね」
「この辺りは以前から多いけど、確かに不自然に多いよね」
リーリもオレの頭の上でうなずいた。
「オレとアーヴィン様たちが、魔力を垂れ流してるのも関係はありそうにゃん」
まさかプリンキピウムの森が久々の貴族の登場にテンションが上って接待してくれてるわけでもないだろうし。
プリンキピウムの街にまで特異種が迫るようなら、オレのお馬さん軍団を森に放つまでだ。
「でも、侯爵たちがあれだけ狩ってくれてるなら心配はないんじゃない?」
「にゃあ、そうにゃんね」
いまのところはアーヴィン様一行が、増えた以上に特異種を狩りまくってるので、いまのところオレのお馬さん軍団の出番はなさそうだ。
空の雲が厚くなり森の中が夕暮れを待つことなく急に薄暗くなった。
雲行きが怪しくなって来たので今日は早じまいだ。
大木を一本まるごと消し去ってロッジを置ける空間をこしらえた。
『にゃあ、今日はここまでにゃんよ』
ロッジを出してから、先行しているアーヴィン様たちに魔法馬の通信機能で念話を送った。
『『『了解!』』』
封印結界を大きくして魔力のお漏らしを閉じ込めた。これで次の客が来なくて済む。
先行していた三人が戻って来た。
「マコト、今日は早いのではないか?」
「にゃあ、間もなく雨が降ってくるにゃん」
「雨であるか、いまにも落ちそうな雲行きではあるな」
アーヴィン様が天を仰ぐ。
「ネコちゃんのロッジがあるのは助かるよ、雨の降るプリンキピウムの森でテントなんてゾッとしないもの」
「激しく同意です」
「いや、テントが使えるだけマシである。真に危険な場所は明かりすら命取りになるのである」
「にゃあ、それはどこにゃん?」
「戦場である」
「にゃお」
「戦争などないに限るが、こればかりはなんとも言えぬな」
「そうにゃんね」
オレは既に戦争をやらかしてるので偉そうことは言えないが、経験しなくてもいいなら経験しないに限る。
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ
アーヴィン様たちをロッジに収容してウォッシュした辺りで空から大粒の雨が落ちてきた。
雨に打たれた木々の葉が音を立てる。
「これはまたずいぶんと降るのであるな」
外の様子を眺めるアーヴィン様。
「にゃあ、プリンキピウム周辺はこれが普通にゃん」
オレも最初は驚いたけどな。
「これが普通なの?」
キャサリンは目を丸くする。
「手持ちのテントを使っていたら大変なことになっていました」
「にゃあ、ちゃんと防水が効いてないと水が漏れるにゃんね、それに地面も工夫しないと水浸しになるにゃん」
「マコトはなかなか詳しいではないか」
「にゃあ、テントはそれなりに使ったにゃん」
前世の学生時代のキャンプで、雨に降られてひどい目にあったぐらいだけどな。
翌年からテントにちゃんと雨対策をしたが、それ以後は一度も降られることはなく学生時代を終えた。世の中そんなものである。
少し早くお風呂に入ってその後はゆったりと夕食を楽しんだ。
アーヴィン様の話してくれた冒険譚が面白かった。
砂の海や、遠い異国であるケントルム王国の話に興味が湧いた。図書館で仕入れた知識はあるが、実際に目にした人の話はちがう。
夜中になっても雨脚は衰えず、狩りは中止にした。雨の夜は無理をしないに限る。
オレはリビングに布団を敷いて雨を眺める。
リーリはおなかに張り付いていた。
雨音は子守唄のように心地よくて、すぐに眠ってしまった。




