国境の街エパネノスにゃん
○フルゲオ大公国 エパネノス 国境地帯
馬車の荷台からリーリと一緒に国境地帯の風景を眺める。左右ともにただの藪で侵入不可の結界が張られていた。
結界を破って無理に藪に突っ込んだら地雷でドカン!なわけだ。
「にゃあ、初めての外国にゃん」
「美味しい物があるといいね」
「にゃあ」
オレとリーリが期待に胸を膨らませる。
「あまり期待しないで下さいね」
初っ端からカティに釘を差された。それでも貴族が幅を利かせてるこの国なら美味しいモノが存在しても不思議ではない。
「美食家の貴族ぐらいいるだろうから、ぶっ飛ばすついでに情報をいただくにゃん」
「ぶっ飛ばすのが前提なのか?」
御者台のラルフが振り返って呆れた顔を見せる。
「にゃあ、そんな展開になりそうな気がするだけにゃん」
「とにかく穏便に頼むぞ」
ラルフが念を押す。
「にゃあ、わかってるにゃんよ、それでこれから何処に行くにゃん?」
「この先の国境の街エパネノスを抜けたらフルゲオ大公国の首都ルークスに向かう、そこの冒険者ギルドで最新の情報と指示を貰う予定だ」
「間に合うにゃん?」
「間に合うも何もルークスで指示を受けない限り俺たちは動けない」
「あちらの要請で来てるからね」
アレシアが補足する。
「にゃあ、了解にゃん」
「カティ、首都のルークスにはどのぐらいかかるの?」
今度はアレシアが質問した。
「通常の乗り合い馬車で一週間程度です」
カティが振り返って教えてくれた。
「にゃあ、流石に遠いにゃんね」
「マコトの馬車ならもっと早いよ!」
「だろうな」
「にゃあ、宿には泊まらなくてもいいにゃん?」
「マコトさんのロッジなら問題ないと思いますが、ちゃんとした野営地はありませんから注意して下さい」
「何を注意すればいいにゃん?」
「街道の結界と大公国の貴族です」
「にゃあ、街道の結界はいま道路の縁に展開してるヤツのことにゃん?」
「そうです、野営地から更に外側には出られませんから注意して下さい」
「にゃあ、襲ってきた貴族は犯罪奴隷として売っぱらってもいいにゃん?」
「ケースバイケースだ、例えば身分を示すモノがなければ、自分を貴族と証明するのはかなり難しいらしい」
ラルフがニヤリとした。
「にゃあ」
「マコト、フルゲオ大公国は犯罪奴隷どころか奴隷制度がいまだ残ってる、その点は覚えていてくれ」
「にゃお、奴隷制度があるとは驚きにゃん」
「俺たちには受け入れ難い制度だが、今回は見て見ぬふりで頼む」
「にゃあ、なるべく努力するにゃん」
「そんなに酷いの?」
「この国は異常です」
「カティがそう言うならそうなのね」
「まともな人間も少なくはないが、貴族はそろってイカれてるそうだ」
「にゃあ、それが昨日仕入れたネタにゃん?」
「その程度ならホテルの廊下でも拾えるぞ」
「そうにゃん?」
「俺が仕入れたのはもっとヤバいネタだ」
「にゃあ、教えて欲しいにゃん」
「後でな」
前後を他の馬車で囲まれた状態では仕方ないか。
魔法を使って誤魔化すこともできるが、魔法使いには逆に勘付かれる。
○エパネノス 城壁門
「直ぐに街になるのね」
国境の門と街の距離はアポリトの州都と変わらない。
「アポリト州の州都スプレームスとフルゲオ大公国の国境の街エパネノスはかつて一つの街だったそうです」
「街の真ん中を国境線が走ってるにゃんね」
両方の城壁はどちらも老朽化が激しくとても堅牢な物とはいい難い状態だった。
街が別れてから久しく戦乱は無かったのだろう。
「街の雰囲気も変わらないにゃん?」
「ああ、犯罪ギルドがのさばっている」
「早速、監視されてますね」
「にゃあ」
手法は昨夜と同じ。
「マコトも妖精さんも気付かない振りをしてくれ」
「わかってるにゃん」
「あたしは何も気付いてないよ」
馬車の荷台から通りを眺める子供と妖精になりきる。
○エパネノス 市街地
門を抜けてエパネノスの街に入った。
こっちも人通りと馬車が多い。
「いつもこんなに賑やかにゃん?」
「はい、エパネノスでアナトリとの貿易の大部分が行われてます」
「解放されている国境の門はここだけだからね」
カティの情報にアレシアが追加する。
「一箇所しかないのは不便にゃんね」
「フルゲオ大公国が貧しい原因の一つです」
「昨日聞いた話だとここ数日いつもより賑わってるらしい」
「何か理由が有るにゃんね」
「大公国を出るのは貴族の馬車が多いのかな?」
アレシアが対向車の車列を眺めた。
「つまりそういうことにゃんね」
「この辺りには死霊の情報は全く出回っていないから余計なことは言うなよ」
ラルフが注意する。
「了解にゃん」
貴族の国外脱出はラルフが酒臭くなって仕入れたネタと関係があるのだろう。
「にゃあ、あそこにいるのはチャドと違うにゃん?」
エパネノスの街を歩く通行人の中にチャドがいた。
「違うんじゃないか、あいつがこんなところいるわけないだろう」
「それもそうにゃんね」
チャドに良く似た人だったらしい。
「おっ、ラルフ! それにマコトも! 探したぜ!」
チャドに良く似た人が馬車の御者台に乗り込んできた。
「図々しいところまでチャドにそっくりにゃん」
「そうだね」
妖精も頷く。
「そっくりじゃなくてチャドさん本人でしょ」
アレシアが指摘する。
「にゃ!?」
「チャド、おまえいつの間に俺たちを追い抜いたんだ? 確かオパルスにいたよな」
「アポリトに入ってからじゃないか?」
「俺たちとは別の道を使ったってことか」
「近道をな」
「もっと早く到着できる道が有るんですか?」
「まあな、最近開拓された最新の抜け道を使ったんだ」
「最新の抜け道なんて良く知ってるね」
「酒場に行けばそれなりに仕入れられるぜ」
「そうだな」
ラルフも相槌を打つ。
「酒場」
カティがボソっと呟く。
「にゃあ、カティも酒場に行くにゃん?」
「いいえ」
「にゃあ、お酒が苦手にゃん?」
「苦手ではないです」
「にゃあ、だったら」
「マコト、間違ってもカティに酒を出すなよ」
チャドがジト目でオレを見る。
「何でにゃん」
「カティは酔っ払うとファイヤーボールを撃ちまくるんだよ」
「にゃあ、マジにゃん?」
「……すいません」
カティが小さくなる。
「いまは飲まないから大丈夫でしょう?」
アレシアが問いかける。
「もちろんです!」
「にゃあ、だったら大丈夫にゃん」
「危うく犯罪奴隷墜ちするところでしたから」
スゴいことをやらかしたらしい。
「随分と派手にやったんだね」
妖精は目を輝かせる。
「ですから、救って戴いたアルボラの領主様に誓ってもう二度とお酒は口にしません」
「にゃお、酔っ払っただけで犯罪奴隷になりそうなほど乱れるのは普通じゃないにゃんね」
「すいません」
もっと小さくなる。
「にゃあ、お酒の他にも原因があると違うにゃん?」
「お酒の他にですか?」
「いくら泥酔したって魔法使いは火を放つなんてしないにゃん、普通、酔っ払うと魔法は使えなくなるはずにゃん」
「そうだね、酔っ払うと集中できなくなるからね」
リーリも同意する。
「酔っ払うと銃をぶっ放す冒険者ならいたけどな」
チャドが過去形で語る。
「いまはいないにゃん?」
「ああ、自分の頭をぶっ飛ばして天に還った」
「にゃお」
「あぅ、私も最期は自分の炎に焼かれて死ぬんですね」
落ち込むカティ。
「カティって炎の魔法が得意にゃん?」
「いいえ、普段はほとんど使えません」
「お酒が入ると得意になるにゃん?」
「そうみたいです」
「それも不思議だね」
「にゃあ」
前世でのお客さんだった町工場の工場長が酒が入ると手の震えが止まって調子がいいなんて言ってたのを思い出す。
どこぞの冒険者と違ってたぶんいまも絶好調だと思う。
それはともかくカティの言ってることはどうもおかしい。酔っ払うと計算が速くなると主張している様なものだ。
「にゃあ、ちょっと見せるにゃん」
手を伸ばしてカティの手を握った。
「えっ?」
「マコトはエーテル器官だって治せるから任せるといいよ」
「エーテル器官ですか? 王宮の治癒師だってそんなこと出来ませんよ」
「にゃあ、それは知らなかったにゃん」
ざっと調べたところ、カティ自身に酒乱の気は無さそうだ。
やはり原因は別のところにあった。
「にゃ、カティには呪いが掛かってるみたいにゃんよ」
「呪いですか!?」
「にゃあ、お酒が入るとエーテル器官に過度の魔力が発生するように呪いが掛けられてるにゃん」
呪法もこちらでは魔法の一種なので本当に効く。
「へえ、随分と周到に隠してあるんだね」
リーリも感心する出来だ。
「お酒が身体に入ると起動する術式にゃん」
高度な隠蔽といい魔力を上げて対象者を酩酊状態にするとは現代魔法もなかなかやる。
「体内で強い魔力が発生したせいで、カティは酔っ払ったみたいな状態に陥るにゃんね、周囲の人間にもそう見えたはずにゃん」
「カティは、誰に呪われたの?」
妖精はカティの頭に飛び乗った。
「わかりません、呪われるほど他の人に関わってませんから」
ぼそっと寂しいことを言う。
「カティは優秀だから他の魔法使いに妬まれたんじゃないの?」
アレシアが身を乗り出す。
「にゃあ、かなり高位の魔法使いじゃないと無理にゃんよ、だから嫉妬ではないにゃんね」
もっと底意地の悪いヤツだ。
「だったら、王宮の宮廷魔導師かもな」
チャドが振り返る。
「にゃあ、魔法使いと魔導師の違いは何にゃん?」
「魔導師は魔法使いの中で魔法式の構築に長けてる者を言うってのが本来の定義だが、実際は宮廷のお抱え魔導師のことだな」
「にゃあ、それって高位の魔法使いにゃん?」
「アナトリ王国の宮廷魔導師は優秀な方ばかりですが、フルゲオ大公国の魔導師は不明です」
「にゃあ、するとカティの呪いは魔導師の仕業にゃんね」
「アナトリの宮廷魔導師で決まりだろう? あいつら暗殺と呪いが得意だから」
「にゃお」
「何故、私がアナトリの宮廷魔導師様に呪われるのですか?」
「理由まではわからん」
「にゃあ、チャドのは推測じゃなくて当てずっぽうにゃん」
「チャドの言うことももっともだ、高度な術式を伴う呪いなんて領主のお抱えクラスの自称魔導師では無理だ」
御者をしているラルフは前を向いたまま話す。
「にゃあ、誰が掛けたにしろ呪いは消しておくにゃん」
カティに仕掛けられた呪いの術式を分解した。
実際には呪いを掛けた本人にお返しする。
倍返しで。
誰かわからないが呪い返しはそう難しくない。
ついでにカティのエーテル器官を綺麗にしておく。
「にゃあ、もう大丈夫にゃん、これからはお酒を飲んでも普通に酔っ払って終わりにゃん」
「おお、だったら今夜早速、試してみるか? 俺も付きやってやるぜ」
チャドは声を弾ませる。
「構わないにゃんよ」
「ですが」
「これから禁酒を続けるにしろ、呪いがちゃんと解けてるかの確認は必要にゃん」
「そうですよね」
カティはそう言って深い溜め息をついた。
「ところでチャドは何で大公国にいるにゃん?」
「マコトの護衛をフリーダに頼まれたんだ、ルークスで合流するつもりだったが上手いこと早く見付けられて良かったぜ」
「にゃあ、婆さんは連れて来なかったにゃん?」
「フルゲオにあんないい馬をそのまま持ち込むバカはいないぞ、いまは大事に仕舞ってある」
格納できるようにしてやったのはオレだ。
「マコトより弱いチャドに護衛が務まるの?」
「妖精さんは容赦がないぜ」
「弾除けぐらいにはなるから大丈夫にゃん」
「マコトも容赦ないな」
「そう言うなって、俺はチャドがいてくれて心強いぞ」
「ラルフはわかってくれるか」
「頼りにしてるぞ」
「おお、任せろ、今夜はとことん飲むぞ!」
「それはちょっと待て」
チャドのことはラルフに丸投げだな。
エパネノスの街はスプレームスと似ていたが、こちらは全体的に煤けた感じがして薄汚い。
そして首輪をつけた人間がいた。
犯罪奴隷ではない本物の奴隷だ。
首輪を付けてる以外は、一般市民と大差ない恰好をしてる。
奴隷が身奇麗と言うわけではなく市民が埃っぽいのだ。
国内で使用されてる馬車もプリンキピウム近辺のものよりもヤバい。
魔法馬の足に出来たヒビを縄で縛って修繕してあった。
自壊の刻印を潰してあるようだ。
危険は承知で本当に動かなくなるまで使い倒すのだろう。
わからなくはないが、かなり危険な行為だ。
「おい、コラ、ちょっと待て!」
三〇ぐらいの髭面の男がオレたちの馬車を追って後ろから走ってきた。
「何にゃん?」
「貴族の従者みたいね」
なるほど他の市民とくらべると身奇麗な恰好をしていた。いや、派手な恰好か。
「停めろ、コラ!」
「何か、停めろって言ってるね」
「にゃ、転んだにゃん」
男が派手に転んだ。
皆んながオレを見る。
「オレは何もしてないにゃんよ」
「そういうことにしておくか、しかし渋滞だ」
前方は馬車が詰まっていてせっかく逃げ切るチャンスが潰れてしまった。
「ぜぇ、ぜぇ、貴様ら逃げるとはどういうつもりだ!」
息を切らせた男が遂に追い付いた。
「逃げるとは随分と無礼な言いがかりですね、あなたこの馬車の掲げる紋章が目に入らないの?」
アレシアが荷台から立ち上がった。
「うっ」
貴族の従者らしき髭もじゃが固まった。
盗賊と違って話が通じるようだ。
「こちらは、アナトリの貴族にして冒険者のマコト・アマノ様の馬車ですよ!」
「し、失礼しました」
「どうせこの馬車と馬を横取りしようとしたのでしょう?」
「い、いいえ、決してそのようなことは」
「だったらどんな要件だったのかしら? 場合によっては主人ともども犯罪奴隷墜ちにするわよ」
「い、いいえ、ちょっとした勘違いでして」
答えに窮した男は脂汗をかいて目を泳がせる。
「今回のことは目をつむりますとあなたの主人に伝えなさい、次はないわよ」
「かしこまりました」
ビシっと敬礼すると逃げるように主がいるらしき馬車に駆け戻って行った。
「にゃあ、今回は上手く行ったにゃんね」
「うん、こちらの身分を理解できる相手なら何とかなりそう」
「楽観はしない方がいいぞ」
ラルフが釘を刺す。
「ああ、話の通じない奴もどっさりいるぜ、あいつらみたいにな」
チャドが指差した先にバンダナみたいな布で顔を隠した六人の男が剣を抜いて突っ込んでくる。
悲鳴を上げて逃げる行商人。
馬車の御者たちも身を固くする。
「にゃあ、顔を隠してるけど、さっきの男と同じ服を着てるにゃん」
「合法的に馬車を奪えなかったから非合法の手段に出たんですね」
オレとカティは冷静に話す。
「どうする?」
チャドが腰を浮かせる。
「にゃあ、何もしなくても大丈夫にゃん」
男たちが剣を振りかざす。
「死ね!」
今度は問答無用で殺すつもりらしい。
「なっ!?」
剣はオレたちに届くことなく見えない壁に突き刺さる。
「マコトの防御結界はそんな剣じゃ抜けないよ」
妖精の声は襲撃者には届かなかった。
既に電撃を浴び素っ裸になって倒れていたからだ。
襲撃の結果が確定したところで、この街に駐屯してる大公国軍の国境守備隊が慌てて駆け付けた様に出て来る。
極力、アナトリの貴族とは関わり合いになりたくないのだろう。
「にゃあ、ラルフたちは素っ裸のヤツらを守備隊に引き渡しといて欲しいにゃん、オレはこいつらの親玉を捕まえるにゃん」
「親玉って貴族か!?」
ラルフが声を上げた。
「いいえ、アナトリの貴族に手を出した以上ただの犯罪者、そうでしょう隊長さん?」
「その通りであります」
アレシアの問い掛けに国境守備隊の若い小隊長は敬礼して答えた。
戦闘力の有るアナトリの貴族と敵対するほどバカではないようだ。
「待てマコト、俺も一緒に行こう、これでもお前の護衛だからな」
チャドが立ち上がった。
問題の貴族は後方五〇メートルの位置に停まっている馬車の中にいた。
国外脱出の途中すれ違った瞬間、オレの馬車に目を付けて強引にUターンをかましたのだろう。
御者も含めて襲撃させたらしくいまは斜めに駐車したままだ。
「にゃあ」
まずは馬車を消し去った。
「「きゃあ!」」
三人の男女が地面に落ちた。
一人はでっぷりと太った中年の小男。こいつが問題の貴族だ。
「な、何だ!?」
後のふたりはメイドのような恰好の若い女だった。
どちらも首輪をしてるから奴隷らしい。こちらは声をだすこと無くふたりで抱き合ってる。
「この男が親玉にゃんね」
「いいとこ男爵ってところか、むちゃする割に大したことが無かったな」
オレとチャドが寸評を述べる。
「き、貴様、俺様を誰と……」
「知らないにゃん」
男の言葉をかぶり気味に否定した。
「ただの盗賊だろう?」
チャドが言う。
「貴様ら!」
剣を抜いたところで電撃を浴びた男は直ぐに素っ裸になって転がった。
「お姉ちゃんたちは、オレたちに敵対するにゃん?」
ふたりはそろって首を横に振った。
「にゃあ、だったら問題ないにゃん」
馬車を消したときに出来た傷を治してやった。
貴族と従者はまとめて盗賊として国境守備隊に売り払って出発した。手続きは実に簡単だ。
フルゲオ大公国には貴族の不逮捕特権的な法が有ったのだが、素っ裸で所持品も無しで身分を証明するモノが無かったから仕方ない。
面倒事を嫌った小隊長も異議はないらしくそのまま買い取った。
こちらの情報が正しいと証明されたわけだ。
貴族を自称する輩は少なくないので、直ぐに奴隷商人によって矯正されるのだそうだ。
残ったメイド風の若い女ふたりはオレが保護することになった。
大公国の法では、オレの所有になるらしく、こちらも実に簡単な手続きで主人の変更が行われた。時間にして三分弱。
金髪がキュカで黒髪がファナどちらも十六歳の美人だ。
特に胸はふたりとも冒険者ギルドに就職すれば出世すること間違い無しだと思われる。
異世界で美人の奴隷まで手に入るとは思わなかった。
残念ながら六歳女児のオレには綺麗なお姉さんにゃん程度の感慨しか出て来ない。
「マコト様は、私たちをお売りにならないのですか?」
「にゃあ、売らないにゃんよ、ルークスに行ったら奴隷から解放するにゃん」
「私たちは不要と言うことでしょうか?」
キュカとファナは悲しそうな眼でオレを見た。
「にゃあ、ふたりは故郷には帰りたくないにゃん?」
「私たちは幼少の頃に孤児院から売られました。ですからマコト様の仰る故郷というのはございません」
「にゃあ、苦労してるにゃんね」
「いえ、遺跡の発掘に売られた子たちもいましたから、それに比べたら私たちはずっとマシです」
「にゃお」
「私たちがご不要でしたらルークスでお売り下さい」
「にゃあ、不要ではないにゃんよ」
「マコト、いままでこっちの貴族の所にいたんだ、いきなり自由にしても戸惑うだけだぜ」
チャドが助言してくれる。
「それもそうにゃんね」
貴族に飼われていたふたりに金だけ渡して放り出しても悲惨な結果を招くだけか。
「嫌じゃなかったらオレと一緒に来るといいにゃん」
「「はい」」
ホテルの従業員を確保だ。
「マコト様、今夜はラルフ様とチャド様をお慰めすればよろしいでしょうか?」
「そいつは悪いな、で、ラルフはどちらに慰めてもらう?」
「こ、公務中だ!」
チャドの言葉にラルフの声が裏返る。
「にゃあ、お慰めは禁止にゃん!」
「禁止ですか?」
キュカとファナは首を傾げた。
これまでの生活でオレとは全く違う価値観が出来上がっている。
「にゃあ、この先は危険がいっぱいにゃん、だからキュカとファナの仕事は自分の身を守ることにゃん、いいにゃんね?」
「「はい」」
いい返事だが本当に理解してるかどうかは怪しかった。




