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薔薇園の魔女にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年十一月二四日


 ○エクシトマ州 帝都エクシトマ 上空


 夜明け前、帝都エクシトマが視界に入った。

「おおお、俺の知ってるエクシトマよりずっと大きくなってるぞ!」

 最初にチャドが声を上げた。

 夜明け前だが、まばゆく光り輝いている。周囲が魔獣を狩りマナの濃度を下げたとはいえ森のまんまなので暗い空間にそこだけ光があふれていた。

「にゃあ、ふたりのいた時代から一五〇〇年も続いたにゃん、変わって当然にゃん」

「それもそうだよな、俺たちの子孫も頑張ったわけだ」

「本当に一五〇〇年も続いたのですね」

 チャドとルーファスは感慨深げに近づく帝都を見た。



 ○エクシトマ州 帝都エクシトマ エクシトマ城 発着場


 エクシトマ城の発着場に着陸する。

「ところで兄上とライナスに聞きたいのだが、玉座の間のバカでかい肖像画、あれはいったい何だ?」

「玉座の間の肖像画、そんなもの有ったか?」

 首を捻るチャド。

「兄貴が死んだ後にお姉ちゃんが大好きだった弟が作らせたと違うにゃん?」

 チャドとカホがルーファスの顔を見た。

「建国の功労者である姉上の偉業を後世に伝える為に掲げたのです」

「にゃあ、初見だと初代皇帝はジャンヌだと思われるにゃん」

「だろうな」

 カホも同意する。

「ジャンヌどころかオリエーンス帝国皇帝の話すらほとんど後世に残されていなかったけどな」

「にゃあ、知っての通り帝都エクシトマの存在すら疑われていたぐらいにゃん、魔獣の森に沈んで場所もわからなかったんだから仕方ないにゃんね」

「跡形もなくなっていたからな」

「消滅の刻印が起動したならなおさらか」

「にゃあ、ジャンヌがいなかったら見つけられなかったにゃん」

「見付けられてもここまで復元するのは、天使様にでも頼まないと普通は無理なんだけどな」

「マコトたちはそれだけ凄いということだ」

 カホがオレを見る。

「本国はとんでもない相手に戦を挑んだのですね」

「ライナス、お前も含めてな」

「……申し訳ございません」

 やんちゃなルーファスも兄貴には頭が上がらないらしい。

「にゃあ、いまの城の中はジャンヌが詳しいから好きに見て回るといいにゃん」

「お館さまは返して貰うにゃん」

 猫耳が後ろからオレを抱き上げる。

「「「お、おお」」」

「オレはここで失礼するにゃん」

 ぶらんとしながら三人に挨拶した。

「ああ、後は適当にやらせて貰う」

「にゃあ、必要なものがあればそこらにいる猫耳か猫耳ゴーレムに言ってくれれば用意するにゃん」

「公爵、世話を掛ける」

「兄妹水入らずで昔話に花を咲かせるといいにゃん」

「私はこの時代のことに疎いから、その辺りのことも擦り合わせるとしよう」

「ジャンヌは前の時代でもそうだったろう?」

「確かに」

 兄弟は頷き合う。

「……」

「にゃあ、その辺りのことも教えてあげて欲しいにゃん」

「おお、任せろ、まずは朝飯と酒と風呂だな、行くぞ!」

 チャドがルーファスとカホを連れて城の中に入って行った。



 ○エクシトマ州 帝都エクシトマ エクシトマ城 地下拠点 ブリーフィングルーム


「「「お館様!」」」

「「マコト様!」」

 エクシトマ城の地下拠点にあるブリーフィングルームに入ったところで元チビたちが駆け寄って来た。

 この感じは前と変わらないにゃんね。

 オレが猫耳の手からひょういと抱き上げられたが。シアとニアとノアとビッキーとチャスと順番に頬ずりされた。

「にゃあ、状況はどうにゃん?」

「グランキエ大トンネルの内部は、新たにできた壁で幾つもの部屋に分けられているようです、そのうち砂海の魔獣がいる部屋が確認されただけで一〇室ありました」

 ビッキーが精霊魔法で調べてくれた。

 精霊魔法は砂海の砂にも問題なく通るらしい。流石だ。

「にゃあ、確かに精霊魔法だったら探査魔法も通るにゃんね」

 オレも試してみた。

「にゃお、トンネルの中の魔獣は、赤ちゃんじゃないにゃん」

 予想されたことではあるが変化しているのは厄介だ。

「お館様はここからグランキエ大トンネルの中まで探査魔法を飛ばせるの?」

 シアがオレをまた抱き上げた。

「飛ばせるにゃんよ」

 オレも数々の戦いを経てレベルアップしてる。

「お館様、赤ちゃんじゃないってどんな魔獣なの?」

 ニアが質問した。

「にゃあ、最初の魔獣は蛇みたいにゃん、赤ちゃんから蛇になるにゃんね」

「魔獣だから別の形もありそう」

 ノアの疑問ももっともだ。

「にゃあ、もっと調べてみるにゃん」

 今度は更に魔力を載せて精霊魔法の探査魔法を打った。ついでにチャドの情報を元に砂の吐出口も確認する。

「場所もチャドの情報通りにゃん」

 そして砂海の魔獣だが、トンネルを区切って作った部屋のほぼすべての部屋に現れるみたいだ。いま姿のない部屋でも砂海の魔獣のエーテル機関の反応がある。

「魔獣の姿は蛇以外はクモだのタコだのにゃんね、不思議と赤ちゃん以外の人型はいないにゃん」

「姿形によって攻撃が変わると厄介ですね」

 チャスがオレの頭を撫でた。

「にゃあ、熱線一択は無いと思うにゃん、ただどれも色は白っぽいにゃんね」

「白いです」

 ビッキーも確認した。

「オレは明日にでもグランキエ大トンネルに突っ込むにゃん、ビッキーたちは第二陣で頼むにゃん」

「私たちもマコト様にご一緒します!」

 チャスがオレをギュッと抱き締めた。

「にゃあ、先鋒は砂海の砂に飲み込まれても自力で再生できないとダメにゃん」

「自力で再生ですか?」

「にゃあ、ウチらは出来るにゃん」

 猫耳がオレを取り上げた。

「それほど時間差は無いにゃん、ビッキーたちにはケントルムに行ってから働いて貰うにゃん」

「ケントルムですか?」

「にゃあ、大発生をした魔獣を戦艦型で狩るにゃん」

「「「頑張ります!」」」

「トンネルがちゃんと開通したら直ぐに来て貰うから、まずは近くの魔獣の森で訓練を頼むにゃん」

「「「了解です!」」」

 五人が敬礼した。

「お館様は、これからウチらと抱っこ会にゃん」

「「「にゃあ!」」」


 オレは猫耳に抱っこされたままブリーフィングルームから連れ出された。オレはぶらんとしているだけだ。



 ○エクシトマ州 帝都エクシトマ エクシトマ城 地下拠点 大浴場


『マコト、いま大丈夫かい?』

『……にゃ?』

 カズキから念話が入った。

『にゃあ、大丈夫にゃんよ』

 うつらうつらしている間に大ホールから移動したらしく、いつの間にか猫耳ゴーレムに抱っこされて大浴場にいた。

『ナオさんに取り次いで欲しいて頼まれたんだ』

『ナオにゃん? にゃあ、ケントルムにいる転生者にゃんね、オレに何か用事にゃん』

『まずは、マコトに謝りたいんだって』

 どうやらカズキに謝罪の仲介を頼んだらしい。

『別に謝罪なんて必要ないにゃんよ』

 こっちは実害を受けたわけじゃない。

『まあ、そう言わず気持ちの問題だから』

『律儀な人にゃんね、わかったにゃん、繋いでいいにゃん』

『じゃあ、繋ぐね』

『にゃあ』

 ほんのちょっと間があってカズキから別の人間に念話が繋がった。

『はじめまして』

 藍色の髪が綺麗な十五歳ぐらいの女の子の姿が見える。お人形さんのような整った顔。高校の制服みたいなブレザーには防御結界の刻印が刺繍されている。転生から五〇年以上の古株。

『はじめましてにゃん』

『本当にネコちゃんなんだね』

 あちらにもオレの姿を見せる。いきなりすっ裸はあれなのでいつものセーラー服のイメージ画像を送っておく。

『にゃあ、そうにゃん、オレがマコトにゃん』

『あたしがナオ・ミヤカタです』

 あちら側でお辞儀をする。

『ナオにゃんね』

『ごめんね、ネコちゃん、まさかこんなことになるなんて思って無かったから』

『そうにゃんね、オレも予想も付かない展開だったにゃん』

 攻めて来た挙げ句、砂海の砂をぶちまけるとか意味不明だ。

『あたしは基本的に他人の争いには介入しない主義だから、今回の戦争も勝手にやればってスタンスだったんだけど、ごめんなさい、この体たらくです』

 あちら側で頭を下げている。

『わからないでも無いにゃん、ただこちらから見たら普通に敵にゃんよ』

『だよね』

『でも、ナオがオレに味方する理由がないのも理解できるにゃん』

『本当に外のことに興味が無かったから、ごめんなさい』

 また頭を下げる。

『にゃあ、そう謝らなくていいにゃん』

『いいえ、何も連絡しなかったくせに都合が悪くなったら助けを求めるとか、我ながら、格好悪すぎると思う』

 まあ格好悪いのは確かだ。

『ナオは、それだけ追い詰められたわけにゃんね』

『そうなの、あたしのいる村だけの問題じゃないんだけど、難民の人たちであふれて大変なことになってるの』

『ナオの村は、ケントルムのどの辺りにあるにゃん?』

 ケントルムの地理はざっくりしか知らん。難民が来るぐらいだから東部か?

『ケントルムの南東ね』

『するとアナトリ派の領地の近くにゃん?』

『東側のお隣さんがそれね、あっちの領主とはあんまり仲が良くないから行き来はほとんど無かったけど、避難民は関係ないからね』

『ケントルムの東部は魔獣の大発生があったと聞いてるにゃん、ナオの村は大丈夫だったにゃん?』

『ネコちゃんのアドバイスに従ってマナを境界で堰き止めたおかげで、いまは魔獣の侵入を防いでる感じ』

『危ない状態にゃんね』

 魔獣が増えればマナの濃度も関係なしに突っ込んで来るヤツが出て来る。特に大発生時はラリった状態だから特に危険だ。

『ナオは魔獣を狩らないにゃん?』

 ナオが薔薇園の魔女と呼ばれているヤバい魔法使いだと情報を得ている。気に入らないヤツは焼くらしい。

『狩るのは無理かな、あたしの魔法じゃ魔力に反応した魔獣をもっと集めちゃうから』

 何もかも焼き払って一面、焼け野原にする系か?

『なんか凄い魔法を使えるにゃんね』

『魔獣に効きそうな魔法って、そういうのしか持ってないの』

『にゃあ、もっと研究しないとダメにゃん』

『まさか魔獣の大発生があるとは思って無かったから』

『魔獣に絶対は無いにゃん、オレたちが調べた限り条件が揃えば何処にでも現れる可能性があるにゃんよ』

『本当に?』

『にゃあ、本当にゃん、ナオは今度会ったら魔獣狩りの訓練にゃん』

『ネコちゃん、ケントルムに来てくれるの?』

『にゃあ、戦争は続行中にゃん、オレたちはケントルムの王宮に攻め込むにゃん』

 一発パンチを入れてくる。

『おお、それは凄いね、でも、こっちは許してね』

『オレの味方なら助けるにゃん』

『そうじゃないなら攻め込むの?』

『オレは人の住んでる土地には興味は無いにゃん、だから敵対しない限りは放っておくにゃん、でも、避難民は受け入れるにゃんよ』

 バカ貴族は知らない。

『あたしはもうネコちゃんに味方するつもりだから、既にお世話になっているし』

『だったら近隣の魔獣の排除と食料の提供ぐらいはするにゃんよ、後は必要に応じてにゃんね』

『おお、それは助かる』

 本当に困っているのはヒシヒシと伝わって来る。

『にゃあ、オレに味方してくれるのは嬉しいにゃん、でもそちらでのナオの立場が悪くなると違うにゃん?』

 敵に内通するわけだから、お取り潰しで御家断絶な事案だ。王宮側にそんなことをしている余裕があればだが。

『立場に関しては問題ないよ、この状況を引き起こして知らんふりしているヤツらに気を使うだけ無駄だもん、それ以前に王宮とは仲が良くないからいまさらって感じかな、前に焼いちゃったし』

 気に入らないヤツは何でも焼くってのは本当らしい。

『領主とかはどうにゃん? 間違いなく巻き込まれるにゃんよ』

『ああ、領主様ならあたしの味方だから大丈夫だよ、多少の無理は聞いてくれるし、バカな戦を始めた王宮に味方するつもりなんか最初からサラサラ無いよ』

 王宮を焼くぐらいだから領主が気に入ら無かったら、それこそ丸焼きか。

『にゃあ、わかったにゃん、オレたちはグランキエ大トンネルを綺麗にしてからケントルムに入るにゃん』

『グランキエ大トンネルね、簡単には抜けられないよね』

『にゃあ、そうにゃんね、早くても三~四週間は掛かるにゃん』

『えっ、砂海の砂が噴き出しているのにそんなに早く来れるの?』

『いまのところの予定にゃん、トンネルの奥に何があるかは潜ってみないとわからないにゃん』

 砂海の魔獣を処理する手間次第だ。他にヤバい仕掛けがあったらもっと遅れる可能性がある。

『そうね、あたしも情報を持ってれば良かったんだけど、グランキエ大トンネルに関しては通ったことすら無いし』

『普通は通らないにゃんね』

 商人や外交官以外は、ほぼ使用されることはない。アーヴィン様やカズキ辺りは例外中の例外だ。

『こちらに来てからも大変だよ、砂海の魔獣が多数出現しているし』

『あれはちょっと厄介にゃんね、でも、排除する方法は目処が立ってるにゃん』

『凄い』

『まずは賠償金の一部としてアナトリ派の六つの領地はオレが頂戴するにゃん』

 アナトリ派の領地はケントルムの東の端の六州からなり、現在は砂海の砂と魔獣の森に沈みつつある。

『アナトリ派の領地なら誰もいないからいいんじゃない』

『やっぱりアナトリ派の領地は全滅にゃん?』

『かなりの人が逃げ遅れて犠牲になったみたいね』

『でも、砂海の砂はそこまで一気には拡がらなかったはずにゃんよ』

『あたしたちの知っている日本と違って、情報の伝達は早くないからね、魔導具がアナトリより発達していると言ってもそれは貴族階級の話だし、特にアナトリ派六領地の諸侯軍と騎士団の大半が侵攻軍に参加していたのも大きいかな』

 通信の魔導具も庶民階級には普及していないか。

『すると砂海の魔獣の熱線で街が焼かれるまで逃げなかったにゃん?』

『そうみたい、街や村が一瞬で焼き払われたそうだし、その後に魔獣の大発生だから』

『にゃあ、踏んだり蹴ったりにゃんね』

『余計なことをして領地を滅ぼしているのだから世話ないよね、しかもそのとばっちりが半端ないのがあれだけど』

『迷惑系領主にゃん』

『そう、それ』

『にゃあ、ちなみにナオはいつ頃の日本から来たにゃん? オレは西暦二〇××年にゃん』

『おお、あたしと同じ年だわ』

『こっちに来た年は大きく違ってるにゃんね』

『もっと昔に来た人もいるんだから、不思議はないんじゃない?』

『それもそうにゃんね』

 カホなんか二五〇〇年前、サクラも一〇〇〇年ちょっと前か。

『にゃあ、では早速支援するにゃん』

「えっ?』

 驚きの様子が伝わる。

『ナオの格納空間なら大丈夫そうにゃんね』

『あの何が大丈夫なの?』

『援助を始めるにゃん』

『今から?』

『今からにゃん』

 ナオの格納空間に猫耳ゴーレムを送り込んだ。疑似魂付きのピンク色の猫耳ゴーレムは送れないのでノーマルタイプだ。

『ええっ! 何これ!? あたしの格納空間に何か入って来た』

『出していいにゃんよ』

『えっ、う、うん』

『ニャア』

 猫耳ゴーレムがナオの格納空間経由であちら側に出た。

『えっ、ゴーレム?』

『にゃあ、猫耳ゴーレムにゃん、後のことは任せていいにゃん』

『オ任セニャン』

 猫耳ゴーレムは仲間を召喚する。

『あの、猫耳ゴーレムちゃんが増えているんですけど』

『にゃあ、ナオの格納空間ではパンクするから猫耳ゴーレムの格納空間を使うにゃん』

『何をするつもりなの?』

『食糧援助と魔獣があふれ出ないように結界を強化するにゃん、本格的な援助はオレがそっちに行ってからにゃんね』

『う、うん、わかった待ってるね』

『にゃあ』

 後は猫耳ゴーレムたちにお任せにゃん。


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