美しき襲撃者にゃん
○プリンキピウム街道 旧道 簡易宿泊所
『にゃあ、お館様、盗賊の反応にゃん、斥候らしき人間が宿泊所に近付いてるにゃん』
『了解にゃん、オレも確認するにゃん』
予定通りホテルと簡易宿泊所を開設し、ハンモックに入ろうとしたところで念話が入った。
オレはハンモックには入らず簡易宿泊所の屋上に登って探査魔法を使った。
「いるにゃんね」
報告どおり街道の方向から移動して来る人影がある。
「あれは魔法使いにゃんね、念話使いの通称アナグマにゃん」
「アナグマがいるってことは、カトリーヌ団のヤツらにゃん、総勢二~三〇のそこそこ大きい所帯の盗賊団にゃん」
州都の盗賊事情に詳しいムギたちが教えてくれる。
「カトリーヌ団? 女が首領にゃん」
「にゃあ、カトリーヌは女装したゴツいおっさんにゃん」
「にゃお」
「誘惑の魔法を得意とするにゃん」
「にゃあ、ヤツの手下は全員イケメンにゃん、気に入った男を問答無用で連れ去るから業界筋では超恐れられてるにゃん」
「阿鼻叫喚にゃんね」
同性愛うんぬんはこの世界では特に忌避されないが、本人の意思を無視して連れ去るのはこっちでも普通にアウトだ。
「にゃあ、手下本人は洗脳が効いてて幸せそうにゃんよ」
「やっぱり阿鼻叫喚にゃん、もしかして女を殺したりするにゃん?」
「にゃあ、服と化粧品と宝石と身代金を奪うだけにゃん、扱いは悪くないと聞いたことはあるにゃん」
「ヤツらは殺しはやらないにゃん」
「そういうこだわりは嫌いじゃないにゃん」
「にゃあ、ウチだったら手下にされるぐらいなら、いっそのこと殺してくれって感じにゃん」
「それもわからなくはないにゃん」
「女は手下にしないから、今回も身代金狙いにゃんね」
「身代金をせしめて、よく討伐されなかったにゃんね」
「にゃあ、ヤツの魔法は半端ないにゃん、盗賊では珍しい強力な魔法使いにゃん」
「お館様も厄介なのに目を付けられたにゃん」
「まったくにゃん」
「先制攻撃をするにゃん?」
「にゃあ、それはヤメておくにゃん、強力な魔法使い相手に夜の森じゃ、オレたちが不利になるにゃん、守りを固めて今夜は寝るにゃん」
「了解にゃん」
ホテル&簡易宿泊所の防御結界を厚くしてその夜は眠った。
今夜もハンモックの中で猫耳たちに埋もれて。
夜中にアナグマの念話を盗聴したオレたちは、明日の襲撃場所と時間を知った。
○帝国暦 二七三〇年〇八月二五日
○プリンキピウム街道 旧道
オレたちはいつもどおりに朝ごはんを食べ、馬車一台+トレーラーで猫耳二〇人とオレとチビたちを乗せて宿泊所を出発した。
「間もなくにゃんね」
宿泊所から一キロほど離れた場所が本日の襲撃予定地点だ。
盗賊たちが道の左右に別れて大木の陰に潜んでるのはわかったが、確認できたのはそこまでだった。
かなり強力な結界が張ってある。しかも認識阻害ではなく侵食結界だ。オレたちの探査魔法を溶かしてる。
チビたちには危ないので魔法は使わないように指示してある。逆探で攻撃されるとマズいからだ。
「にゃあ、カトリーヌって何者にゃん? 遺跡に使われてたのと系統が似てる結界にゃん、ただの盗賊とは思えないにゃん」
「ヤツの前歴はウチらも知らないにゃん」
リンが首を横に振った。
「知りたいとも思わなかったにゃん」
ムギの言う通りか。
「下手を打って目を付けられたら何をされるかわかったものじゃないにゃん」
モカが眉間にシワを寄せた。
「そうにゃんね、にゃあ、この辺りで停めるにゃん」
オレはヤツの結界に馬車の防御結界が触れる直前で停車させた。
わかってるのにわざわざ突っ込むバカはいない。
しかも待ち伏せされてる。
「にゃあ、出てきたにゃん」
巨木の影から白馬に引かれた装飾華美な白い馬車が出て来た。
お姫様が乗りそうな馬車で森の中を走ってきたのだろうか? 半端ないにゃん。
「お館様、あの馬車、カトリーヌ団で間違いないにゃん」
ムギが教えてくれた。
「既におなかいっぱいにゃん」
「えっ、何を食べたの?」
リーリがビクっとする。
「にゃあ、違うにゃん、食べる前にもうおなかいっぱいにゃん」
噂の手下たちも出て来る。
総勢二八人か。
なるほど長身のイケメンぞろいだ。
全員が鏡のように磨き上げた鎧を装着している。
センスは近衛軍より少し上みたいだ。
「あら、気付かれちゃったみたいね」
馬車の扉が開いて出てきたのは金髪縦ロールでピンクのドレスを着たお姫様みたいな格好をした身長二メートル超えの筋骨隆々のおっさんだった。
「みゃ」
ここまで直球ストレートなビジュアルだとは思わなかった。
「あたしもおなかいっぱい」
リーリも満腹にするとは破壊力抜群だ。
「にゃあ、オレたちに何か用にゃん?」
御者台に立って声を掛けた。
ちょっと動揺して耳がピクピクしてるのは秘密だ。
「ああん、噂通りの可愛いネコちゃんね、いい子だから、ちょっとの間だけアタシのペットになって頂戴、おとなしくしていれば身の安全は保証するわ」
「にゃあ、断ったらどうするにゃん?」
「ネコちゃんの自由をちょっとだけ奪わせてもらうわ、でも、アタシのお願いを拒否なんてできるかしら?」
誘惑の魔法が発動された。
「にゃお」
おお、これも結界に負けず劣らず強力な魔法だぞ。
エーテル器官に魔法式を直接走らせる効果がある。呪いに近いが命に関わる様な陰湿さはない。
……のか?
それはさておきこれはいろいろ応用が効きそうな魔法だ。
「あら、足りないのかしら?」
カトリーヌが魔力を上げた。
最初は余裕の表情だったが眉間のシワが徐々に深くなる。
「にゃあ、残念ながらオレたちには効かないにゃん」
元よりオレと猫耳たちには効かないし、チビたちはそれぞれが格納空間に持ってるトラのぬいぐるみがレジストしてる。
「素敵な魔導具を持ってるのね、ふふ、こんなに大事にされてるなら身代金を上げても払って貰えそうね」
「魔導具じゃないにゃん」
「あら、そうなの?」
「確かめてみるといいにゃん」
「いいのかしら? 生意気を言ってると泣くことになるわよ」
言葉は優しいのだが声が野太い。
根は悪いヤツじゃ無さそうだが、やってることが営利誘拐では許すことはできない。
「では、確かめてみましょうか? おまえたち!」
カトリーヌは手下たちに声を掛けた。
「「「かしこまりました、カトリーヌ様」」」
その心酔しきった顔がカトリーヌの魔法のヤバさを実感させる。
「始めて」
「「「仰せのままに」」」
オレたちの馬車を取り囲んでいる手下たちが一糸乱れぬ動きで両手を突き出した。
バチバチっと火花が飛び散る。
「お館様、アクセラレートにゃん!」
元魔法使いのロアが叫んだ。
「詳しい子がいるのね、そうよアタシの下僕たちが魔法を加速してくれるの」
勝ち誇った笑みを浮かべる。
加速された魔法はそれだけ重ね掛けを積み増す。
「早く白旗を上げて楽におなりなさい」
なるほどこれだけの魔法を連続して浴びせられたら普通の人間ならただでは済まないはずだ。
「にゃあ、速くしてもオレたちには効かないにゃん」
残念ながら既に遺跡の結界で対策済みだ。
カトリーナの表情が更に険しくなる。
「ちょっと待って! どういうこと? あんたたち、もっと本気出しなさい!」
カトリーヌは下僕たちを叱咤した。
「本気です、カトリーヌ様!」
「ああ、私ももう限界です!」
「これ以上は無理です!」
下僕たちに限界が訪れカトリーヌに焦りの表情が浮かんだ。
「嘘っ、どうしてなの!?」
「にゃあ、簡単にゃん、オレの魔法の方が強い、ただそれだけのことにゃん」
「ああ、結界が侵食されてるわ! このアタシが、こんなちっちゃなネコちゃんに魔力で負けるって言うの!?」
「にゃあ、それが現実にゃん」
「ふふ、仕方ないわね、出来ればやりたくなかったんだけど、これはアタシも本気を出すしかないわね」
カトリーヌは口元に笑みを浮かべた。
「にゃあ、本気?」
何か怖いにゃん。
見た目が。
「フン!」
カトリーヌはオレの結界に拳を撃ち込むと同時にそれを直に掴んだ。
バチバチと激しくスパークする。
「にゃ!?」
結界って素手で掴めるにゃん?
「ウォォォォ!」
結界を破こうとしてる。実際に引き伸ばされて薄くなってるにゃん。
ピンクのドレスが隆起した筋肉に弾けた。
「カトリーヌは本気を出すと可愛くなくなるにゃんね」
「やぁん」
カトリーヌの力が抜けたところで電撃を浴びせた。
「にゃふぅ、結界を手で掴むとかメチャクチャやるにゃん」
ゴーレムを使ってカトリーヌ団を一人ずつ箱に詰めた。
一箱だけでっかいにゃんね。
もしかしたら人間じゃないのかも。
「お館様、カトリーヌの魔法、どう思うにゃん?」
「遺跡の結界を宮廷魔導師が作ったのなら、カトリーヌもその流れを組む人間で間違いないと思うにゃん」
「にゃあ、まず本当に人間かどうかを検証したいにゃん」
ギーゼルベルトのもっともな意見に頷く。
「そうだね」
妖精も同意した。
「にゃあ、ウチらもそれは思ったにゃん」
もう一台の馬車を再生して箱はそれに載せた。
「にゃあ、次の休憩地でこいつらも仲間にするにゃん」
「イケメン軍団もにゃん?」
「そうにゃん」
「ある意味、被害者なのに気の毒にゃんね」
「魅惑の魔法で操られていたとは言え営利誘拐をやっていた事実は変わらないにゃん」
「手配書が回っていてはどうしようもないにゃんね」
「申し開きをしたところで犯罪奴隷送りは免れないにゃん」
「手下は純粋な盗賊じゃないから、カトリーヌなしで逃げるのも無理にゃんね」
「どっちにしろ、遺跡でヤバいことをやってる近衛軍にはもうオレから犯罪奴隷を供給しないにゃん」
「にゃあ、当然にゃん」
「出発にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
二台の馬車が出発する。
この日を境に世の富裕層をいろいろな意味で震え上がらせていたカトリーヌ団が地上から消え去った。
「にゃあ?」
新しい仲間が目を覚ました。
筋骨隆々の面影はまったくない。
猫耳は全員十五歳ぐらいの少女だ。
「にゃあ、ウチの身体がこんなにちっちゃくなってるにゃん、にゃあああ、しかも女の子にゃん!」
「オレの仲間になったんだから当然にゃん」
「にゃあ、お館様と同じ言葉遣いになるにゃんね、とってもいいにゃん♪」
うっとりとする元カトリーヌの猫耳リー。
「「「お館様、本日より命ある限りご奉公するにゃん」」」
イケメン軍団も可愛い猫耳になっていた。
「にゃあ、よろしくにゃん」
「ああ、女の子にゃん、しかもこんなに華奢にゃん」
まだ自分の身体を眺めうっとりしてる。
オレの時は単にショックだったけどな。
「にゃあ、だいたいのことは思考共有でわかったにゃん、カトリーヌの使っていた結界は宮廷魔導師の魔法そのものだったにゃんね」
「そうにゃん、ウチはかつて宮廷魔導師だったにゃん、これでも二〇〇〇ちょっといる中でも五本の指に入っていたにゃん」
「カトリーヌが優秀だったのは言われなくてもわかるにゃん」
「ウチの使った侵食系の結界は、師匠が精霊情報体の知識を元に作り出したものにゃん、にゃあ、これがそうにゃんね」
「精霊情報体にゃん?」
「違う世界から来たと仰ったことが一度だけあったにゃん」
「にゃあ、宮廷魔導師の転生者がいたにゃん? もしかして宮廷魔導師を辞めた後に事件を起こした人と違うにゃん?」
「そうにゃん、三〇〇人の子供を殺した事件を起こしてカズキ・ベルティとユウカ・ブラッドフィールドに討伐された元宮廷魔導師ケイジ・カーターがウチの師匠にゃん」
「子供三〇〇人の魂を使った禁呪にゃん?」
「にゃあ、死者再生の禁呪にゃん、世間では快楽殺人者と思われてるけど、本当はその禁呪の為に人の道を外れたと思ってるにゃん」
「もしかして死者再生の禁呪にゃん?」
「正確には魂の再生にゃん」
「魂の再生にゃん?」
オレ持つ情報体の知識を以てしても不可能な事象だ。
「三〇〇人の子供を殺して誰の魂を復活させようとしたにゃん?」
「奥様にゃん、盗賊に襲われて亡くなられたにゃん、それが原因で師匠はおかしくなったにゃん」
「にゃあ、禁呪であっても手を出したくなる気持はわからないでもないにゃん、それでその魔法は完成したにゃん?」
「わからないにゃん、師匠は宮廷魔導師を辞して引き篭もった後の事件にゃん、詳細は掴めなかったにゃん」
「禁忌魔法では成功していても公にはできないにゃんね」
「事件の後、宮廷から師匠に連なる魔導師は全て追放されたので、いまとなっては余計にわからないにゃん」
「プリンキピウム遺跡の結界はどうにゃん?」
「お館様の情報を突き合わせると、確かに師匠と系統の同じ魔法が使われているにゃん、本来は無いはずにゃん」
「弟子の関係者の誰かが、王宮に戻ったのと違うにゃん?」
「二〇年の時間が経ってるとはいえ、そう簡単に復帰はできないにゃん、そのハードルをねじ伏せたのなら、かなり手強い相手にゃんね」
「にゃあ、オレから宮廷魔導師とやりあうつもりはないから、遺跡にはちょっかいを出さないにゃん」
「にゃあ、それが正解にゃん、宮廷魔導師と関わってもいいことはないにゃん、二〇年が経っても変わらないと思うにゃん」
実際にいた人間の言うことなので間違いはなさそうだ。
○プリンキピウム街道 旧道 宿泊施設予定地
本日の宿泊所にほぼ時間通りに到着した。
設営もほんの一瞬。コピー&ペーストの域なのでそれも当然か。ホテルと簡易宿泊所が道の両側に出来上がる。
「ここから先は、遺跡にいる近衛軍の活動領域に重なるので注意して欲しいにゃん」
簡易宿泊所のレストランで猫耳たちに指示を出す。
悪霊化して欠員となった近衛の騎士と兵士たちが既に補充されたことを遺跡の監視班から報告を受けている。
まるで最初から人員が失われることがわかっていた様な手際の良さだ。どうしようもない薄気味悪さがある。
グールの件もあるし、まさか人体実験をやってるんじゃないだろうな?
「にゃあ、やっつけてもいいにゃん?」
猫耳たちの手と尻尾が挙がった。
「襲って来たら問答無用でいいにゃんよ、そうじゃないなら様子を見て判断にゃん」
「「「了解にゃん!」」」
向こうから襲ってくるとは思えないが、組織だってる様に見えて現場はかなりいい加減だった。
犯罪奴隷の脱走も頻繁だ。オレたちの結界と違って内側からも通れないので、そのまま絡め取られることになる。
予期せぬ接触から全面抗争ってなことにならないようにしないと。負けないにしても王宮が絡むから間違いなく面倒なことになる。
○プリンキピウム街道 旧道 簡易宿泊所 地下
オレは簡易宿泊所の地下に潜って作った小部屋から各方面に念話を送る。
二つのホテルはどちらも問題ない様で一安心だ。
大公国も問題なし。
あっちはプロトポロスのルチアを始め騎士たちがしっかりしてるし、クルスタロスは冒険者ギルドがバックアップしてる。
それ以上にネコミミマコトの宅配便が無敵な感じだ。
いちばんトラブルに近いのは間違いなくオレたちだろう。
キャリーとベルにも念話を送った。
『近衛軍の遺跡発掘?』
『そうにゃん、手広くやってると噂を聞いたにゃん』
『あいつらが遺跡を掘り返してるのはいつものことだよ、そこの領主とトラブルになることも少なくないし』
『たまにスゴいのを掘り当てて内輪で揉める辺りまでがワンセットなのです』
『にゃあ、揉めるにゃんね』
『権力闘争が凄いからね、上級貴族でも三男坊とかでは上手くやらないと下級貴族か平民落ちだからね』
『最初から平民のわたしたちにはわからない感覚なのです』
『一度、いい生活を知ってしまうとなかなか下には行けないもんにゃんよ』
『ああ、それわかるよ、兵舎を改造してもらったけど、マコトのテント、非番の日に必ず使ってるもの』
『心の拠り所なのです』
『確かにテントを奪われたら嫌だよね』
『全力で戦うのです』
『にゃあ、無理しちゃダメにゃん、テントぐらいいくらでも作ってやるにゃん、それに魔法馬の格納空間に入ってるモノは奪えないにゃんよ』
『それを聞いて安心したよ』
『ヤツらの気持を理解したのです』
『プリンキピウムの遺跡だったら絶対に近付いちゃダメだからね』
『にゃあ、わかってるにゃん』
『王宮の指定した重要遺跡は完全な治外法権なので領主の力も及ばない場所なのです』
『プリンキピウムの遺跡はまんまそれだから』
『貴族であっても考慮されないのです』
『にゃあ、了解にゃん、ところでふたりは仮面を付けた宮廷魔導師の話を聞いたことないにゃん?』
『ああ、何かいるらしいね』
『仮面の魔導具はそう珍しいものではないのです、ただ常時着けてるとなると数は絞れると思うのです』
『にゃあ、やっぱりいるにゃんね』
『残念ながら詳しいことはわからないけどね』
『庶民からすると宮廷魔導師は雲の上の存在なのです』
『宮廷魔導師も危ないから近付いちゃダメだからね』
『危険なのです』
『にゃあ、気を付けるにゃん』
キャリーとベルの次にカズキに連絡を取る。
『にゃあ、オレにゃん』
『やあ、マコトどうかしたの?』
『にゃあ、領主様に一つ聞きたいことがあるにゃん?』
『レオナルド・ダ・クマゴロウの美術館のことだったら、もう少し待ってくれるかい、流石に簡単に用意できる金額じゃないからね』
『にゃあ、それじゃなくて宮廷魔導師について知りたいにゃん、領主様は仮面を被った魔導師を知ってるにゃん?』
『仮面の宮廷魔導師かい? それなら何人もいるよ』
『やっぱり一人じゃないにゃん?』
『一〇人程度はいるんじゃないのかな? 魔力を増幅させる魔導具として仮面は珍しいものじゃないし』
『魔導具としては珍しくないと聞いたにゃん、ただ常時装着してる魔導師は多くないと聞いたにゃん』
『確かに魔法を使う時だけ仮面を着ける魔導師が大部分かな』
『そういうものにゃんね』
『仮面の魔導師がどうかしたのかい?』
『プリンキピウムの遺跡に現れた宮廷魔導師が仮面を着けていたらしいにゃん』
『あそこの遺跡に来るとなると首席のエドガー・クルシュマンかな? クーストース遺跡群の責任者だし、常時仮面を装着してるって聞いたことがあるよ』
『クーストース遺跡群の責任者にゃん?』
『らしいね、ボクも詳しいこと教えてくれないからその程度しかわからないけど』
『首席の宮廷魔導師は優秀にゃん?』
『エドガー・クルシュマンは世間一般では魔力より政治力に優れてるって評価かな、ボクは遠くから見かけた程度なんで何とも言えないけど』
『実力はないにゃん?』
『まがりなりにも主席宮廷魔導師だから、その辺りの魔法使いよりはずっと優秀なはずだよ。噂では呪いが得意らしいし』
『呪いにゃん?』
『本来、表に出る人間じゃないなんていう人もいるぐらいだから、分野を絞ればかなりの実力者なんじゃないかな』
『にゃあ、呪いが得意ならプリンキピウム遺跡に来てる魔導師の可能性は高いにゃん』
『マコトは随分とプリンキピウムの遺跡を警戒してるんだね』
『当然にゃん、オレの目と鼻の先にあるにゃん、それに再起動したにゃん』
『プリンキピウムが再起動か、それってクーストース遺跡群が動き出したのかな』
『にゃあ、他も再起動したにゃん?』
『詳しくはわからないけど発掘作業が開始されたらしいよ』
『何が埋まってるか新しい情報はないにゃん?』
『新しい情報はないな、発掘を推し進めてる王宮が厳重に隠してるって話だし』
『近衛軍が中心じゃないにゃん?』
『プリンキピウムの場合、近衛軍は単に遺跡を警備してるに過ぎないよ』
『にゃあ、それはそれで不気味にゃんね』
『わかるよ、でもねマコト、そんなに神経質にならなくても前例からするといい魔法馬が出る程度だと思うよ』
『にゃー』
大量に人を潰して、魔法馬程度ではそれはそれでどうなんだ?




