ウネウネにゃん
○プリンキピウム街道 旧道脇
「ばしゃがさんだいになってる」
「ほんとうだ」
「おひるねしてるあいだにふえた」
「「おお」」
目を覚ましたチビたちは馬車が増えた事に気付いた。
「にゃあ、今日の宿泊所まで三台で行くにゃん」
悪霊を猫耳にしたりチャドを復活させたりしたが行程はたいして遅れてない。ほぼ予定どおりの時間で推移していた。
「お館様、雨が降って来そうにゃん」
猫耳の声に空を見上げると木々の枝の向こうに黒い雲が見えた。
「にゃあ、これは来るにゃんね」
この辺りの雨はいきなり豪雨になるから困る。オレたちはそんなに困らないけど普通の馬車なら宿に逃げ込みたくなるだろう。
「防御結界が雨を防いでくれるけど、強く降るようなら雨宿りにゃんね」
幌なしでも馬車と魔法馬の防御結界がオレたちを快適に守ってくれる。横着しないで幌ぐらい出せって感じではあるが。
空が暗さを増す。
「にゃあ、これは強く降りそうにゃん」
プリンキピウム近辺ではスコールみたいな激しい雨は別に珍しくない。だからって遭遇したいとも思わないが。
雷鳴とともにポツポツと降り出した雨が落ち始めたところで街灯が灯った。
「綺麗にゃん」
巨木の間を縫う道を照らす街灯の灯りは幻想的な光景だ。
「「「きれい」」」
チビたちも身を乗り出して街灯の光の列を眺めた。
それに赤い稲妻が加わり、直ぐに雨が酷くなって前が良く見えなくなった。ホラー映画なら次に惨劇のシーンだ。
「にゃあ、これは次の休憩地で雨宿りにゃんね」
「「「にゃあ」」」
いくら雨を弾いてもまるで滝の中を走ってる様な有様でちょっと怖い。
○プリンキピウム街道 旧道 休憩所
一〇分ほど走って本日三つ目の休憩地に到着した。
豪雨の中、サクサクっと道の両側に建物を作り全体を結界で覆う。
これで雨は塀の内側には落ちない。
「にゃあ、やっと人心地ついたにゃん」
「ついたね」
「ついたついた」
「あたしも」
「「わたしも」」
チビたちはぞろぞろとオレの後を付いて来る。
「おやかたさま、きょうはここでおとまり?」
「そうにゃんね、雨が止まないならこのままお泊りするにゃん」
「きょうは、おやかたさまとねる!」
シアが手を挙げて宣言した。
「「あたしも」」
ニアとノアも手を挙げた。
「「わたしも」」
ビッキーとチャスも続いてチビたち五人に抱き着かれる。
「にゃあ、いいにゃんよ」
皆んなの頭を撫でた。
「お館様、道が川みたいになってるにゃん、ウネウネも出てるし、今日はここまでにした方がいいみたいにゃん」
猫耳の一人が報告してくれる。
「了解にゃん、ところでウネウネって何にゃん?」
オレたちは門の前までウネウネを見に行った。
「でっかいミミズみたいにゃん、でも半透明だからかそんなにキモくないにゃん」
消火栓に繋ぐホースぐらいの太さがある。
長さはちょっと見当が付かない。
それが冠水した道の上をウネウネ動いてる。
「あれって木の根っこらしいにゃん、ああやって水を吸ってるそうにゃん、下手に近付くと足を弾かれて転ぶぐらいで特に害はないみたいにゃん」
「にゃあ、あれが木の根っこにゃん?」
「甘くて美味しいにゃんよ、プニプニして歯応えも最高にゃん」
猫耳のひとりが教えてくれる。
「「「にゃあ!」」」
全員の目がピカーンと光った。
○プリンキピウム街道 旧道 休憩所 レストラン
「あまくておいしいね」
「クニュクニュしておいしい」
「もっとたべたい」
「さいこう」
「うん、さいこう」
森の珍味ウネウネに舌鼓を打つチビたち。
「この歯ごたえと素朴な甘さがたまらないね、おかわり!」
リーリも気に入ったらしい。
「「「にゃあ♪」」」
もちろん、オレと猫耳たちも同じだった。
「これはオレたちでもウネウネを生産する必要有りにゃんね」
「「「にゃあ!」」」
全会一致で可決された。
即日、各地下農場にウネウネが追加されたのは言うまでもない。
○帝国暦 二七三〇年〇八月二四日
○プリンキピウム街道 旧道 休憩所
チビたちとベッドで寝たはずなのに目が覚めたらハンモックの中で猫耳たちの間に挟まっていた。
「にゃああああ!」
ハンモックをビヨンビヨンさせたら抱きかかえられてたオレも猫耳たちと一緒に墜落した。
外に出ると昨日の雨とウネウネが嘘のように消えて晴れ渡っていた。
冠水して川になっていた石畳の路面は既に乾いてる。
「午前中のうちに昨日の分を取り戻すにゃんよ!」
「「「にゃあ!」」」
○プリンキピウム街道 旧道
旧道を走る馬車は三台からまた一台に戻ってる。猫耳はトレーラーにも分乗して全部で二〇人だ。
「お館様、ウチらが近衛軍の騎士と兵士だったって本当にゃん?」
新入りの猫耳が質問する。
「にゃあ、でも半エーテル体になっていたから、個人としての連続性は途切れてるにゃんね、ほぼ他人にゃん」
「記憶が残ってたらお館様の役に立てたのに残念にゃん」
耳をペタンとさせる。
「おまえらを助けられただけ良かったにゃん、それでオレは十分に満足にゃん」
「お館様に助けてもらってウチらは幸せにゃん!」
「「「にゃあ♪」」」
「にゃあ、一度に抱き付いちゃダメにゃん!」
馬車の荷台で揉みくちゃにされてるうちに休憩所と宿泊所を作る昨日の分のノルマを終えた。
「獣が戻ったみたいにゃんね、特異種はこっちには来てないみたいにゃん」
「うん、いるのは普通のブタとかシカぐらいだね」
特異種は、プリンキピウムの森でもずっと南がこれまで生息地とされていた場所だが、遺跡の発掘とタイミングを合わせるように北上していた。
オレがキャリーとベルと狩りをした時に倒した特異種もかなり北上した個体だった。
「「トリさんとブタさんがこっちにくる!」」
ビッキーとチャスが獲物を発見した。
「「「おおきい!」」」
探査魔法もどきを使って周囲の様子をサーチしていた四歳児たちも声をそろえた。
「どっちも美味しそう!」
美味しそうと言ったのはリーリだ。
トリさんは恐鳥のことらしい。この辺りでは珍しいラインナップだ。
「マコトさま、ブタさんとトリさんをかってもいい?」
「かりたい」
ビッキーとチャスはやる気まんまんだ。いまにも馬車から飛び出しそう。
「にゃあ、いいにゃんよ、ブタと恐鳥は今日のお昼ごはんに決定にゃん、丸焼きにするにゃん!」
「「「まるやき?」」」
「「「にゃあ?」」」
シアとニアとノアと猫耳たちが首を傾げた。
「みゃあ、テンションが高かったのオレだけだったにゃんね」
耳がペタンとしてしまう。
「そ、そんなことないにゃん、丸焼きがちょっと良くわからなかっただけにゃん」
「「「にゃあ」」」
猫耳たちが同意する。
「わかったにゃん、オレがおまえらに美味しい丸焼きを食べさせてやるにゃん! お昼の休憩地に手の空いてる猫耳たちも集合にゃん!」
『『『にゃあ!』』』
念話で返事が返って来た。
丸焼きの材料がオレたちを挟み込む様に現れた。
チビたちが探査したブタと恐鳥だ。
どっちも特異種じゃね?ってぐらいデカいし、凶暴な面構えもいつも以上だ。
「「いきます!」」
ビッキーとチャスが銃を出した。
「「「あたしも!」」」
シアとニアとノアの四歳児もビッキーとチャスに続く。
「にゃあ、いいにゃんよ、五人に任せるにゃん」
猫耳たちはチビたちのバックアップに入る。
「「さきにブタさんから、だんがんにでんげき!」」
「「あたまをねらって!」」
ビッキーとチャスが指示する
「「「にゃあ!」」」
チビたちその掛け声はどうかと思うがちゃんと弾丸が発射されると同時に稲光が走ってブタの頭部を直撃した。
『ブッ!』
どんな巨体でも脳を焼かれたらひとたまりも無くその場で身体を硬直させて倒れた。
「「「やった!」」」
「にゃあ、安心するのはまだ早いにゃんよ」
「そうだった」
「「つぎはトリさん!」」
「「トリさんもあたま!」」
恐鳥は猫耳たちの結界に絡め取られ身体をよじっているが逃げられないでいる。
それでもクチバシを開きこちらを威嚇した。スキあらばチビたちを一飲みにする勢いは失ってはいない。
「「「にゃあ!」」」
チビたちの放った弾丸と青い稲妻が恐鳥の開かれたクチバシに飛び込んだ。
『ガッ!』
こちらはクチバシを開けたまま少し走って倒れた。
「「「にゃあ!」」」
猫耳たちが歓声を上げる。
誰が教えたわけじゃないのに五人はタイミングを合わせることで魔法の威力を上げていた。
一部オレたちと思考共有してるとはいえ、なかなか末恐ろしい。
「にゃあ、次はオレが丸焼きにするにゃん」
ブタと恐鳥を分解して拡張空間に格納した。
直ぐに調理開始だ。
普通に火で炙って作るにはどちらも大き過ぎるから仕方ない。
こちらで全く見掛けない料理法なのも納得だ。
魔法を料理に使うなんて、現代ではとんでもないこととされてるから仕方ない。
あのカズキですら料理は料理人に作らせている。
魔導具を使ったとしてもオーブンぐらいがせいぜいで、先史文明のレシピから読み取れる華やかさは欠片も残ってない。
魔法で作る丸焼きのレシピもしっかり情報体に登録されているのに勿体ない。
オレはこちらの常識にはとらわれないので、皆んなの為に魔力を注ぎ込んで美味しく仕上げるにゃん。
○プリンキピウム街道 旧道 休憩所
出来たばかりの休憩所の外に一緒に作られた特設会場には、トンネル経由で猫耳たちが続々と集まる。
会場には巨大な丸焼き用のグリル(お尻から頭にかけて棒を突き刺して回転させるあれだ)を二つ設置している。
「にゃあ、待たせたにゃん、直ぐに始めるにゃん」
オレは完成寸前の丸焼きをグリルにセットした状態で再生する。
「「「にゃあ!」」」
「「「わあ!」」」
初めて見る丸焼きに猫耳とチビたちのテンションが上がる。
重機みたいな魔導具が四トンダンプぐらいある肉を回転させる。
落ちる油もスゴい。
「おいしそう」
「まだたべられないの?」
「はやくたべたい」
シアとニアとノアの四歳児たちに囲まれる。ビッキーとチャスは行儀よく待ってる。
「にゃあ、もうすぐにゃん」
飴色の表面がパリッとしたら出来上がりだ。
猫耳と四歳児たちが丸焼きに目を奪われてる間にも猫耳ゴーレムたちがテーブルに他の料理や飲み物を持ってくる。
すっかりガーデンパーティーの様相だ。
「完成にゃん!」
「「「にゃあああ!」」」
直ぐに猫耳ゴーレムたちが肉を切り分け始める。
「「「おいしい!」」」
チビたちが声を上げた。
「丸焼きがこんなに美味しいとは! これは大発見だよ!」
リーリも大興奮だ。
「当然にゃん、丸焼きは美味しいにゃん」
オレも丸焼きを食べるのは初めてだが想像を超えたおいしさにちょっとびっくりした。
「にゃあ、流石、ウチらのお館様にゃん」
「「「にゃあ!」」」
尊敬の眼差しで見詰められてしまう。
「にゃあ、多少アレンジしたけど情報体のレシピのままに作っただけにゃんよ」
「お館様が作ってくれなかったらこうして食べることは無かったにゃん」
「そうにゃん、ウチらでは丸焼きのレシピを見てもピンと来なかったにゃん」
「「「にゃあ♪」」」
集まれなかった猫耳たちの為に各拠点でも小ぶりの丸焼きが提供された。
それと二つのホテルでも披露され好評を博した様だ。
丸焼きパーティーの後は、おなかいっぱいのまま仕事を再開する。派手に騒いだ割に時間のロスがないのは、全員アルコールが飲めないからだろう。
持ち場に帰る猫耳たちを見送ってオレたちも次の休憩地に出発した。
○プリンキピウム街道 旧道
午前中のうちに昨日の遅れを取り戻したので午後は慌てる必要もない。
「「「すぅー」」」
おなかいっぱいのチビたち+妖精はお昼寝だ。
リーリはチビたちのおなかもお気に入りらしい。
若い娘の方がいいのかも。
まったりと平和な時間が過ぎる。
オレたちだから無事に過ごせてるが、普通の商人とかだったら到底無事では済まなかったはずだ。
「にゃあ、後は道の修復が終われば獣避けの結界もちゃんと復活するから、それに期待にゃんね」
「道の獣避けってちゃんと効くにゃん?」
ピンク髪の猫耳モモに質問された。薄いピンクなのでそこまで派手じゃないにゃんよ。
「にゃあ、正常に作動していればそこそこ効くにゃんよ」
「街道には魔獣避けの刻印がされてるって聞いたけど、特に効いてる感じは無かったにゃん、辛うじて野営場が何とかって感じだったにゃん」
「効かないのは刻印が壊れてるにゃん」
「にゃあ、そうにゃん?」
「刻印は壊れてなくても時代が経れば劣化して効果が薄れるにゃん」
青髪のホズミが発言する。
「そうにゃんね、刻印の打ち直しが必要だったにゃんね」
「そもそも刻印を動かすには魔力が必要にゃん」
「道の刻印に魔力を行き渡らせるだけで大事にゃん」
猫耳たちが次々と発言する。
「にゃあ、旧道に限っては、ほぼ以前の性能を取り戻したにゃん」
本来の形になっている。刻印そのものは上質でまだ十分な性能を持っていた。自己修復機能があるのも大きい。
「お館様、獣は街灯のビームと電撃で撃退するから結界がなくても大丈夫にゃん」
「にゃあ、そうにゃんね、道の刻印は路面の維持が主な仕事になりそうにゃん」
「ここを通る人は直ぐには増えないのはもったいないにゃんね」
「にゃあ、そこは仕方ないんにゃん、旧道はプリンキピウムに行く以外に用のない道にゃん」
「意外と盗賊が多いから、普通は通らないにゃん」
「にゃあ、そう言えば前に聞いたことがあるにゃん」
ただ実際に出たのは、最初から荷物を狙っていたヤツらだったので、旧道に根を張っていたわけではない。
「ヤツらは常駐してないにゃん、獲物が入り込んだときに現れるにゃん、たぶん出るとしたらこれからにゃん」
「にゃあ、オレたちが獲物にゃん?」
「盗賊の大部分はウチらの実力を知らないにゃん」
「州都であれだけ盗賊が消えたのに知られてないにゃん?」
「にゃあ、間違いなく領主様の仕業と思われてるにゃん、それに州都界隈では、お館様はアーヴィン様の隠し子説が有力にゃん」
「そんな噂もあったにゃんね」
「お館様は護衛を女の子で固めている世間知らずのお嬢様だと思われてるにゃん」
「ピンと来ない評価にゃん」
「こんな可愛いお館様が世界最強クラスの魔法使いだなんて誰も思わないにゃん」
「にゃあ、この可愛さは反則にゃあ~ん」
「「「にゃあ♪」」」
「にゃお! わかったから抱き着いちゃダメにゃん!」
またもや揉みくちゃにされた。




