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稜線を越えて行くにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇七月二八日


 じっくり身体を休めたおかげで元気はつらつになった。シッポもツヤツヤだ。

 皆んなで朝ごはんを食べた後は、山脈を越えるべく出発だ。

「マコト、これは?」

 今日使う出来たての魔法馬を出したらハリエットが目を丸くする。

「何か魔法馬が青いのだが?」

 正確には青くて半透明。

「にゃあ、聖魔石が余ったから魔法馬にしてみたにゃん、これならグールもオーガも呪いも近付けないにゃん」

「聖魔法の光があふれ出てるじゃないか、国宝でも追いつかない代物だぞ」

 エーテル機関から魔力が潤沢に供給されてるせいにゃんね。

「にゃあ、これはお宝じゃなくてハリエット様を無事に王都に届ける為の道具にゃん」

「これが道具なのか」

 ハリエット様は何かしみじみ。

「この馬の防御結界に触れたらアンデッドじゃなくても昇天しちゃうね」

 リーリの言った通りで、うっかり弱ってる爺さんや婆さんが触れたらヤバい。

「夜になったら綺麗そうではある」

「にゃあ」

 ハリエットも気に入ってはくれた。

「にゃあ、ここから先は山が険しいからゆっくり登るにゃん」

「「はい!」」

 ビッキーとチャスはいい返事をした。



 ○アポリト州 ヴェルーフ山脈


 二頭の青く輝くお馬に乗ってオレたちは山越えを続ける。

 大きな岩を乗り越え、小さな岩を飛び越える。

 ハリエットも慣れて昨日ほどは疲れないようだ。昨日は暗くて周囲がほとんど見えない中での乗馬だったから仕方がないか。

 落石は防御結界で弾き、石が浮いて不安定な足場を魔法で固めた。

 徒歩で登ったらかなりの確率で滑落したのではないかと思われる。

 青いお馬は常時ウォッシュと治癒魔法みたいな効果を持っていて、見た目が派手なのでこっ恥ずかしい以外は最高の魔法馬だ。

「夏だというのに雪が残ってるのだな」

 雪と氷と岩の荒涼とした風景だ。

「標高が高いにゃん」

「本当は寒いのであろうな」

「魔法馬の防御結界の空調のおかげだね」

 リーリがハリエットに教える。

 さらに高い場所まで来ると一面、雪に覆われていた。積雪も二~三メートルあるのではないだろうか?

 この光景、エベレスト登山とかのテレビ番組でみたことがある。

 魔法馬がなかったらまず子どもたちだけで来ることのできる場所ではない。道も遠の昔にロストしてしまって、いまはなるべくなだらかな場所を登る。

「ゆきがいっぱい!」

「まっしろ!」

 ビッキーとチャスのテンションが上がる。

「山に雪があるのは知っていたが、聞くと見るとは大違いだ」

 ハリエットも雪山の風景に見入る。

「ちょっとマナの濃度が高いのが気になるにゃんね」

 魔獣の森の飛び地ほどではないが防御結界なしでは健康被害が出る濃度だ。

「大丈夫なのか?」

「にゃあ、何があってもオレの馬に乗ってれば安全にゃん」

「それは言えるがアレはどうだ?」

 遥か上方で雪煙が舞い轟音が鳴り響く。

「雪崩だね」

「「なだれ?」」

 ビッキーとチャスは知らないようだ。オレも実物は初めて見る。

「にゃあ、雪の塊が崩れて大量に流れてくることにゃん、今回は雪崩の中に何かいるにゃんね」

「ああ、かなり大きいぞ」

 ハリエットも目を凝らした。

「蛇だね、マナが濃いのはあいつのせいかも」

 リーリは雪崩の中のものを言い当てた。

「にゃあ、鎧蛇にゃん!」

 氷の鎧をまとった鎧蛇が雪崩と一緒にこっちに来る。

「逃げないのか?」

「にゃあ、ここで迎え撃つにゃん!」

「それが現実的かな?」

「「げいげき!」」

 ビッキーとチャスは難しい言葉を知ってるぞ。

「ビッキーとチャスは防御結界を展開にゃん」

「「はい!」」

 オレたちとハリエットの乗る魔法馬たちの防御結界の内側にビッキーとチャスの防御結界が展開する。

 オレは銃を構えた。

 狙うは鎧蛇のエーテル機関。

「にゃ?」

 あれ、ないぞ?

 大口を開けた鎧蛇が雪崩と一緒に突っ込んでくる。

「うわっ!」

 ハリエットが腕で顔をかばった。


 防御結界と接触した途端、轟音とともに雪崩と鎧蛇が吹っ飛んだ。


 砕け散った氷の鎧蛇はキラキラヒカリながら消えた。

 雪崩の雪も消え去って周囲は濃い霧に包まれた。

 残されたのは精霊の魔石。

 聖魔石の魔法馬の聖なる防御結界に自分から飛び込んで昇天してしまった。

「にゃあ、いまの鎧蛇、魔獣じゃなくて氷だったにゃん」

「ただの氷なのか?」

「正体は精霊にゃん、これが核だったにゃん」

 ハリエットにエーテル機関と遜色のない大きさのエメラルドグリーンの魔石を見せる。

「これは?」

「精霊の魔石だよ、いまのはいたずら好きな精霊の仕業だったんだね」

 リーリは精霊の魔石を覗き込んだ。

「イタズラにしては洒落になってないが」

 雪崩は本物だったので普通の人間が巻き込まれたら大惨事だ。

「にゃあ、精霊はイタズラが過ぎて天に還ったにゃん」

「自業自得だね」


 霧が収まったところでまた馬を進める。

 雪崩の後なので氷のような雪の塊がゴロゴロしていて荒れ地みたいな景観になってしまった。

 それでも邪魔者もいないし天気も穏やかなので順調に登って行く。魔法馬と防御結界さまさまな登山だ。



 ○アポリト州 ヴェルーフ山脈 稜線


 途中、馬上でお茶とおやつで一休みしたが昼前に山脈の稜線に到着した。

「にゃあ、いい眺めにゃん」

「そうだな」

「「わあ」」

「遠くまで見えちゃうね」

 眼下に広がる大パノラマ。どこまでも緑色で、かなり遠くに昨夜、街灯を光らせていた城塞都市が見える。

 いまはグールもオーガもいないはずだ。

 あの辺りにいたヤツらも聖魔石にしちゃったからな。

「にゃあ、山は思い切り高度限界を越えてるけどビームは飛んで来ないにゃんね」

 防御結界を厚くしていたのだが、どこからも赤い光は飛んで来なかった。

「山は地面と同じ扱いらしい」

 ハリエットが教えてくれた。

「にゃあ、すると山の上空でも高度限界を越えなければ大丈夫にゃんね」

「問題ないはずだ。昔の学者が凧を飛ばして調べたらしい」

「昔の人は偉いにゃんね」

「「はい」」

 ビッキーとチャスもうなずいた。

「ただ、山から少しでも離れると撃たれるそうだ」

「にゃお」

 山から三〇〇メートルまでは安全だが、崖みたいな場所は高度が大きく変化するから危険というわけか。

 ドラゴンゴーレムでの山越えは慎重にルートを選ばないと高度限界のレーザーを撃たれまくる。

 空を飛ぶならむしろ迂回がオススメか。


 景色を十分に満喫したオレたちは一気に山を駆け下りた。二頭の魔法馬が並んで急斜面をジャンプする。

「「「うわ!」」」

 ところどころ身体が浮き上がる感じがたまらない。

「……っ!」

 ハリエットが固まってるが大丈夫だろう。たぶん。



 ○アポリト州 森林


「ふぅ、まさかこうも簡単にヴェルーフ山脈を越えてしまうとは」

 麓まで下りたところで固まっていたハリエットが動き出した。

「下りが早かったからそう感じるだけにゃん」

「下ってるというより滑空していた」

「にゃあ、チマチマ降りるより快適で速いにゃん」

 下りはほとんど飛んでいたので一五分ほどで麓に降りてしまった。

「にゃあ、ビッキーとチャスは大丈夫にゃん?」

「たのしかった!」

「おもしろかった!」

「にゃあ、リーリも平気にゃん?」

「あたしも面白かったよ!」

「ハリエット様は面白くなかったにゃん?」

「面白くもあったが、生きた心地がしなかった」

「何事も経験だよ!」

「経験か、なるほど」

 真面目なハリエットはリーリに言いくるめられてしまう。

「マコト、お昼ごはんの時間だよ!」

「にゃあ、了解にゃん」


 森の中の少し開けた場所にテーブルと椅子、それにバーベキューコンロを出して肉を焼き始めた。


 午前中はそれなりに体力を使ったとあって、ハリエットを始め皆んなたっぷりと焼肉を食べた。

「つい、食べすぎたかもしれない」

「にゃあ、ウォッシュにゃん」

 苦しそうなハリエットの消化を助ける。

「ふぅ、助かった」

 ハリエットは椅子にもたれた。

「「マコトさま」」

 ビッキーとチャスも食べ過ぎだった。

「にゃあ」

 ふたりにもウォッシュを掛ける。

「「ふぅ~」」

 ふたりも椅子に力の抜けた身体を預けた。

「マコト、この子たちおかわりだって」

 匂いに釣られてやって来たタヌキ?の親子にリーリが焼いた肉をあげている。

 この辺りの動物は襲って来ない上に普通に可愛い!

「にゃあ」

 タヌキたちもおなかいっぱいになったところでオレたちも出発だ。


「このまま道は使わないでクプレックス州との境界門に向かおうと思うにゃん」

「私もそれでいいぞ」

 ヴェルーフ山脈を豪快に越えたことで、アルボラ州からクプレックス州に抜けるのに馬車で一〇日以上掛かる日程を半分以下に短縮した。

「馬車はもちょっと我慢して欲しいにゃん」

「私は王都まで魔法馬でも構わないぞ」

「にゃあ、そういうわけにはいかないにゃん。ド派手に凱旋してハリエット様の存在をアピールするにゃん」

「誰にアピールするのだ?」

「もちろん事件の黒幕に決まってるにゃん」

「黒幕に?」

「何を企んでも無駄と黒幕に教えてやるにゃん」

「余計にやる気を出してくるんじゃないのか?」

「にゃあ、ハリエット様を守る聖魔石の魔法馬の防御結界は、簡単には抜けないにゃんよ」

「私の聖魔石の魔法馬?」

「にゃあ、ハリエット様がいま乗ってる魔法馬にゃん。聖魔石で作り変えたにゃん」

「じゃあ、これはマコトが私にくれた魔法馬だったのか?」

「そうにゃん」

「前にも言ったが、これは国宝級だぞ」

「にゃあ、ハリエット様を狙ってる黒幕には、これぐらいのものを用意しないと対抗できないにゃん」

「そうなのか?」

「そうにゃん」

 オレは断言した。

「いや、かなりオーバースペックだよ」

 リーリが苦笑いした。

「にゃあ、スペックはいいに限るにゃん」


 聖魔石の魔法馬には虫が寄ってこないので夏の森の藪こぎには最適だ。


「にゃあ、ちょっと停まるにゃん」

「どうかしたのか?」

 ハリエットも馬を停めた。

「この先の安全を確認するにゃん」

 オレたちを中心にして昨夜と同じく半径一〇〇キロの探査魔法で探る。

 昨夜と一部重複はしているが、それなりに反応が返って来た。

 グールが八〇〇〇にオーガが二〇〇だ。

「いるのか?」

「にゃあ、距離はあるけどここから始末するにゃん」

「ここから?」

 ハリエットは辺りを見回す。

「にゃあ」

「マコトに任せておけば大丈夫だよ!」

「「だいじょうぶ!」」

 ビッキーとチャスも声をそろえた。

「わかった」

 ハリエットがリーリたちの言葉にうなずいた。

「行くにゃん! にゃあ!」

 マーキングしたすべての個体に聖魔法の稲妻をぶち当てた。

 少したってから、昨夜に比べると音はずっと小さかったが雷鳴のような音が遠くから幾つも聞こえた。

「いま何をしたんだ?」

「にゃあ、これにゃん」

 掌に載せた聖魔石を見せた。回収したばかりのものだ。

「グールを狩ったのか?」

「にゃあ」

「かなり遠距離の獲物を狩れるのだな」

「マコトは探査魔法で見付けた獲物を直接狩れるんだよ」

 リーリがハリエットに説明した。

「スゴくとおかった!」

「とおかったのにやっつけちゃった!」

 ビッキーとチャスもわかったらしい。

「ビッキーとチャスもそのうちできるようになるにゃん」

「マコトだったら一人でも近衛軍と戦えそうだな」

 ハリエットが不穏なことを言う。

「にゃお、近衛の騎士はメチャクチャ強いヤツがいて怖いにゃん、オレとしては出来れば近寄りたくないにゃん」

「マコトにも怖いモノがあるのだな」

「にゃあ、人間相手だと殺すわけにいかないから、いろいろ難しいにゃん」

「そんな悠長なことを言っていられない状況ならどうする?」

「手加減はしないにゃん、そこまでオレも優しくないにゃん」

「それなら安心だ。人間は獣と違う厄介さがあるからな」

「にゃあ、『高ランクの冒険者がチンピラに殺されるのも珍しくないから気を付けろ』って言われてるにゃん」

「マコトは高ランクじゃなくてFランクだけどね!」

 オレのランクを暴露するリーリ。

「Fランク、マコトはFランクなのか?」

「にゃあ、四月に冒険者になったばかりのペーペーの六歳児だから、別におかしくないにゃんよ」

「いや、おかしいだろう?」

「どちらかというと六歳児をグールの討伐隊に混ぜたり、外国に派遣したりする冒険者ギルドがちょっとおかしいにゃん」

「字面だけ追えば確かにそうなのだが、納得がいかない」


 夕方になってもオレたちはまだ森の中にいた。


 生い茂ってる藪を防御結界でラッセルしながら進んでいたので、速度はそれほど出さなかった。

 クプレックス州との境界門まで最短距離でコース取りをしたから、森を抜け出すにはもう少し掛かりそうだ。

 プリンキピウムの森みたいに特異種が入れ食いなんてこともなく、平和なのはいいのだがちょっと退屈だ。

 おやつの時だってオオカミたちが現れたがシッポを振りながら『ちょうだい』って来たので動物用に調整したドーナツをたっぷり食べさせてやった。

 ヴェルーフ山脈からこっち側の動物は、おしなべてゆるい感じがする。



 ○アポリト州 森林 ロッジ


「にゃあ、今日はこの辺りで野営にするにゃん」

 夕方、木々を伐採して空き地をこしらえ、そこに通常タイプのロッジを出した。これを使うのも久しぶりな気がする。

「これが噂に聞くマコトのロッジか」

 ハリエットがロッジの周囲を一周する。

「にゃあ、中身は地下壕型と変わらないにゃんよ」

「高位の魔法使いとは理不尽なまでの力を持っているのだな」

「せっかく宮廷魔導師がいるのだからもっと王国軍で使い倒せばいいにゃん」

「簡単ではないがそれも考えるべきだろうな」

「にゃあ、魔獣を倒すなら魔導師を使うのがいちばん現実的にゃんよ」

「私もそう思う」

「はいはい、難しい話は後だよ、まずはお風呂に美味しいごはんが優先だよ」

 リーリが魔法でオレたちの背中を押した。

「おふろ!」

「ごはん!」

 ビッキーとチャスもふんわりロッジの中に運ばれていった。


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