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92話 ああ……任せろよ

 森を突っ切る俺とルナは真っ直ぐ向かってくる気配を俺達2人は正確に人数も位置も把握していた。


 走りながら俺はどうにも喉に引っかかった小骨に対する苛立ちに似た気分に襲われて眉を顰めていた。


 前方を見つめるルナがムフンと鼻息を荒くさせ、チラリと俺を見た後、口を開く。


「気配も丸分かりなの。移動速度も遅いし8人いるけど徹と私の2人で楽勝なの!」

「だと、いいんだがな」


 俺がルナと同じように同調してくると思っていたらしく目をパチクリさせてこちらを見つめてくる。



 普通に考えれば俺もルナの言葉に同意なんだけどな……



 俺が難しい顔をして前を見つめるので不安になったようで情けない声で俺を読んでくる。


 不安材料だけを放り投げて放置は酷いな、と納得した俺は説明する。


「俺もこれが山賊とかであればルナと一緒の事を言っているんだが、おそらく状況から考えてクリミア王女を追いかけてきた刺客、暗殺者の類だと思う」

「うん、私もそう思うの。ずっと索敵しながら馬車で移動してたけど通ってきた道で人がいた気配や見られてる気配なかったの」

「ルナがそう言うならそうなんだろうな。だったら追いかけてきた暗殺者達の能力がこうもお粗末なのは何故だ? クリミア王女は間違いなく王族なんだぞ?」


 漸く、俺が言いたい意味を理解したルナが来た道を振り返る。



 そういう事なんだ……俺の予想通りならこれは陽動の可能性がある。



 慌てて戻ろうとするルナの肩を掴んで止める。


「待つんだ、ルナ。予想通りだった場合、このまま戻ったら挟撃をうけて守るのが難しくなる可能性が高い」


 俺の言葉を受けて、言い分は正しいとは分かるようだが、判断に迷うルナにしっかり両肩を掴んで言い聞かせる。


「俺達がこちらの片付けを済ませるまでもたせる為に美紅に残って貰ったんだぞ?」

「そうなの、美紅が残ってくれてたの!」


 納得とばかりにポンと掌を叩いてみせるルナに苦笑いを浮かべた俺は「行こう!」とルナに伝えて再び、走り出した。





 再び、走り出した後、俺達はすぐに露骨に暗殺者です! と主張してくる黒ずくめの男達と遭遇した。


 接敵した瞬間、俺達はお見合いをするように対峙すると黒ずくめの集団の1人が俺に話しかけてくる。


「俺達は怪しい者じゃない。話を聞いて欲しい」

「はぁ? 顔を隠してる上に、昔から黒ずくめのヤツは信じちゃいけないって爺ちゃんに言われてんだ!」


 すると、何とも言えない表情なルナが俺を見つめてくる。


 それに質問しようとすると黒ずくめ達が一斉に俺に指を指していた。


 戸惑う俺にルナが言い難そうに言ってくる。


「んと……徹もなの……黒ずくめなのは……」

「――ッ!!」



 のぉ――!! 俺も上下、黒で統一した格好だったっ!!



 頭を抱えて仰け反る俺を放置してルナが警戒を上げて黒ずくめ達に話しかける。


「怪しくない貴方達はここに何をしに来たの?」

「忘れ物を届けて欲しいと依頼を受けてやってきた善良な配達屋さんですよ」


 話しかけてきた黒ずくめの胸元から手紙を出し、裏を見せると封しているシールが赤いハートマークなのを確認したルナが頷く。


 そして、身を脇に避けて道を作る。


「どうぞ、なの」

「有難う、お嬢さん」

「どうぞ、じゃねぇ!!」


 本当に呑気に通ろうとした黒ずくめの先頭を廻し蹴りで吹き飛ばして後発の黒ずくめ達を巻き込ませる。


 旋回してルナの傍に着地した俺は黒ずくめ達を睨みつけながらルナに言う。


「こんな夜中に忘れ物を届けるヤツはいねぇよ! いたとしてこんな暗闇で近づいたら相手に逃げられるだろうが!」

「ハッ! 暗殺者がハートマークのシールを使うとは思わなかったから信じちゃったの!」


 慌てて身構え、ルナが見つめる先の黒ずくめ達は各自、ナイフを抜いていく。


 話しかけてきていた黒ずくめが先程の抜けた声ではなく感情が分かり難い声音で言ってくる。


「口で稼げる時間稼ぎ、思ったより出来て何よりだ」


 そう言ったらすぐに俺達に飛びかかってくる。


 俺はカラスでナイフを受け止めつつ、黒ずくめに顔を近づける。


「時間稼ぎと言ったな? やっぱりお前達は陽動なんだな?」

「ふっ、分かってて来たらしいな。まあ、分かっていれば余計に来ない訳にはいかないと考えるのだろうな」


 布越しでも分かる口角の上がり方にイラッときた俺は鍔迫り合いしていた黒ずくめの腹を蹴っ飛ばす。


 ルナと背中合わせになった俺は気合いを入れる。


「ルナ、こいつらを始末してすぐに美紅の応援に行くぞ!」

「うんっ!」


 4人ずつに分かれた黒ずくめ達に俺達は特攻をかけるように飛び込んだ。




 しばらく斬り合いが続くが俺達はこう着状態に陥っていた。


 黒ずくめ達は1人、1人はそう強くないのだが3人同時に攻撃をしかけてきて1人を追い込むと残る1人が間に入って入れ替わってくる。


 向こうは疲労を抑える事も出来るし、人数を減らすリスクも下がるといった本当に時間稼ぎをするなら確実性がある手を打ってきていた。


「徹、徹! こいつらやり難いの!」

「分かってる。俺達を倒そうとしてない。本気で時間稼ぎをしてる気だ」


 防戦に入っている黒ずくめ達は深く斬り込んでは来ず、俺達が焦れるように立ち回っていた。


 苛立ちから無理矢理動こうとすると、あわや命を取られると思わせる攻撃をしてくるから性質が悪い。


 このこう着状態をどうしたら、と歯軋りしていると聞き覚えがある声が背後からした。


「トオル君、ルナさん!」


 慌てて振り返った先には別行動をした美紅がこちらに走って来ていた。


 驚く俺達の傍にやってきた美紅に俺は問う。


「どうして、ここに!?」

「トオル君達が苦戦してる様子だったのでシュナイダーさんが私も向かう事をクリミア王女に進言して……」


 その言葉を聞いただけで状況が簡単に想像できた。



 くそぅ! あの馬鹿イケメン、どうしても俺の意見を聞きたくないものだから自分で何とか出来ると証明する為に美紅を引き剥がしたな……



 俺の表情からも不味い事をした、いや、頭の良い美紅の頭の片隅にはこれが悪手だと理解していたのだろう。

 凄まじく申し訳なさそうに俺を見ていた。


 やっぱり美紅は苦手意識がある事から逃げるとは言わないが距離を人一倍置きたいと思ってしまう気質がある。


 当然、結界の中に居た頃から考えれば格段に改善はされているがそれでもやはりそういう所は弱いままであった事を俺は失念していた。


 すぐに美紅を戻らせようとするとクリミア王女がいる方向から信号弾が上がるのに気付く。


 すると目の前の黒ずくめ達が肩を揺らしだす。


 俺はその信号弾の意味をすぐに理解してしまい、思わず「やられた」と呟いてしまう。


 そんな俺に顔を向ける黒ずくめは嬉しそう言ってくる。


「お察しの通り、目標を確保した、という合図です」

「確保? つまり、まだ生きてるんだな?」


 そう言った瞬間、余計な事を言ったとばかりに目を細める黒ずくめ。



 殺すのが目的の奴等じゃなくて良かった!



 急ぎ、誰に向かわせるか考えを巡らせる。


 俺の考えている事を予想が付いたらしい黒ずくめが片手を上げるとその後ろから8名の黒ずくめが姿を現す。


「えっ!? その気配は分からなかったの!」

「今まで戦ってる奴等がカムフラージュになって分からなくなってたんだ!」


 目の前に気配を隠す気がないヤツ達が目の前にいたのでついつい視覚情報に頼ってしまった俺達のミスであった。


 黒ずくめ達を睨みつけながら俺はルナと美紅に話しかける。


「ここは2人に任せる。俺はクリミア王女を攫った奴等を追いかける」


 そう言った俺に美紅が激しく反応を見せる。


「それなら、不用意に動いた私が助けに行きます!」

「駄目だ。今の美紅は申し訳なささから咄嗟の対応が遅れる。ルナは考えるのが不得手だから残るのは俺しかいない」


 説明を終えた俺が一歩下がり、ルナに美紅をお願いする。


 美紅にも頼むと言おうとすると悔しそうにした美紅が俺に謝ってくる。


「ごめんなさい、トオル君。私が逃げたばかりに」


 下唇を噛み締めて泣くのを耐えるようにする美紅に俺はニカッと笑ってサムズアップをしてみせる。


「言ったろ? 美紅が困ってるなら俺が助けるって。クリミア王女を攫った奴等を逃がさない」


 そう言った俺に小さな声で「有難うございます」と言ってくる美紅の頭に手を置く俺にルナが言ってくる。


「本当に徹、1人で追いつけるの?」

「ああ……任せろよ」


 そう言うが否や、俺は前傾姿勢のなると肉体強化ダブルを発動させて急加速して走り出す。


 疑似未来予測を発動させ、クリミア王女が向かった方向を感知する。


「あっちか」


 クリミア王女の感覚を捉えた俺は木の枝に飛び乗り、枝から枝へと更に加速させて一直線に走り出した。

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