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84話 名の由来

 驚くルナと美紅が顔を見合わせるなか、俺は自分でも分かるぐらいに口許を綻ばせて前のめり気味になっていた。


 ふと気付くとコルシアンさんと目がバッチリあって向こうも同じように微笑んでいる事に気付くと話しかけられる。


「うーん、初代勇者が裏切り者と口にした時の反応は、そこの2人のように驚くか、初代勇者を穢すな! と怒る人のパターンだったけど、君は笑っている……何か知ってるのかい?」

「ああ、俺もコルシアンさんに裏切り者説を聞くまで、うっかり忘れてたんだけどね?」


 俺の言葉にルナと美紅が更に驚いた様子を見せ、ルナなど俺の胸倉を掴んで揺すってくる。


「何を知ってるの!? キリキリ吐くの!」

「隠してた訳じゃないって! ライラとマイラの姉のマリーさんの呪いの事でバタバタしてて言い忘れただけだから!」


 驚きから回復した美紅が牛のように興奮するルナを宥めてくれる。



 マジで「もー、もー」言ってるぞ!



 というか、途中までは2人も知ってるだろ? と思うが、俺が知る続きを知らないと繋がり難いのかも? と思わなくもないな……


 ある意味、時々、獣人化するルナに恐怖を覚える俺を興味深いとばかりにコルシアンさんは見つめる。


「隠し事じゃないなら、僕にも話してくれるのかな?」

「吹聴しないと約束してくれるなら……それ以前にコルシアンさんの情報と被ってる可能性もあるけどね」


 俺の返答に「確かに」と苦笑いするコルシアンさんを見て、俺は思う。



 このオッサン、変態だけど口は堅そう!


 どことなくシンパシーを感じ……感じてないからぁ!!



 危うく、どこかの誰かに誘導尋問されそうになったが回避した俺はコホンと咳払いをする。


 そんな俺を見て何を思ったか分からないがコルシアンさんとセッちゃんが顔を見合わせて笑みを浮かべる。


「まあ、いいや。まずは僕から話をしようか」

「お願いします」


 ペコリと頭を下げる俺に倣うようにルナと美紅も頭を下げる。


 コルシアンさんは「どこから話そうか?」と悩む素振りを見せながら眼鏡を外して拭き始める。


「そうだね、こういうのは初めからがいいかもしれないね。初代勇者、いや、勇者というのがどういう意味から話そう。アローラにいた、女神により授けられし知恵と道具により作られた魔法陣により呼び出された異世界人を勇者と呼称されている」


 その道具と知恵をエコ帝国が独占している、と付け足すコルシアンさんの話を聞いているが、おおまかには美紅に聞かされてた。


 被る部分がコルシアンさんの話にはあるが、美紅が知らない言葉も含まれていたようで驚きの表情を隠せないようだ。


「召喚された異世界人は例外なく僕達とは隔絶とした力の持ち主だった。だから、知らぬ者にはそれが理由で勇者と認識されているが……本当の意味は別にあった。初代勇者から始まって今代の勇者、10代目に至るまで時代によって2つ意味合いが違った」


 目を伏せるような仕草をするコルシアンさんの話を聞いて、1つは分かった気がした。


 美紅と出会った時の事を考えれば予想はついたがそのまま聞き耳を立てる。



 ん? 目を伏せる素振りを見せるコルシアンさんが一瞬だが、美紅を見たような気がしたけど……



 少し不思議に思っているとコルシアンさんは話の続きを始める。


「初代勇者、2代目勇者は兵器、それ以降の勇者は結界の触媒。勿論、魔神の脅威を退ける為、凌ぐ為に……」


 コルシアンさんの話を聞いて、少し顔色が悪くなる美紅の肩を優しく抱くルナをチラ見してコルシアンさんを見つめる。


 つまり、言葉尻を良くする為に勇者ぶき勇者にえとして発表したのだろう。


 エコ帝国も話を美化させないと国に対して不審を持たれる事になるからだろう。


 俺に顔を見つめられるコルシアンさんは同じように見つめ返し、苦笑する。


「別に僕がエコ帝国の貴族だから言う訳じゃないけど、保身があろうがなかろうが、僕達人類に他に取れる手段はなかったのは確かでもあるよ? 本当の事を民に言って混乱が生まれただろうしね、特に初代勇者の時は民の意思統一は形振りかまえない状態だったんだ」

「魔神の被害が酷かったから?」


 そう聞き返す俺に静かに被り振るコルシアンさんは困ったようで呆れるような笑みを浮かべ口を開く。


「確かに被害もあった。それ以上に困ったんだエコ帝国は」


 引っ張るように言うコルシアンさんに眉を寄せて見つめる俺達3人。


 少し楽しげな表情を浮かべるコルシアンさんが誰に配慮してるのか、と問いたくなるように声を顰めるような素振りをして言ってくる。


「召喚した初代勇者はエコ帝国から逃げ出したんだ」


 驚く俺達を良い聞き手だと言わんばかりに見つめるコルシアンさん。



 3代目以降はアレだが、初代勇者と2代目勇者は召喚されて国を上げてバックアップされて魔神に挑んだと勝手に想像して聞いていたぞ!


 想像してた内容?


 あれだろ? 良く来た、勇者よ! 魔神を倒す為に私からせめての餞別を贈ろう。

 目の前の宝箱を開けよ。



 こんぼうを勇者は手に入れた。


 50Gを勇者は手に入れた。



 ……良く考えたら、かなり酷いよな?


 よっぽど貧乏なの? ケチなの?


 いや、ケチだな。だって、ダメージエリアや鍵のかかった城内にある宝箱の方が良いモノ一杯あるしな!


 初めからそれを渡しておけ、って話だよな?



 だから逃げ出したのか、と馬鹿な事を考えているとコルシアンさんの話は続いていた。


「どうして逃げ出したかは分からない。違う世界にいきなり来て混乱したのかもしれないね? でも、単純に順応性が高かったのか、必死に初代勇者の捜索するエコ帝国を嘲笑うかのように国境を越えただけの場所で冒険者をしていた」


 エコ帝国は、凄まじい身体能力で飛び出した様を見て、遠くに逃げていると思い込んで近場に目を向けなかったそうだ。


 しかも、それに気付いた時にはそこの冒険者ギルドのAランクになっていたという笑えない話だそうだ。


「本当に困ったそうだよ。冒険者である君達も知ってるだろうけど、Aランクになるといろんな国からスカウトが来るようになる。だけど、冒険者ギルドの顔でもあるAランクを強権で奪おうしたり、命令するのは御法度。国だって冒険者ギルドを全部、敵に出来ないしね」


 その言葉に美紅は知っていたらしく頷くが俺とルナは目を泳がせながら頷く。



 俺とルナは心の友!


 知らんかったぁ!!


 スカウトの話は、こないだのBランクパーティと揉めた時に聞いていたけど、国が個人である冒険者に命令出来ない存在とは知らなかった。



 美紅はおそらくシーナさん辺りから聞いていたのか、冒険者ギルドの約款みたいなのを読んでいたのであろう。


 俺とルナが知らなかったという事実に気付いた様子のコルシアンさんであったが苦笑するだけで流して続けてくれる。


「魔神を討伐するのに初代勇者の力がいる。だけど、Aランクになってる者に強権を振り翳すと本来、味方であるはずの人類を敵に廻しかねない」


 困るよね? と肩を竦めるコルシアンさんが笑いかける。


「困ったエコ帝国は必死に頭を使い、知恵を絞って捻り出した答えが……」


 俺達に身を乗り出してくるコルシアンさんに引き込まれるように俺達も前のめりになる。


「魔神を倒す為に進むべき道を指し照らす存在、『勇者』と世界に発表した。ただ力を持った異世界人の少年が表舞台に引きずり出され、数ある初代勇者と呼ばれし少年の物語の始まりだよ」

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