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85話 立て! 非モテの旗の下で!

 ボジョレーヌーボーを衝動買いして酷い二日酔いに……

 まだ、微妙に頭が重いですお(;一_一)

 コルシアンさんの話を聞いた美紅が似た立場なせいか感情移入したようでポツリと呟く。


「なんとか知らない世界で順応していこうとしてたのに、辛い戦いの中心に無理矢理据えられた……嫌だったでしょうね……」

「初代勇者、可哀想なの……」


 ルナも同情するように綺麗な眉を八の字にして俯く。


 それを見たコルシアンさんが苦笑しながら続ける。


「そうだね、当時を振り返った歴史学者や、初代勇者を直接知っている者達が残した手記などからも2人のような同情的な記述は良く見られたよ」


 コルシアンさんの言葉に2人はそうだろう、そうだろうと言わんばかりに頷くのを見ながら眼鏡を懐から取り出した布で拭く。


 そして、眼鏡をかけたコルシアンさんは光の加減か目の表情が分からない状態で話を続ける。


「事情を知った当時の人、特に女性も2人のように思ったようだよ。しかも初代勇者は好青年という表現がカッチリとハマる二枚目だったようで美女に群がれて、ハーレム状態だったそうだよ」

「俺、初代勇者の死因はきっと女に刺されただと思うんだ?」


 一気に燃え上がった俺の黒い炎が俺の口から出たとは思えない言葉を吐き出す。


 ルナと美紅は頭が痛そうに抱え、俺を憐れみを籠った視線でこちらを見つめてくる。



 だって、しょうがないやん!?


 そんな奴が存在するから、どの時代の俺みたいなのが不幸になると俺は確信している!


 『立て! 非モテの旗の下で!』


 きっと当時の男達の怨嗟が俺を突き動かしているのだ!



「まったく徹はすぐ男前を相手だと酷いの。過去の事だから美化されて伝えられてるだけかもしれないの!」

「ああ~、いや、残念ながら多分、美化はないな。むしろ、好青年に+αが付く男の天敵みたいなやつだったよ」

「えっ? トオル君は見た事あるみたいに言いますけど……」


 伺うように聞いてくる美紅に、何でもなさそうに「ああ」と返事をするとルナが胸倉を掴もうと前に出てくる。


「うぉ! 何度も掴まれて堪るか! って、コルシアンさん!?」


 ルナを避けたと油断した所で目を爛々とさせたコルシアンさんに胸倉を掴まれ、全身を使って揺らされる。


「見たって、どういうことだい? ああ、初代勇者の容姿については男前という共通点があるだけで、書かれる書物によって色々あって人物像が曖昧だったんだよ! さあ、さあ!!」

「お、落ち着いてぇ!? 隠すつもりはないからぁ!!」


 ぐいぐい揺さぶるコルシアンさんに困り、近くにいるルナと美紅に助けを目で求めると美紅は申し訳なさそうに目を逸らし、ルナは「今のその人に近寄りたくないの」とあっさりと俺を見捨ててくる。


 仲間からの裏切りに驚愕していた俺に救いの神が現れる。


 今まで気配を消していたかのようにいたのが分からなくなっていたセッちゃん、いい加減に名前を聞いた方がいい気がするが、それはさておき、コルシアンさんの背後に忍び寄ったと思うと持っていたお盆で迷いのない動きで叩きつける。


 ゴス、という鈍い音をさせるとコルシアンさんはカーペットの上で声なき悲鳴を上げながら転げ回る。



 ん? 何故、お盆で叩いたのに鈍い音したかって?


 平たい所でなく、縁で迷いもなくやったよ、このメイドさん。



 半端ないな……と恐怖を感じる俺に近寄ってくるので、姿勢を正す。


 するとコルシアンさんに掴まれてヨレヨレになったシャツを少しでも見栄えを良くする為に整えてくれて目を白黒させる。


「主の失礼をお許しください。危害を加える気はなかったのは本当ですので?」

「大丈夫です。俺もコルシアンさんが悪い人だと思ってませんから!」


 変態だと思っているという言葉は飲み込んで笑みを浮かべるとセッちゃんは少し嬉しげに笑みを浮かべる。


 2人の間に優しい空気が流れる。


 足下では凄い顔したコルシアンさんが未だに転がり続け、ルナと美紅の視線が怖い事になってる事にも当然、目を向けない。



 セッちゃん、胸はないけど、綺麗だし、いい匂いするし、俺、年上属性が目覚めちゃうかも!!



 俺が鼻を伸ばしている間にコルシアンさんが震えながら、テーブルに手を付いてソファに戻る。


「せ、セッちゃん、マジで本当に手加減して? いくら僕でも万が一があるかもだよ? 後、僕が君の雇い主ね? 僕も良く忘れるけど、君は忘れないでね!」


 その言葉に「失礼しました」とまったく気にした様子のないセッちゃんが再び、元の位置に戻る。


 戻っていくセッちゃんを少し恨めしげに見ていたコルシアンさんであったが「まあ、いいか」と言うとニコニコ笑いながら俺達を見てくる。



 も、もしかして記憶障害は殴られ過ぎなせいでは……



 美人補正でやられそうになっていた俺の脳にカツを入れるとコルシアンさんに向き合う。


 首をコキコキさせるコルシアンさんが思い出すように言ってくる。


「さっきの話は後で聞くとして、どこまで話したっけ?」

「ハーレム状態だった、辺りですかね? でも本当の話なんですか?」


 そうだった、と頷くコルシアンさんが再開させる。


「うん、間違いなさそうだよ。だって、初代勇者に否定的な集団が書いた内容にも書かれていたからね?」

「そのタイトルは『ああ~初代勇者、明日、死なねぇかな?』じゃない?」

「トオル君、昔の人だからと言って馬鹿ばかり言っちゃ駄目ですよ?」


 俺にお小言を言ってくる美紅に頬を掻いて困る俺に指を鳴らして「惜しい!」と言ってくるコルシアンさん。


「正解は『俺達の明日の為に死んでくれ』だよ」


 目を点にして驚くルナと美紅であるが、俺とコルシアンさんは両手でがっしりと握手して目端の幅の涙を滝のように流す。



 分かるぞ! 同士諸君! いつの時代にもそういうヤツは居る……


 この時代のヤツはこの俺の手で……



 ふっふふ、暗い笑みを浮かべる俺にウンウンと頷くコルシアンさん。


 そんな俺達を呆れた目で見つめるルナは「やっぱり似た者同士なの」と言ってる気がしたが、きっと気のせい。


 困った様子の美紅が俺達に提案してくる。


「だいぶ本線からずれてる内容になってるので、話の筋を戻しませんか?」

「ああ、そうだね、ごめんね」


 美紅に男前な顔を向けるコルシアンさんであったが、引く美紅の様子を見る限り、気持ち悪いと思われてそうである。


 馬鹿だな、コルシアンさん、と指を指したい衝動と戦っていると俺を半眼で見つめるルナに気付く。


 俺はそっとルナから目を逸らす。


「えっと、表舞台に引きずり出された初代勇者の足跡は、おとぎ話で語られている事とそう変わるものではないから端折るけど、問題は魔神を封じた後の話さ」


 俺の進退窮まるといった状況を打破するように話を再開してくれたコルシアンさんを俺は心で喝采を送る。


「最終決戦を迎えた初代勇者は当時、魔神を完全に葬るつもりがあったと仲間の手記を信じる限り、考えてたそうだよ。だけど、結果は封じただけ……更に仲間の手記では、あえて、封じたような記述がされているんだよ」

「えっ? 倒せる見込みがありながら、倒さずに封じた?」


 確認する俺の言葉にコルシアンさんは頷いてみせる。


「みたいだよ。封じた当初は「封じるのが精一杯だった」と初代勇者は証言しているが、それから10年、表舞台から姿を消すんだよ。仲間にも居場所を告げずにね?」

「封じるまでに力を使い過ぎただけなら、体調を戻す時間さえあれば有利に戦えたはずなの」


 魔神もある程度回復はしただろうが、封印されている以上、傷が治ろうが間違いなく初手は取られる魔神との戦いは初めと比べて有利に戦えた、とルナの考えであった。


「うん、僕もそう思うけど、でも、どの当時の事を書かれている書物にも再び、戦いに挑んだと分かるものはなかったんだ」


 本当にね? と肩を竦めるコルシアンさんから美紅に目を向けるルナは「訳が分からなくなってきたの……」としょんぼりして美紅の服の裾を引っ張る。


 そんなルナに「物的証拠もない話を想像で補填してる話だから分からなくてもしょうがないです」と慰める。



 美紅、甘いぞ? ルナの言う分からないは話が長くなってきたから纏められなくなってるだけだ!



 俺だけが真理に到達しているようで、コルシアンさんが纏めるように言ってくる。


「魔神との最終決戦後、初代勇者は姿を消し、次にみんなに知られるのはある神殿で亡くなった、という話だけだよ」


 ある神殿と聞いた2人は、以前、行った神殿の事だと分かったようで頷いてみせる。


 そして、俺に目を向けるコルシアンさん。


「僕が知る、信憑性が高い話はこれぐらいかな? トール君との話と被ってたかな?」

「いや、多分、初代勇者が亡くなる直前にしてた行動だと思うから被らないと思う」

「ほう! それは楽しみだね!」


 嬉しそうにするコルシアンさんは身を乗り出すようにする。


 そんな俺達にセッちゃんが冷めたお茶を入れ直してくれて差し出されるのを各自、一口、飲んで仕切り直す。


「この出来事を知るキッカケになったのは、ある双子の少女の依頼から始まるんだけど……」


 俺はマイラとライラの姉のマリーさんに降りかかった不幸の話から話し始めた。

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