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第35話 地下の秘密が苏る

編集夜のうちに見つけた地下の分水室を確かめるため、私は翌朝、まだ朝露の残る公園予定地へ戻った。掘り返した土は黒く湿り、井戸跡の周囲には昨日つけた足跡がそのまま残っている。石碑の脇に置いた板を外すと、地下へ続く狭い階段から冷たい空気が上がってきた。手提げ灯を掲げて降りる。石壁には水の筋が何本も残り、奥では細い流れの音がしていた。昨夜は暗くて全体を見渡せなかったが、分水室は思っていたより広い。中央の水槽から三方向へ石造りの溝が伸び、そのうち二本は土砂で塞がれていた。私は壁と床へ順に鑑定を使った。《旧式分水施設》

《状態:一部閉塞。基礎は安定》

《用途:生活用水の分配、余剰水の排出、周辺地盤の排水》

《注意:北側水路を塞いだまま地表を造成した場合、長雨時に滞水する可能性あり》思わず息を止めた。昨日までの公園計画では、北側に広場を造り、その中央へ石碑を移す予定だった。だが、その真下に排水路が通っている。上から重い石を載せれば、水路を傷めるだけでは済まない。雨水の逃げ場まで失わせてしまう。地上へ戻ると、資材を運んできた村人たちが集まり始めていた。私は地面に広げた図面へ、鑑定で確認した三本の水路を書き足した。「広場の位置を変えます。石碑もここには置けません」現場を任されていた年配の村人が眉をひそめた。「また変更か。昨日、ようやく場所を決めたばかりだぞ。地下の古い部屋なんて埋めてしまえばいいんじゃないか?」「埋めると、雨のたびにこの辺りへ水が溜まります。分水室は壊れた遺構じゃありません。今も村の水を逃がしている設備です」私が北側の地面を指すと、男は半信半疑のまま土を踏んだ。「だが、見たところ乾いている」「今は雨が降っていないからです。確かめる方法があります」私は井戸跡のそばへ移動し、表面の土を薄く削った。ほどなく、拳ほどの平たい石が並んで現れた。石列は公園予定地を横切り、崩れた民家の裏手へ続いている。鑑定結果と同じ方向だった。数人で石を外すと、その下から湿った砂と枯れ葉が詰まった細い溝が出てきた。男はしゃがみ込み、指で砂をすくった。「これは……昔の排水溝か」「地下の北側水路につながっています。ここを開ければ、分水室がまだ使えるか分かります」男はしばらく溝を見つめていたが、やがて袖をまくった。「分かった。口だけじゃないなら、俺も見届ける」その言葉を合図に、私たちは作業を始めた。まず地上の溝から泥と根を取り除き、次に分水室へ降りて塞がった水路を掘る。長いあいだ押し固められた土砂は重く、鍬を入れても簡単には崩れない。石壁を傷つけないよう、端から少しずつ削るしかなかった。昼前には腕が痺れ、手袋の内側まで汗で濡れていた。村人たちも無言になっていたが、誰も手を止めなかった。地下から運び出した泥が籠いっぱいになるたび、地上では別の者が荷車へ移していく。昨日まで公園造りに懐疑的だった者まで、いつの間にか列へ加わっていた。やがて鍬の先が空を切った。土壁の向こうから、冷たい水が一筋こぼれた。最初は指ほどの細さだった流れが、詰まりを崩すにつれて勢いを増していく。濁った水は石の溝を走り、分水室の中央へ落ちた。「来たぞ!」地上から声が上がった。階段を駆け上がると、開いた排水溝を水が流れていた。溜まっていた泥を押し流しながら、村の外れにある低地へ向かっている。年配の男は何度も流れと井戸跡を見比べた。「本当に生きていたのか、この水路は」「完全ではありません。南側も詰まっていますし、石組みが緩んでいる場所もあります。でも直せます」男は黙っていた。やがて、昨日まで石碑を置く予定だった場所へ目をやり、頭を下げた。「悪かった。古いものは役に立たないと決めつけていた」私は首を振った。「私も、鑑定で見なければ気づけませんでした。残した人たちが、何のために造ったのかを確かめる必要があります」胸の奥が少し軽くなった。役立たずだと笑われた力でも、目の前の暮らしを守ることはできる。そのことを言葉ではなく、流れる水が証明してくれていた。午後、私たちは公園計画を引き直した。広場は水路の上を避けて東側へずらし、石碑は元の土台を生かして小高い場所へ戻す。井戸跡は埋めず、分水室を点検するための入口として囲いを設けることにした。図面を囲んでいると、昼食を運んできた女性が水路をのぞき込み、不安そうに尋ねた。「この水、飲み水にも使えるの?」私はすぐには答えず、流れの上流と石壁を鑑定した。水そのものに強い濁りはないが、長く放置された水路には泥や小動物の痕跡が残っている。見た目が澄んでいるからといって、安全だとは限らない。「今のまま飲むのは危険です。まず水路を洗って、上流に汚れが入る場所がないか調べます。しばらくは散水と排水だけに使いましょう」「せっかく水が出たのに、すぐ使えないのか」残念そうな声が上がったが、私は曖昧に笑って済ませなかった。「急いで誰かが腹を壊したら、この水路そのものが信用されなくなります。役に立つものほど、使い方を間違えないことが大切です」年配の男が腕を組み、皆を見回した。「湊の言うとおりだ。井戸を使っていた頃も、最初の水は捨てていた。水路の掃除が終わるまでは畑にも直接入れないほうがいい」古い記憶をたどるような言葉だった。私は詳しく尋ねると、男は子どもの頃、分水室の近くで大人たちが木の板を開け閉めしていた光景を覚えているという。三本の水路は季節によって流す先を変え、雨の多い時期には村外れへ、乾いた時期には共同畑へ水を回していたらしい。「そんな仕組みだったのか……」自分で鑑定した情報と、村人の記憶が一本につながった。能力が示すのは物の性質までだ。いつ、誰が、どう使っていたのかは、人の中に残る記憶を聞かなければ分からない。私は図面の三本の水路に、雨季、乾季、点検用と書き添えた。「分水板を作り直せば、流す方向を選べます。公園の排水だけでなく、畑の水不足にも備えられるかもしれません」「昔と同じに戻すのか?」「同じではありません。今の村に必要な形へ直します。昔の仕組みをそのまま真似ると、また同じ場所が壊れるかもしれない」私は分水室で見つけた摩耗箇所を示した。中央の溝だけが深く削れ、長年そこへ水が集中していたことが分かる。次は三方向へ均等に逃がせるよう、石の傾斜を調整する必要があった。男はしばらく図面を見たあと、口元を緩めた。「昔のものを持ち上げるだけじゃなく、悪いところは直すんだな」「残っているから正しい、とは限りません。使える部分と危ない部分を見分けます」その返事に、周囲の村人たちも納得したように頷いた。さらに、北側の排水溝に沿って浅い緑地帯を造れば、雨水を一度受け止めてから水路へ流せる。湿り気を好む木や草を植えれば、ぬかるみを防ぎながら公園の景観にもなる。余った水は畑へ回し、乾燥する季節の備えに使えるはずだ。「遊具は東側だな」先ほどの男が図面へ指を置いた。「子どもが水路へ落ちないよう柵も要る。点検口の周りは石で固めたほうがいい」朝とは声の調子が違っていた。疑うためではなく、実現するために問題点を探している。「お願いします。石積みを知っている人にも見てもらえますか」「ああ。昔、井戸を直していた連中にも声をかける」話を聞いていた村人たちからも意見が出た。木陰に腰掛けを置きたい。雨の日でも通れるよう、道には砕いた石を敷いたほうがいい。畑仕事の帰りに道具を洗える場所があれば助かる。公園はただ見栄えを整える場所ではなく、村で暮らす人たちが日々使える場所へ変わり始めていた。私は提案を書き留めながら、図面の余白が埋まっていくのを眺めた。一人で考えていたときより、計画はずっと具体的になっていた。鑑定で価値を見つけても、それを町の形にするには、ここで暮らす人たちの知恵と手が必要なのだ。日が傾く前に、南側水路の調査へ移った。こちらは北側より傷みがひどく、途中の石が崩れている。水を流すには一部を組み直さなければならない。私は壊れた石を一つずつ鑑定し、再利用できるものと砕けやすいものを分けた。「その石まで使えるのか?」若い村人が驚いたように尋ねた。「表面は欠けていますが、中は丈夫です。向きを変えれば補強材になります。こっちの石は水を吸いすぎているので、通路には向きません」私が答えると、彼は二つの山へ石を運び始めた。捨てるはずだった資材が積み直されていく。わずかな違いでも、使い道を見つければ作業は前へ進む。夕方、仮に組み直した南側水路へ桶の水を流した。水は継ぎ目から漏れることなく石の間を進み、分水室の水槽へ落ちた。その音を聞いた村人たちから、小さな歓声が上がった。朝に私の提案を疑っていた男が、泥だらけの手で肩を叩いてきた。「湊。明日は西側の出口も掘るぞ。ここまで来たら、全部つなげてやろう」「はい。ただし、無理はしないでください。石組みが崩れたら危険です」「分かっている。お前の目で確かめながら進める」誰かに命じられたからではなく、自分たちの町を造るために動こうとしている。その変化が、流れ始めた水よりもうれしかった。作業を終える頃には、低く垂れ込めていた雲が切れ、夕日が濡れた地面を照らしていた。まだ公園と呼べる姿には遠い。掘り返した土、積み上げた石、仮の柵。けれど昨日までただの穴にしか見えなかった井戸跡は、今では町を支える設備への入口になっている。私は泥のついた図面を畳み、道具を荷車へ戻した。明日は西側の排水路を確かめ、その後に石碑の土台を直す。遊具や花壇を考えるのは、水の流れを安全にしてからだ。順番を誤れば、せっかく見つけた価値をまた埋めてしまう。地下からは、かすかに水の流れる音が続いていた。私はその音を聞きながら鍬を握り直した。廃村に残されたものは、過去の残骸ではない。使い方を見つけ、手を加えれば、これからの暮らしを支える力になる。「明日も早いぞ」と男が声をかける。「分かっています。今度こそ、この水路を町のために生かしましょう」私は夕暮れの公園予定地を振り返った。石碑も、井戸跡も、地下の分水室も、まだ完成にはほど遠い。それでも、今日流れ出した水は止まっていない。土のついた道具を肩に担ぎ、私は村人たちと並んで家路についた。

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