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第14話 閉塞物の真相ものが見えてきた

編集七番杭の手前で、水の流れが途切れていた。六番杭までは、調整板を一段上げたぶんだけ水位が素直に上がっている。ところが、そこから先は水面が鏡のように動かず、七番杭の周囲だけが乾いたままだった。私は流れの止まった水面を見つめ、測量棒を握り直した。「ここでせき止められているのは間違いない。けれど、すぐに掘るのは危険です」後ろで土嚢を運んでいた田中さんが、眉を寄せた。「詰まっているなら、取り除けばいいんじゃないのか?」「上流には、さっき増やしたぶんの水が溜まっています。閉塞が栓のようになっているなら、崩した瞬間に水と土砂が一気に押し寄せるかもしれません」私が水面を指すと、集まっていた村人たちの視線がそちらへ向いた。六番杭の脇では水が石に当たり、小さな渦を巻いている。見た目には穏やかでも、その下には確かな圧力がかかっていた。「まず、水位差を測ります。佐藤さんは六番杭、吉田さんは七番杭に立ってください。田中さんは、封鎖壁の調整板をすぐ下げられるように待機をお願いします」三人は迷わず持ち場へ向かった。以前なら、私が測量棒を動かすたびに遠巻きの視線が集まっていた。今は違う。佐藤さんは杭の目盛りを読み上げ、吉田さんは板に数字を書き込み、田中さんは確認のために私の手元をのぞき込んでいる。六番杭側の水位を測り、七番杭側の乾いた溝底との差を取る。閉塞箇所の手前には、私の膝ほどの高さまで水が溜まっていた。私は閉塞部の周囲へ半歩ずつ間隔を取り、測量棒を差し込んで深さを確かめた。中央ではすぐ硬い層に当たるが、右岸寄りでは棒が急に沈む。逆に左岸は石混じりの土が固く締まり、ほとんど入らない。閉塞物は水路を横一線に塞いでいるのではなく、右岸側へ傾いて落ち込んでいるらしい。「ここだけ音が違う」佐藤さんが棒の先で地面を軽く叩いた。中央は詰まった鈍い音、右岸側は太鼓のような空洞音が返る。「その線より内側には入らないでください」私は小石を並べて危険範囲を示した。吉田さんが縄を持ってきて、小石の外側へ仮の境を作る。指示を待つのではなく、危険の意味を理解して動いてくれたことがありがたかった。さらに上流側の水へ木片を浮かべ、六番杭から閉塞部まで流れる時間を三度測った。調整板を上げた直後より流速は落ちている。それでも、水面下では閉塞の隙間へ吸い込まれる細い流れが残っていた。泥の上に浮いた泡が、同じ場所で消えていく。「完全に止まっているように見えて、下には水が通っているんだな」田中さんがつぶやく。「はい。細い通り道が残っているからこそ、内部の土が少しずつ削られている可能性があります。外から変化が見えなくても、急に崩れることがあります」「思ったより差があるな」田中さんの声が低くなる。「はい。封鎖壁をこれ以上上げるのは危険です。流れを強くすれば抜ける、という状態ではありません」私は水路の縁にしゃがみ、杖の先で泥を探った。表面は柔らかい。しかし、二尺ほど先で硬いものに当たった。石とは違う。杖先に返ってくる感触が、わずかにしなる。泥を少しすくい上げ、手のひらで砕く。黒い土に、細い木片と赤茶色の粉が混じっていた。「木が埋まっているのか?」吉田さんが尋ねる。「木だけではなさそうです」私は息を整え、目の前の泥と水路へ意識を集中させた。鑑定。視界の端に、淡い文字が浮かび上がる。【旧水路保護蓋・破損部】

【材質:樫材、鉄帯】

【状態:腐朽・陥没】

【付着物:土砂、葦根、細礫】

【推定閉塞長:約四・八メートル】

【内部空隙:あり】

【荷重を急に除いた場合、上流側土砂が崩れる危険あり】私は表示を一つずつ読み取った。自然に土砂が流れ込んだだけではない。水路の上を覆っていた古い木蓋が落ち、その上に土砂と葦の根が絡みついている。しかも、完全に詰まっているわけではなく、内部に空洞が残っている。表面だけを掘れば、空洞へ土が崩れ込み、上の地盤まで巻き込む可能性があった。「どうだった、湊君」田中さんに問われ、私は立ち上がった。「古い木蓋が落ちています。長さは五メートル近く。鉄の帯で補強されていますが、木が腐って重みに耐えられなくなったようです。その上に泥と根が積もって、水路を塞いでいます」「五メートル……」佐藤さんが閉塞箇所を見渡した。地表からは、ただ葦の生えた土の帯にしか見えない。その下に、そんな長さの構造物が埋まっているとは誰も思わなかったのだろう。吉田さんが鍬の柄を握り直す。「端から掘ればいいのか?」「まだです。中に空洞があります。上から崩すと、立っている場所ごと落ちるかもしれません」その言葉に、吉田さんは一歩退いた。先ほどまで彼がいた場所へ小石を落とすと、鈍い音のあと、かすかに空洞へ響く音が返ってきた。村人たちの間に緊張が走る。私は水路脇を歩き、閉塞箇所の両端を探った。上流側では泥の下から鉄帯の端が見つかった。下流側は葦の根が密集し、水路の縁まで食い込んでいる。さらに右岸の斜面には、細い溝のような窪みが続いていた。「田中さん、この溝に見覚えはありますか?」「いや。昔から雨水が削った跡だと思っていた」私は窪みの底を掘り、石組みを露出させた。拳ほどの平たい石が、一定の間隔で並んでいる。鑑定を使う。【旧水路・排泥用側溝】

【接続先:七番杭下流】

【状態:入口埋没】

【通水可能幅:約二十七センチ】「迂回路があります」「本当か?」田中さんたちが集まってくる。「水路を丸ごと迂回させるほど大きくはありません。ただ、上流の水を少しずつ逃がし、水位を下げるには使えます。先にこの側溝を開ければ、閉塞部にかかる圧力を減らせます」佐藤さんが溝の先を目で追った。「じゃあ、まずこっちを掘るのか」「はい。ただし、出口が七番杭の先で塞がっていないか確認してからです。入口だけ開けて、行き止まりだったら水が地面の下へ回ります」私たちは七番杭の下流へ移動した。乾いた水路の右壁をたどると、苔に覆われた石の継ぎ目が一か所だけ不自然に広い。吉田さんが小刀で苔をはがすと、奥に暗い穴が現れた。長い枝を差し込む。途中で二度引っかかったが、やがて枝先が湿った泥を伴って戻ってきた。完全な閉塞ではない。「出口は生きています。ただ、ここも泥を除く必要があります」私は板に簡単な断面図を描いた。最初に封鎖壁の調整板を元の位置まで下げ、上流から入る水を減らす。次に排泥用側溝の出口から泥をかき出し、入口側へ向けて通りを確保する。水位が下がったのを確認してから、閉塞部の下流端を掘り、崩れた木蓋を一本ずつ切り離す。「上から一気に掘らないんだな」田中さんが図を指でなぞる。「下流側から空洞を確認しながら進みます。木蓋を全部抜く前に、仮の支えも入れます。水路の縁が崩れれば、直す範囲がもっと広がりますから」「必要な物は?」佐藤さんがすぐに聞いた。「長い縄、鋸、杭、厚い板。それと土嚢です。側溝を開けたあと、水が予想より多ければ、途中で止められるようにします」吉田さんは板の数字を見ながら口を開いた。「人手は何人いる?」「掘る人が四人、土を運ぶ人が三人。封鎖壁に二人、見張りが一人です。全員が一度に閉塞部へ近づかないようにします」私が答えると、三人は互いに顔を見合わせた。誰かが私の判断を疑って黙り込んだのではない。必要な人数と道具を頭の中で割り振っている顔だった。田中さんが最初にうなずく。「縄と鋸は俺が集める。厚板は納屋を探せばあるはずだ」「土嚢は若い連中に作らせるよ」佐藤さんが続き、吉田さんは七番杭の下流を指した。「俺は出口側をもう少し掘っておく。ただし、今日は入口には触らない。それでいいな?」「お願いします。穴の周りにひびが出たら、すぐにやめてください」返事をした吉田さんは、先ほどまでより慎重な足取りで下流へ向かった。水路の向こうには、ひび割れた畑が広がっていた。風が吹くたびに乾いた土が薄く舞う。それでも、今日ここへ集まった村人たちは、誰一人として先に帰ろうとはしなかった。測量棒を持つ者、縄を取りに走る者、土嚢に使える袋を数える者。それぞれが自分にできる作業を探して動いている。私はもう一度、閉塞箇所へ目を向けた。原因は分かった。けれど、分かったことと直せることは同じではない。腐った木蓋の下には空洞があり、その手前には水が溜まっている。順番を一つ間違えれば、水路だけでなく作業する人まで危険にさらす。私は板に最後の数字を書き込み、測量棒を地面へ突き立てた。「今日は水を増やしません。封鎖壁を一段戻し、側溝の出口だけを整えます。明日の朝、水位が下がったのを確認してから、入口を開けます」田中さんが封鎖壁の方角を見た。「急がなくていいのか?」「急ぐために、順番を守るんです」しばらくの沈黙のあと、田中さんは力強くうなずいた。夕方までに、排泥用側溝の出口と作業範囲へ目印の杭を打ち終えた。閉塞部の上には縄を張り、誰も不用意に踏み込まないようにした。封鎖壁の調整板を元へ戻すと、六番杭の水位は少しずつ下がり始める。水面に刻まれた目盛りを見ながら、私は息を吐いた。明日、この水を脇へ逃がす。そこで初めて、七番杭の下に埋もれた木蓋へ手をかけられる。そのとき、閉塞部の奥から、ごとり、と低い音が響いた。村人たちが一斉に振り返る。張った縄の内側で、泥の表面に細い亀裂が走っていた。

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