◆美味しいよ!美味しいよ!美味しいよ!◆ ドキドキさんのステキなお料理 第四万四千四百四十九巻
おはよう! こんにちは! こんばんは!
さ~~~て今日もドキドキさんが毎日食べても飽きない美味しいレシピを教えちゃうよ!
え? この本は児童書の「リンゴおばさんのステキなおやつシリーズ 第三巻 ~アップルパイのつくりかた~」だろって? お前誰だって? いや、うん、たしかにそうなんだけどちょっとスペースお借りしました~~! ドキドキさんですヨロシク!
それでね! 今日はね! ハンバーグのレシピを教えます! え? ひき肉こねて調味料とつなぎを混ぜて焼くだけだろって? 甘いな~! リンゴおばさんのアップルパイくらい甘い! 料理ってもっと奥が深いものだから!
じゃあまずは道具の説明から……え? 道具がない? じゃあ貸してあげるね! ドキドキさんが君のところに届けるよ!
無料だよ! 無料だよ! お金いらないよ! タダだよ!
■■■■■■■■■■■まで電話してね! お父さんとお母さんには内緒だよ!
さあ、まずは君が用意できる限り一番おっきいお肉を持ってきて!
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「よっと」
俺は目の前の女に蹴りを叩き込む。女が握っていた包丁は地に落ちた。すぐにそれを拾って、敵を無力化する。起き上がろうとする女の顎に更に拳を叩き込んで脳振盪を起こさせて気絶させた。
「おい、三島、大丈夫か?」
「うん」
「しかしなんだったんだこいつら」
三島は無事のようだ。良かった。せっかくの愛しの愛しの愛しの三島とのデートの日──三島には「強引に私についてきてるだけだよね」と言われてしまったが──に、変な女たちが絡んでくるとは。
「うーん、お化けや幽霊さんは憑いていないけど」
三島は慌てず騒がず、いつも通りいかにも“霊感少女“らしい発言をする。
「つまり素で包丁を持って初対面の男女を襲ったと……逆に怖えよ」
やべえやつだ。しかも、既に道路に倒れ込んでいるのは一人や二人じゃない。合計十名の女が包丁を持って俺たちに襲いかかってきたのだ。
「けど、この子たちまだ子供だよね。どうしたんだろう」
そう。転がっているのは女子小学生。眼鏡をかけていて、地味な見た目の女の子。
それが、妙に虚ろな目をして、包丁を構えて俺たちを襲ってきた。そして他に、もう一つ。
「なんだろうこの本……」
横から見ると、児童書のようだ。パンパンと手で塵をたたき落とすと、三島はいきなり最後のほうのページを開く。
「なんかあった?」
「ううん。でもこの本、皆読んでるから手がかりになるよね」
「うわ、本当だ。みんな持ってる」
地面に落ちた小学生たちの鞄から、たしかにリンゴおばさんとやらのシリーズ本がはみ出している。
「まあいいや……調べるのは警察の仕事だろ」
「そうだね。通報しないとね」
「う……」
三島が鞄からスマートフォンを取り出そうとしたときに、女子の一人が呻いた。念のため三島を後ろに下がらせる。
「ハン…………バー……………グ………………」
一言。それだけ呟いて、また気絶した。
「ハンバーグ……?」
なんでいきなりそんな単語が? 俺たちは二人して、首を傾げるのだった。




