ついてくる
部活の練習で、すっかり帰るのが遅くなってしまった。辺りはもう暗い。
(県大会まであと少し……)
地区大会でいつも敗退していた我が弱小テニス部が、努力の末にようやく勝ち取った県大会の出場権。部員全員の練習に熱が入り、ついついこうやって遅くまで部活に耽ることもしばしばだ。
(とはいえさすがに今日は遅すぎたな……お母さんに怒られる)
いつも立ち寄るコンビニも無視して、自然と足早になる。
チッ
そんな音がした。最初は別に気にしなかった。
チッ チッ
けれど、そんな舌打ちのような音が連続で聞こえてくるとさすがに気になって、音がする右の方を見た。
チッ
男がいた。パーカーのフードをかぶっていて、顔は見えない。イヤホンらしきコードが服の中に続いている。まるで私に合わせているかのように、ぴったりと私の横につけていた。
(何コイツ、変態?)
気味が悪くなって、スピードを落とす。すると男も私に合わせて遅くなる。走れば、向こうも走りはしないもののやたらと速く歩いて、私の横に張り付いたままだ。
(……マジでヤバい奴かも!)
弱小とはいえテニス部で鍛えている足に簡単についてこれる不審者。恐怖すら覚える。
チッ
また、舌打ちをしている。
遅くしても速くしてもついてくる。私は必死になって大通りまで駆け抜けて、コンビニへと入店した。
「あ、あの! すみません! 変な男が!」
「え? え? どこに?」
「どこって──」
私の隣には誰もいない。コンビニの入り口にもいない。念のためコンビニの店員さんにお願いして店内と店外をぐるっと一周したが、不審者は見当たらなかった。
あの舌打ちの音も、聞こえない。
(なんだったのアレ)
コンビニ袋を片手に、変な疲労感を抱えながら帰路につく。家まではあと少し。リビングの大きな窓に、大きな人影が映ってる。
(え……?)
今日からお父さんは出張で、今家にいるのは小柄なお母さんだけのはずだ。なのに、あの人影は大きすぎる。
(まさかさっきの不審者!?)
もし事前に自宅を調査されていて、私がコンビニに駆け込んだから予定を変更して家に侵入したとしたら──そう考えると、いてもたってもいられなくなり、テニスラケットを握って血相を変えて家に入った。
「お母さん!!!」
「え?」
リビングにいたのは、いつも通りのお母さん。「どうしたのよラケットなんか持って」と見た目も声の調子も朝のまま。窓際にいたのは──
「お父さん、出張じゃ……」
「ああ、それがな、出張先の機械が急に壊れて仕事にならないからって出張は中止になった」
「あ、そう……なんだ……」
父母に変な目で見られてしまったが、こころは安堵の気持ちでいっぱいだ。変な男につきまとわれたから敏感になっているんだろう。私は制服から着替えるために、自分の部屋のドアを開ける。
チッ
中から、そんな舌打ちのような音が聞こえてきた。




