到着直後の展開
「ここか......」
小谷から馬を走らせること一時間少々。秀介は少数の側近たちとともに軍勢に先んじて、目的の村に到着した。征伐隊が到着するのは数日後の予定である。
浅井長政がこの村に到着したこと自体、領主を除けば内密にしているくらいだ。もちろん、理由はある。
「満腹、この村の領主に物の怪の目撃者を連れてくるよう伝えてくれ。まずは実情を知りたい」
「畏まりました!」
満腹は元気良く秀介の腕から飛び降り、領主の屋敷へと走っていく。
「......親子の縁を切ったと言いつつ、仕事中は前とあまり変わってませんね。先輩と満腹君」
彼が見えなくなるのを確認し、小声で秀介に声をかける三郎。皮肉ではなく、疑問として聞いている。
「彼が将来浅井の為になることは自明。本人にやる気があるのに、必要以上は冷たくしないだけだ」
秀介、顔を三郎に向けずに答える。その顔は、村全体を見渡していた。
「それより、黒木。現代人のお前は、物の怪についてどう考える?」
「そ、そうですねえ。実際に被害が出ていることを考えると、物の怪に扮した盗賊か何かではないかと」
「俺は、織田の刺客だと考えている。浅井の民が被害に遭って得をするのは彼らだからな」
「成川先輩が、そんな卑怯な真似をするでしょうか?」
「さあ。戦国大名として覚悟を決めれば有り得るけどな」
結論を出すには情報量が足りていないこともあり推論会はあまり有益に機能していない。
「......良い村だな。作物も良く育っているし、民は従順に仕事をしている。物の怪の再襲撃を恐れている様子はなさそうだな」
そう、村のそのままの様子を自分の目で確かめておくためだ。見れば、秀介たちには目もくれず黙々と農作業をしている男たちがいる。
「先輩。わざわざ軍を派遣する必要はなかったのでは?」
「うーん......」
三郎のもっともらしい疑問に、秀介は言葉を濁らせる。
「長政様、満腹殿が戻ってまいりましたぞ」
とそこに、高虎が報告にやってくる。強制的に秀介と三郎の会話は中断。
「そうか、高虎。で、なんと?」
「それが......」
「?」
いつになく口ごもる高虎に、秀介は首をかしげながら続きを待つ。と、そこに。
「父上ー! 助けて下さーい!!!」
「! 満腹!? 物の怪に襲われたか!!?」
聞こえるのは満腹の悲鳴。秀介はすぐさま槍を構え、その声のほうに向く。
しかし。
「坊や、私の子にならなーい? できれば娘のお婿さんになってくれればいいんだけどー? その子供も浅井の殿様の下にした働きで派遣して、村と小谷の繋がりができて良い事だらけよ!!!」
満腹に後ろから襲い掛かっているのは、質素な格好をした三十代の女性だった。妙に彼を気に入ったらしく、婿入り後の野心的な計画まで話している。
「......我が見込んだ甲斐あって、あいつは人気だな」
「そうですね。でも、いいのです? そのままあの女性の好きにさせて?」
「仕事中だからな。とりあえず、やめさせるか。けどなあ......」
「どうされました? 急に静かにされて?」
「......仕方ない。殺すか」
そう言って、秀介は馬から下りた。そのまま槍を持った腕を高く上げる。
「満腹、伏せろー!!!」
そして勢い良く槍投げ! 槍は満腹を後ろから抱きしめようとする女性の元へと向かい......
その横をすり抜けた。
「ち、父上?」
「先輩?」
「な、長政様。一体何をされたのですか?」
唖然とする一同を代表し、高虎が直球の質問をする。
「出て来い! 隠れている事は分かっているのだ、物の怪に扮した悪党どもめ!!!」
「......」
秀介の叫びに応じ、刃物を持った男が数名領主の館から出てくる。
危機を察し、すばやく女性から離れて秀介の元に戻る満腹。
沈黙は、開戦の合図となった。
秀介の行動については次回説明いたします。分かり難いのは承知ですが、分かりやすいのもつまらないので情報量は少なめです。
里見レイ




