撤収
ふう、やっと執筆ペースが戻ってきました。
「こ、殺した? 俺が、娘を? 発を? 守りたかった家族を?」
秀介の顔から血の気がみるみる失せていく。
「か、叶? 君は何をしたんだい?」
「え、えっと。だからお兄ちゃんを助けたくて無我夢中に叫んだらなぜか知らずに......」
「は、発。ああああああああああああ......」
成川兄妹が状況を把握できない中、秀介は壊れた機械のように口から意味の分からぬ文字を発する。
「うわあーーーーーー!!!」
そして、膝から崩れ落ちた。しかし、右手に槍はしっかりとある。
「い、井田! しっかり! 落ち着いて! 今は兵をまとめて撤退するのが得策で......」
「じ、自害するぞ。こんなこと、許されるものか。もう嫌だ。俺は、俺は......」
「ま、まずい! 井田を止めなければ!!!」
秀介の精神が崩壊し、最悪の事態に発展しようとしていることを察したリョウ。急いで止めに入る。
「井田、死んでしまった人が元に戻らないことは君が一番よく知っている知っているはずだ! 生きている人は生き続けるしかないんだよ! 負けてもいないのに自殺だなんて、戦国からしても愚かな行為だ! 大名としての務めを果たせ、浅井長政!!!」
自分の胸を槍で貫こうとする秀介を後ろから抑え込み、必死に説得するリョウ。
「な、成川。今なら俺を殺せたのではないのか? 妹の補助を完全にものにして、お前の手で天下を収められるはずなのに、なぜそう、しない......?」
「発狂しても、君は冷静なんだね。いや、冷酷というべきかもしれない。理由を言おう。僕はね、どうしても君を殺すことはできないんだよ。君だけでなく、友のことは誰も殺せない。戦国に向かない織田信長とは笑止なことだけど、根を変えることはできなかった。だから、君には死より残酷な道を進んでもらう。どんなに不利でも死ぬことのできない、魔王との戦いをね」
落ち着きを出して秀介を説得するリョウ。
彼は、現代の典型的な思想を持ちつつ超越した力を持っている。それは、戦国において敵勢力を最も精神的に苦しめる相手となったのだ。
「......城に帰る。発は織田信長に殺されたと情報を流して織田への敵対心を民に増大させる。とにかく、いち早く兵をまとめなければな。いくぞ、市」
「しゅ、秀介様!? お、お待ちを!!」
発を優しく抱え暗い足取りでようやく自陣営に戻る秀介とそれを追う叶。
「......僕は、最悪の友達だったかもね。すまない、井田」
二人の様子を見届けるリョウの心境は、悲しみで満ちていることは現代人ならわかりえることだろう。
これにて、坂本編は終了です。次は「転戦」という名で書いていこうと思います。
里見レイ




