再出陣 優姫・三郎サイド
「浅井がついに動き出した。どうやら、浅井長政も遠藤直経もお市の方も今回の軍には出陣しているらしい」
歩の報告に、優姫は驚きを隠せなかった。三人が全員生きていたとは考えていなかったからだ。
「じゃあ、もうしばらく考えさせてください。織田と浅井、どちらに仕えるべきなのか私にはわからなくて」
今までの優姫なら、意地で岐阜を抜け出して、秀介達のもとに帰っただろう。しかし、それが出来なかった。
目の前にいる歩、そして織田家の人々の厚意を裏切ってまで浅井に戻ることができないでいる。それに......
「私が浅井に戻りたいって言ったら、あなたともう会えなくなります。あれだけ優しくしてくれたあなたとの思い出を、踏みにじってしまうんです。そんなこと、私はしたくありません......」
「俺が、それを気にしないって言ったら、君は躊躇なく浅井に戻るかい?」
笑顔を絶やさずに応答する歩。彼の内面の感情は、彼しか知らない。
「......」
優姫は答えることができない。
「......まだ答えなくていいよ。この戦が終わったらでいいからさ。俺のことより君自身のことを考えてほしい。俺は、どんな結末でも憎まないからさ」
そう言って、しっかりとした足取りで出発する歩。
優姫はまだ、浅井と歩のどちらを選ぶか決められない。
「織田とまた戦うことになった。これから出陣だよ」
事実のみを淡々と告げる三郎。じっと、牢屋の中を見つめている。
「そうか、気をつけてな。優姫は昔からお前のことを心配してたからな......」
同じく淡々と聞いた話をする華香。ただ下を向いている。
「この戦が終わっても、君が浅井に仕えないというのなら、おそらく君は家老の方々の意見により処刑される。その前に、脱出するなり出仕申込書を書くなりするんだよ」
それだけ伝えると、三郎はさっさと外に向かう。
「おい、待て!」
ここにきて華香、大声を出して三郎を呼び止める。
「お前は、どうして欲しいんだよ? あたしに、残って欲しいか?」
華香のその質問は、容赦なく三郎の心をえぐることになるのを、彼女は知らない。
「私情は挟まないよ。優姫も死んだって、織田の方から情報があったし。君が優姫の弔いのために生きるのなら構わないし、後を追う君を止めることはできないからね」
その答えは、三郎の本来の目的である。幼馴染の優姫のために華香を助けたのだ。自分にどうこう言う権利はない。
「そうか、じゃ、勝手にさせてもらう! はっきりしない奴は嫌いだ!!」
そんな三郎の本音を知らず、質問に答えてくれなかったことに怒りを表す華香。
それを無視してさっさと立ち去る三郎。
二人の間は、埋まらない。




