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使命の槍と宿命の刀  作者: 里見レイ
心理
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逆襲の嵐が吹く前に 前編

まだまだ続きます。

・前回までのあらすじ

姉川の戦いにて、秀介は速水陸に致命傷を負わされて意識を失い、優姫と三郎も爆風の中に飲まれた。浅井軍は敗北した。

 京都、烏丸中御門第。後の名を旧二条城。ここでは室町幕府第十五代将軍足利義昭、本名、四谷雪が日々枕を抱え込んでうずくまりながら過ごしていた。


「ああ、もうダメ。私は何もできはしないわ......」


 ことの発端は約一か月前、姉川での戦いで味方の浅井・朝倉連合軍が大敗したことによる。

 兵力はこちら側が有利だった、味方の武田とも同時出兵し、向こうに余裕を与えなかった。浅井長政役のクラスメイト、井田秀介が怒鳴ってまで綿密に練った策である、抜かりはないはずだった。

 

 しかし、これである。風のうわさによれば秀介は超能力者に殺されたらしいし、浅井軍にも死者、行方不明者が多数出ている。

 要するに、未知なる力が働いたのだ。雪はその力に大いに心を切り刻まれ、兵一人、使用人一人にも指示を出せず、引きこもり同然の生活を送っている。


 こんなことなら、怒ってでも真剣に戦略を考えていた秀介に逆ギレして戦線離脱せず、真剣に話に加わるべきだった。

 戦国の知識が全くなくても、ちゃんと軍をまとめて戦いに参加するべきだった。

 仮にも信長包囲網のリーダーだったのだ。秀介を見殺しにしたも同然である。


 ただでさえ戦わなければいけないという恐怖に耐え、いつも通りのお転婆を振舞っていたのだ。もう、精神的に限界である。泣く以外に何もできなくなっていたのだ。


「井田、ごめんね。優姫ちゃん、三郎君、本当にごめんね......」


 秀介とは高校三年間のクラスメイト、優姫と三郎は中学時代からの仲の良い後輩だった。彼らを見捨て、自分だけ布団に潜り込んでいる自分が恨めしい。


「義昭様」


 ふと、使用人がやってくる。次はどんな悲報を伝えに来たのか怯える雪。しかし、予想は幸運にも外れた。


「朝倉様がいらしています」


「伊と、じゃなかった。義景殿が?」


 無論、会う予定などしていない。最低限の身なりを整え、突然の訪問者を迎える雪。


「やあ、四谷さん......」


 フラフラになりながら部屋に入ってくる一年の時のクラスメイト、伊藤誠二。朝倉義景役である。


「あ、あんたっどうしたの!? 傷だらけじゃん!」


 あまりにもボロボロな姿だったので、思わず立ち上がってしまう雪。


「はは、最近ずっと織田と小競り合い続けてて、その度にぼろ負けしててさ。今日なんて味方の足軽が金で裏切ってきてさ。死ぬとこだったよ......」


 彼のその苦笑いから、状況がどんなに悲惨だったかを物語っている。


「死ぬとこだったって、何でまだ戦ってんのよ!?」


 彼とは、接点がほとんどなかったが、誠二が好戦的ではないことは知っている。故に、彼の行動に違和を感じるのだ。


「......井田が死んだから、僕が倒さないといけないんだ」


 膝に手を乗せ、前かがみになりながら答える誠二。


「僕は姉川で取り返しのつかない失敗をした。君が恐れていた恐怖をこの目で見たよ。けど、だからって僕の行動が許されるわけではない。それを償うには織田を倒すしかない。いまだに浅井の後継ぎが決まってないみたいだし、動けるのが僕なら動くしかないんだ」


 肩に息をしながらも、一言一言はっきりと述べる誠二。その目は本気だ。


「でも、僕だけじゃ、勝てない。四谷さん、力を、貸し、て......」


 崩れ落ちる誠二。慌てて彼を支える雪。救援要請をするために、わざわざやってきたのだ。


(こいつも持ってるんだ。私と同じ罪悪感を......)


 姉川で、誠二が十分の一以下の軍に完敗したことは雪も知っている。ただ、それでここまで無茶をするとは思ってもみなかった。


(全く、世話が焼けるんだから......)


 つい頬が緩む雪。すぐに使用人を呼び、誠二に手当をさせ泊まる部屋を用意させる。


(私、久しぶりに笑ったな)


 そう思って、硯を擦り始める雪。たとえ戦国をよく知らなくても、今できることをやると心に決めたのだった。

お久しぶりの四谷雪です。次は武田を書きます。人多いので頑張ります。それでは。

お手数でなければ、ブックマークと評価の程宜しくお願します。

里見レイ

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