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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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08話 二人の探索

 洞窟探索に新たな仲間に加わってから四ヵ月が経過し、やがて年が明けた。
 その間に次郎はレベル二一、美也はレベル一二まで上がっている。

 堂下次郎 レベル二一 BP〇
 体力四 魔力四 攻撃四 防御四 敏捷四
 火一 風〇 水一 土三 光一 闇〇

 地家美也 レベル一二 BP〇
 体力三 魔力四 攻撃一 防御一 敏捷一
 火二 風一 水一 土一 光二 闇〇

 骨髄移植前に体力の向上や回復可能な光魔法の習得が適っている。
 それらの力を習得した事との因果関係は不明だが、幸いにも美也には移植の後遺症が現われなかった。
 身体に違和感がある度に回復魔法を使ったものの、使わなかった場合と比較出来ないため差異は不明だ。
 しかし結果こそが全てであり、美也に問題なかった以上は成功したと言える。

 もっとも万事がつつがなく済んだわけでは無かった。
 入院中、美也の親子関係は完全に破綻した。
 破綻の引き金は、母親が引いた。兄の移植が無事に済んだ事を引き合いに出しながら、良かったという肯定の言葉を美也から何度もしつこく引き出そうとしたのだ。
 白血病となった兄の恭也は、副作用を抑える薬を使いながら、入院を続ける事になる。そして退院後も、清潔な環境下での療養生活を余儀なくされるため、美也は様々な負担を強いられる。
 そのように今後も多大な負担を強いる美也に対し、現状に対する肯定的な言葉を敢えて言わせる事で、母親は自らの承認欲求を満たそうとした。
 そんな母親の要求に対して、美也は真っ向から反論した。
 曰く、進学で脅しながら嫌がる骨髄提供を強制し、兄の病気を人質に肯定を強要するのは止めたらどうかと。
 いきなり娘に自分を全面否定された母親は簡単に逆上し、兄の治療が上手く行って良かったと思えないのかと憤った。これまでの人生においても母親は、美也を叱る事で意見を封殺してきており、その時もそれが通じると考えた。
 そんな母親に対して美也は、兄の治療成功で論点のすり替えをしても、脅迫は脅迫でしょうと指摘した。

 普段の美也では有り得ない反発に母親は簡単に沸騰し、怒りに任せて入院中の美也を病室で何度も引っぱたいた。
 そして美也も、叩かれる度に母親を睨み付けるなど、行為がエスカレートするように敢えて誘導したらしい。
 叫び声と暴行する音が響き渡った病棟では大変な騒ぎとなり、看護師たちが母親を強引に引き離した。

 だがそれは美也にとって、事前に想定していた事態だった。
 暴行された美也は、『無理矢理に骨髄提供をさせられた病院』での治療を拒否してすぐさま祖母に連絡を取り、他院を受診して病院で殴られた頭部の打撲についての診断書を求めた。
 その後、美也は祖母と共に脅迫と傷害で警察に被害届を出し、児童相談所に経済的虐待で通報を行い、民事でも親権喪失の申し立てを行うに至った。
 どうも美也と祖母は、最初から両親と縁を切る目的で証拠集めをしていたらしい。
 弁護士のアドバイスの元、隠しカメラで母親が同意書にサインするように強要した場面を撮影し、祖母が金銭面で支援していた帳簿を用意し、入院していた病院へのカルテ開示請求を行い、新たに受診した病院の診断書も確保して訴訟を起こしたのだ。

 結果は、美也の勝利だった。
 元々経済的に困窮しており、中学生にも拘らず両親と別居していた事も相俟って、両親は親権者としての能力に疑義が生じる状況だった。
 加えて入院中の子供を病室で殴った事や、その原因が嫌がる骨髄提供の強要だった事が決定打となり、公的にも親子関係の破綻が認められるに至った。
 日本の裁判は時間が掛かる事で有名だが、子供への虐待に関する手続きは直ぐに進められるそうで、来月には両親が親権を喪失し、正式に祖母へ引き取られる事になるそうだ。

(普段大人しい子ほど、キレると恐い?)

 行動の引き金に心当たりが無くも無い次郎だったが、美也の場合は十年近く我慢を強いられて鬱憤を溜め込んでいた。
 火山が大噴火を起こしたのだとしても、その原因が両親にある点は疑いない。
 その両親とは縁が切れるが、それは負担ばかり掛けられていた美也にとってプラスになる。
 であれば反省も後悔も不要だ。

「これで束縛される事は無いから、自由に探索出来るね」

 その言葉を聞いた次郎は戦慄した。
 まさか特別枠の大きな借りとやらを、次郎のダンジョン探索活動に徹底して協力する事で返すために、自由を得る決断に至ったのでは無かろうか。
 その様に精神が振り切れた想像して、恐ろしさを感じたのだ。
 だが答えがいずれであろうとも、確定した事象を振り返っても仕方がない。

「…………うい」

 次郎は洞窟探索に邁進する事で、それらを記憶の底へと追いやる事にした。
 美也に先行し、通路から奥の部屋へと歩み出す。
 すると視界を埋めるバッタの群れが視界に飛び込んでくる。
 外見だけは、トノサマバッタそのものだ。次郎たちの山中県でもそこら中に飛び回っており、次郎も小学生の時には良く捕まえたものである。
 そんなバッタが小型犬くらいのサイズまで巨大化し、洞窟内を群れて飛び回っていた。
 戦闘力はかつての比では無く、不用意に近付くと蹴り飛ばし、噛み付いて皮膚を裂こうとしてくる。

「沢山いるね」

 後ろから覗き込んだ美也も、視界を埋めるバッタに半ば呆れ、半ば感心した。

「そうだな。この洞窟の連中は、減らしてもすぐ増えるからなあ」

 次郎達の想像では、大量に沸いている魔物たちの餌は、空間に満ちている魔法に用いる元素のようなものと、壁や床などから湧き出してくるスライムたちだ。
 そのため魔物たちは、空間に存在する魔法の素とスライムがある限り増え続ける。
 魔法の素もスライムもほぼ無限であり、加えて魔物たちの増加速度も速すぎるため、次郎達が二人掛かりで減らしてもすぐに元通りになってしまう。

 巨大バッタは、体育館程の空間に十数匹、グラウンド程の空間には常に百匹単位で居る。
 スライム以外の食糧を消費しない点では、光合成する植物くらい地球に優しい魔物たちだが、彼らの生息域に踏み入る人間に対しては、その強靱な脚で容赦なく蹴り飛ばしてくる。
 ボーナスポイントを身体能力に殆ど振っていない美也では、巨大バッタから受けるダメージが侮れないため、二人はパーティとしての敵の倒し方を試行錯誤してきた。
 試したのは、次郎が数匹を釣って叩き、美也が魔法でトドメを刺す方法。あるいは次郎が土魔法で壁を形成し、隔離された安全地帯から美也が魔法を放つ方法。
 そして最終的に行き着いた先が、今の方法だ。

「どりゃあああっ!」

 次郎は雄叫びを上げ、巨大バッタの群れに突撃を敢行した。
 右手に持つのは、土三で生み出した二メートルほどの鋭い石槍だ。それを軽々と振り回し、攻撃範囲に入ったバッタを先制攻撃で次々と薙ぎ払う。

「ジジジジジッ……ジジジジジジッ……」

 近くに居たバッタが脚を擦り合わせ、警告音を発し始めた。
 すると仲間の音に反応した数十匹のバッタが一斉に次郎達へ向き直り、飛び跳ねながら襲い掛かってくる。
 そこへ石槍が轟音を鳴らしながら振り回され、その矛先や石突きを受けたバッタたちが、向かう先から次々と叩き落とされる。どの方角から襲ってくるバッタも、払い落とされる先は通路から向かって右端の一角だ。
 転がされたバッタが徐々に積み上がってきたところで、待ち構えていた美也が魔法を放った。
 火二の力で発現した魔法の炎は、同じく風二の力で生み出された暴風に乗せられ、あたかも火炎放射器で生み出したかのような烈火の吐息を浴びせ掛ける。
 生きたまま火葬されるバッタたちは当然藻掻く。
 しかし殴られた部位が大きく欠損しており、大半は逃げられないまま炎に飲まれて焼かれていった。

「こんなに燃えているのに、酸欠にならないのが謎だ」
「発火自体は魔法の素みたいなものを使って起っているから、酸素は減らないみたい。だから正確には燃焼じゃ無いかも」
「すると電子レンジで分子をぶつけるみたいな感じか?」
「着火後は魔法の素と酸素を両方使うから、魔法学の新定義が必要かも」
「……よく分からんから、各種学会への発表は任せる」

 難解さに理解を放棄した次郎の石槍は、主の頭に変わって回転を再開した。
 次郎と同じく思考を放棄している後続のバッタたちは、次々と襲い掛かっては焚き火の中へ叩き落とされていく。
 一般人が瞬きをする間に一閃。
 目にも止まらぬ速さで繰り出される石槍は、バッタの進撃を塞ぐ絶対的な防壁となっり美也が控える後方には一匹たりとも踏み入らせない。
 次郎のレベルは、バッタで太刀打ちできる次元を大きく越えている。
 洞窟に潜る二人が選んだレベルアップの方法は、このように高レベルになって低レベルの魔物を安全かつ大量に倒す事だった。
 もっと奥の魔物でも戦いに不安は無いか、深入りが過ぎると往復だけで時間が過ぎてしまうため、このように低階層での乱獲を選択した次第である。

「今の次郎くんなら、紗江さんにも勝てるかな?」
「……いや。うちのお袋は、第六感とか第七感とか、普通に使ってくるぞ」

 僅かな躊躇いは、家族の会話をして良いものかと悩んでの事だ。
 しかし美也から振ってきたのだと思い直し、避ける方が不自然だと考えて答えた。
 今の次郎は、剣道三段の父には余裕で勝てるという確信がある。空手で全国レベルの兄と素手で戦っても、やはり身体能力の差で上回れると考えている。
 しかし空手でメダリストの母が相手では、まだ確実に勝てる気はしなかった。あるいは幼い事から植え付けられた意識が、そう思わせているのかもしれない。

「第六感って、直感よね。第七感は何?」
「戦っている相手の動きを、先読みするんだ。直感じゃ無くて、気の流れみたいなのが見えるとか言っていた」
「紗江さんって、銅メダリストだよね。相手の選手って、どうやって勝ったの?」
「…………さあ」

 結果が全ての世界で負けた以上、相手より弱かったと考えるしか無いだろう。

「よく分からないけど、お袋も未だ半分くらいは人間なんだと思う」
「対戦相手は洞窟でレベルを上げたのかな」

 紗江がオリンピックに出たのは、西日本大震災の発災前だ。日本全国で見つかり次第封鎖されている不自然な地割れも、その頃は影も形も無かった。
 次郎は焚き火から飛び出たバッタを叩きつつ、頭を振って否と答えた。

「相手は八割くらい人間を止めていたんじゃないか?」

 次郎は勝敗という事実から逆算し、適当に答えた。
 もっとも戦闘力が突出している母親だろうと、あるいは娘を虐待する母親だろうと、人の枠内に収まっている事に違いは無い。むしろ洞窟に篭もる二人こそ、力が知られれば疑惑の対象とされるだろう。
 美也は骨髄提供に際して、レベルが上がった状態で様々な検査を受けた。
 問診や血圧測定から始まり、採血や検尿などの検体検査、X線やCTなどの生体検査、感染症の有無やアレルギーに至るまで徹底的に調べられたが、そのいずれも異常値は検出されなかった。
 しかし入院を控えて敏感になっていた美也は、レベルが上がる度に自身の身体に何かが満ち、補われていった感覚があった。現代医療の検査項目には無い何かが、美也の身体のいくらかを、純然たる人間から逸脱させている可能性が脳裏を過ぎる。
 レベル〇だった五ヵ月前と、レベル一二の今とを比べれば、身体能力が劇的に変化しているのは紛れもない事実だ。
 美也にとっては、骨髄提供前に必要だから求めた力であり、両親と決別した今後は生きるために得たい力で取得に後悔は無い。だからこそ力を得た結果どのような事が起るのかについては、無関心では居られなかった。
 そんな思考の海に深く潜る間にも、石槍は回転を続け、焚き火も爛々と燃え続ける。

「あ、レベルが一三になったみたい」
「おお、コングラッチレーション?」
「うん、ありがとう」

 適当な英語に、先程よりずっと柔らかい微笑が溢れた。

 やがて火が燃え尽きると、焚き火の中に石槍が突き刺され、あるいは炎が流し込まれた。二つの魔法は死骸となったバッタたちの魔石に触れ、その内に秘めた力を魔力越しに術者達へと届けているのだ。
 次郎が石を一つ一つ拾っていた頃に比べると、美也が加入した後は様々な面で効率が上がっている。
 やがてバッタの群れが経験値に換え尽くされた頃、洞窟にようやく静けさが戻った。
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