挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第二巻 ダンジョン問題が日本を動かした

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

34/53

34話 国会

 二〇四五年七月一三日木曜日。
 通常国会の会期末を間近に控えたこの日の国会では、今最大の注目が向けられている政治家の広瀬議員が質問に立った。

 この日に先んじること二日前。
 日本共和党の東京本部で行われた緊急の記者会見が、集められたメディアを介して世界中に凄まじい衝撃を与えた。
 公表された全てが衝撃的であったが、その中でも重要だったのは次の六点だろう。

 一.日本政府は、五年以上前の二〇四〇年五月四日からダンジョンの存在を把握していた。
 二.現在の通称・巨大構造物は正式名称が『初級ダンジョン』で、五年前から出現していたのは前段階の『チュートリアルダンジョン』である。
 三.全都道府県で一~三ヵ所発見されていた約一〇〇ヵ所のチュートリアルダンジョンは、政府が「南海トラフを震源とする西日本大震災後に発生した地割れと地質の調査」と称して全て封鎖し、一部の自衛隊員や機動隊員に独自調査を行わせていた。
 四.『チュートリアルダンジョン』は地下一〇階までで、生息していた魔物は初級ダンジョンの魔物を弱体化した脆弱さで、レベルが非常に上げやすかった。
 五.ダンジョンを攻略すると『総合評価』に基づき『攻略特典』が得られる。内容は『能力加算』『転移能力』『収納能力』で、ボス攻略者各自がそれぞれ得られる。
 六.政府はダンジョンの情報を隠蔽しており、奥に潜った民間人を組織的に口封じすべく機関銃で銃撃していた。

 これらは、チュートリアルダンジョン内部の全魔物を撮影した映像、転移で東京・ロンドン間を往復しながら周囲の人々を映す映像、収納で大量の米俵や廃タイヤを自在に出し入れする映像、実際に未成年の子供たちを機動隊が撃ち殺そうとする映像などと共に、ネットを含めた国内外のあらゆる報道媒体へ一斉公開された。
 その記者会見以降、世界中は日本政府の人道や危機管理能力、転移や収納能力を問題視して大騒動となった。
 あまりに衝撃的な内容であるため、僅か二日で事態の収拾が付けられるはずも無く、これらの情報をメディアに発信した共和党の広瀬議員が行う国会質問を、全世界が固唾を呑んで見守っていた。

「広瀬、秀久君」

 議長から呼ばれた広瀬議員が一礼をして前に出ると、受信料を徴収するテレビの画面下に『共和党 無所属クラブ 広瀬秀久』という文字が表示された。

「日本共和党の広瀬秀久です。私は共和党、無所属クラブを代表して、大場総理に巨大構造物に纏わる事象について質問を致します」

 ここまでは概ね定型であり、どの議員も同じような流れで質問を始める。
 それと同時に国民への自己紹介を終えた広瀬議員は、事前通告した質問を始めた。

「二〇四〇年五月四日以降、政府は日本の僻地一〇〇ヵ所以上で続々と発見された地割れを、『南海トラフを震源とする西日本大震災後に発生した地割れ』と称し、出入り口を封鎖して警察官を配置した上で、機動隊を含む調査チームを送り込んで地質調査を行って参りました。内部は地下一〇階層であり、巨大構造物に出現している魔物を弱体化したような生物が住み着き、さぞや調査に苦労なさった事かと存じます。そして昨年の二〇四四年五月四日、巨大構造物の出現と同時に地割れが一斉に消滅し、政府は七月末に『大震災に伴う大規模な断層のズレによって生じた地割れだった』と結論付ける報告を出しました。まずはこの調査結果について、地割れ内部に数多生息していた魔物と断層のズレとの相関関係をご説明下さい」
「大場、内閣総理大臣」

 議長に呼ばれた総理が立ち、事前通告を受けて官僚が作成した原稿を読み上げる。

「あー、ええ、西日本大震災後に発生した国内の地割れは、断層のズレだとする調査結果が地質学を専門とする大学教授の調査チームによって出されており、地質学的に尤も妥当であろうと結論付けられております。内部に魔物が生息していたという話は、私は存じません」
「広瀬、秀久君」

 議長に呼ばれた広瀬議員が、再びマイクに向かった。

「政府が入り口に建物を建てて物理的に封鎖し、警察官を配置して侵入を拒み、四年間もの長きに渡って機動隊などを入れて調べていた地割れの内部は地下一〇階層あり、一階層ごとに巨大構造物に出てくる魔物を弱体化したかのような生物が生息していました。そして最奥には地下一〇階に生息するカマキリの巨大化した生物が存在し、それを倒すと『チュートリアルダンジョン、総合評価いくつ、攻略特典を選択して下さい』という表示が為され、三択の選択肢が出てきます」

 存じませんと返された広瀬議員は、自ら説明しながら質問へと繋ぐ。

「先般ダンジョン内部で機動隊員が民間人に向かい、『お前達、何処からダンジョンに入った!』と発言する映像が得られましたので、メディアに公開したところです。映像は二〇四四年八月一日に撮影された事が明らかになりました。これは初級ダンジョンが最初に攻略された二〇四四年八月二七日より以前の出来事です。ダンジョンという単語は、ダンジョンを攻略しなければ表示されず、しかも公称では巨大構造物とされています。調査隊がダンジョンと呼称していたのは何故でしょうか」
「大場、内閣総理大臣」

 仮に政府が全国の警察から組織的に報告を受けていないとすれば、政府が国家の統治能力を持たない事が露呈し、トカゲの尻尾切りでは済まなくなる。
 かといって知っていたとすれば、嘘の調査結果を公表していたと認める事になる。

「調査隊がダンジョンと呼称していたとの話ですが、政府は巨大構造物をダンジョンとは呼んでいません。その映像というものは拝見しておりませんが、個人が勝手に呼称しただけではありませんか」

 流石に官僚の答弁書通りと言うべきか、総理は追求をスルリと躱した。
 それに気を強くした労働党の議員席からも、言い掛かりをするなとヤジが飛び始める。
 だが知らぬ存ぜぬで押し通すには、広瀬議員はあまりに情報を知りすぎていた。

「総理が説明された『勝手に呼称した』のではない証拠は、映像に残されております。二〇四四年八月二七日、少年たちを追って初級ダンジョンの最奥に入った機動隊員は、後続に向かって『くそっ、ボス部屋だ!』と警告を発しました。彼らは巨大構造物が史上始めて攻略される以前に、どうしてダンジョンの最奥がボス部屋だと知っていたのでしょう。ボス部屋に入ると出入り口が消滅し、そこで始めてボスが現われ、入った者が死ぬかボスを倒して攻略するまで外に出られません。初級ダンジョンの初攻略以前にボスの出る事を知っていた事実こそが、政府が密かにチュートリアルダンジョンを攻略させていた証拠に他なりません」

 これは事前通告していた質問に対する総理の答弁に対して、広瀬が述べた補足説明でしかない。すなわち正規の質問ではないため、総理は答える必要が無い。
 だがその場で個人の呼称ではないことを証明して見せた広瀬議員に対し、先程まで飛んでいたヤジが萎んで消えていく。
 さらに広瀬は次の質問に入る前に、前振りを行った。

「さて、政府が五年以上前からダンジョンを把握していた事を今、国会の場で証明したわけですが、ここで重要なのは攻略時の『攻略特典』という文言です。すなわちダンジョンを出現させている側は、我々にダンジョンを攻略させようとしており、それを為せば特典を与えるという意思を示しているわけです。思い返せば初級ダンジョンでは魔物が外に飛び出して国民に犠牲を出していますが、攻略したダンジョンからは魔物が出なくなっております。これがどういう事か、お分かりになりますか」

 しんと静まり返ったのは、おそらく国会の中だけでは無かっただろう。
 国会中継を注視していた人も、偶々目にしただけの人も、そして世界中で中継を見ていた外国の政府やメディアも、今始めて明らかになったダンジョンを生み出した側の意志に絶句せざるを得なかった。

「総理、我々日本人は、チュートリアルダンジョンで四年間も対策を取る時間があったにも係わらず、あなたたち労働党が隠したが為に、何も知らないままに時間を浪費させました。そして今まさに、初級ダンジョンから溢れる魔物で日本は甚大な被害を受けています。これから九月に出るのは地下八階のオオサンショウウオ、一一月に出るのは地下九階のゲンジボタル、そこまでは従来通りの対応でも、同等の被害で凌げるかもしれません。しかし、来年一月に出る地下一〇階のカマキリは、一体どうするのです」

 広瀬議員はそこで一度言葉を切り、総理のみならず閣僚席、議員席を広く見渡してからあくまで冷静に語った。

「地下一〇階のカマキリは大型犬サイズで空を飛び、得物に襲い掛かって頭から喰らいます。地下一〇階は、レベル一〇相当の魔物だそうです。予想される数は、最低でも三万匹以上」

 ドーム状の巨大構造物からは、一ヵ所につき約一万匹ずつ魔物が現われている。
 すなわち三九都道府県の巨大構造物の各所からは、総計三九万匹の魔物が現われる。
 カマキリが出た時点で魔物が一〇種類ならば、そのうちカマキリは三万九千匹くらいで、後は他の魔物が約三五万匹現われると見積もられる。
 毎月一ヵ所の巨大構造物をドームから多階層円柱に変え続けたとしても、六ヵ月後の二〇四六年一月には、未だ三三ヵ所くらいの県がドームのままである。
 すなわちカマキリは、半年後にも出現予想数が三万匹を超えている。

「レベル一〇とは、様々な競技で世界選手権に出場できる身体能力者を、さらにボーナスポイント一〇回分で強化した強さです。我が国には、そんな力を持って、飛行する巨大カマキリを追い回せるような人間が、三万人以上もいるのですか」

 ボーナスポイントは、能力が倍加する凄まじい力だと知られている。
 レベル一〇で時速四〇kmの人間ならば、敏捷を二に上がると時速八〇km、敏捷三に上がれば時速一二〇kmを出せる力が身に付く。
 身体能力を重視してボーナスポイントを体力、攻撃、防御、速度に二つずつ割り振れば、たちまち人間がチーター並の戦士に生まれ変わる。さらに残ったポイントも使って、ようやく大型犬サイズのカマキリと互角に戦える戦士を生み出せる。
 はたして日本に、そんなチート戦士が三万人も居るだろうか。
 約一年前に次郎を追い回していた集団にも、それ程レベルの高い人間は殆ど居なかった。
 チュートリアル時代の四年間より魔物が強くて倒し難くなった今、僅か一年間で三万人の成人をレベル一〇まで上げるのは不可能だ。

 魔物は、レベルが一つ異なれば強さが一気に跳ね上がる。
 レベル三のバッタに武器を用いた数人掛かりで対処できたからといって、レベル一〇のカマキリにも同じやり方で勝てると思う国民は殆ど居ない。
 カマキリは日本中に生息しており、獰猛な肉食昆虫としても知られる。
 強烈な鎌状の前脚を用いて、〇.〇五秒という瞬きの四倍もの速度で得物を捕らえ、大型犬サイズならば三トンもの力で得物を押さえ付け、同サイズの多様な昆虫を補食できる大顎でバリバリと喰らってくる。
 大鎌に挟まれたとして、三トンの物体を持ち上げられるパワーで鎌をこじ開けられる人間が、この地球上に存在するだろうか。
 大顎は、元の昆虫サイズですら人間の皮膚を噛み切れる。元の全長八cmが、一五倍の一二〇cmくらいまで巨大化したとして、顎の力は一体如何ほどであろう。自分の皮膚なら耐えられると思う人間は、居るだろうか。
 そんな獰猛な巨大肉食昆虫が、空を飛んで襲ってくるのだ。
 普通のカマキリを単に大型化しただけであれば様々な問題が起こり得るはずだが、魔物はその問題をクリアできる能力やエネルギー、魔石などを身体に持っているらしく、実際に巨大構造物内に存在している。


 巨大構造物を物理的に塞げない事は、既に検証済みだ。
 そのため魔物を一匹も撃ち漏らさないためには、出現と同時に核兵器でも使うしか無い。
 だが残っているドーム状の巨大構造物は、北海道なら札幌駅前、愛知県なら名古屋駅前、京都府なら京都駅前、福岡県なら博多駅前に存在している。
 人命を最優先に考えて使用までの問題を全てクリアしたところで、そんな場所で核兵器を使うことなど出来ようはずがない。
 三三県に住む国民に、残る一四都道府県への集団疎開でも命令すべきだろうか。だが、そちらも現実的には実現不可能である。
 であれば、どうあってもカマキリ被害は避けがたい。
 広瀬はしっかりと正面を見据えながら、次第に語調を強めていった。

「カマキリを凌いだとして、地下一一階は同サイズのオニヤンマです。オニヤンマは、カマキリすらも補食する肉食の飛行生物です。地下一二階は、強靱な甲殻と顎を持つクロオオアリ。地下一三階は、カマキリやオニヤンマも襲うシオヤアブ。このままでは、来年は国民が日本中で魔物に喰われる地獄が到来します。ダンジョンを隠蔽し続けた結果として至ったこの事態に対し、政府と労働党は一体どのように対処するのか」

 予定外の補足説明を行った広瀬は、ここで一度言葉を切って、事前通告してあった通りの質問に戻る。

「そこで総理にお伺いします。ダンジョンから出現してくる魔物は、毎回強くなっております。この問題に対して政府は、どのような対策を採られるのですか」
「大場、内閣総理大臣」

 広瀬が事前通告していたのは、一つ目『単なる地割れだったと結論付けた調査結果と魔物の相関関係』、二つ目『調査隊がダンジョンと呼称していたのは何故か』、三つ目『ダンジョンから出現してくる魔物が毎回強くなっている事への政府の対策』である。
 それに対して答弁書を用意した官僚側は、一つ目『地割れは西日本大震災の影響と考えるのが地質学的に尤も妥当であろうと専門家が結論付けており、内部に魔物が生息している事は確認されていない』、二つ目『個人が勝手に呼称しただけ』、三つ目『当初に比べて被害は減っており、今後も全力で対応していく』と締め括る予定だった。
 なお被害が減った数字は、無為無策だった時と、住民を避難させて自衛隊が重機関銃や対空砲で迎撃を行った後を比べてであり、対策と効果の面では確かに事実である。
 だが広瀬の寄り道が、その回答を封じ込んだ。
 政府としては、大きく寄り道するのは事前通告の範囲外でルール違反だと言いたい。あるいは違反すれすれの卑怯な行為でイエローカードだと。
 返答に窮した総理は席から立ち上がれず、峰岸官房長官と官僚たちが総理の席に慌てて集まり始めた。それと同時に国会が、一時的に停止状態に陥った。
 峰岸官房長官らが、バッタ被害にも上手く対処している点を大場に伝え、なんとか予定通りの答弁を行わせようとするが、当の大場自身が狼狽えて逆に確認している有様だった。


 不意に広瀬の脳裏を、ある直感が過ぎった。
 大場宗一郎は、たった一つのボタンを掛け間違えたのではないかと。
 ダンジョンは、人類にとって未知の存在である。公表には慎重を期すべきで、誰が政権を担おうとも、公表前に調査を行うのは当然だ。
 やがて何処かの段階で、レベルや魔法の存在を知る。
 レベルを得られる条件が異なるのであれば、検証しなければならない。若年者の方がレベル上がり易いのであれば、若い人間で確かめようとする。なるべく問題にならない人間を選ぶのは、秘密を考えれば順当だ。そこで倫理の箍が外れた。
 調査を続ければ、やがて攻略特典に辿り着く。
 転移や収納といった能力を知ってしまえば、もはや諸外国の行動を考えて迂闊に公表など出来なくなる。
 そうして機密が山のように積み重なった後、チュートリアルダンジョンが消えて初級ダンジョンが現われた。初級ダンジョンから魔物が溢れ出し、国民に膨大な犠牲が出始める。
 さて大場総理は、この段階に至って世間に隠していましたと言えるだろうか。

 そこに、チュートリアルダンジョンを攻略して転移能力を得た謎の少年達が現われた。しかも彼らは、何が起こるか分からないダンジョンを攻略しようとしている。
 少年達を力尽くでも確保しようと試みたのは、大場の立場で見れば当然のように思われる。何が起こるか分からないダンジョンを勝手に攻略させないのは、別段間違いでは無い。多階層円柱が現われたのは、あくまで結果論なのだ。
 最初に麻酔銃を使ったのは、対話の余地を残すためか、背後に誰か居ないのか調べるためか、失敗したときの言い訳のためか。
 いずれにせよ政府は少年達の確保に失敗し、機動隊に危害を加える凶悪犯を射殺も辞さず取り押さえるという建前で強硬手段に訴えた。
 だがそれにも失敗し、少年達に初級ダンジョンを攻略され、次のダンジョンを生み出されていよいよ手に負えなくなった。


 この流れでの大場のターニングポイントは、少年達に対して呼び掛けではなく、麻酔銃で取り押さえようとした事だろうか。
 相手は情報を持たない子供であり、話せば通じる知能は持っている。
 一方的に決めつけるのではなく、自ら日本政府だと名乗り、ダンジョンの攻略がどのような影響を及ぼすか分からないから待ってくれと呼び掛けていれば、交渉の余地があったように思われる。
 ダンジョンを隠していた手前、勿論そのような事は言えなかっただろう。
 だが既に知られている事実を受け止めて、何れ公表するが時期が未だ早いのだと訴えるなど柔軟な対応を採っていれば、あれほど怒らせることは無かったはずだ。

 それら全ては、広瀬の勝手な憶測に過ぎない。
 仮に大場の立場にあった場合、自分であればダンジョンに対してどのような対応を行い、どのように失敗していくかを想像しただけだ。
 だが存外、それほど大きく外れていないのでは無いかと広瀬は考えた。
 判断を誤らせるのは、誰にでもあることだ。
 現在は野党に落ちている改革党と共和党も、予想されていた西日本大震災で震災前と震災後に幾つもの判断を誤り、二三万人もの犠牲者を出して国民の怒りと失望を買い、一気に支持を減らした苦い経験がある。
 あの時は不運も重なった。
 そして今回の大場にも、いくつかの不運が重なっている。

 一点目、チュートリアルを密かに攻略した高レベル転移能力者が居た事。
 二点目、その少年達が、映像や検証記録を最初から集めていた事。
 三点目、その少年達が、いつの間にか初級ダンジョンに潜り込んだ事。

 一点目については、いかに全国で一〇〇ヵ所を越える僻地に出現したとは言え、実際に攻略するまで隠し果せる子供が最初に発見した。
 二点目については、発見者がなぜか高性能な小型カメラを複数台も所持し、実際に裁判で実用可能な記録を完璧に残していた。
 三点目については、ダンジョンが利用者最多の駅前に出現したとはいえ、初日の僅か数時間を除けば全て封鎖されたはずだった。
 力による捕獲の失敗は、政府の判断ミスのため運のせいには出来ない。従ってそれ以降の連鎖は、命令した者たちの責任である。
 少年達はいずれ映像を公表する気があったようなので、井口綾香に出会わずとも公表自体は避けがたかった。交渉相手を選ぶ少年達のようなので、隠し果せる事も難しかったに違いない。

 だが彼との邂逅が『今』だった点は、井口と広瀬にとって天啓にも等しかった。
 二〇四五年七月現在、ダンジョンの魔物は地下七階のコオロギまで出現している。
 この後は九月に地下八階のオオサンショウウオ、一一月に地下九階のゲンジボタル、そして翌年一月に地下一〇階のカマキリ出現へと至る。
 だが『今』であれば、非常に際どいが、まだ間に合う。
 井口と広瀬が完璧に立ち回れば、カマキリを日本に一匹も出さない手を打てる。
 さらにドーム状の巨大構造物は初級だと言うが、『今』であれば中級以降の巨大構造物に対する算段も付けられる。
 そのためには、現代にそぐわない幾つかの非常識も率先して行う覚悟だ。敢えて身内を犠牲にする事も厭わない。
 この後は井口豊が少年に会い、広瀬自身は東京で動き回り、それらの布石を打つ手筈である。
 過去と未来に思いを馳せていた広瀬は、逸れていた思考を打ち切ると、未だ混乱を続ける大場を覚悟の座った目で睨め付けた。


 広瀬が思考を続けた間、国会議員達のざわめきは、随分と大きくなっていった。
 総理たちの混乱した様子と、静かに回答を待ち続ける広瀬議員の姿を、テレビが全国に向けて放送し続ける。
 やがて総理が回答できないままに国会が一時中断し、テレビの画面が切り替わった。
 広瀬議員が暴露した政府のチュートリアルダンジョン隠蔽と、今後の魔物たちの詳しい出現情報は、総理が国会で答えに窮したという事実と併せてセンセーショナルな大ニュースとなり、直ぐさま全世界を駆け巡った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ