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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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11話 烽火

 開戦を告げる烽火は、当事者の片側が全く知らぬ間に、唐突に上げられた。
 前方の虚空に出現した、黒光りする無数の渦。
 その一際大きな渦から巨大な鎌が飛び出してきたのは、二人が身構える前だった。

「ひだりっ!」

 美也の声が届いた直後、咄嗟に振るわれた石槍が巨大鎌を弾き返していた。
 土魔法五の力を込めた石槍は折れなかったが、これが低い魔力の武器や鉄パイプなどであれば、アッサリと寸断されていただろう。攻撃を受けた次郎の手には、そう思わせるだけの速度と重量が乗せられていた。

「おいおい、ちょっとデカすぎるだろう」

 鎌のサイズから推測するに、相手の全長は軽トラック並みにある。
 一〇階に群れている中型犬サイズのカマキリたちとはサイズが違いすぎて、比較にもならない。
 鎌から推察される全身は、まるで白亜紀の恐竜だった。
 現代にも同サイズのゾウは居るが、あちらは草食で鎌など持たない。
 この巨大肉食昆虫が地上で卵を生めば、大型の動物を餌として大量繁殖するのは不可避だ。
 少なくとも地上世界において、陸上でこの巨大カマキリに対抗できそうな生物は、武装した人間以外に想像できなかった。
 そのような事を考える間に、同じ渦から二本目の巨大鎌が襲いかかって来る。
 次郎は石槍を引き戻す間も無く、カマキリの左腕と思わしき二本目の大鎌を、自らの右前腕で叩き返した。

「痛っ」

 鎌を受け止めた次郎の右前腕から、鮮血が迸った。
 視線を向ければ薄らと、浅く皮膚を裂かれた切創が出来ている。
 魔物に出血を強いられたのは、美也を洞窟に誘った最初期以来だ。
 魔物のレベルは階層に等しいという仮定が、脆くも崩れ去っていく。あるいは美也が口にしたとおり、相手がボスだから強い可能性もある。

「美也、こいつの鎌はヤバい」
「うん、接近戦はお願い」

 レベル三二に加えて身体能力が五から六もあって傷を付けられるなど、完全な想定外だ。
 巨大カマキリのレベルは、少なくとも並のカマキリの二倍はあるだろうか。
 次郎とは開きがあるが、それでもダメージを受けるのだから素の攻撃力は推して知るべし。ナタを持ったレベル〇の次郎がコウモリを倒せたようなものだろう。
 黒光りする渦が薄らぐ中、真っ黒な草原に真っ黒な巨大カマキリたちの姿が次々と現われる。
 二tトラックを上回りそうな、超巨大な黒色カマキリが二匹。
 そして一〇階に沢山いる大型犬サイズの黒色カマキリが一〇匹。
 いずれの複眼も、次郎達の隙を窺っているのだろう。触覚も次郎達の方向ピンと張られ、体勢を低くして今にも飛び掛かってきそうだった。


「後ろの通路はどうなっている」
「駄目、来た道が消えたまま」
「くそっ」

 次郎は視線をカマキリから逸らさずに、大きな舌打ちをした。
 二人がレベル三二と二七まで探索活動を停滞させていたのは、門限があって長時間潜る機会が得られなかった中学生の都合と、石橋を叩いて渡る美也の性格が、偶然重なった結果に過ぎない。
 二匹の超巨大カマキリは大雑把に見積もってもレベル二〇くらいはある。
 次郎達に充分な時間があれば、半分のレベルでもここまで来る事は可能だった。そしてその場合は、確実にカマキリの餌になっていただろう。
 想像するだけで身の毛が弥立つ末路であり、自分と美也がその様な危険な目に遭わせられた事は、断固として受け入れられなかった。

「この洞窟を作った奴は、最悪だな」

 洞窟を主体的な意志によって作った存在が居るとすれば、その者は侵入してきた人類が巨大昆虫たちに食い殺されても一向に構わないと考えている事になる。
 次郎は今になってようやく、この洞窟が人類の安全など意に介さない危険地帯である事を認識した。

「俺が削るから、傷口を狙って火魔法を撃ってくれ」
「うん。分かった」

 次郎は身を屈め、次の瞬間には前方に向かって勢い良く飛び出した。
 目標は至近の巨大黒色カマキリだ。まずは次郎の接近に合せて振るわれる左の鎌を、右手の槍で受け流す。
 遅れてやって来た右の鎌は、左手に生み出した新たな石槍で弾き返す。
 そしてがら空きになった巨大カマキリの腹部目掛けて、両手に持った二本の槍を交差させるように叩き込んだ。

「おりゃああっ!」

 両手には布を棒で叩いたかのような、衝撃が分散する鈍い感触が伝わった。
 しかしダメージは与えられたようで、腹部からは黒色の液体が漏れ出している。
 次郎は再び声を上げてカマキリ達の注意を引き付けながら、全力で黒い草原の土を踏み込み、二匹目の巨大カマキリに向かう。
 そんな次郎が空けた隙間を埋めるように、美也が生み出した火の塊が一匹目の巨大カマキリに放たれた。
 火弾の大きさは、大型犬サイズの巨大カマキリを数匹まとめて飲み込むほど。直撃すれば一撃で巨大カマキリをヴェリー・ウェルダンのステーキと化せる威力がある。
 そんな次郎の身体に隠れるように迫ってきた強烈な火弾の攻撃を、巨大カマキリは反応できずに直撃した。
 火弾は傷付いた腹部に命中し、魔法の力で一気に燃え上がる。強烈な炎は巨大カマキリの表面を燃やしながら、傷口から体内に潜り込んで内部まで焼いた。

「ギギッ……ギギッ」

 鳴き声と共に巨大鎌が滅茶苦茶に振るわれ、風圧で草原の黒い草が巻き上げられる。巨大カマキリの背中の羽が開き、羽ばたきがさらに草を舞い散らせた。
 その間に、新たな火弾が胴体目掛けて放たれていた。
 同時に二匹目の巨大カマキリに向かっていた次郎も、左手の石槍を二匹目への牽制に投げ飛ばすと急速な方向転換を行った。
 そして傷付いた巨大カマキリの背後から挟み撃ちをするように襲い掛かる。

「ぬ、お、りゃあっ!」

 振り被られた右手の石槍が、頭上から叩き落とされる。
 対して傷付いた巨大カマキリは半身を逸らし、左の大鎌を振るって迎撃に出た。

「ギギギギギギギギッ」
「いってぇえっ」

 右脚の裏で大鎌を受け止めた次郎は、石槍で巨大カマキリの左複眼を叩き壊した。次郎の損傷は靴の裏と靴下が破れ、皮膚が浅く切られた程度である。
 一方でカマキリが負った損害は、遙かに甚大だった。複眼の片方が叩き壊されると共に、美也の放った二発目の火弾が胴体を焼き、羽を燃やして飛行力を奪い去ったのだ。
 次郎は着地と同時に槍を投げ付け、追撃とばかりに巨大カマキリの大顎を削る。その間に火弾の三発目も頭部を襲い、首を掠めた所で派手に炸裂した。
 徹底的な集中攻撃を浴びた一匹目の巨大カマキリは、戦意を喪失して後方に逃げ出す。
 その穴を埋めるように、二匹目の巨大カマキリが飛び掛かってきた。その僅かな間に次郎は迎撃のために新たな石槍を生み出したが、美也は動けずに困惑の声を発した。

「黒い光が邪魔をして、回復魔法が使えない」

 負傷した次郎の右手や右脚を回復しようとした美也は、生み出した光が黒い光に掻き消されるのを目撃した。
 洞窟に潜って一〇ヵ月、こんな現象を観測したのは初めてだった。
 発光色から察するに、闇魔法の黒い光が、光魔法の白い光を打ち消しているようだった。この黒色草原では、空間を埋め尽くすほど黒い光が満たされている。周囲の環境が、光魔法の発動を打ち消してしまうのだろう。

「分かった」

 次郎は短く答え、槍を構えた。
 発動できないものはどうしようもない。回復が出来ないのなら、なおさら早く倒してしまわなければならなかった。
 幸いにも、美也に怪我を負わせられそうな巨大カマキリは残り一匹だ。
 次郎はそちらに狙いを定めると、再度大声を上げてカマキリたちの注意を引きながら、一直線に突っ込んでいった。

「ぬおおおおっ」

 接近に反応した巨大カマキリの両鎌が、左右から次郎に伸ばされる。
 カマキリは、自分の身体より小さな動くものを襲う。片方の鎌で抱えられる次郎なら、巨大カマキリにとって丁度良いサイズかもしれない。
 素直に食べられてやる道理など無い次郎は、二本の槍を振るって二つの鎌を弾きながら、カマキリが避けるよりも早く左真ん中の足に石槍を叩き付けた。

「つぁあっ」

 巨大カマキリの足は、タイヤを殴ったような分厚い感触だった。鋭利さが足りずに斬り飛ばせず、一本を弾いただけでは巨大カマキリの姿勢すら崩れない。
 次郎を目掛けて両鎌が振るい直され、さらに頭上からは大顎も迫ってくる。次郎は舌打ちと共に後ろへ飛び、両鎌と大顎を次々と弾き返した。
 近接戦闘中の両者に援護の魔法を飛ばせない美也は、四方にいる大型犬サイズのカマキリたちを火弾と風弾で撃ち落としていた。
 次郎の脅威とはならない通常カマキリであるが、戦闘時の足枷と成り得るために削ってくれているのだ。
 そんな通常カマキリたちの一部が、後ろから手傷を負った巨大カマキリの巨大鎌に絡め取られた。
 一体何をするのかと見守る次郎達の目の前で、巨大カマキリが通常カマキリを頭から貪り始めた。
 すると捕食される通常カマキリから巨大カマキリに向かい、黒い光が流れていく。
 その光によって次郎に破壊された巨大カマキリの腹部が、そして美也に焼かれた表面が、次第に回復を始めた。

「嘘だろ。こいつ、回復しているのか?」

 捕食行動で回復するという非常識さに、次郎は唖然とするばかりだった。
 光魔法の回復でも、白い光が覆うと損傷した肉体が回復していく。その魔物版なだけかもしれないが、それらの光景が初見の身としては、相手方の理不尽さに言葉を失するしか無い。
 固まった次郎の脇をすり抜けた四発目の火弾が、動きの止まった巨大カマキリの頭部に炸裂していく。失った左複眼までは回復し切れていなかったようで、巨大カマキリの頭部は炎に飲まれた。

「美也!?」
「今っ」
「お、おう」

 美也の判断は素早く、また的確であった。
 指摘された次郎は背中を押されるように、一匹目の身体が二匹目の壁となるような位置取りで素早く移動した。
 二匹目のカマキリも次郎に追従したものの、レベルやステータスの差からか、次郎の方が早く一匹目の巨大カマキリに辿り着く。
 そして頭部が炎に包まれている巨大カマキリに飛び掛かって、横薙ぎに石槍を振るった。

「くたばれっ」

 タイヤを殴ったような鈍い手応えの中に、炭化した部分を破壊できた感触が伝わってくる。次郎は重点的にそこを叩きまくり、ついに巨大カマキリの頭部を狩り落とした。さらに追撃ばかりに石槍を振るって、頭部を遠くまで打ち飛ばす。
 いかに体力の強い昆虫と言えど、頭部を失っては回復できないだろう。次郎は一匹目を確実に倒した確信を得た。
 だが壁となっていた一匹目が崩れ落ちると同時に、殆ど無傷の二匹目が襲って来た。
 巨大な両鎌が、左右から鋭く伸びてくる。
 辛うじて追いついた石槍が鎌に合わせられたが、勢いが足りずに押し込められてしまった。そして次郎の脇腹に、鎌足が刺さった。

「ぐぁあっ」

 硬い刺があばら骨に当たり、思わずうめき声が漏れた。
 骨が折れるほどでは無いが、石槍で防いでいなければそれも危うかった。攻撃に特化したカマキリは、レベル以上に高い攻撃力を持っているのかも知れない。
 そんなギリギリと押し込められる力を、レベルで上回る次郎は力ずくで押し返す。
 二本の石槍が押し出されると、広げられた鎌から解き放たれた次郎が地面に落ちた。

「次郎くんっ」

 殆ど直立に近い状態で着地した次郎は、襲い掛かってきた巨大鎌を二本の石槍で弾き返した。
 巨大鎌と石槍が撃ち合う度に、草原の黒い草が吹き散らされる。削れる石槍は魔法の力で補われるが、欠けた巨大鎌の刺は回復しない。
 その間にも美也の魔法は着実に周囲の通常カマキリを倒し続け、ついに残るは巨大カマキリ一匹となった。

「ギギギギギッ……」

 巨大カマキリは羽を広げて威嚇しているが、レベル差を鑑みれば虚勢だった。荒々しく振るわれる鎌も、巨大な大顎も、当たらなければ問題ない。
 これ以上の特殊な行動をされないうちに倒すべきだと考えた次郎は、それまでの受け身から速攻に転じた。
 まずは巨大な両鎌を徹底して弾きながら、懐深くに飛び込む。その間に側面から放たれた風魔法による援護砲撃が、左足の一本を弾く。
 巨大カマキリの体勢が僅かに崩れたところへ、真っ直ぐに伸ばされた石槍が正面から突き立てられた。

「ぬああああっ」

 胴体を突いた石槍は一度引かれ、頭上まで振りかぶられて叩き落とされる。さらに流れるような動作で再び引き戻され、今度は真横から薙ぎ払われた。
 巨大カマキリは身体の一部を削られ、直後に襲い掛かってきた強力な火弾に焼かれ、傷口を拡大させられていった。
 炭化した部位は、次郎の槍に耐え切れない。
 二人の連携攻撃を受けた巨大カマキリは、身体の部位を次々と破壊され、次第に戦闘力を落としていった。

「ちっ、くそっ。しぶとい」

 一方で巨大カマキリも、反撃を続けている。
 右側の大鎌を掴んだ次郎の左手は皮膚が破れ、血で滲んでいた。左側の大鎌を防いだ右腕も服が裂け、血で赤く染まっていった。
 それでも次郎は攻撃の手を緩めなかった。羽を破り、足を潰し、巨大鎌を破壊し、複眼を割り、大顎を砕いて、容赦なく徹底的に戦闘力を奪っていく。
 やがて動きが緩慢になり、ついには地に伏せた巨大カマキリの頭部に向かって、石槍が容赦なく叩き落とされた。
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