反撃=仕返し
投稿遅れてしまい、申し訳ございません。
「うおぉぉっ!?」
俺達の頭上から重力に従って落下してきた天井。
……あいつが『重圧空間』を発動させてたの忘れてた。
俺は咄嗟に結界を張って降りかかる瓦礫から身を守り、プチ生き埋め状態でルシアからの状況報告を待った。
『我々は無事です……が、部屋を脆くさせたのはこれが狙いだったとは……』
(先の先を読みすぎだろ、あいつ)
『あの本の仕業ね』
ディメアがそう言って説明をする。
『あの本には持ち主の問答を写し出す力があるのは、さっきから思い知らされてるわよね』
ディメアの話だと、その持ち主の疑問に答えるという性能を用いて先程の戦闘のように俺を翻弄したんだそう。
つまりは「どうしたらアイツを殺せる?」という質問を本が読み取り、俺を倒し得る作戦を作り出したという事だ。
『あの本には『意思を持たない魂』が宿ってるのよ』
(意思の?)
『主の欲する事柄を導き出す、貴方の世界でいうAIね』
(ルシアと同じって事?)
剣に魂が宿った存在がルシアだが、それと同じようにあの本にも魂が宿っている、という事なのだろうか?
『カタチ自体は殆どそうだけれど中身は全然違うわ。言うなればルシアは『一つの生命体』ね』
一つの生命体……悪い意味では無いが、ルシアは無機物だよ? そういう意味では生きてない気がするんだけど。
『その無機物の存在が、私達みたく会話したり感情で表現をしたりするかしら?』
(しないね、普通は)
『魂が物体に宿るというだけでも滅多に存在しないのに、その魂が私達と同じように自らの意思を以て会話をしているのよ』
……そういう話を聞くまでほとんど気にしてなかったけど、ルシアってやっぱり凄いんだな。
『一応断言させてもらうわね。貴方の相棒は優秀なだけじゃなくとても希少な存在なのよ』
どういう風の吹き回しなのか、ディメアがルシアを褒めちぎっている。
そして今は手元に無いけど俺には分かるぞ、ルシアが目に見えて照れてるのが物凄く伝わってくる。
『……と、柄にもなく褒めてあげたんだから、この状況を打破する作戦でも考えなさい』
『ひゃいっ!?』
(っ、おお……初めて聞いたかも)
こういう反応を改めて見ると、ルシアが剣だとはとてもではないが思えないな。
というかディメア……褒めてた理由はそういう事だったのか。
『そ、そうですね……。オロチ殿、御主人様を贄にするというのは、その魂を人身御供にするという事ですか?』
コホン、と咳払いをして(どうやって咳をしているのだろう)気持ちを切り替えたらしいルシアが、オロチにそんな事を聞いてきた。
『それが一番手っ取り早いけど、龍人の肉体の一部でも可能だよぉ。あとは大量に必要になるけど血とか体液でも可能だしねぇ』
『つまり御主人様がいれば事足りる……と』
俺は消費物ではないのだが……。というかこの体はディメアのものだし。
『ちなみに、贄にするモノの量が少なかったりすると、兄さんの復活自体は不完全なものになるよぉ』
『と言いますと?』
『ボクのあれみたいに肉体だけが動き出したり、その逆で魂だけが解き放たれたりって感じかなぁ』
俺が強制転移でオロチの肉体と対峙した時のあれだろう。
魂を持たない機械みたいな存在として復活するって事か……。
『ちなみに御主人様を贄とした場合、最低限必要な量はどの程度でしょうか?』
『ん~……君は神龍が元になっててエネルギー自体は凄いからぁ……手足のどれか一本もあれば事足りると思うよぉ……あ、そういう事かぁ』
ルシアの作戦をなにやら察したらしいオロチが、どこぞの悪代官か知らないが『ふっふっふ~お主もワルよのぉ』とか言っている。
……かくいう俺も、ルシアが考えている事は薄々感付いている。
『御主人様、体の一部を失う覚悟はございますか?』
(そうだろうと思ったよ!)
つまり、ルシアは俺の腕か脚を犠牲にして逃げてしまおう、と言っているのだ。
何とかして撃退とか出来ないの?
『現在の状況とこれまでの相手の戦略から、少なくとも御主人様を殺害可能な策は三通りほど存在すると推測し、その策を使用されますと全員が脱出するのはほぼ不可能になります』
そう言ってルシアから直接映像が送られてきた。
どうやら、俺達が顔を出した瞬間嵐で瓦礫を巻き上げて、それを武器に俺達をズタズタにしてくるらしい。
……成る程、確かにこんなのやられたら逃げ場は無いな。
『更に私の【解析鑑定】を感知、無力化されて我々は相手の力量が知れず、逆に相手は御主人様の技能をある程度把握しています。ここは対抗するよりも体勢を整えるべく一時退却をする方が懸命だと判断しました』
(……うん)
言いたい事は分かったし納得もできてるけど、腕なぁ……。
ダメージ自体は【心身癒着】を持っているので問題なく完治させる事ができるが、腕が切断されるという痛みと俺自身の精神的ダメージがデカいだろう。確実に。
『部位欠損なんて、そこの蛇に片腕食い千切られて経験済みじゃない。何を今更』
『ボクは龍だしぃ『あれ』はボクの意思で動いてる訳じゃ無いからボクは関係ないよぉだぁ』
少なくとも体はオロチのものだから、食い千切ったっていう事実とそれがオロチがやったって事は覆らないけどね。
『御主人様は痛みを伴わず、楽に身体の一部を切り離す技能を所持していますよ』
え、なにそれ怖い……そんな技能持ってたっけ……。
(……あったな、そういえば)
しかも、使い道としては物凄くベストで今使えとしか言ってないような技能じゃん。
(……使わなきゃ、駄目?)
『腕の一本や二本、どうってこと無いわよ』
じれったそうにディメアがそう急かしてくる。
分かったよ、やればいいんでしょ!
(二人にルシアを使ってこの場所から脱出してて、って伝えて。後で合流する!)
『御意』
俺はルシアにそう伝え、小規模の『爆発』を使って瓦礫の山から脱出した。
「出てきた……まぁ生きてるよね」
「こんなんで死ぬ程ヤワな体してないっての」
結界張ってなかったら死んでただろうけどな!
取り敢えず俺は、白ローブに作戦を悟られぬよう敢えて無謀に突っ込む事にした。
「足場が崩れたお陰で、さっきよりかは動きやすくなったよ」
「でも、逃げ場は作らない」
と、軽く手を振った白ローブを中心にゆらゆらと風が揺らめき始めた。
「させねぇよ!」
瞬時に【電光石火】を発動させた俺は、白ローブとの距離を一気に詰めて拳を突き出した。
あわよくばこのまま倒してしまおうという考えだが、まぁ無駄だろう。
「ツッ!? 硬ったいな」
案の定、無属性を纏わせた俺の全力の一撃を楽々と受け止め、逆にその強固さで俺の拳の皮が破けてしまった。
「神具がそんな攻撃で壊れる訳がない」
俺の殴った部分をポンポンと払うという仕草で余裕をアピールしている白ローブ。
「分からないかな? 君はもう詰んでるんだよ」
勝利宣言とも取れる発言をして、白ローブが詠唱を再開する。
すると先程から吹いていた一定方向からの風が更に強まり、『マグネティック・フレア』を散布するために使用されたあれの比ではない風力にまで成長した。
「……『列風』。バラバラに砕け散れ」
唱えるが早いか、猛烈に吹き荒れる風が大小様々な破片を巻き上げて、周囲の残った壁などを削り取っていく。
……確かにこれは、大怪我覚悟で突っ込まないと脱出は無理だな。
俺の頭ほどもある石片や鋭く尖った木片が風の力で飛んでいるのを見て、俺はふとそんな感想を抱いた。
白ローブを中心に広がっていた『列風』は、その場から脱出できない俺に向かって段々と狭まっていき、ついには俺と白ローブだけを囲むミキサーの檻と化した。
「じわじわ殺されるか、潔く死ぬか、好きな方を選んで良いよ」
「悪いけど、俺はまだ死ねないし死なない」
確かにこのままでは間違いなく死ぬだろうが、それは今の俺の状態だからこその話。
「……『諸刃の剣』。今更魔力を上昇させたところで……、ッ!?」
俺の突然の急成長に、恐らく初めてだろう驚いた様子を俺に見せた白ローブ。
まぁ、技能の概要を調べても『一時的な魔力の上昇』だけだったので、そんな身体が大人になる事は書かれていなかったのだろう。
後でディメアから聞いた話なのだが、俺のこの一時的な成長は、俺自身が保持魔力の上昇=肉体の発達をするという通常の龍人でも有り得ない特異な体質だからなのだそう。
これは、俺自身の元の肉体が神龍のそれであり、ディメア自身が新たな肉体を創った時にそう設定したのだそう。
「そんな……この数値の上昇は……。書かれていない」
「それで、俺は詰んでるんだっけ? ――違うね」
そう俺が宣言した直後、背後から『列風』越しに爆発音が聞こえた。
『脱出が完了しました。一先ずエグルフ師の工房へと移動します』
「……(了解)俺の仲間が脱出したみたいだね」
「これを狙って「まだだよ?」ッ、【不動明王】。この熱量は……!?」
対象の犯した罪の重さによって熱量が変化するこの技能。前回は怒りに身を任せていたので勝手に発動していたが……燃えてるな、俺。
大地の時に比べ熱量は圧倒的に少ないが、それでも数千度はあるだろう。この圧倒的な熱量が、徐々に小さくなって俺を削ろうとしていた瓦礫の破片を溶解し、同時に『列風』が炎上、炎の渦が俺達を囲んだ。
「あ、予め纏わせた水属性が一瞬で……」
「……で、贄が欲しいんだっけ?」
先程からぶつぶつと呟いている白ローブにそう告げて、【電光石火】を発動させずに急接近、治癒したての右腕を大きく振りかぶり、再び本を殴った。
「くれてやるよ」
そして同時に、俺が初めて魔獣から入手した技能で、現在唯一、俺が一番使いたくない技能である【身体自切】を発動させた。
名前の通りこれは体の一部を切断させる技能で、トカゲの尻尾のように切断された部分に敵が気をとられているうちにその場から退却するのが主な使用目的なのである。
と、いうわけで脱出だ。
できるだけ切断した腕は見ないようにしつつ、白ローブを蹴ってその反動でルシア達の方向へと走っていった俺。




