翻弄
「ライム! 二人を守れ!」
俺は夢中でそう叫んだ。
相手がどんな攻撃を放ってくるかは分からないが、それが周辺一帯を巻き込むレベルで強力なものだと理解したからである。
ファルの声に……いや、それ以前にこの攻撃の脅威を計り知ったライムが元の姿に戻り、テス達の前に降り立って体を膨張させた。
「……『シャイニング・アロー』」
様々な属性が重なり合い、やがて光り輝く矢となった無数のそれらは、一つの詠唱で全て同時に撃ち放たれた。
ズドドドドドドォォォン……!!!
「……この攻撃で無傷なんだ」
攻撃の強烈さと威力によって巻き起こった土煙が晴れ、大きく穿たれた壁と、目立った外傷のないファル達が姿を現した。
「ケホッ……二次災害考えずに撃ちやがって」
ルシアを介して周囲の状況を確認すると、俺達の背後にあった筈の扉が壁ごと無くなっている事が確認できた。
いや、壁だけではない。その更に後方の壁、終いには屋敷を貫通している。射程外だったからなのか、そこで止まってくれて良かった。
「君らに攻撃が当たらなかったのは……【万物吸収】っていうのか。これのおかげだね」
再び【多次元収納】から本を取り出して読み始めた彼(彼女?)はそう呟き、俺の技能を見破った。
『どうやらあの本は対象の能力が随時更新、表示されるようです』
(リアルなインターネットみたいなものか)
ルシアの的を射た推測を聞いて納得しながら、改めてあの本を何とかしなければと思い考え始めた俺。
『ねぇ、ちょっとあれって……』
『……あ、言わなくて良いよぉ姉さん。……ボクも薄々勘づいてるからぁ』
と、何やら中の二名はあの本について何やら知っているみたいだ。
(何か知ってるの?)
『あの馬鹿の持ち物に似たようなものがあったのを思い出したのよ』
(馬鹿?)
オロチも知ってるって事は、ディメア達の身内が関係しているのだろう。
『色々持ってたからねぇ、兄さん』
『私達の迷惑になるような事しかしないのね、本当』
二人からかなり酷い言われようのベヒモス。そんな酷い人物なのだろうか。
(っと、そんな事を考えてる場合じゃないんだよな。ある程度は予想できてるけど、あの本ってどんな性能なの?)
『見たまんま貴方の予想まんまよ』
つまりは本型インターネットか……。
「エネルギーを吸収してくるのは厄介かな……よし」
何かを考えついたのか、ブツブツと呟きながら再び詠唱に入った。
と、同時に建物がギシギシと軋み出す。
『土属性魔法の『重圧空間』です』
名前からして重力を操作してそうな魔法だな。俺の動きを封じようとでも思ったのだろうか?
「君の持ってる技能は厄介なものばかり、ならば使えなくすればいい」
「俺の技能を把握してるって事は、俺には魔法が効かない事も知ってるよね?」
これは【主と従】を持っているライムやルシアにも言える事であり、現在その二名に守られているテス達もこの影響は受けていない。
つまりは、そんな魔法を使用した所で俺達には無駄なのだ。
そんな平然と立っている俺を見て、重ねて新たな魔法を発動させるべく両手を組んだ白ローブ。
「……『マグネティック・フレア』、風よ運べ『嵐』」
そう言って組んでいた両手を広げ、手元から魔法で生成したらしき鉄粉をばらまいた白ローブは、風を起こして辺り一面にそれを撒き散らした。
『……技能が通用しないということで、粉塵爆発による物理的な攻撃を狙ったようですが、無駄です』
とのことらしい。
『早めに燃やしちゃいなさい。あんな本』
……本当に嫌われてんのな、……えーと、ベヒモス。
「悪いけど、俺達の脅威になりかねないその本は排除させてもらうよ」
ディメア達の破れ破れコールがうるさいのもあり、早めに終わらせようと【電光石火】を発動させた。……発動させた……。
「……あれ?」
【電光石火】が発動しない……?
「やっぱり。外部から間接的に封じる事は可能みたいだね」
発動させた筈の【電光石火】だが、何故か発動させた瞬間に解除されてしまうのだ。
まるで体から電気が散ってしまうような……。
『雷が散る……まさか』
(何か分かったの?)
『御主人様、あの敵の前では雷属性の攻撃は無力化されます。水属性魔法で周囲に舞っているものを流してください』
攻撃を無効化されるタネを理解したらしいルシアが、そう言って風属性魔法を発動、相手の風属性魔法を相殺した。
そして俺も水属性魔法の一つ『霧雨』を使って部屋に漂っている砂埃を落とした。
「流石、もう見破ったんだね」
(ルシア、どういう事?)
ぶっちゃけ、俺はまだ何で【電光石火】を発動させられなかったのかを理解していない。
『周囲に舞った鉄粉の粉が、御主人様の体から流れる電気を放電させたのです』
……えっとつまり、俺が【電光石火】を発動させる度にその鉄粉の砂嵐の方に電気が行っちゃったせいで、発動させた直後に効果切れを起こしたって事?
『はい。……私の不覚です』
ルシアが悔しそうにそう謝罪してくる。
自分の考えの先を読まれていたのが悔しかったのだろう。
「でも、タネを見破ったからといって油断しないほうが良い」
「……元から油断なんてしてないよ」
そう呟いて、本を奪うべく一歩踏み込んで助走を付けようとした俺。
しかし、俺が踏み込んだ途端に床が発泡スチロールのように割れ、底が抜けてしまった。
ガクッと体勢を崩した俺は、何が起こったのか理解するより早くその場から起き上がって一歩引いた。
「床が……軋んでる」
テスがそう呟き、初めて俺もその違和感に気が付いた。
そう、俺達の足場が今にも崩れそうになってギシギシと軋んでいたのだ。
「私の使った魔法は雷属性の無力化だけが目的じゃない」
『くっ……そういう事ですか』
再び何かを理解したらしく呻いているルシア。
……やっぱり分かんないな。
『……先程の二種類の魔法で床や壁、天井に細かい傷を付けて乾燥させ、意図的に脆くさせていたのです』
鉄粉で意図的に脆く……だからわざわざ強い風属性魔法を発動させたのか。
『そして我々が使用した魔法によって乾燥していた木材に水気が帯び、再び風属性魔法で乾燥、乾湿風化を引き起こしたのです』
……乾湿風化とかいうのはサッパリだが、俺達の使った魔法が床をこれだけ脆くさせた原因の一つだ、って事は分かった。
しかしどうするか。下手に動くと逆に不利だし、魔法の技量は圧倒的に相手が上……。
「……お前は何が目的なんだ?」
取り敢えずは時間を稼ぐ事にした俺は、あわよくばこのまま必要な情報を得ようと色々質問する。
「神の復活」
「神って……また大層なものを復活させようとしてるね」
少し予想していたものとは違った返答が返ってきたので軽く驚く俺は、尚も会話を続ける。
「で、それと俺を襲うのには何の関係が?」
「龍人……君を贄にするため」
「へぇ、俺を『ああぁそういう事かぁ!』……」
突然、オロチが思い出したように大声を出して俺達――俺だけか――を驚かせた。
『竜種と人間の血が交わった存在を贄にして復活……もうボクも怒っちゃって良いかなぁ?』
俺を使って神を復活させる、という事を聞いたオロチが真っ先に閃いた、という事はつまり、呪いや闇属性に関係する事なのだろうか。
『どういう事なのよ』
『……う~ん、言っても良い事なのかなぁ、これはぁ』
何故か茶を濁そうとするオロチは、しかし何故か言いたそうにうずうずしているようにも見える。
『これを姉さんが知った場合ぃ、兄さんは確実に姉さんに殺される事になるんだよねぇ』
『安心なさい。もう既に栗坊が私に殺される事は確定しているわ……。その回数が二、三回増えた程度で私にはどうってことないもの』
うわぁ、なんか凄い怖い事言ってる人がいるんですけど……。
『んっとねぇ……ボクが説明するよりもぉ、あの子に聞いた方が早いと思うよぉ』
『よし、それじゃあ聞いちゃいなさい』
ディメアが殺る気満々でそう急かしてくる。
……いやいや、俺に何をどう聞けと。
『あの子に『ベヒモス?』って聞いてみたら分かるよぉ。絶対』
「……ベヒモス?」
「っ……」
半信半疑で呟くようにそう聞いた俺だったが、白ローブの奥からでも分かるようなあからさまな動揺ぶりを相手が見せた事から、ある程度の事を察した俺。
「……この本にしか載っていない事だと思っていたのに、何で?」
「そ、その手のプロフェッショナルが偶然にもいたんでね」
プロフェッショナルどころか想像主だけど。
「そう……ならば話が早いね。それを復活させる為にも私は君が欲しいんだ……」
何だか危ない台詞を言いながら片手を振り上げた白ローブ。すると建物の軋みが無くなり、一瞬の静寂が生まれ……。
『御主人様! 防御を!』
「だから、ねぇ。死んで」
振り下ろされる白ローブの手と同時に、俺の頭上の天井がガラガラ! と音を立てて崩れた。
オマケ
『シャイニング・アロー』
混沌属性を光属性魔法で浄化させ、無属性魔法で矢の形に変化、射出する魔法。
威力は鉛筆サイズの矢を複数射出であの貫通力。
『重圧空間』
重力を操作して対象を重くしたり軽くしたりする魔法。広範囲を巻き込む魔法なので取り扱い注意。
『マグネティック・フレア』
粉のように細かい磁鉄鋼を周囲に撒き、磁石球の追尾性を無力化する補助系の魔法。
『嵐』
風を巻き起こす『風』の上位互換。風力的には台風のあれと同じ。
『霧雨』
霧吹きのような細かい雨を降らせる魔法。
主に気化熱を発生させて周囲の気温を下げるのに使われる。便利。




