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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
六章 ベクトリール
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脱出

投稿遅れてしまい申し訳ございません。

  変態野郎……もといトイドル=レーゼンに関する情報をグレイから新たに聞いた俺は、さてこれからどうするか、と考えを巡らせていた……が。





「……ねぇ」


「何だ?」


「用って、どこで足せば良いの?」


「便所か」


  俺の意図を察したらしいグレイが、静かに牢屋の隅を顎をしゃくって示した。


  ……なんかね、転生してからというもの、どういう訳かトイレが近くなっちゃったんだよね。


  何でなんだろうな、と考えながらも這うようにしてその場所まで行くと、石畳一枚分無くなっていて、奥の方から水が流れる音が聞こえた。


「どうやら下水路の真上にこの邸宅が建ってるみたいでな」


「普通の牢屋より衛生面はしっかりしてるんだね」


  俺はアシュトルスの「どうぞ垂れ流してください」と言わんばかりに設備の整っていない地下牢を思い出し、そんな感想を洩らした。

  俺の魔法の練習場となり果ててる地下牢だが、あれは相当に酷いものであり、鉄格子と空気穴以外は本当に何もないのだ。


  それに比べたら、簡易的でもトイレがあるこの場所は素晴らしい方である。まぁ牢獄に素晴らしいも糞も無いが。


「手伝うか?」


「いや駄目でしょ。絵的にも俺の精神的にも」


  俺にはそんな趣味、断じて存在しないぞ! と叫ぼうとしたが、グレイの「なんで?」みたいな顔を見て「あ、男だと思ってるな、この人」と何となく察した俺は、まずは別にも言うべき事があるな、と口を紡いだ。


「仕事柄、介助(かいじょ)も経験した事はあるが……」


「あるの!? どんな依頼だよ……とかじゃなくて」


  何でも屋……というか盗賊ギルドの依頼内容に突っ込みを隠せない俺だったが、それ以前にマズイ事だらけであったので言及を取り止めた。


「冗談だ。向こう向いてれば良いか?」


「……ごめん、ズボンの紐だけほどいてくれると嬉しい」


「……」


  こればかりは仕方無いじゃないか。


  俺はグレイの呆れ混じりの溜息を聞きながら、内心でそんな言い訳をして立ち上がった。

  幸い、足の曲げ伸ばしはロープの位置的な問題で可能なのだ。


「紐だけで良いのか?」


「何とかなるでし『御主人様(マスター)!』」




  と、グレイが俺のズボンの紐をほどいている最中に、上の小さな穴から剣の状態のルシアが飛び込んできた。そして落下と同時に俺の手足のロープを切断、真後ろの地面にザクッ! と突き刺さった。


『お怪我はありませんか御主人(マスタ)……』


「ッ!?」


「お、ルシアナイスタイミング、って……どうした?」


『……いえ、なん、なんでもございま……せん』


  手足の縄を切断してもらい自由となったファルが、ルシアに対してそう感謝の言葉を告げるが、当の本人(本剣?)は刀身をほんのり赤く染めてどもった。

  喜怒哀楽が熱と色で簡単に判断できるから、ルシアって結構分かりやすいんだよな。


  で、この感じは『照れ』かな、……あぁ成る程。


『まさか御主人様(マスター)が……』


「えーっと……それ誤解だからな?」


  何やらとてつもない勘違いをしているらしいルシアに、俺はその時の事情を踏まえて説明、訂正をした。

  何が悲しくて男にズボンを緩めてもらってるんだ……。


『……とにかく、御無事で何よりです』


「捕まった位じゃ死なないから」


「だ、誰と会話してるんだ? それよりその剣は……」


  この中でただ一人状況を認識し切れていないグレイが困惑したような表情でそう俺に聞いてきた。

  ルシアの声は特定の人物にしか聞こえないから、俺が一人で喋ってるようにグレイには見えるのだ。


「会話してる相手は気にしないで」


「わっタ?(翻訳:終わった?)」


「終わったも何も、俺は何もしてないって」


  ひょこ、と穴を覗くようにライムが現れた。

  どうして分かってくれないのかねぇこの人達は。


「ねぇ、下はどうなってるんだ? 見せてくれよ」


「「テス!?」」


 上から、ライムの声に続いてテスの声までもが聞こえ、俺とグレイは同時に声を上げてしまった。

  主に俺は「お()、何でわざわざこんな所まで来たんだ!?」、グレイは「どうしてこんな危険な場所に……」といったニュアンスを含んでの発言だったのだろう。


「その声……兄貴! っとわぁぁぁ!?」


  位の声に反応したテスが、ライムを押し退けてこちらを覗き込んできた。

  暗闇でよく見えなかったのだろう。更にハッキリと視認すべく前のめりになった事が災いし、バランスを崩してそのまま頭を下にして落下してきた。


「ふっ……。ツッ!?」


  それを見て反射的に落ちてくるテスを受け止めたグレイは、ダメージが完治されていないという事を忘れていたらしく、衝撃で襲ってきた苦痛に顔を歪めた。


「ぐ……テス」


「あ、兄貴! 怪我は!?」


「……お前の落下で結構ダメージ負ったみたいだぞ」


  俺は、テスを受け止めた衝撃で足と腰にかなりの負荷が掛かって蹲っているグレイを指差し、そう言ってやる。

  まぁ、子供とはいえこの高さから落ちてきたらそうなるわな。


「えぇっ! 兄貴ゴメン!」


「平気だ……き、気にするな……」


  そう言ってはいるが、腰を押さえて動けないでいるグレイを見ていると、とてもではないが平気そうには見えない。


「んしょ……と」


  テスが下に降り立ったのを確認し、(あと)に続いてライムが飛び降りた。

  こちらは慣れたもので、スタッと軽やかに着地をした。


「ライム?」


『どうしてもって言ってたから……ルシアもいいって言ってた』


  軽く聞く感じでそうライムに問うと、若干目を反らした状態でそんな言葉が返ってきた。

  いやまぁ別に責めてる訳ではないしライムが忘れてないかを知りたかっただけなので、俺は別に構わないのだが。


「早くグレイに会いたいってのもあったんだろうし、仕方ないか」


  俺に回復魔法を掛けられて全快したグレイに抱き付くテスを見て、ファルは穏やかにそう呟いた。






「さて、全員集合した所で聞いてほしいんだけど、良い?」


「その前に俺も聞きたい事があるんだが?」


  テスの頭に手を乗せてグレイがそう聞いてきた。


「おおよそ予想はできてるけど、取り敢えずその説明は後でね。今はここの主を失脚させるのが先」


「レーゼン卿をか?」


「そう、その為にこの状況を作ったようなものだしね」


  盗賊ギルドの依頼で得た情報『トイドル=レーゼン』だが、グレイの話から彼は王国でも立場はかなり上で、『(ロード)』の名の如く爵位としては最上位の人物であるらしい。

  あのド変態野郎がそんな偉い(くらい)の人間なわけ……と言ってやりたかったが、それが事実なんだと無理矢理自分を納得させる事でなんとか押し留まった。


「どうにかして『俺が拉致された』っていう証拠を見つけてやらなきゃいけないんだよね」


「見つけて、どうするつもりだ?」


「良くて失脚、最悪でも評価を落としてやる材料にする」


  お節介なのかもしれないが、ベクトリールの膿を取り除くというのが主な目的だ。……はい嘘です。実際は変態野郎をとっちめるのが本当の理由である。


「仮に証拠があったとして、王が動くと思ってるのか?」


  それはもっともな意見である。

  まぁ俺が一般人だったら、その意見は通るのだろうが。


「兄貴、ファルち……コイツ等はベクトリールの王様と知り合いなんだぜ」


「……は?」


  テスの言葉に固まったグレイ。


「前の戦争の時に色々あってね」


「いやいや、おかしいだろ」


「アシュトルスの女王様とすげー仲良いんだぜ」


「……」


  新たな事実を次々と知った為か、ついにグレイから言葉が出なくなった。


「と、取り敢えずその話も置いといて、これから俺達は敵地に乗り込むんだけど、二人はどうする?」


  その鋭利(えいり)さ故に地面に深々と刺さってしまったルシアをなんとか引き抜いたファルは、二人にそう問いた。


「怪我は治したとはいえ、そんな体じゃあ激しく動くのも辛いでしょ?」


  俺は、ダメージこそ消えたが数日もの間留置、食事すらまともにしていないであろうグレイのぼろぼろの体を見て言った。


「こんな体でも雑兵の相手をするくらいの体力はある。それに子供(ガキ)だけで行くような場所じゃないだろ」


  という事らしい。

  ……精神年齢的には俺の方が上なんだけどね。


「お、俺も「お前は駄目だ」でも……」


「危険だ」


  テスの申し出を、グレイがバッサリと両断した。

  確かに何の力も無いテスが来ても、できる事は限られてしまうだろう。しかし……、




「気持ちは分かるけど、そうするんだったらあんたも抜けた方が良い」


  俺はそう言ってグレイを否定した。

  別にしょげているテスが可哀想とか、そういう理由では決してない。


「ここはあの変態の敷地内だ。目隠しで連れてこられたからどんなものかは分からないけど、テス一人で安全な場所まで行けると思う?」


「……」


  俺の言葉に反論のできない様子のグレイ。

  いやまぁライムに送っていってもらうという手があるのは確かなのだが、それは敢えて言わないようにする。

  そしてグレイに近付いて小声で(ささ)いた。


(折角会えたんだしさ、少しはテスの気持ちを汲んでやりなよ)


「……分かった。テスも来てくれ」


「っ! うん!」


  そんなグレイの言葉を聞き、俺達の時以上の笑顔で頷いたテス。



(ルシア、部屋の外の状況は?)


『……小部屋を挟んだ先に二名、『音絶空間アンチ・サウンドエリア』を発動させました』


  どうやらこの牢はとある部屋の隠し部屋らしく、この場所から出ても無人の部屋に出るだけらしい。


「……(ありがと)まずはこの牢から出よう」


  ルシアを振るって(おり)を切断し、大人が通れるだけの空間を作った俺。

  そしてその穴を全員が通ったのを確認し、先に進むのを促した。


「じゃあ、俺はちょっと準備があるから、先に行っててくれない?」


「何を……あぁ」


  聞こうとしたグレイは察し、二名(ライム、テス)を連れて部屋を出た。

オマケ。






……なんかね、転生してからというもの、どういう訳かトイレが近くなっちゃったんだよね。



のっけから申し訳ございません。





衝撃で襲ってきた苦痛に顔を歪めた。



テス(十才)の体重(およそ三十キログラム)が五メートル超の高さから落下し、グレイがそれを受け止めた場合、自由落下の法則で彼には瞬間的に約百五十キログラムもの衝撃が襲い掛かる計算になります。

落とさずに耐えきったグレイに感服です。(計算をミスしている可能性がありますので、大体それだけの重さをグレイが持った、と思って頂けますと幸いです。)

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