拉致
投稿遅れてしまい、申し訳ございません。
「情報を貰いに来た」
盗賊ギルドに貴族の特定を依頼して三日、約束の期日という事で朝早くからやって来たのである。
ギルドまでかなりの距離があり、絶対に道に迷うだろうな、と思った俺は逆転の発想で、建物の屋根を伝って盗賊ギルドまで走った。
……うん、凄い楽だったな。
「連れは良いのか?」
「まぁね」
テスとライムの不在について受付主人が聞いてきたが、こちらにも色々と訳があるので軽くはぐらかした。
「……」
「えっと……うん、確かなの?」
無言で差し出された白紙の羊皮紙に魔力を流し、ぼんやりと写りだした文字を読み、念のための確認をとった俺。
ちなみにこの羊皮紙だが、特殊な魔法が掛けられた代物らしく、今のように魔力を籠めるとその魔力に反応し、炙り出しのように文字が浮き上がるらしい。そしてこの炙り出た文字は、魔力を籠めた本人しにか視認できないらしく、第三者が盗み見る事ができない仕組みになっているのだとか。
「依頼は依頼だ」
偽装するような真似はしない。とハッキリ断言した受付主人。
「じゃあ、年内には俺も『報酬』を払うよ」
「一つ確認だが……」
受付主人が何やら話を変えてきた。
「これに『保護』は入っていないな?」
「それは、そっちが一番知ってる事じゃないの?」
「……末恐ろしいな」
苦笑を浮かべた受付主人が、バンッ! とカウンター越しに蹴ってきた。
それが合図だったのだろう。周辺で酒や食事に勤しんでいた男達が、一斉に立ち上がって俺を拘束しに掛かってきた。
あるものは目潰しらしき赤い粉や毒と思われる白い粉を、別のものは【束縛】で俺を椅子ごと束縛しに、それぞれが行動してきたのだ。
……店内なのに、よくもまぁ床が汚れるような攻撃をしてくるものだ。
「確認は取ったぞ」
「……こんなに一斉で掛かってくるとは思わなかったな」
弱めの風属性魔法で目潰し粉を吹き飛ばし、【束縛】で作られたロープを【万物吸収】で無効化して席を立つ。
……と、そんな俺に一瞬たじろいだ男達だったが、次の瞬間には俺を羽交い締めにして関節を本物のロープで縛り、猿轡を噛ませたりと数の暴力を以て俺を拘束してきたのだ。
「これも仕事だ」
「…………」
その言葉を最後に、目隠しを付けられて俺の視界は真っ暗に染まった。
(……さぁて、何処に行くのやら)
「子供冒険者の確保……依頼は達成って事で良いか?」
ファルを連行した馬車の蹄を蹴る音が聞こえなくなり、パッと静まり返った酒場にて、受付の主人が男の一人にそう声を掛けた。
主人の声に反応た男は、羽織っていたマントを外して振り返った。
その肩には『地竜の紋章』が、光の反射故か存在感を示すように鈍く光っていた。
そう、彼は盗賊ギルドにファルの拉致を依頼した貴族の兵士であり、先程ファルを拘束した男達を率いていた人物なのである。
「何を言う。対象を捕獲したのは我々であるぞ、そちらの手柄ではないだろう」
騎士のように鎧を纏っている男は、顔をしかめて依頼の達成を否定した。
「誘き寄せたのは盗賊ギルドだが?」
「諦めが悪いな。二人も依頼を失敗させておいて何を言う!」
そう叫んでスラリと剣を抜いた男は威嚇した。
「……分かった分かった。あんた等の手柄って事で俺達は報酬を受け取らない。それで良いか?」
「ふんっ」
当然だ。と言わんばかりの態度で剣を収め、足早に立ち去っていった男の背中を軽く睨む受付の主人。
「おいマスター……あんな野郎の言いなりになんかならなくても……」
ファルの隣、カウンター席に座っていた男が腹立たしげに受付の主人を責める。
男は主人と古くからの付き合いで、彼がかなりの手練れだという事を知っている。
「得物を抜きゃあビビって誰でも言う事聞くって思ってるような輩なんて相手にすらならねぇだろ?」
「変に反発してギルドが告発されるよりかはマシだ」
主人は表情を変えずにそう言って返す。
貴族の裏事情、汚れ仕事の一切を受け持っている盗賊ギルドは、当然ながらそれらのせいで罪人となっている人物が殆どを占めている。
下手に貴族の反感を買ってギルドの素性を明かされると、国によって組織そのものが潰されるのは勿論の事、その際にギルドの人間は依頼主であった貴族達の証拠隠滅の為の材料として加刑を受ける事もまま有り得るのだ。
「……つってもよ、これで三回目だろ? あの糞貴族が難癖付けて報酬払わなかったのは」
「非公式ギルドだからな、仕方無いだろ」
棚から酒を取り出し、グラスに注いでグビッと仰いだ。
「……くそっ! これだから貴族っ「ほう……」あぁ?」
「今回の結果は少しいつもとは違うかもしれんな」
少しキレ気味に主人の持っている酒瓶をひったくってそのまま直接飲んでいる男を尻目に、何かを発見したらしい主人はくっく……と喉を鳴らしながら笑だした。
「なんだよ突然……」
俺が酒飲んでるどこが面白いんだ? と主人を睨みながら、予想より強かった酒に噎せそうになっている男は言った。
「お前、子供冒険者の様子を見たか?」
「あぁ、あの糞貴族の犬共の小道具をものともしてなかったな。最後は大人数に押さえ込まれちまったけどよ」
隣で、一番ハッキリと様子を見ていたのだろう男が、その時の事を思い出し、主人に説明した。
彼も向かいのカウンターでそれをしっかりと見ていたのだが、早くも酔いが回り始めているらしい男はそれに気付かずに語っている。
「で、それがどう笑いに繋がるんだ?」
「グレイやマルダのグループを相手に軽く一蹴したようなガキが何の抵抗もせずに捕まるなんて、何が起こったんだろうな」
「そりゃあ、……何だって? わざと捕まったって?」
主人の言葉に反応し、直後に理解して固まった男。
「そういう事だ」
それを聞いて驚きを隠せていない男に、受付の主人が一枚の羊皮紙を見せた。
『お得意さんが一枠減っちゃうかもしれないけど勘弁ね』
そう簡潔に書かれた羊皮紙を読んで空いた口が塞がらない様子の男から紙を取り返し、火を付けて燃やした。証拠隠滅だろう。
「得意客が減る? 願ったりな事じゃあないか」
時はほんの少し遡り――。
「ほ、本当にいるの? その……エグルフサンって人」
俺達は三日に来た、エグルフサンというじっさんの家(……仕事場?)の前に来てる。何でこんな所に来たのかというと、……俺もあんま分かってない。
だって「エグルフサンの所に剣を預けててさ、ちょっと取ってきてくれない? (以下略)」としか言われなかったんだぞ? 何でアイツは来ないの?
数日前の反抗的な態度は何だったのかと思う程ファルに対して心を開いているテスは、そんな自身の変化に疑問を感じず、寧ろファルが不在というこの状況に不思議なものを感じている。
「エグルフ。きみもッタ(翻訳:君も見た)」
何してんだ? アイツ。と思いながら扉の前に立つテスは、ライムの訂正によって人名間違いをしていた事に気付いた。
……あれ? 俺、名前間違えてたのか?
「あのじっさん?」
「ん」
あの人、鍛冶屋だったんだ。
三日前に見た、小柄の老人がエグルフその人だろうと自然と納得した俺。
「よ、よし。じゃあ入る「っくヨ(行くよ)」ぅわちょっと待って! まだ心の準備が……!」
扉の前で一旦呼吸を整えていた俺を、ライムちゃんが押してきた。というか俺ごと扉を開けた。
扉とライムちゃんに挟まれる……というか潰される形でエグルフの家に入った俺は、真っ先に部屋の奥で座っているじっさんを見付けた。
目の下が真っ黒だけど、大丈夫か?
「来たか」
「ん」
「状況は彼女から聞いておる」
「ってル(知ってる)」
そう短く、淡々と繰り広げられている言葉の往復に、「何で二人は普通に話せてるんだろう……」という疑問をテスに与えた。
実際の所は【主と従】でファルを通して互いの情報を交換済みだった事が会話をスムーズにさせていたのだが、そうとは知らないテスには、短い言葉で何で会話が成立しているんだ? という疑問を生じさせる原因となってしまった。
「彼女? アイツの事?」
「ファルちがウ」
じゃあ誰? と首を傾げているテス。
彼が知っている中では、女子はライムかファルしかいないのだ。
「それは本人に聞けば良かろうて」
「え、本人? いるの?」
キョロキョロと辺りを見回すも、誰もいない。
当然である。
『……あまり周囲に認知されるのは困るのですが……』
「だっ、だだ誰っ!?」
突然聴こえてきた声にバッ! と振り向いた俺。だけどそこには誰もいなかった。
……いや、ライムちゃんとじっさんはいるんだけど、そのどちらの声でも無かったんだよな。
「い、今……女の人の声が聞こえなかった?」
『私です』
「ほら! また聞こえたぞ!」
再三聞こえた女性の声に軽い恐怖を覚えながら、テスは確かに聞いた声にテンションが上がった。
「もう少し下じゃ」
「下? 誰も見当たらないんだけど……」
テスが、縦に振れる視界の中に映っている剣に目を向けぬままついに発見できなかったので、見かねたルシアがテスに、ハッキリと理解できる音量で声を発した。
『……御主人様が拉致されたという事を忘れているのでしょうか?』
「ほらまた聞こえたっ! ……この剣から……?」
「やっと気付いたか……というか気付けというのが難しいな、これは」
嘘だろ……とテスが後退り……少し間を置いてから。
「ぎゃあぁぁぁ!? 喋ったぁ!?」
そう叫んで後ろに飛び退いたテス。
「いっ、いま剣が喋って……」
「喋る剣じゃからな」
「……あ(ファルが捕まった……)」
その場の喧騒から少し離れた場所で、ライムがファル誘拐を察知した。
当然その事はルシアも承知の上だろう。『……時間がない』と一言言って分身体を作成、片方が人間の姿になった。
『御主人様……ファル様の剣をしております、エクセルシアという『モノ』です。……以後お見知りおきを』
「えっ……えっ?」
突然人間となった剣に、驚きを通り越して混乱し始めたテス。
『……説明は後回しにしましょう』
「ひ、人になった!?」
『翁殿、転移剣の一度に使用可能な人数と座標の設定は……』
今のテスに説明をしていると時間のロスが凄くなりそう、と推測したのだろうルシアは、エグルフに自身の持っている『斬った対象を転移させる剣』の性能の確認をとった。
自身を好きな場所に転移させる転移魔法だが、転移させる対象の数や重さが使用魔力に比例する、というのは前にも説明しただろう。
子供であるテスをルシアが連れて転移するとなると、『自身とテスの体重+転移先の距離+転移場所の正確な指定』でかなりの量の魔力を消費してしまうのである。
それに加えて、現在ルシアは自身とほぼ同等の性能を持つ分身体を生成している。この分身体の生成にもかなりの魔力を消費しており、この状態で転移すると、到着時には保有魔力が半分以下にまで減ってしまうのである。
主の為にも無駄な消費は抑えたい、と考えたルシアは、これらの計算を一瞬で終わらせた上でエグルフに転移を任せたのだ。
「対象に直接触れてさえいれば何人でも可能じゃ。位置の方も、お主がその場所を把握しておれば大丈夫なよう設定しておいたわぃ」
『感謝します』
「ちょ、ちょっと待って! 何を言ってんのか全然わかんねーんだけど」
今から何をするのか、何が行われるのかを全く理解していないテスは、やっとの事で二人に説明を求めた。
『説明する時間が勿体無いです』
「ッ!? ――!」
……が、今すぐにでもファルを救出したいルシアは、その説明を今は不要と判断して行動に移った。
具体的にいうと、転移魔法の使えないテスと、まだ【共有】を使いこなせていないライムの二人を抱き抱えた。
『ではお願いします』
「御安いご用じゃ」
何やらテスがもがいているが、一瞬で済む事なのでと強行したルシアは、エグルフの振るう剣の直撃を敢えて受け止め、目的地にまで転移した。




