盗賊ギルド
投稿遅れて申し訳ございません。
「……成る程ね」
いなくなった二人を追って路地裏の出口付近までやってきた俺は、真っ先にライムに対し、気絶して拘束されている男達について事情聴取を行っていた。
状況としては、俺がエグルフさんと会話していた間にテスが逃走、ライムがそれを追いかけた先に偶然この男達と遭遇し、ライムによる蹂躙が開始されて今に至るんだとか。
ちなみにその際、男の一人から『話を聞く』という名の拷問を行っていたらしい。
「それで、目が覚めても逃げられないようにと拘束したのか」
「んっ」
「……これは酷い」
「っ!?」
褒めて褒めて、と言わんばかりに胸を張っているライムが俺の言葉に驚愕していた。
いや、ショックを受けてる様子だけど、ライム? この縛り方は、俺には彼等を葬り去ろうとしてるようにしか見えないんだよ。
俺は気を失ってライムによって拘束されている男達を見ながらそんな感想を抱いた。
なぜそんなに酷いと言い切るのか? 簡単だ。首や関節など重要な部位に『束縛』のロープが巻かれており、少しでも動くときつく絞まる縛り方になっているのだ。
つまり、この男達の目が覚めて少しでも身を捩ろうとでもしたら、首や動脈が絞まってしまうのである。自力で解く事が不可能な魔法による拘束なので、きっと何もできずにそのままあの世へ直行してしまうだろう。
……そんな生かして返す気の無いような縛り方、どこでそんな事を覚えたのか知らないが、おいそれと使って良いものではないのだ。
「……まぁ、動けないように拘束してくれたんだし、テスを守ってくれてありがとうな、ライム」
「~♪ んっ」
求めていた反応と違かったからなのだろうが、かなり凹んだ様子でしょげているライムをそう褒めてやる。勿論「次はもう少し考えて動き封じような」という言葉も投げ掛けるのも忘れない。
さて、まずは首絞まる前にこれを切っちゃわなきゃ……って、ルシア預けてたの忘れてた。
男達が死んでしまわない内にこの拘束を解いてしまおうと考えて首元に下げていたルシアに手を伸ばした俺は、はっ、とそう思い出して風属性魔法を用いてそれを切断した。
……普段から手元にあったものが無くなるっていうのは、分かってても全然駄目だな。
「っ! 縄が切れた……」
「風属性魔法を使っただけ。それと……」
俺からそう教えられて「へぇ……」と消滅していくロープを見ていたテスの前で、再び『拘束』を発動させてやる。
シュルシュル……と蛇のように地を這う、任意で縛る場所を変更可能なそれを興味津々で見ているテス。
「……すげー「んじゃ、テス?」うっ」
「俺のいない内に逃げようとした事について一言、どうぞ」
『拘束』に目を奪われているテスの肩に手を置いて、俺は優しくそう問いかけた。
「そりゃ誰だって……! ……いや、ごめんなさい……」
ん? やけに素直だな。
「何かあったのか?」
「……」
テスの様子から、考え無しで逃げた訳では無さそうだな、と予想して思い当たるものを口にしてみた。
「兄貴って人の事?」
「……あいつら、兄貴が貴族にいたぶられてるって」
どうやら正解だったみたいだ。
「貴族か。その貴族の名前とか言ってたか?」
その質問には首を横に振ったテス。
「じゃあその辺の事も聞くか、コイツらに」
俺はそう言って拘束されている男達を静かに見据えた。
「……う、此処は」
「目覚めたね」
テス曰くリーダー、細身だが大柄な男が目を覚ました。そして自身が拘束されている事より先に俺達を察知し、俺の背後に控えるライムに、警戒するよりも早く身を捩って逃げようとしている。
……ライムはどんなトラウマをこの人に植え付けたんだし。
「こ、子供冒険者!?」
「ライムの質問答えるのを拒否して痛い目みたんだってね」
俺は、敢えて男のトラウマを掘り返した。と、男がガタガタと震えだした。
……ちなみに、何故こんなにも深くトラウマとして刻まれているかというと、ライムが持っている【絶対服従】とかいう心が折れてしまった相手に通常以上の恐怖を与えて服従させるという、明らか闇属性の技能によるものらしい。
……まぁ骨をへし折って直後に回復させて、を繰り返されたら、誰だって心が折れてしまうだろう。
「や、やめてくれ」
「なんか話す気になった?」
「わ、分かった! 全部話す!」
ライムの拷問を味わった男はその恐怖故だろう、自身のプライド関係無しに面白いように情報を喋りだした。
男の名は『マルダ』といい、テスや『兄貴』とかいう人物と同じ何でも屋らしい。
この何でも屋というもの、テスから聞いたものだけでは全てを把握できなかったのだが、どうやら正式な名称があって『盗賊ギルド』というベクトリールではかなり顔の広い職業なんだそう。
ちなみにこのギルドの主な職員というのは、かなり複雑な事情を抱えている人物が多いらしく、引き受けるものは主に情報収集と貴族の汚れ仕事なんだとか。
「一応確認だけど、どこかの貴族が俺達の拉致を依頼した……っていう事で良いんだよね?」
「……ああ、依頼主はギルドを通じるから名前までは分からないが、内容はそれで間違いない」
成る程、つまり盗賊ギルドそのものは一種の斡旋所で、依頼主との直接的な面識は無いのか。
「俺達が此処に来るっていうのはどうやって把握したの?」
「この依頼を最初に引き受けてたグレイってヤツが待ち伏せた場所だと聞いて張ってたんだ。嘘じゃないぞ」
グレイ、というのは恐らくテスの『兄貴』という人物だろう。
「ありがとう、それじゃあ最後の質問。テスの様子から見て顔見知りみたいだけど、こいつの兄貴っていう人物は、今何をしてる?」
俺のこの質問に、心配そうにようすを窺っていたテスが誰より先に反応した。俺がその人物の安否に興味があるとは思っていなかったからだろう。
「……知らない。ほ、本当だ! アイツが兵士達に連れてかれた所までしか俺は見てないんだ! ……その直後にアイツの依頼を引き継いだからな」
「兄貴が……兵士に?」
「兵士の特徴は?」
せめてその兵士の特徴から何かしらヒントが無いか知りたかったので、希望薄ながらにそんな質問をした俺。
「じ、地竜の紋章を鎧に付けてた」
「地竜……、ベクトリール城のものではないね。やっぱりいち貴族か」
『兄さんの事かなぁ?』
『あの栗坊が、そんな紋章になるような龍な訳ないじゃない』
いや、神龍って時点で紋章になってても不自然じゃないと思うんだけど……。
「よし、取り敢えず俺が聞きたい事はそれだけかな」
「ほ、本当か? 「ただし、解放する前に一つ頼みたい事がある」何でも言ってくれ」
一瞬の考える素振りすら見せずに即答したマルダ。本当に恐怖なんだな。
なら俺も遠慮なく。
「俺にお前のギルドを紹介してほしい」
最後に俺が提示した事、それは盗賊ギルドとの仲介である。
そのギルドの話を聞くだけには一種のマフィアのようなものだという事が分かったが、俺はその情報網を利用したいと考えたのだ。
「それは……」
「難しい?」
「いや、何とかする」
どうやら、もしもの時の自身のリスクとライムへの恐怖が天秤に掛けられ、恐怖が勝ったようだ。
「ありがとう。じゃあ、早速いい?」
「ここだ」
意識の戻ったマルダの部下達の拘束を解いて出発する事十数分、城の場所からかなり離れて《スラム》のような場所へ入った所に佇む、小ぢんまりとした建物の前に到着した。
「酒場、だね」
西部劇に出てきそうな木造の建物ではないが、雰囲気からどことなくそんな感想を抱いた俺。
どうやら中の二柱も同じように考えているみたいだ。
『表向きは実際そうなんじゃない?』
『町の探偵が、実は正義のヒーローだったぁ、みたいな感じだねぇ』
どこの二人で一人の探偵だ、という突っ込みを入れつつ、成る程と納得した俺。
要するに、表向きは普通の酒場だが、その実裏の仕事を引き受ける盗賊ギルド、という事だろう。
裏の顔を持っている盗賊ギルドを格好いい、と思った俺のこれは(元)男の性というものなのか。
盗賊ギルドに一人妄想をしている俺は扉を開け、マルダを差し置いて中へと入っていった。
すると、先客の男達が何事だ、と俺達に視線を集中させてきた。まぁ酒場に子供が入るなんて事、珍しいとかではなくまずあり得無いだろうからね。
「……あのガキ」
「あぁ、グレイの後ろにいつもいる」
「テス……だっけか?」
どうやらテスの事を知っている人物がちらほらといるらしい……が、それらの殆どがグレイの名前のついで的な感じで知られているようで、良い印象を受けている人物はいないみたいだ。
「テス、ちょっとこっち近付け」
「う、うん……」
己に向けられた視線に言葉では言い表せないような、それでもあまり良い印象を受けない表情で俯いているテスを呼び寄せ、俺の近くに寄せてやる。
するとテスは、俺の背後に隠れるようにして追随し始めた。
これは、俺に対して少しでも信用を向けてくれている、という風に考えて良いのだろうか? その場合、俺自身けっこう嬉しかったりする。
なんて考えながら、俺はカウンター席に座ったマルダに続くようにして椅子に腰掛けた。
「……何にする?」
カウンターの奥でグラスを拭いていた若干恰幅の良い男性が、突然訪れた俺達に驚いた素振りを見せず、無言で水を寄越してくれた。
「注文表を」
マルダの言葉に男性はメニュー表に似た何かを取り出し、俺達に見せてきた。
成る程、メニュー表に依頼が書かれてて、合言葉的なものを使用しないと駄目なようだ。
「……『新メニュー』を頼みたい」
と、マルダが男性に対してそう頼んだ。新メニューとは恐らく依頼の事だろう。
「ほう、お前が?」
「そこの子供だ」
意外そうに彼を見る男性の視線が、マルダの否定によって俺に移り変わった。
「……子供冒険者か?」
「そうだ」
そして流石と言おうか、俺の姿を一目見て子供冒険者だと見破った。
「困ったな、ここは条件を満たさない者の依頼は引き受けないんだが?」
一種の警告なのだろうか、そう言って静かに俺を睨んでくる。
薄々分かってはいたが、やっぱり難しいか……。
「……そこを何とかしてほしい」
「無理だな」
マルダが食い下がってくれているが、やはり当然と云うべきか速攻で拒否されてし
しかしすると……ふぅむ困ったな。
「何が必要?」
「コネだ」
再びグラス拭きの作業に戻った男性は、静かにそう答えた。
「この店は、依頼主のコネクションと様々な物資経路があって成り立っている。それらを持たない者と交渉した所で、このギルドには何の益にもならないんだよ、坊や」
む……坊やっていう程子供じゃ……子供か。
「コネクション、利益ね……。それがあれば良いの?」
「内容によっては考えなくもない」
ふとギルドとの交換条件としてピッタリそうなものがあったのを思い出したので、俺はそれを提示する事にする。
「アシュトルスでのギルドの運営許可……とか?」
俺の言葉に、無言で様子を窺っていた他の男達からざわめきが生じた。
当然だろう。規模や非公式なギルドというのが理由でベクトリールでしか活動できない彼等を、アシュトルスでも働けるよ、と言っているようなものなのだから。
「……お前がそんな事を決められる権限があるという証拠は?」
「俺はルーガ……アシュトルス女王の士官として(近衛兵だけど)国の条約を変更させるだけの発言力を持ってるんだ。いちギルドに活動許可を出す位、造作もない事なんだよ」
実は少し前、ルーガによって『外交取り締まり役(その場命名)』とかいうものに任命されており、ある程度ならばアシュトルスの名前を使っても良い、というのをルーガから予め許可をもらっていたのである。
「それと、俺はマグナ=ベクトリール元王とも親しくさせてもらってる。……俺が言いたい事は分かるよね?」
こっちはついでである。
俺がベクトリールの王と顔見知りならば、もしかしたらこの非公式なギルドを正式に設置させてもらえるかも……という期待を持ってもらうためである。
「成る程、それは我々にとってこれまでにない利益となるな」
「無論、今すぐ許可を出すとかは無理だけど」
それこそ入国許可証を含むetc.が必要になってくるものなので、今すぐアシュトルスに、とかは不可能だ。
まぁ当然分かっているとはおもうが、念のためにいっておいた。
「……内容は?」
「地竜の紋章を持ってる貴族の情報、もしくはその貴族の調査」
おっ、釣れたかな? と期待を膨らませて依頼内容を口にする。
「知ってどうする?」
「別に没落させてどうこうしよう、って訳じゃないよ」
紋章の特徴から、瞬時に貴族を特定したのだろう。再び目を鋭いものに変えて俺を見てきた。
それもそうだろうな。俺が探している貴族は、俺を拉致するよう依頼してきた人物なのである。
利益と信用を大切にしているらしい盗賊ギルドが、そんな一つの信用を失うような真似、できるものではないのだろう。
「それに、これはあくまでも俺の依頼で『調査』をしただけ、それが偶然にもお得意様だっただけ……違う?」
つまり、俺はただ情報を知りたいのではなく、ギルドにしっかりとした逃げ道を作った上でそう行動しよう、と考えたのだ。
そんな俺の考えを察したのか、男性は不敵な笑みを浮かべて握手を求めてきた。
「……ようこそ盗賊ギルドへ」
「契約成立、だね」
オマケ
【絶対服従】
対象が使用者に、精神的に屈した際発動する技能。
術中に嵌まった対象は使用者に対して心的外傷という形で束縛され、その時受けた恐怖の度合いによって対象を服従・使役させる事が可能。
【絶対服従】を発動させるまでの経緯
「ッロいろ、きクネ?(翻訳:色々聞くね?)」
「ひいぃっ! 来るな!」
「んでっえルノ?(何で捕まえるの?)」
「える……なんだ? 何を言ってぐあぁぁ!」
「んっ」
「ぁぁぁっ……あ? 傷が治った?」
「ったえル(答える)」
「な、何を言ってるか分からないんだよ。頼むからもう少し分かりやすくっ、ぎぁっ!? やめてくれ!」
(……何で答えないのかな?)
と、これを数回ループした後、自動的に【絶対服従】が発動した模様。
どこの二人で一人の探偵だ。
決して酒場であってビリヤード場とかではありません。




