複合魔法『混沌』
『ぬぅ……小賢しい真似を!』
「こうでもしなきゃこっちが死ぬんだよっ!」
攻撃&目眩ましを目的にナフールの顔面目掛けて爆発をぶつけて応戦する俺。しかし目立ったダメージは確認出来ず、逆に反撃されてしまう。
やっぱり魔法でダメージを与えるのは無理か。
亜理子の体、オブジェライムの体を使って変化した今のナフールは、元がライムの体だったので物理、魔法の面であり得ない程の耐久力を有しており、先程から色々な攻撃を試しているが悉く失敗に終わっている。
ライムは【主と従】による種族の変化と【共有】で俺の技能をフル活用してナフールを圧倒しているが、やはり有効打に欠けるようでダメージが与えられない。
今のナフールはライムの体を使用しているので、本体のライムは何らかの弱点を知ってたりするのかな? という一途の希望を持っていたりするが、魔力の大半はオブジェライムの方に通っていて、弱点と言えるものは一つとして存在しないらしい。
ナフールの攻撃を受けた俺は、衝撃の瞬間に後ろへ飛び、ダメージを最小限に抑えつつ距離を取って周囲を見渡した。
流石に距離の関係でラーフの様子は分からなかったが、真下で戦闘を行っているジャックさん、ライアンが無事なのは確認できた。
「こいつら……次から次にキリが無い!」
「落ち着け。敵の能力はそう高くない、焦らずに攻撃しろ」
ナフールが技能で作り出した、誰がどう見てもトランプな兵士を斬り捨てるジャックさんとライアン。
ルシアの【解析鑑定】によるとこのトランプ兵達は、どうやら先程ナフールによって押し潰されて犠牲になったベクトリール兵の亡骸が亜理子の技能で変化したものらしく、斬っても暫くするとくっ付いて復活して再び襲い掛かってくるというかなり厄介な相手らしい。
幸いにも戦闘力は普通の兵士より低いので、ジャックさんとライアンが足止めも兼ねて戦ってくれているのだ。
ジャックさん達は大丈夫そうだな。
次に俺は上空、不思議な力(きっと魔法なんだろうが)で滞空しているシャロンに目を向ける。
『死ねぃ!』
「おぉ、また随分と強力な攻撃を……私の帰りの分の魔力が持てば良いんですが……」
シャロンは主に防御面に徹してもらっていて、ジャックさん達の方に飛んでいった流れ弾や範囲攻撃魔法の対処、足場の確保をしてもらっている。
実を言うと魔力の量から攻撃魔法での援護とかを頼もうと思っていたのだが、攻撃魔法は不得意で殆ど扱えないらしく、サポートを任せているのだ。
ちなみに足場の確保だが、これは俺達の動きに支障が無いようにする為だけでなく、俺が張っている『土壁』が破壊されないようにする為の処置でもあるのだ。
ほら、この近辺の土地は開けた場所が此処しかないからさ、必然的にこの場所で戦う事になっちゃったんだよ。
何気に一番頑張ってくれているシャロンに感謝しつつ、俺は爆発音のする方向……ナフールの後ろの位置に視線を向けた。
ルーガとカトラさんは、ナフールによって変化、操作されている魔獣や魔物を相手している。
「うおっつ! 見た目は柔らかそうなのにっ……なかなか頑丈だねぇ! アタシの剣が通らない相手なんて何年振りだい!」
鉄板だろうが余裕で斬れそうな自身の攻撃が巨大な猫の様な相手に直撃したにも関わらず、ふかふかな体毛に阻まれて薄皮すらも斬り裂けない状況で笑みを浮かべているカトラさん。
「弱点は普通の生物と同じなので、急所を集中的に破壊して下さい」
刃が通らないのなら、と剣で的確に心臓を刺し貫いて沈黙させたルーガ。
しかしそれを見たカトラさんは、比較的体毛の薄い首の付け根から胴体を両断、一瞬の内に絶命させた。
「生憎、チマチマしたのは苦手でね!」
「それは私も同感です!」
この二人はやはり相性が良いというのか、殆ど苦戦せずに相手を葬っている。
「食らいな! 【爆塵斬】!」
「ギァッ!?」
剣を地面に叩き付けて周囲に砂を巻き上げ、『魔法付加』で剣に炎を纏わせて相手を斬り裂いたカトラさん。すると、巻き上げた砂が一斉に爆発し、周囲の魔物を纏めて一掃した。
『巻き上げた砂に『連鎖爆発』を使用して小規模な爆発を発生させ、それによって視認できる限界まで細かくなった砂を着火、粉塵爆発を発生させたものと推測します』
カトラさんを中心に小さくクレーターができているが、本人は無事なのだろうか?
『御主人様、来ます』
「うおっ! っと危ない」
間一髪でナフールが投擲した大岩を避けた俺。
他の人の心配をしている場合では無いみたいだ。
『粘性魔物の協力により解析が完了しました。御主人様』
と、危なげに着地した俺にルシアが報告してきた。
(どう?)
『心臓よりやや上の位置に魔力が集中しているのを確認しました。恐らくそれがターゲットでしょう』
そこにナフールがいるのか……。攻撃は届くのかな?
『いえ、その位置にまで届きうる攻撃手段を我々は持ち合わせておりません』
だよな。ただでさえ高い耐性に再生力、一撃で仕留められるレベルの攻撃が存在しないのが現実……いや待てよ。
ここで一つだけ、ナフールを倒しうる魔法を思い出した俺。
(……アイツの胴体を吹っ飛ばす威力があればいいんだよな?)
『はい。……まさか御主人様!?』
ルシアも俺の考えを察したみたいだ。凄い渋っている。
(魔法を無効化できる訳じゃ無いし、高威力の魔法なんてこれくらいでしょ?)
『確かにそれだと可能性は高いですが、リスクが高過ぎます』
俺が実行しようとしている事、それは俺のありったけの魔力を使って七つの属性魔法全てを無理矢理組み合わせ、完成する複合魔法『混沌』を使用する事である。
ほんの僅かな魔力で数人は余裕で殺せるだろう威力を発揮するあれならば、ナフールの魔法の耐性を遥かに越える破壊力を期待できる、
(【万物吸収】があるから、死にはしないでしょ)
『確かに魔法の威力は吸収可能です。しかし衝撃までは吸収できません』
俺の【万物吸収】は魔法や相手の技能の一部を吸収して無効化させる事は可能だが、流石に物理法則を無視する事はできないらしい。
『ファル大丈夫』
と、俺達の会話を【共有】で聞いていたらしいライムが、体当たりでナフールをよろめかせてそう言った。
【共有】で直接俺の心に語り掛けているので当然といえば当然だが、スラスラ喋るライムというのも中々に新鮮である……ってそうじゃなかったな。
(何か策があるの?)
『ん、ライムがファルを守る』
『守る……成る程、それならばあれも使用可能……』
……どういう事?
俺を余所に段々と作戦のようなものが出来上がっていく。
『周囲の避難が完了するまで、なるべく時間を稼いで下さい。』
『んっ』
(えっと……説明プリーズ?)
『『混沌』使用の際に御主人様と周囲に被害が及ばないよう、粘性魔物の協力を得るだけです』
(それは今の会話聞いてれば分かるけど、具体的な内よ『御主人様はまず味方の避難を呼び掛けて下さい』説明……)
サプライズ的な感じなのか? 凄い気になるというか、知らなきゃいけない事なんじゃないの?
なんて悶々している俺だが、手があるならそれを実行するまで、と切り替えてまずはルシアの指示に従う事にした。
『ラーフ、避難の方はどう?』
『風届』をラーフと繋げて向こうの様子を聞いた俺。突然の俺の交信に『うおっ、ビックリした……』とかいう声が聞こえたが、知らなかった事にしよう。
『丁度終わった所っす。隊長達の戦いを上で感じてたみてぇで、顔色青くして大人しくしてるっすよ』
『それは良かった……のかな?』
まぁ、真上で俺達が戦ってた訳だし、もし天井が落ちたらそのまま生き埋めだからその反応は普通だろうな。
ここで俺はルーガ達にも『風届』を使用して呼び掛けた。
『今からちょっとヤバい魔法を使うから、できるだけ遠くに避難してくれない?』
『え? 凄い魔法って何ですか?』
ルーガが興味津々でそう聞いてきた。
話し掛けた本人が言うのもなんだけど、戦いながら余裕を持って喋れるとか器用だな。
『じきに分かると思うよ。それとシャロン、もしかしたら結界張った方が良いかも』
『離れて結界が必要な威力……もしかして『混沌』ですか?』
『うん』
流石はシャロン、瞬時に俺が使おうとしてる魔法を当てたぞ。
『でもあれは危険……あぁ、ファルさんは平気なんでしたっけ』
『そういうこと』
『なんだかよく分かりませんが、気を付けて下さいねファルちゃん』
当然、と応えて一旦『風届』を解除した俺。
『……よし、退いて!』
ナフールが穴の中心部分に近付いた瞬間に俺が再び『風届』でそう叫び、俺とライムを除く全員がラーフ達に指示した避難場所へと走っていった。
『何処に行くつもりだ、ッ!?』
「お前は落ちてろ!」
そして案の定追いかけようと一歩踏み込んだナフールを、俺が土壁そのものを解除させてそのまま落下させた。
当然ダメージには程遠いだろうが、これであいつは逃げられないだろう。
俺もライムと共に穴へ飛び込んだ。
『何をするつもりだ!』
「うおぉぉっ!? (ちょっ、思ったより深い!)」
想像していた以上に穴が深く、数秒間落下し続けるというかなりの恐怖体験を味わいながら、俺は反撃せんとナフールが振りかぶる拳をルシアで斬って胸元へ着地した。
スライム状態のライムのお陰で無傷で着地できたが、……どうしよう、とてつもなく不安になってきた。
……えぇい、ここまでいったなら最後までやってやる!
「た、頼んだよライム!」
『んっ!』
『今です!』
ルシアの合図と共に俺はありったけの魔力を両腕に込め、それらを五つの属性に変化させて……融合させた。
オマケ
誰がどう見てもトランプな兵士
律儀にもピッタリ五十二体いたそうな。




