魔法のあれこれ
アシュトルス城の地下通路。
蝋燭以外に光源は無く、小さく揺れる火だけが頼りの道。
暗闇を進むのはファルとジャックである。
「ここだ」
急に開けた場所に出た二人は、壁に掛けてある松明に火を移した。
すると、天井は低いが、体育館大はあるだろう広い空間が姿を現した。
「以外と広いんだね」
「檻が全部外されてるからな」
ここは城の地下牢。
頑丈な造りで、本来は罪人を監禁するための部屋だが、今回は特別に別の用途で使わせてもらう事になった。
事は今日の昼過ぎ――。
「……魔法?」
「そうだ。今度遺跡内で遠距離攻撃の訓練をする予定なんだが、弓の他に魔法を使用するから、お前さんの使える魔法を知っておきたくてな」
そういえば今まで何気無く使ってたから、詳しく知らないな。
「色々、かな?」
「つまりは分からないんだな」
俺の誤魔化すような発言にそう解釈しようとしたジャックさん。
「いや、どんな魔法が使えるか? とかは分かるんだけど……」
「じゃあどういう事だ?」
「威力とか、性能を殆ど把握してないんだよね」
一つの属性だとしても使える魔法は複数だろうし、そもそも実践で使った記憶が無いので加減が分からない。
「把握してない魔法を持ってるって事がよく分からんが……まぁ理解した」
一瞬首を傾げたジャックさんだったが深く考えないようにしたようだ。
「威力の知れない魔法なんてそうそう使って良いものじゃ無いし、訓練で使えるかどうかも不明だしね」
俺がそう言うと、何かを考え付いたのかジャックさんが、
「その魔法がどんなもんかが知りたい事がだけなら、試してみるか?」
「良いの?」
「待て、俺に撃とうとするな。撃っても文句を言われない場所があるから、そこで試せばいいって話だ」
何かを察したのか、俺の顔を見るなりそう制止させたジャックさん。
……別にジャックさんで試そうとかは思ってなかったんだけどな。俺ったどう思われてるんだろうか……。
「何処でなら大丈夫なの?」
「許可を取るのも面倒だな……夜中に俺の部屋に来てくれ、案内する」
「分かった」
とまぁ、そんな訳で今に至る訳なのだが……
「まさか中庭からこんな所に続く道があったなんてね」
「本路は別の所にあるんだがな、二代前の王が「隠し通路はあった方が趣がある」ってんで、作られたらしい」
まぁ確かに秘密基地みたいで興奮しなくもないが……。
「ちなみに、前の王が知ってたかは知らんが、王室にはこの城の隠し通路全部に繋がってる場所があるぞ」
「ルーガが聞いたら喜びそ、全部? っていうかそもそも隠し通路っていくつあるの?」
一瞬、気にせず流しそうになってしまった。
「一応全部の部屋には繋がってるらしいぞ」
「凄いな王様……」
忍者屋敷みたい……いや、蟻の巣かな? しかし、この城にそんな秘密があったなんて、今まで気付かなかった。
「懐かしいな、「万一城に敵が入り込んだ際の脱出路は必要だー!」とか言って三代前の王を説得してたのを思い出した」
「そういえば、ルーガの前の前の王と幼なじみなんだったね」
少し前に聞いた事を思い出した。
「ああ、事あるごとに色々とやらかすもんだから、俺も当時の王様も頭を悩ませたな」
「……血は争えないんだね」
とにかく行動力だけは凄いルーガが瞬時に頭に浮かび、当時の王がどんな人物なのかは容易に想像がついた。
「でも、本当にこんな所で魔法とか撃っても大丈夫?」
「魔法使いやら魔術師やらも入れるからな、抗魔の結界が張られてるから問題ないだろう」
そう言って右手から火属性魔法の一つ(らしい)『火炎球』を作り出し、壁に向かって放ったジャックさん。しかし壁に激突した瞬間、壁が光って火炎球が打ち消された。
これが今は無い檻にも施されているらしいが成る程、檻が破壊されないようにするための措置なのか。
「ありがとう、じゃあ使わせてもらうね」
「鍵は明日返してくれれば良い」と言い残してその場を去ったジャックさん。
よしじゃあ早速。
ジャックさんの使っていたものとほぼ同じサイズの火炎球を作り出した。火力も殺傷力も殆ど無い、熱量でいえば手で持つ花火のあれくらいだろう。
『御主人様、まずはその火炎球に籠める魔力を増やしてください』
「どれ」
球に籠める魔力を増やしたら、火炎球のサイズと熱量がぐんとはね上がった。そして逆に魔力を少なくすると球も弱く、小さくなった。
『魔力量×魔法に比例して威力が変化。続いてその火炎球を変形させるイメージを浮かべて下さい』
「こうか? っておぉ……」
火炎球を細長くするイメージを頭に浮かべて集中すると、それと同じように形が変化した。
へぇ、面白いな。
『魔法は魔力の他に精神力の消費によってもその性質を変化させます。これよって火炎球を矢状に変化させて火炎矢、槍状にして火炎槍といった武器に変化させる事も可能です。精神力の維持が必要ですが』
三角や四角にして遊んでいると、ルシアがそう説明をくれた。
という訳でルシアの形に火炎球を変形させてみたのだが……成る程格好いい。
『……火炎球の他にも雷電球や旋風球といったように属性魔法の内、光と闇以外を球体に変化可能で、これらを組み合わせて新たな属性魔法を作り出す事も可能です』
「なんで球体なの?」
『魔力を収束するには、球体が一番安定しているからです』
「へぇ、まぁ取り敢えず作ってみるか」
様々な属性魔法の球を作って形を変える手を止め、次はそれぞれの属性を組み合わせるイメージを頭に浮かべる。
まずは風と水の属性魔法を組み合わせたのだが、その瞬間水が凍って氷の球体となったのだ。
『複合属性『吹雪球』です。他にも溶岩球や磁石球といった風に、工夫次第ではあらゆる属性に変化可能です。しかし――』
「全部混ぜたらどうな『駄目です御主人様!』へっ?」
ルシアが叫ぶが、時既に遅し。
五つの属性の色が全て混ざって不快な色合いとなり……、
ドカァァァン!
爆発した。
「……ッ! ケホッ、ケホッ……何が起こったの?」
『今の属性は『混沌』。小規模の爆発を発生させ、周囲に様々な属性魔法を振り撒く属性です。……御主人様も【万物吸収】が無ければ消滅しててもおかしくない威力です』
マジか……。
先ほどの球も、殆ど魔力を籠めずに作ったものだ。それなのにあの威力である。もし魔力を多めに籠めていたとしたら……。
「……封印決定だな」
『そもそもこれは制御が不能な魔法ですので、使ってはいけません』
絶対ですよ、と念を押された。
幸いこの場所は魔法の干渉を受けない結界に覆われていたので被害は殆ど出ず、地下なので音も地上まで届かなかったのが救いだろう。
よ、よし、気を取り直して次いこう。
次は属性魔法を使う過程で気になった事なのだが、火属性にしろ水属性にしろその属性をイメージして作り出すのだが、属性のイメージをせずに魔力を籠めたらどうなるのだろうか? あくまで魔力を放出するだけなのだろうか?
『無属性魔法という名称で存在します』
「どういうものなの?」
『消費魔力が少なく、他の属性に比べてバランス性に優れている属性です』
あまり概要が掴めないな……。
物は試しと使用してみる事にした。
結構難しいな。
「……あ、出た。これ?」
半透明な白い球体を作り出す事に成功した俺は、他の球と同じように形を変化させた。
すると、他の属性に比べて扱いやすさが一目瞭然なのに気がついた。
『無属性魔法は、文字通り属性を持たない魔法です。物理攻撃が可能な魔法だと思って頂ければ良いです』
「物理攻撃ねぇ……」
どの程度威力あるのかな? と思い、人に直撃したら怪我する程度の威力になるように魔力を籠めて前方に放ってみた。
「あ、そういえば魔法を無効化するから意味無いんだっ「バカンッ!」……あれっ?」
俺の元から離れた魔力の塊は、壁に当たる寸前に結界の効果で霧散――せずにそのまま壁を砕いた。
『この空間には確かに抗魔結界が施されていますが、どうやら対象は『七属性』であって無属性魔法は対象外のようです』
「……そういうのは早く言おうな?」
『以後心掛けます』
ディメアに頼んで壊れた壁を技能で修復してもらい、再び魔法についてを色々と調べたり試したりしたのだが、魔法はかなり奥が深い。
先程までは五つの属性魔法を調べたが、次に残った光と闇を試してみたのだ。
すると不思議な事にこの二つの属性は球体にする事ができず、不発に終わってしまうのだ。
これはルシア曰く『この二つの属性は精神に影響を与えるものが多く、主に肉体へ影響を与える五属性とは性質そのものが違うから』らしい。
しかし、俺がこの世界に転生して初めて戦った『モールスパイダー』を思い出してほしい。あの魔物は俺に七属性の魔法を攻撃用途として使用してきたのだ。それはつまり光と闇も攻撃へと転用しているのではないか?
……という俺の疑問はルシアが解決してくれた。
『あの時モールスパイダーが放っていたものはいずれも精神攻撃です。光属性は『直撃を受けた対象の視覚を一時的に麻痺』させ、闇属性は『直撃を受けた対象の周囲に精神力を吸収する霧を発生』させるものでした』
「意外にえげつなかったんだな……」
続いて魔法の応用とその種類についてを調べた。
これは属性魔法の形を変化させて武器にできるなら、既に存在している武器に属性魔法を纏わせて強化させる事も可能なのではないか? という疑問からきたものだ。
これも可能らしく『魔法付加』というらしい。
『技術が必要ですが、これを利用する事で直接武器を作り出すより魔力も精神力も消費面で遥かに勝っております』
どうやら【電光石火】も見方を変えた魔法付加なんだそう。
ちなみにこれは武器に纏わせるだけではなく、武器を使用する際の補助としても使えるらしいのだ。
例えでいうと……Aが遥か遠くにいるBに対して弓を放ったとしよう。しかし射程外だという理由でBには絶対に届かない。だからこの時に風属性魔法で弓の周囲に気流を発生させ、射程を大幅に上昇させる……これが分かりやすいだろうか。
「……凄いな魔法」
『細かく分類するとまだまだキリがありませんが、これが大まかな魔法の概念です』
もう少し試してみたい事もあるのだが、朝は早いしもう終わらせるか。と実験を切り上げて松明の火を消し、地下牢を後にした。
「……なんで俺の部屋でルーガが寝てるんだろうな」
「んにゃ……zzz」
部屋に戻ると、何がどうしてこうなったのかルーガが俺のベッドで熟睡していた。
仕方無しに椅子を並べて、その上で寝ようと思ったが、全くと言っていいほど寝れなかったのでルーガの隣、空いてる場所で寝る事にした。
(明日は久し振りの遺跡、楽しみだな)
ベッドが丁度良い位に温かくなってたのですぐに寝に入れたのはここだけの話。
オマケ
「……なんで俺の部屋でルーガが寝てるんだろうな」
真相。
「……という訳で寝顔を拝見しに来ましたぁ~……あれっ? ファルちゃんがいないですね……御手洗いでしょうか」
キョロキョロ……。
「帰ってくるのを待ちますか」
ボフン!
↑
ファルのベッドにダイブ
「ふぁぁ……フカフカしてますね……くぅ……」
この数分後、ファルが帰ってくるのであった。