エピローグ
昔、本当に気の遠くなるような昔。
サンマウド王国にはルマンデとジュリアメーンデという若者がいたの。
彼らはすこぶる仲が悪くてね、いつもケンカばかりしていた。
そんなある日、ジュリアメーンデはスーリヤという悪魔に出会い、当時は人に知られていなかった、全てを無に帰する禁断の魔法――黒魔法を伝授されたの。彼はすぐ黒魔法に対して興味を示した。
何にでも興味を持つ性格が祟ったわ。ジュリアメーンデは、どっぷり悪の道へはまり込んでしまった。
それを見兼ねたルマンデは、彼を黒魔法から引き剥がそうとしたのだけれど、ジュリアメーンデは黒魔法に魅入られて身を沈めていってしまった。
やがて、ジュリアメーンデは国王となって大陸を支配しようと考えるようになってしまったの。
彼は、サンマウド王国の人々に虐げられていた亜種族達に慈悲の手を差し伸べ、人間へ反旗を翻すことを扇動して国王を殺そうと考えた。
その浅ましいもくろみを潰すためにルマンデは立ち上がった。ルマンデは騎士団を自ら先陣切って指揮し、徐々にジュリアメーンデを追い詰めていった。
歴史からは削り取られているけどね、二人は喧嘩ばかりしていたけど、本当はとても仲が良い二人だったのよ。ルマンデにとっても苦渋の決断だったことは間違いないわ。
ルマンデの攻撃をジュリアメーンデは亜種族達の力を借りて踏ん張った。スーリヤに与えられた黒魔法という武器もあったしね。
ルマンデは必死に戦ったわ。
強力な黒魔法を操るジュリアメーンデを抑え込もうと、瀕死の状態になるまで剣を揮った。
そんな彼に感銘を受けた天地創造の天使・アーリヤは、ルマンデに加護を与えたの。ジュリアメーンデが使う黒魔法に対抗し得る魔法――白魔法を教えた。その魔法はありとあらゆる傷を癒すことが出来る聖なるもので、王国軍に勇気をもたらしたわ。
黒魔法が破壊や死を司るものなら、白魔法は再生と生を司るものと言えるわね。まあ、白魔法は攻撃魔法ではなかったから、王国軍は黒魔法に苦しみ続けたのだけれど。
――結果的に、戦争はルマンデの勝利で終わったわ。
その後、亜種族達の持つ力を知り、それを恐れた国王は彼らが自治国家を作ることを承認した。亜種族達の自治国家は、のちにプラウディア連邦国と呼ばれるようになった。
ジュリアメーンデが死んだかどうかは、誰も知らないわ。ルマンデは彼を生かしたとも言われているし、殺して磔にしたとも言われてる。
確かなのは、彼らが人々から初代勇者・ルマンデ、初代悪者・ジュリアメーンデと呼ばれるようになったこと。そして、勇者と悪者の名を継承する者が現れるようになったことだけ。勇者となる資格を持つ者はアーリヤの微笑を、悪者となる資格を持つ者はスーリヤの微笑をもらうの。
そのことが伝説として書物に残されるようになった頃、二人の少年が生を受けた。
少年達の名前はルマンデとジュリアメーンデ。あの二人と同じ名前。境遇も性格も意外と似ている二人は、出会った当初から互いに反発しあっていたわ。
彼らはその名前どおりに、勇者と悪者になることを心に決めて成長していたの。
でもね、運命は意地悪だった。
勇者になりたいと願っていた少年・ルマンデは悪者に対抗するためにと黒魔法を学んでいた過程で黒魔法の持つ魅力に取り憑かれてしまい、その道を追うようになってしまった。挙句の果てに天使からの微笑をもらえなかった。
悪者になりたいと願っていた少年・ジュリアメーンデは一人の少女と出会ったことから白魔法に関心を持つようになり、天使から微笑をもらってしまった。ジュリアメーンデには少女の存在が大きかった。彼の心は勇者と悪者の狭間で、激しく揺れていたわ。
本当に、哀れな二人。
自分の進みたい未来への道は固く閉ざされ、自らが最も忌避する道しかない。
ルマンデは悪者になることを受け入れ、唯一の肉親であった伯父を殺したわ。悪者となるには、血の繋がった肉親を殺さなくてはいけないという過酷な試練があるの。そして、天使と同じ名を持つアーリヤという幼馴染みの少女の家族も殺した。
ジュリアメーンデはね、そのアーリヤを守るために勇者になることを受け入れた。
そして十年後、因縁の戦争は起こったの。
まるで、最初のルマンデとジュリアメーンデの時と同じような戦いだったわ。
じわじわと悪者は勇者達を追い詰めて行った。
王国軍は亜種族達の執拗な攻撃に押されて王城へ立て篭もったの。
勇者とアーリヤは王城の近くにあるルマンデ・ポウロ聖堂――昔、初代勇者・ルマンデが初代悪者・ジュリアメーンデを倒したと言われている場所よ――に潜んでいた。でもね、悪者はそこへ入って来たのよ。
勇者と悪者は、そこで剣を交えて魔法を飛ばし合って一昼夜戦い続けたわ。
夜明けが訪れる頃、決着はついた。二人がどうなったか?
それは、それはね――――――。
ああ、もう時間だわ。ごめんなさいね、わたしの愛しい子供達が呼んでいるの。
この話の続きは別の機会にするから許してちょうだい。
大丈夫、きっとまた会えるから。
――ルマンデとジュリアメーンデの物語、今回はこれでおしまい。
《了》
がーっと書き上げたので、のちのち修正するかもです。
これは、刻の軌跡の第一部に当たります。
勇者になりたかった少年が悪者に、悪者になりたかった少年が勇者にっていうメモの書きなぐりから出来たこの話ですが、予想以上に話が広がってしまって……。
地図とか、ジュリアメーンデの父親とかルマンデのその後の動向とか、謎を残し過ぎて、そのまま公募に出すことを憚られたために投稿してみました。
まだ続きは一文も書いていないですが、書き上げたらアップします。
それでは、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
次は『アリスの饗宴~Surface~』に着手しますので、どうぞよろしくお願いします。
2010.09.07〆