第44話 森の中での邂逅 ≪side 美緒≫
≪美緒視点≫
「それでこれからどうするの? 結芽さん、今も苦しそう」
「……そうだね」
うーん。どうしようと言われても、何が最善かを図るのが難しい。
萌黄が訴えるような視線を向けてくる気持ちも、わかる。
現に結芽は今も呻いている。
時々意識を戻すけど、やはり私たちのことを認識できていない。
「少なくとも、完全に目を覚ます前にどうにかする目途を付けたいわね」
体を動かす気力がなさそうなのが、不幸中の幸いかもしれない。
もし、さっきみたいに暴走していたら、対処がかなり難しくなっていただろう。
それよりも問題になるのは……
「佐藤さんの容体は?」
「重傷。だけど、傷の多くは塞がっているから、少し様子見していても大丈夫かも」
「……下手に手を出した方がまずそうね」
ちらりと横たわる彼女へ一瞥すると、頬には微かに血色が戻っているような気がする。
さっきまで肌は白く、体も冷たかったのに。
あぁ、良かった。
誰かが欠けるなんてことにならなくて。
目が覚めたら、色々彼女には話を聞かなくちゃ。
「このまま、あの村へ戻るのはあまりにも無謀すぎる。取るなら、他の手段ね」
「それならどこかに拠点を造る? 簡易的なものなら組み立てられそうな素材はあるよ」
――拠点を造る。
本来、安静にするという条件で言えばそれが一番だ。
「ごめん、その手段を今は使えない。厄介な奴が追ってくるかもしれないから」
「なるほど。それなら一ヶ所に留まる方が危険ね」
意識を失う前に嗅いだあの香り。
ここ最近で何度も嗅いだ記憶のあるあの醜悪な匂い。
私の推測が合っていれば――フラウスのものだ。
今の結芽に彼女を鉢合わせるわけにはいかない。
明らかにこちらが不利になる。
「とりあえず、結芽の精神を安定させる方法を探そう」
「うん、そうしよう。霊力がある程度収まれば、相手も追うのが難しくなるし」
やることが定まったのなら、早速行動を始めよう。
私の持つ【青】の権能でも精神へ干渉できるけど、それは本質的な行使ではない。
どうしても効果が薄まってしまう。
探すなら、より精密な霊術を使える人間を探さないと……。
幻想霊術を扱える幻は別行動しているし、萌黄はそもそも使えない。
できれば話の通じる人がいい。
あっ、一人いるじゃない。
「萌黄。この周辺にある霊力反応で害意のない大きな気配の探知は可能?」
「可能だけど……もしかして、何か手があるの?」
自信をもって『いい方法がある』とは言えない。
私にとっても半信半疑だから。
何せ、結芽のお話の中でしか聞いていないのだから。
『その人が指切り――おまじないをしてくれてから、恐怖が薄れた気がしたの』
火のない所に煙は立たぬと言うし、賭けてみる価値はあると思う。
こんな緊急事態だ。
使える手ならなんだって使ってやる。
「その気配の持ち主がもしかしたら、結芽の恐怖を和らげることが可能かもしれない」
「……探知してみると、かなり近いところに――!!」
「どうしたの、萌黄?! いきなり動かなくなって」
端末を操作する手が止まった瞬間。
何かが、風を切る。
咄嗟に避けると、それはロボットの装甲に突き刺さった。
私と萌黄の前に刺さっているのは、苦無のようなものだった。
あぁ、失念していた。
「どうして、君たちはこの森の中にいるの?」
結芽に友好的だからって、私たちに友好的ってわけじゃないこと。
『藍色の髪に夜の目をした儚げな男の子。右手に指輪を付けた彼が助けてくれたの』
結芽が言っていた通りの見た目だけど、この敵意マシマシのどこが儚げなのよ。
木の上の彼は苦無を自らの手へ戻しながら、再び投げようと構える。
明らかに警戒されている。
ピリついた空気感に何かを感じたのか、萌黄も小型ロボットをいくつか召喚する。
「どうする? こちらからも仕掛ける?」
「しなくていい。それは最終手段」
警戒しているのにも関わらず、攻撃をしてこない。
それならば、私たちが無理に攻撃をする理由はない。
実際、今のこの状況で戦闘をするにはあまりにも不利だ。
「ねぇ、お兄さん。私たちはあなたとは戦うつもりは無いの」
「なに?」
――ほら、この通り。
手に持っている武器を全て装甲の上へ置き、両手を上げる。
言葉よりも行動で示した方が、敵意がないことが分かるでしょ?
その証拠に、彼も武器を持つ手を少し緩める。
「私たちがこの森の中にいるのは、友達を助けてくれる人を探すため」
嘘偽りなく、彼に伝わる言葉を1つ1つ選びながら訴える。
ここで涙なんて流してはダメ。不安を悟られてはダメ。
相手に、見下されるかもしれないから。
「恐怖を抱えて苦しみ喘ぐのをただ黙って見守っていたくはない。だから――」
「いいよ。君たちが探しているのは俺だよね?」
「え? なんで気づいて」
しまった。墓穴を掘った。
慌てて口を塞いだところでもう遅い。
正体を知っているうえで話しているなんて気づかれたら、また警戒される。
「最初から気づいていたよ。でも、君たちは他の人たちとは違うみたいだから手伝うよ」
な、なにそれ。
それじゃ、最初っから全部分かっていたうえで泳がせていたってこと?
じゃあ、何も考えずに正直に言えばよかっただけの話じゃないか。
「ん? どうしたの? 変なものでも見たような顔して」
「い、いや何でもない。とりあえず、その友達の様子を見せてくれる?」
彼の反応が煮え切らないなぁ。
私も何かをごまかすのが苦手だけど、彼もどっこいどっこいみたいだ。
口先では『何でもない』って言ってたけど、明らかに目を丸くしていた。
――一体彼には何が見えたんだ?
木からふわりと降りてきた彼は、結芽を見てヒュっと喉を鳴らす。
やっぱり会っていたのは彼だったのね。
「ねぇ、お姉さん。俺の存在を教えたの、この子?」
「あ……うん。そうよ。私たちが眠りにつくまで、明らかに眠るのを恐れていたの。あなたには感謝していたよ」
やっと、分かった。
結芽が彼を儚げだと評したわけが。
「そっか。そうなんだね」
目をそっと伏せながら結芽の手に触れる姿は、今にも消えゆきそうなほど儚い。
彼が指先から何かを読み取ると、こちらへ振り返る。
「これなら、俺ならどうにかできそう。ついて来て、案内するから」
木々の間を軽やかに飛んでいく彼の後をロボットがついていく。
とりあえず、これからの方針が固まったのはよかった。
あとは、刹那たちの方が成功していることを祈るばかりだ。




