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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
藍の章:静寂を抱くものよ、もう汝は孤独ではない

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第40話 知らぬ過去は悪夢の形を為す

『ここはどこ?』


 確か、私はシジマ村の宿で眠りについたはず。

 それなのにどうして、森の中に突っ立っているのだろう。


 しかも、目に入る体の一部が幼女のものになっている。

 誰かに変なものを食べさせられた記憶もないし……。


 そうなると――


『また、夢を見ているのね』

 

 最近は夢を見ることすらなかったのに。

 よりにもよって、こんな時に見るなんて。


 絶対、目覚めた時覚えているやつじゃないか。

 そして、凄く倦怠感を感じるまでがワンセット。


 はぁ、なんか喋ろうにも喋れていないみたいだし、流れに身を任そう。


「■ちゃん。本当にあたしたち、()へ行けるのかな?」


 背中にとすんと誰かがぶつかる音がする。

 振り返ると、顔は見えないがどこか懐かしい気配を纏う少女がいた。


 不安そうに見上げる彼女は、()の手を握る。


 どう声を掛けるべきだろうか。

 

「□□□、大丈夫。きっと助けは来るから」


 気づけばそんなことを口走っていた。

 何を言おうか迷っていたはずなのに、はっきりと自然に。


 彼女は私を見上げる。

 もう不安そうに震えていなかった。


「だから、()()頑張ろうね。みんなで笑い合えるように」


「うん!■ちゃん、ありがとう」


 彼女は笑って駆け出していく。


 なんとなくその手を掴まなくてはならないと思った。

 放っておいたら、散ってしまいそうに見えたから。


 でも、なぜか私はその手を掴めなかった。


 パチンと、誰かが1回拍手する。


 暗転

 

 

「母様、父様。待っていてくださいね、■が助けるから」


 次に目を覚ますと、暗がりの中に一人立っていた。

 やはり自分の体だというのに、思うがままに動かせない。

 

 錆びた鉄の臭いがツンと鼻の奥を突き刺ささる。

 ハエがブーンと鈍く鳴くのを耳にしながら、目の前にある()へ手を添える。


 温かい。

 まだ微かに温もりがあるそれは、知らないはずの父と母を形どる。


「一緒に、家に帰りたいよ」


 気づけばそんな弱弱しい言葉が零れ落ちていた。

 誰の返事が返ってこないことぐらい、考えれば分かるはずなのに。


 普通に生活していれば、願い必要なんてない些細な願い。

 誰もが手に入れる事が出来る日常。


『酷く、虚しいわ』

 

 吐き出す諦めもまた、声にはならない。


 あぁ、本当にこんな夢、さっさと醒めてしまいたい。

 自分が酷く哀れに見えるから。


 パチンと、もう1回拍手の鳴る音が聞こえる。


 まだ夢は醒めない。



「■ちゃん、あなただけは逃げて」


 あぁ、なんで本当にまだこの悪夢から醒めないの?


 火が轟々(ごうごう)と私の周りで燃え上がる。

 目に入るのは、壁際で頭から血を流して倒れている□□□ちゃん。

 

 辛うじて息はしている。

 けど、唇は青白くなっている。


 人々の悲鳴が混ざり合って、頭が痛い。

『死にたくない』と叫ぶ声、親の名前やこの名前を呼ぶ声に、痛みに喘ぐ声。


「□□□ちゃん? □□□ちゃん!ねぇ、ダメ。やめて」


「■ちゃん……本当にごめん」


 小さな体が、悔しそうに顔を顰めながら倒れこむ。

 彼女の元へ走り出そうと立ち上がろうにも、鎖のせいで足が動かせない。

 

「私、何もできないの?」


 現実世界だったら、どうにかなっていたのかな?

 鎖なら霊力でねじ切っちゃえばいいし、怪我は札を使えば多少は治せる。

 

 この夢の中の私は酷く無力だ。

 

 1人の友達を助けることすらできない。

 自分の境遇を変えるきっかけすら生み出せない。


 燃え盛る建物の中で、床を叩いても何も変わらない。


「だれか、そこにいるの?」


 返事はない。

 でも、ずるずると、何かが這う音がする。


 背後から近づくそれの腕が、ペタリ、ペタリと探る。


 無数の視線を感じて、息が詰まる。


 叫びたかった。

 でも、それすら叶わない。


 巨大な口が、眼前に迫る。


「あ、まだ、」


 ――死にたくない。


 *


「……め。結芽」


 誰かが私の肩を優しく叩く。


 これは夢?現実?どちらなのかが分からない。

 

 今はただ苦しい。

 もしあの夢の続きなら、耐えられない。


 目覚めたくない。

 でも、眠っていたくもない。


「――結芽!」


 肩を思い切り揺さぶられて、目を開ける。


 目の前には酷く心配そうに私を見る美緒が。

 となると、ここは現実?


「……おはよう、美緒。戻って来てたんだね」

「うん、ついさっきのことよ」


 ――そっか、寝坊しちゃったね。

 

 できる限り『いつも通り』を装うと、美緒の顔がさらに青ざめる。


 あれ。これ、返し方間違えちゃった?

 いや、そんなことはないはずよ。嘘は言っていないのだから。

 

「本当に何にもない? あんなに魘されていて、布団が汗でぐっしょりなるぐらいなのに?」


 え? 私、そんなことになっていたの。


 後ろにいる佐藤さんと萌黄ちゃんも気まずそうに頷いているし、間違いなさそうだ。


「本当、本当。目が覚めたら夢の内容、忘れちゃった」


「……そうならいいけど」


 美緒は納得していなさそうだけど、それ以上は追及しない。


「なんか、汗でびっしょりだからお風呂入ってくるね」


 *


「ふーん、レガリアスちゃんでも怖いものはあるんだ」


 村長の家の奥、『眠り神』とされる彼の孫の部屋で一人の少年が嗤う。


 紫色の指をそっと水晶玉になぞらせながら少年が見るのは、宿にいる結芽たちの様子。

 その紅い目の中には結芽しか映っていない。


「おい、アウラン。本当に成功するんだろうな」


 ぶっきらぼうな声を掛けるのは、村で『眠り神』と言われる青年であった。

 その騒々しさは村の中で『最も静かなる者』の姿とは思えない。


 アウランと呼ばれた少年は『本当に馬鹿はうるさくて困る』と、心の中で愚痴りながら青年に笑いかける。


「大丈夫さ。僕はフラウスの阿呆とは違うからね。しっかり成功させるさ」


 彼は思いだす。

 彼女が死にそうな顔で部屋に飛び込んできたときのことを。


()()の手筈はできているんだろう?」


「あぁ、じいさんに頼んだらあっさり了承してくれたよ」


『一体、そんなことしてどんな意味がある』と悪態をつく青年を横目に、アウランはほくそ笑む。


「君は知っているかい? ――人はね、恐怖に支配されたら冷静になんかなれないんだよ」

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