第14話 逃げる4人と、それを見る怪物少女
「分裂するタイプと言うことは親玉を叩いてしまった方が早いですね」
「いやいやいや、今は分析している場合じゃないだろう!?」
――クルイモノ達に追い掛けられてんだぞ!!
大声で叫ぶ幻さんの言う通り、私たちは今クルイモノ達に追いかけられている。
幸い私たちにけがはないけど、さすがに疲れた。
かれこれ10分ほどこうしている気がする。
さっき来た道をずっと往復しているのは気のせいじゃない。
「倒して増えるなんて、卑怯だぁ~!!」
改めて、幻さんの叫び声が屋敷の中をこだました。
*
――10分前
「イタチとハチですか。強さはそこまででも、厄介な仕掛けを持っている場合があります。慎重に行きましょう」
その通りね。特に、この屋敷での場合はそうなるわ。
短くない時間、クルイモノで実験が行われていたもの。
絶対にまともに戦っても倒せない。
何かしらの仕掛けがあると考えるのが妥当ね。
ここは、攻撃を相殺しながらどうするかを考えるか。
「グルゥオオオ」
イタチが唸ると、小さな竜巻が放たれる。
1つ1つはそこまで威力があるものじゃないけど、確実に体は切れてしまうだろう。
風を切るなんて芸当できないから、ひとまず身を翻して避ける。
その振り向きざまで、一刀両断する、はずだった。
「え? 再生しているの?」
「……違う、あれは分裂している!!」
斬った後のクルイモノが崩壊せずに静止している。
その体が波打った瞬間、切れ目を縫い合わせるように分裂するのだ。
なにそれ、おかしいでしょ?
これでは斬ったら斬った分だけ、私たちが不利になる。
ここは仕方がない。
「せ、戦略的撤退~!!」
*
「はぁはぁ。うまく撒けたか?」
「そのようですね。敵は僕たちを探しているようですが、認識できていないでしょう」
「良かったぁ。俺、幻を見せる霊術が得意なこと、すっかり忘れてたよ」
幻さんはそうおちゃらけるけど、その眉間には皺が寄っていた。
血が流れる腕を押さえる彼を一瞥しながら、刹那さんは思案する。
その目には私たちを探す敵の姿があった。
「あのクルイモノ達、知性があるようですね。これは厄介なことになった」
確か、クルイモノは『肉体を欲する』と言う本能でしか行動しないはず。
だから、どれだけ力があっても、理性無き獣のような行動しかできないのだ。
でも、今私たちの横を通り過ぎるクルイモノ達は群れを成して動いている。
本能のまま動くだけなら、仲間割れでも起こしそうなのに。
そうじゃないから、恐らく『集まって行動した方がいい』と考える程度の知性はありそうだ。
「治癒の霊術を使ってもいいですが、それを使ったら最後、確実に敵に見つかりますね」
見つかるのだけは絶対にダメ。
これまで頑張ってきたことが全部水の泡になってしまう。
どうするのが一番いいのだろう。
「あ。もしかしたら、この本に書かれていないかな?」
「その本は、ここにあった本ですか?」
「うん、ここで行われていた実験の記録が書かれているから、ひょっとしたら医務室とかの場所分かるかもしれない」
だって、クルイモノを使った実験でしょ?
絶対に1回や2回ぐらい怪我をしていたりしてもおかしくない。
こんな山奥でかつ、人に言えないような実験をしていたもの。
病院にかかるのはほぼ不可能だ。
「ビンゴ!! 地図があった。あと、クルイモノは2階には入ってこないと書かれているわね」
「となると、目指すは2階ですか」
ただそうは言っても、階段への道はクルイモノに塞がれているのよね。
けがをした幻さんを背負ったまま突っ切るのはリスキーだ。
「私が幻を連れていくよ。それで、刹那と結芽が敵陣を切り拓いて」
その手があったか。
美緒がゆっくりと立ち上がって、パランディンを顕現させる。
パランディンは美緒と幻さんの2人を抱きかかえ、階段の方へ飛んでいく。
2人が無事2階のどこかの部屋に入ったことを確認して、武器を構える。
「刹那さん、敵を倒さずに無効化する方法って何かある?」
「あるにはありますよ」
「なら、刹那さんはそれを使って。私はとにかく敵陣を突っ切っていくから、私が合図を出したらジャンプして」
こくりと頷く刹那さんを確認して、私は敵陣の真横の壁を走り出す。
とりあえず、階段が見えるところまでは走り抜けたい。
敵は私の姿を認識しているようだが、攻撃することは叶わないようだ。
「罰を受けなさい」
彼はその手に握った紫電を纏った槍を敵に向かって振り下ろす。
すると、敵の胸部で紫色に光る花の模様が波打ち、敵は動けなくなったようだ。
その隙に階段へ跳躍した私は、鞄から人型の札を取り出した。
口づけして、その札に霊力を宿らせると、ひとりでに動き出す。
上手くいった!! これならば……
「刹那さん、手を伸ばして!!」
「はい!!」
よっし、刹那さんの手から出る霊力をつかめた。
それを自分の方に引き寄せると同時に、札を投げ飛ばす。
その瞬間、刹那さんと札の位置が入れ替わった。
「中々に独特な浮遊感でした」
「すみません。酔いませんでしたか?」
「大丈夫ですよ」と微笑む刹那さんの様子にほっと胸をなでおろす。
本当によかったぁ。
人と札の組み合わせでやってみたの初めてだった。
だから、どうなるか不安で爆発しそうだったけど、成功してよかった。
「とりあえず、2人と合流しましょう」
「それも、そうね。あの右の部屋の方から二人の気配がするわ。行ってみましょう」
*
「うーん、思ったよりもレガリアスちゃん、強いなぁ。ちゃちゃっと倒して、『レガリアス・カード』を回収したかったけど、一筋縄じゃ行かないみたい」
屋敷のある一室から、一人の少女が結芽と刹那の様子を一瞥していた。
2人が相対していたクルイモノの目を通して見ていたのだ。
体を揺らしながら唸る少女のそばには1人の老人の死体が横たわる。
「まぁ、でも大丈夫っしょ。ウチの方があの子よりも強い」
自分に言い聞かせるように言った少女は窓の外に咲く花を見る。
咲いている花は汚れ1つない白百合だった。
誰にも気づかれないように窓から外へ出た彼女は周囲を見渡す。
憎らしいほどに眩い白が辺りを覆っていたのだ。
毒々しい紫色の肌が花に触れると、一度腐敗したかと思うと毒々しい色の花を咲かせる。
愛おしそうに花を摘み取ったと思うと、彼女はその花を握りつぶす。
「どんな風にあの子はウチを楽しませてくれるかな? 今からすごく楽しみで仕方がないよ」
少女はその黄金色の瞳を爛爛と輝かせながら結芽への思いを馳せる。
どんな声で喋るんだろう? どんな術を使ってくるんだろう?
――どんな顔を見せてくれるんだろう?
彼女はうっとりとした顔で、これから起こることを夢想する。
しかし、その中で彼女はある事実に気づいた。
「でも、周りにいる奴らは邪魔だから、それだけは排除しないと」
その長い白髪のツインテールを揺らしながら、少女は再び屋敷の中へ入っていった。




