第9話 カベルの思惑 【カベルside】
ーーカベル視点ーー
「ねぇカベルゥ。明日は武闘会でしょ? 優勝する自信はあるのぉ?」
猫のように甘えた声を出したのは、愛しい婚約者ミィネルである。
ベッドに横たわり、俺の胸に顔を寄せたまま、ピンクサファイヤのように輝く髪を指で遊んでいた。
「私ぃ。優勝者と結婚したいなぁ〜〜」
と、たわわな胸を俺の体に押し当てる。
ふふふ。
こいつは目立ちたがり屋なんだ。
富と名声に目が無い。
彼氏が王都で有名になれば、彼女にとって、それはもう良い自慢話になるだろう。
そんなところも含めて、本当に可愛い奴だ。
「勿論。俺が勝つに決まっているじゃないか。優勝トロフィーと賞金はおまえに捧げるよ」
「賞金っていくらなの?」
「1億コズン」
「まぁ! そんなに!!」
1億といえば、俺の年収、5年分だ。
そんな大金を全額渡すわけにはいかんがな。
「2人で山分けしよう」
「あは! 期待してもいいかしら?」
「ああ、勿論さ」
「きゃはぁ! 嬉しい」
「ふふふ」
彼女は武闘会のパンフレットを見た。
「これにはさ。あの子も出るみたいよ?」
「ああ、あのデカ女だろ?」
「プフーー。そう! あの身長がバカデカイ女!」
武闘会には俺の元恋人、デカ女こと、ロォサが出場することになっていた。
「でもさ。あのデカ女は騎士でしょ? ゴリラ並みの筋力を持っているんじゃないかしら?」
「ぬは! ゴリラとかウケる! その表現ナイス!」
「きゃは! だって、女の癖に騎士団長とか生意気って感じだもん」
「だよな。強い力を見せびらかしてる感じで鼻につくよな」
「強いって噂は城内では有名だけどさ。本当なのかしら?」
「所詮は女。デカいだけさ。女性を気遣う王室が、あのデカ女を甘やかしているだけさ。まぁ……。力はゴリラ並みかも知れんがな。さしずめ、デカゴリラ女か。ウホウホ」
「キャハハ! デカゴリラ女!! ウケる!!」
「あ? ウケちゃったかな? 私、ロォサウホ! バナナが大好物ウホ!」
「キャハハハ!! お腹痛い!!」
「クハハッ! 本当、ガチでゴリラだよ。あの女はさ」
「んもう! どうしてそんな女と付き合ったのですか?」
「ははは。単なる興味心さ。味見味見」
「んまぁ。お戯れが過ぎますわ!」
「ははは。おかげでゴリラを飼い慣らす飼育員の気持ちがわかったけどね」
「きゃはは! ウケる!!」
「ロォサとは戦ったことはないが、猛獣を飼い慣らす腕は持っているさ」
「あの女は目障りだからね。もう病院送りにして、回復魔法でも治らないくらいにめちゃくちゃにしてやってよ」
「えらく目の敵にしているんだな?」
「だってぇ。城内の侍女とかには人気が高いんだもん。かっこいい女、なんて持て囃されてさ。王都でもいい噂ばかり。デカゴリラの癖に! ふん!」
「ふふふ。だったら仕方ないな。君のためにも猛獣討伐といきますか」
「あはーー! 期待してるわよ、カベル♡」
俺はミィネルを寝かしつけると、部屋を出た。
向かうは、明日の武闘会でタッグを組むパートナーの部屋。
そこは料理の食べかすが散乱していた。
それでもまだ、テーブルには山盛りの料理が乗っている。
食事をしているのは背の高い男。
髪は茶色でボサボサの長髪。瞳は丸く大きくて、鼻は高い。
体はがっちりとした筋肉質。
スーツでも着ればそれなりのイケメンだろうに。着ている服装といったら魔物から採取した毛皮である。
「おい。ベアート、明日の準備は万端なんだろうな?」
「ああ。任せておいてくださいよ。ご主人様」
そう言って、酒樽持ち上げると、そのままゴクゴクと飲み始めた。
「ぷはーー! 最高ぉお!!」
あの酒樽、本来ならば大人の男が4人で持ち上げる代物。
それを1人で持ち上げるなんて、凄まじいバカ力だ。
それにしても飲み過ぎだろう。
大会の前に酔い潰れる気か。
「おい。もう飲むな。明日の武闘会に勝てば、酒はたらふく飲ませてやる」
「はーーい。承知しました、ご主人様」
素直なのは取り柄か。
筋肉バカと言っても良い。
ベアートは豚の丸焼きをかじり始めた。
「ガツガツ……ゴクリ」
まったく底なしの胃袋だな。
「大会に女が出るのは知っているか?」
「へぇ……。知らなかったです」
「ロォサというんだがな」
「ああ、 薔薇騎士団の団長だ」
「知っているのか?」
「そりゃあね。なにせ美人ですから」
「ふん! 好きなのか?」
「まぁ、おいらは美人に目がありませんから」
ククク。
丁度いい。
ロォサは何かと面倒な女だ。
城内では腕利きの女騎士と持て囃されている。
戦略会議で出くわすこともあるしな。
なんとかして、いなくなって欲しいと考えていたんだ。
こいつを利用してやろう。
「ベアート。ロォサと結婚させてやってもいいぞ?」
「え!? 本当ですか!? 流石は男爵様だ!」
ククク。
男爵の俺には、2人を結婚させるほどの力はない。
だが、そんなこと、バカなこの男にはわからんだろう。
「ただし、結婚できるのは試合に勝ったらだぞ」
「そりゃあもう。おいらに敵う奴なんか王都にいませんよ」
ロォサに大怪我をさせれば騎士団長は引退だ。
そこに大男の求婚が入れば絶望間違いなし。
あわよくば王都を出ていくかもしれん。
良い作戦だ。
「でも、おいらのことを好きになってくれますかね?」
「それはお前の情熱次第だ」
「情熱?」
「男は強引に押してなんぼなんだよ」
「へぇ、そうなんだ。おいら強引に押すのは好きですよ」
「ふふふ。彼女を倒して強引に自分の物にしろ」
「強引にロォサと結婚。ふふふ。いいですね」
そう言うと、豚の骨をバリバリとかじって食べてしまった。
やれやれ。猛獣だな。
俺は本当に猛獣使いになってしまったのか。
「ふふふ。期待を裏切るなよ」
「結婚かぁああ」
ベアートは、再び酒樽を掴み上げてゴクゴクと飲み始めた。
「プハァアア!! ロォサと結婚……。ふふふ」
「だから飲むなというのにぃいい!!」
「へへへ。大丈夫ですよ」
そう言って、また肉料理をガツガツと食べ始めた。
底なしの胃袋。
この食べる仕草といい豪快さといい、まるで熊だな。
ククク。
ゴリラと熊の結婚か。
こりゃあ、見物だぞ。
武闘会は2人1組のタッグマッチ。
戦闘は基本こいつが前線だ。
俺は高みの見物といこう。
ベアートがいれば優勝したも同然。
俺には名誉が手に入る。
目障りな女も処理できて一石二鳥。
ククク。
明日の武闘会が楽しみだ。
本日まだまだ連投します