第16話 ベアートのプレゼント
明日はアリオスと買い物である。
伯爵である彼になにかあれば大変だ。
よって、護衛のルート確保と、部下の待機場所の事前調査は必須なのである。
彼曰く、「武闘会の優勝者を襲うもの好きはいないですよ。ははは」と気楽に笑う。
確かに、私は騎士団長だしね。
それに私より腕が立つのがアリオスだ。
でも、一応、念には念を。
「ロォサ様と買い物なんて久しぶりですよ」
と私の横にいるのは部下のベスターニャである。
彼女と街を歩くことにしたのだ。
「一応、事前調査だからな。私は買い物はしないが、お前は楽しんだらいいさ」
「えへへ。そうさせていただきます。じゃあ早速、服屋に行きましょうよ」
武器屋じゃないのか……。
彼女には18歳の旦那がいる。
その彼にプレゼントを買うらしい。
「夜は冷えますからね。厚手の生地を買うんですよ」
旦那に温いパジャマを作るという。
裁縫が得意の彼女らしいな。
私にはチンプンカンプンだ。
「これもいいし、この生地の色も素敵。どっちがいいと思います?」
「どっちも素敵ね」
「えーー。迷っちゃうなぁ」
やれやれ。
これは時間がかかりそうだ。
護衛のルート確認は私一人でやろうか。
私は、彼女と待ち合わせを決めて、1人で街を歩くことにした。
細い路地をチェックしている時だった。
スカートの裾を釘に引っ掛けて破いてしまったのだ。
「あちゃぁ……」
ベスターニャに直してもらおうか……。
そんな時である。
「「 あ! 」」
と、バッタリ出会ったのはボサボサ髪の長髪男、ベアートだった。
獣の毛皮をジャケットにしたワイルドな風貌。
丸く大きな瞳をキラキラと輝かせる。
周囲には若くて可愛い街娘たちを3人も連れていた。
「ロォサだ!」
うう、「ベアート……」
街中で出会うなんて最悪。
彼は武闘会で私に求婚してきた男だ。
ワイルドな見た目で無骨な感じなのにモテるのね。こいつ……。
でも、関わりたくないわ。
「あ! 待ってくれよ」
と、私を引き止めると、周りの女子たちが騒ぎ始めた。
「美人ーー! ベアートのいい人?」
「凄い綺麗な人じゃない。ベアート誰なのよ?」
「紹介しなさいよ。ベアートォ」
彼は笑って誤魔化した。
「ははは。ちょっとね。彼女と2人で話したいからさ。ごめんな」
そう言って女の子たちを帰らせた。
いや、私は話すことなんてないぞ。
「ははは。改めてこんちには。ロォサ」
「あなたと話すことなんてないわよ?」
「そう言うなって。おいらは改心したんだからさ」
改心?
「あなたみたいに、節操なしに女に求婚する男を信用しろってのが難しいのよ」
3人も可愛い女の子を連れてさ。
強引に自分のものにしているのだろう。
やっぱりイケメンってのは遊び人が多いな。
「さっきの子たちは単なる友達だよ。別に好きなわけじゃないさ」
「はいはい。どうだかね」
「勝手に寄ってくるんだよな。別に求めてないんだけどね」
こ、こいつ……。
無自覚にモテるタイプか!
ピュアな感じだからそうなのかもしれない。
「おいらはさ。へへへ。ロォサに夢中なんだ」
こういうことをサラリと言う!!
「わ、私はあなたに興味はない!」
「あれ? スカート……。ほつれてるね」
「こ、これはちょっとそこの路地でね……。でも、あなたには関係ないわよ」
「ははは。そういうのは任せといてくれ」
そう言って、持っていた、ずた袋から裁縫道具を取り出した。
はい?
私たちは人目のつかない路地にいた。
ベアートが私のスカートを縫って直してくれているのである。
「できたぁ」
「………あ、ありがと」
綺麗な縫製……。
「あ、あなた、裁縫得意なの?」
「まぁね。着てる服は全部、自分で作ったんだ」
その獣のジャケットも自分で作ったのか……。
めちゃくちゃ器用じゃない。
羨ましい。
私はどちらかというと苦手だからな……。
薔薇騎士団で人形を作る遊びをしていたことがあったっけ。
私が作った人形は渾身のできだったんだ。
『できたーー!』
可愛い女の子の人形を作れたと思ったんだけど。
部下たちは、
『『『 ひぃいいいい!! 呪いの人形ぉおおお!! 』』』
そう叫んでいたっけ。
確かに、顔がちょっと怖かったな。
目がチグハグで、唇と歯のつもりが、血のついた牙に見える。
それ以来、裁縫関係はやらなくなったんだ。
ベアートが縫った後は完璧だった。
修正の跡が見えないほど綺麗である。
「えっとさ……。これ、もらってくれないかな?」
そう言って、ベアートはずた袋の中からクマのぬいぐるみを出した。
それは手の平サイズの可愛いクマちゃん。
キュン……。
うう!
つぶらな瞳、物言わぬ口。
きゃわいい!!
こ、これは……?
「ベアートが作ったの?」
「へへへ。武闘会の時はさ。怖がらせちゃっただろ? だからさ。そのお詫び」
うう……。
「ずっと渡そうと思って持ってたんだ。へへへ。まさか、今日会えるなんて思わなかったな」
プルプル。
こんな可愛いぬいぐるみを見たのは初めてだ。
で、でも、これを貰うわけにはいかないわ。
だって、
「あなた、カベルの部下なんでしょ? 貰うわけにはいかないわよ」
「もう辞めたよ。あの人、なんか性格悪いからさ」
「……そうなんだ」
確かに、カベルは底抜けに性格が終わっている。
じゃあ、別に貰ってもいいのかな……。
「貰ってくれる?」
「し、仕方ないわね」
そう、仕方なしよ。
「良かったぁ。じゃあ仲直りだ」
え?
彼は右手を差し出した。
うーーん。
まぁ、握手くらいならいっか……。
と、握った瞬間。
彼は私の体を引き寄せて、ガバッと抱きしめてきた。
「ロォサァアアアアア!」
「ちょちょちょちょ! ちょっとぉおおおおおお!!」
お、襲われるぅううう!!
「こ、こ、こ、こういうことはしないんじゃなかったの!?」
「あ……。そうだった。ごめん」
彼は直ぐに離れてくれた。
「えへへ。ロォサが可愛いからさ。ついね」
ああ、ビックリした。
心臓が止まるかと思ったわ。
「こ、こういうことしたら嫌いになるわよ?」
「ご、ごめん! もう絶対にしないから!」
彼は大きな瞳を潤ませた。
まるで、助けを求める子熊のような顔である。
ああ、飼育員になった気分だ。
「今度さ。寄宿舎に遊びに行ってもいいかな?」
「ダメ」
「ははは。絶対行くからね。楽しみにしててよ」
「絶対に来ないで」
「ははは。またねロォサ」
彼は満面の笑みで帰っていった。
ああ、厄介な奴に好かれてしまったな……。
でも……。このクマちゃんのぬいぐるみは……。
きゃは!
きゃわいい!!
「そのぬいぐるみ、どうしたんです?」
と、ベスターニャは小首を傾げる。
私は顔を整えた。
キリリ〜〜。
「うむ。私のファンからな。貰ったんだ」
「へぇ……。ファンから……。えらく可愛い……。なんだかロォサ様には似合いませんね」
「まぁ、仕方がないよ。無碍に断るわけにもいかんしな。ははは」
部屋に飾ろっと。
次回最終回です




