【第14話 正式配属】
アインとツバイが酒場に居た
「聖王国の魔女裁判の話を知っているか??」
アインは木製のコップに入った酒を、煽って言った。
「若い女が火あぶりになったんだろ、宗教国家は酷いことをやるよな」
「魔女って、何をしたんだろ?」
「魔法を使っていたって話だよ」
「時々聞くけど、本当に魔法ってあるのか?」
アインは少し真面目な表情になって、ツバイに向き直る。
「あるに決まっているだろ、俺たちが理解できない力なんて、そこら中にある。俺だって使えるぜ。」
「うそだろ!」
「ツバイは、指先から雷が出たことないか?」
「あるわけないだろ」
「冬の乾燥した日に、家に入ろうと扉のノブを触ろうとしたときに、バチッて光った事あるだろ?」
「あったわ・・・・雷なんて神の力か天竜の咆哮だと思ってたけどな。」
「呪文で大きな力が発揮されているよな。」
ツバイは聞き入るように、先を促す。
「言葉の力は、誰でも使っている。その言葉で泣かすことも、心を溶かすこともできる。それは使う者の力の大きさで結果も違ってくる。俺の言葉では誰も動かないが、王の言葉なら国を亡ぼすほどの軍力が動く。これも、目に見えない不思議な力だろ。」
「先日の処刑された魔女は、人を惑わす言葉の力を使ったと言う話だ」
「まてまてまて、そんなこと言っていたら、男と女で会話できなくなるだろ」
「な、酷い話だろ」
「酒を飲んで気分がよくなるのも、不思議な力だよな」
ツバイが気分を変えるように、笑いながら言う。
「ばか、それは酒の力だ」
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今日も、訓練場に乾いた土の匂いが広がっていた。
マックスはゆっくりと後足を踏み替える。
引き締まった筋肉が、静かに収縮する。
ミレイは記録板を抱え、突撃訓練の走路脇から全身を観察していた。
昨日の気付き。
着地の変化。
それが一時的なものか、定着した変化かを確かめる。
「直線加速から障害越え。三本」
号令。
マックスが走り出す。
地面を蹴るたび、後足が深く沈む。沈んでから、押し返す。動作が途切れない。
以前は踏み込んだ瞬間に硬さがあった。
今は違う。沈み込みが滑らかで、重心の移動が自然だ。
ドドドド、バァァァン
障害物の岩を飛び越える。
ドン
着地した時に、膝が柔らかく折れ、そのまま前へ流れる。衝撃が一点に集まらず、分散している。
--間違いない、膝で吸収してる……
ミレイは小さく息を吐いた。
二本目。三本目。
屈伸の幅がわずかに広い。だが不安定さはない。反発が強く、加速に繋がる。
背に跨るカイルも違いを感じていた。
着地の衝撃が、突き上げにならない。鞍越しに伝わる振動が丸い。腰に溜まる重さが減っている。
--楽だ
右脚に意識を向ける。
以前の鈍い圧迫感がない。無理に踏ん張らなくても姿勢を保てる。
最後の高めの障害柵。
助走。
沈む。
ジャンプ。
一瞬、視界が開ける。
着地と同時に深く沈み込み、そのまま弾くように前へ出た。
乱れない。
ミレイは記録板に素早く書き込む。
着地時屈伸増加。
衝撃分散良好。
反発効率向上。
訓練終了。
カイルが降りる。
「こいつ、変わったな」
自然に出た言葉だった。
ミレイも頷く。
「見ていて、走りが軽いわ」
「助かる」
短い会話だが二人とも理解している。
これは偶然ではなく、マックスが進化している。
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午後、カイルは庁舎に呼び出された。
石造りの廊下は静まり返っている。扉の前で一度深呼吸し、ノックした。
「入れ」
走竜隊隊長と軍務局書記官が座っている。
「カイル。正式命令だ」
机上に書状が置かれた。
「走竜隊特別班への配属を命ずる」
特別班。
「走竜隊は十班編成だが、新設されるこの班は実質第十一班となる。走竜隊の既存班とは異なる運用を前提とした特別班だ。」
胸の奥がわずかに軋む。
飛竜騎士になる目標、それは心の奥で燻っていた。
--本当にこれでいいのか?
答えはすぐに出なかった。
夕暮れ、訓練場の外で空を見上げる。
高空を飛竜が旋回している。翼が光を受け、ゆるやかに弧を描く。
--あそこに立つはずだった。
何度も思い描いた姿。
だが自分は地面にいる。
夜、寝台に横たわる。
特別班は前線投入を前提とした編成だ。実戦部隊。
飛竜騎士ではない。
だが――戦場には立つ。
脳裏に浮かぶのは、今日の訓練の感触。
沈み込む後足。
跳躍の軽さ。
着地後、すぐに次へ繋がる流れ。
マックスの進化は、空へ向かってはいない。
地面で戦うためのものだ。
--俺は、どこで戦いたい?
問いは単純だった。
空を飛ぶことか。
戦場に立つことか。
答えは、静かに決まった。
翌朝。
「受諾します」
隊長室で、はっきり告げた。
隊長は一瞬目を細め、頷く。
「特別班、今日付で発足だ」
庁舎を出る。
訓練場にマックスがいる。
後足で立ち、こちらを見る。飛べない竜。だが地を踏み締める力は強い。
カイルは近づき、鞍に手をかける。
跨る。
重心が落ち着く。
背の感触が、もう他人のものではないと分かる。
これまでは、どこかで飛竜への未練を残したままだった。
だが今は違う。
空へ行くための代替ではない。
地上で戦うための相棒だ。
首筋に手を置く。
「マックス」
はっきりと呼ぶ。
竜が低く応じる。
「走るぞ」
マックスが踏み出す。
沈み込み、返す。
揺れはあるが、ぶれない。
カイルは手綱を握り直す。
飛竜騎士ではない。
だが戦場に立つ騎士だ。
空ではなく、地面から。
特別班。
その最初の一歩が、訓練場の土を確かに踏み締めた。
【あとがき】
時代設定が中世の9世紀ころなので、未知の力や現象がたくさん存在しています。
カイルは覚悟が決まりました。
次回から物語が加速します。
第15話 「地上で戦う理由」




