13 こんなメンバーで大丈夫かよ
というような訳で、おれたちは改めて惑星ゴエイジャーを目指して航海を続行することになった。
イガグリ、いや、マーロン大佐にどこまで情報を公開するかについては、彼が乗船する前に全員で話し合ったが、瞬間移動装置(仮)については当面伏せ、あくまでも遮蔽しつつ宇宙のサルガッソー海の裏ルートで来た、ということで押し通すことにした。
そのため、バーチャル古井戸氏には引っ込んでもらい、ヘルプボタンも封印した。
その際、位置と時間を確認したら、宇宙海賊に包囲された場所より約八十光年先に進み、日にちは丸四日経っていた。
最高速度で一日に進める距離は二十四光年だから、結局、瞬間移動装置(仮)を使った方が遅くなっているのだ。
なんじゃそりゃ。
だが、荒川氏はその数字を見てホッとした顔になった。
「良かったのう。これでマーロン大佐の疑いも晴れるじゃろう」
「うーん、それはどうでしょう? おれたちが突然現れたことは間違いないですからね」
すると、ドクター三角が「その辺りは、ぼくが上手く誤魔化すさ」と唇を歪めて笑った。
得意げなその顔を見て、おれはこいつを絶対信用しないぞと、改めて心に誓った。
これで準備万端整ったかと思いきや、シャロンが「そう言えば」と首を傾げた。
「おばあさまのところに留学してたから、たぶん大丈夫とは思うけど、彼が日本語をしゃべれないと、ちょっと面倒ね。あたしだって、クリキントン語なんて、単語をいくつか知ってる程度よ」
そうなのだ。
通信用スクリーンには船本体の人工知能が直結されているため、知られている大抵の言語は自動翻訳してくれるのだが、ウオークニャンのような小型の端末には、星連に加盟していないクリキントン語用のものなどないからだ。
念のために本人に聞いてみたら、《おそらく、おぬしよりは正しい日本語を話せるぞ》との返事。くそっ。
そんなこんなで、ようやくマーロン大佐をジュピター二世号に迎え入れることになったが、彼の体格では一番大きな船長用の椅子を明け渡すしかなく、おれは倉庫にあった折り畳み式のディレクターチェアに座った。
情けない話だが、デカすぎる船長席より、こちらの方がずっと落ち着く。
まるで映画監督になったような気分で、改めて乗組員を眺めると、苦笑せざるを得ない。
荒川氏は天狗さまとして大空を飛んでいた頃の闊達さがなくなり、単なる発明好きのおじさんにしか見えない。
その荒川氏と何故か意気投合したように見えるドクター三角は、どうも腹に一物ありそうだ。
プライデーZは、時々突拍子もないことを仕出かすが、ロボットだけにナビゲーターシステムとの相性はいい。
チャッピーはアーマースーツを脱げたことが余程嬉しかったのか、あるいは、もう一度着せられたくないからなのか、おれに纏わり付いて離れない。
新加入のマーロン大佐は、それなりに遠慮しているのか、何も口出しせず、おれたちのやることを静かに見ている。
そして……。
「そろそろ自由浮遊惑星帯に入るわ。みんな、モニターやセンサーのチェックをお願いね」
ってか、それは船長の仕事だろ!
だが、おれ以外の全員が、まるで当然のようにシャロンの指示に従って動いている。
と、シャロンの視線がおれに止まった。
「何してるの? あんたもちゃんと仕事しなさいよ」
「いやいやいや、おかしいだろ! この船の船長はおれだぞ!」
「だったら猶更じゃない。クルーが一生懸命働いているのに、自分はドンと座ってるだけなんて、今時そんなリーダーは要らないわ。管理監督者に残業が付かないのは、楽をさせるためじゃないのよ」
「なんじゃ、そりゃ。ここは会社か? おれは物わかりの悪い上司か?」
すると我慢できなくなったのか、プライデーZが声を上げた。
「給料上げろ~! 有給休暇を増やせ~! 社員旅行は温泉だ~! 無礼講で、ええじゃないか~! ええじゃないか、ええじゃないか、ワッショイ、ワッショイ!」
その時、ダーンとデスクを叩く音がして、全員がビクッとなった。
みんなの視線の先には苦笑したイガグリ、いや、マーロン大佐がいた。
「おお、すまん。虫がいたかと思ったが、われの錯覚だったようだ。どうぞ続けてくれ」
そう言われても、さすがのプライデーZでさえ鼻白み、黙ってしまった。
おれも態度を改め、「シャロンの言うとおり、ここから先は難路だ。みんな気を付けよう」と調子を合わせた。
だが、またしても大音量の非常放送が始まったのだ。
《緊急事態発生! 緊急事態発生! 進路上に国籍不明の不審船を発見! 高速で当船に向かって来ている! 総員直ちに警戒配備につけ! 繰り返す! 緊急事態発生……》
ついさっきまでの燥ぎぶりが嘘のように、プライデーZが「通信が入りました。スクリーンに映します」とビジネスライクに告げた。
前方スクリーンに映った姿を見て、おれは思わず「またおまえかよ」と呟いた。
しゃべる裸のマネキン、プラスチックボーイである。
《やっと見つけたぞ。四日前、われわれの一斉砲火をどうやって逃れたのか知らんが、おかげでわたしは海賊ギルド上層部の信頼を失い、大幹部から外され、哨戒艇の艇長に格下げされてしまったのだ。この恨み晴らさで置くべきか。覚悟しろ!》
「光子魚雷砲にロックオンされました。回避不可能です。シールドアップします。衝撃に備えてください」
ビジネスライクすぎるよお~、と思ったが、そんなことを思っているヒマはなかった。
ドーンと衝撃があり、ミシミシと船体が軋んだ。
「すぐに第二波が来ます。衝撃に備えてください。続いて、第三波」
「おいっ。報告はいいから、何か反撃しろよ!」
「武器は搭載されていません。第四波来ます」
その時。
「出しゃばるつもりはないが、ちょっとわれに話をさせてくれぬか?」
マーロン大佐だ。この際、仕方ない。
「わかった! プライデーZ、通話チャンネルをオープンにしろ!」
「アイアイサー、キャプテン!」
スクリーンに向かってマーロン大佐が吠えた。
「われはクリキントン帝国第七艦隊総司令のマーロン大佐である。おぬしが本物のプラスチックボーイなら、帝国の星際指名手配犯だ。無駄な抵抗はやめ、神妙に縛につけ!」
「第五波、第六波、もうどんどん続けて来てます、来てます。船が保ちましぇ~ん」
どうすんだよう~。




