38 特命スキルちゃん
ひとまず地図アプリでネコノメの全域を確認し、生活の場にする地域を決める。そこをスキルちゃん達が整地を行い、キトキト馬車を下ろして休憩した。
ネコノメは大陸にくっ付いた島のような土地で、一番端にはじわじわ溶岩を垂れ流している火山があるよう。
とにかく山が多い土地みたいだし、そのうち山の管理と治水も考えないといけないかしら……。
わたしは一番大仕事だったゼルなんとかの素材化に成功したので、すっかり気が楽になったのだけど、奈々美さんはそうではないみたい。なにやら考え込んでから、アシャールさんに聞いていた。
「浄化スキルは信仰に左右されるんですよね? でもそれを使うなという事は、もう力づくで破壊するしかないんでしょうか?」
勇者の魔石のことだわ。
シャワー後のマリーシェラさんの髪を魔法で乾かして、アシャールさんは首を横に振った。
「あれは物理の力では破壊出来ないものです。力技が利くなら、とっくに誰か破壊していますよ」
「でも私の〈外殻装甲〉では、浄化は出来ませんよね?」
「……さて。本当に出来ないならそもそも〈聖女〉の称号は付かないものですよ。奈々美さんにしかできない方法が、きっとあるのでしょう。香子の〈素材採取〉も普通は魔物や魔導具、ましてや他人の魔力やスキルまで素材にしないものです」
「使い道のあるものは、すべて素材です」
わたしは静かにそう述べた。スキルちゃん達がそう思っているので。るるんららん。
「主もおっしゃっていましたね、はじめに香子に与えられたスキルはごく平凡なEー1の素材採取スキルだったと。ただ奈々美さんの場合は特殊スキルなので香子のようにはいかないでしょうが、スキルを使用していくという基本は変わらないはずです」
そうそう。やっぱりスキルはどんどん使っていかなきゃなんやちゃ。
「とりあえず勇者の魔石は、わたしの素材収納空間に保存しても、スキルちゃん達や他の素材にも影響がないみたいだから、あわてなくても大丈夫よ」
「すみません香子さん。私がなんとかしなくちゃいけないことなのに」
「なーんやよ、なーん。奈々美さんが一人で背負い込むことじゃないがやよー」
そうしてその晩、夢の中でまたあの人に会った。
リシャールさん。
いつもの魔導具を採取した時の残留思念体より、存在がしっかりしているように感じるわ。
だけどその背中には、フェイ族の特徴の翼がない。わたしが香子エディションにしてアシャールさんにあげちゃったからかしら?
「やれやれ、見つかっちゃったか」
「リシャールさん、翼と助言ありがとう。でもここは……? わたしあの後、魔導具は素材にしてないのに」
「魔導具は、ね」
わたしは、はっとした。
リシャールさんの最期はゼルなんちゃらに食べられたのだったわ……。
「まさかあのゼルなんちゃらを素材にしたから?」
「そ、今回は僕の魂そのものだ」
そこは静かな空間だった。何もなく薄暗い。
ふいにリシャールさんは、くっと笑った。
「僕を食べたゼルヴァスヘルベインは、僕の願い通り世界を滅ぼそうとした。だけど召喚された初代勇者が、命懸けで自分の魔石に封印しちゃったんだな」
わたしは黙って耳を傾けた。
「ゼルヴァスヘルベインを封じた初代勇者の魔石は、何千年にも渡って他の勇者の魔石とともに世界が滅びそうな厄災を呼んだ。この世界は文明が壊れては立て直すを繰り返すばかりで、君達の世界のような目まぐるしい発展は出来なかった」
リシャールさんは俯いた。
「僕の所為で」
なんと声をかけていいのか途方に暮れていたところに、扉の開く音がした。バン。
あり得ない場所のあり得ない音に、わたしだけじゃなく、リシャールさんも顔を上げる。
その瞬間、とても見覚えのある青い光にリシャールさんは包まれた。
「……これは!」
うっそ。扉の向こうから、うちのスキルちゃん達が上機嫌に出て来たわ!!
『リシャちゃんのスキル、いただきるるん』
素材採取スキルちゃんがそう言うと、リシャールさんのスキルらしき輝きが、生活魔法スキルちゃんのお口に吸い込まれていった。
『ごっくん。ららん』
「え? 食べたの? 素材として使用するんじゃなくて、ごっくんしたの?」
スキルちゃん達は頷いた。
リシャールさんを包む素材採取の光は、いつの間にか結界のようなものに変質しちゃってるし。
当然、彼はパニクってる。その前にわたし達、なんかシリアスな空気作っていたはずよね? 確か。
「え? なに? これが君の言っていたスキルちゃん?! なんで姿があるわけ?」
「え? わたしのこと、自分のスキルを意味なくちゃん付けする痛い人だと思ってたの?! リシャールさんだって、スキルが臍曲げるとか言ったくせにぃぃ」
リシャールさんは、視線を逸らしたわよ。
「普通身体の中の心臓や血管に、独特な姿があるとは思わないだろう?!」
「心臓や血管はちゃんと独自の形を持ってるんだから、スキルちゃんに姿形があってもおかしくないじゃない!」
「ああもう、あのくそ親父の“お気に”なだけあるよ。君は!」
リシャールさんは自身を囲む結界をコンコン叩く。
「まあ、僕はもう魂だけだし、スキルはあげても構わないけど、ここから出してほしいな」
「スキルちゃん?」
スキルちゃん達は揃って首を横に振った。
『スキルちゃん達はライちゃんからリシャちゃんを「イスターム」に連れて帰る特命を受けたの!』
『リシャちゃんのスキルはその報酬だよー』
イスタームと聞いて、リシャールさんはバツが悪そうな顔をした。
「スキルちゃん、イスタームってなに?」
『イスタリオの近くにある、ライちゃんの家族専用の時空なの』
「「ライちゃん……」」
わたしとリシャールさんの声が、思わずハモる。
「スキルちゃん、ライ様は神様だから、ちゃんじゃなくて様って呼ぼうね?」
スキルちゃん達は、ちょっと困ったように、ぷるぷる首を振る。
『ライちゃんがそう呼んでくれないと、泣くって……』
わたしとリシャールさんは揃って言葉を無くした。
そうこうしてるうちに、スキルちゃん達は入ってきた時と別の扉を開ける。
あの向こうがイスタームというところなのかしら。
わたしは大体理解してしまった。スキルちゃん達、農園のイスタリオ空間通ってここに来たのね。きっと神域だからどこにも繋がれるのよ。
『えい!』
スキルちゃんが球状の結界ごとリシャールさんを転がすと、それは真っ直ぐイスタームへの扉の中へと消えていった。
リシャールさんが何やらライ様に対する不敬な言葉を叫んでいたけど、わたしは何も聞かなかったの。
『特命完了! るるんららん』
スキルちゃん達は揃ってバンザイをする。
わたしはこの機会にスキルちゃん達を順番に抱っこして撫でた。ふんわり軽く、微かに感じる空気の抵抗感が、その存在を主張しているの。不思議な感触だわ。
「ところでスキルちゃん、スキルは本人の資質に合ったものじゃないと良くないんでしょ? 他人のスキルをごっくんしちゃって大丈夫なの? どこか痛いとかない?」
ライ様が下さるっていうなら、大丈夫なんだろうけど、一応確認しておく。
『大丈夫だよー。もう消化しちゃったの。これでアシャールさんと、お家造りもバッチリできるるんららん』
「そっかー、お家楽しみにしてるから、よろしくね」
スキルちゃん達は満面の笑みで手を振って、イスタリオの扉へ戻っていった。わたしもついほっこりと笑顔になっちゃう。
リシャールさんの魂が、行くべきところに行ったのだ。もう完全に成仏でいいのよね。よかったわ。
神物級の魔導具を造るリシャールさんのスキルだもの。きっと魔導具造りのスキルよね。生活魔法スキルちゃんに消化吸収されちゃったみたいだし。
この時のわたしは、勝手にリシャールさんのスキルが〈魔導具造り〉かそれに関係するスキルだろうと簡単に考えていたが、主神の息子たるリシャールさんのスキルは、当然特殊スキルでも希少なものだったのだ。その影響は特に違和感なく、徐々にスキルちゃん達に変化を与えていった……。
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