36 ネコノメへ!
「許可が降りましたわ!」
「キットトー」
マリーシェラ妃は満面の笑みで戻ってきた。
「叔父様の監視役が必要でしょうと進言したら、即決でしたわ。アシャール叔父様、カオリコさん、ナナミさん、私、パーティ猫の目に入れていただけますか?」
わたしと奈々美さんは、視線を交わしあって頷いた。
アシャールさんは、そっとミケ子を持ち上げて、マリーシェラさんの前に持ってくる。
「どうしますか? ミケ子さん」
「みゅう」
あ、これはよしやちゃ。
「ではマリーシェラ、ようこそ猫の目へ」
「ええ、ええ、頑張ってお仕事させていただきますわ! まず報酬のことから決めましょう」
流石、アシャールさんの姪っ子だわ。押さえるべきところを、きちんとしている。
そうよねぇ、わたしと奈々美さんじゃこの世界が日給制なのか月給制なのかもわからないし、確かに冒険者以外の交渉役とかも必要なのかも知れない。
わたしはそっと、マリーシェラさんの横にスマホを置いた。
「どうぞ。マリーシェラさんの分です。パーティの支給品ですよ」
「あ、あ、ありがとうございます!!!」
マリーシェラさんは、満面の笑顔になった。かわいい。これはかわいい!
叔父と姪が雇用関係について話し合っている間、わたしはちょっと失礼しておトイレに立とうとした。侍女さんにおトイレまで案内してもらおうと思ったら、アシャールさんが高速で適当な一部屋に、テントの時に使っていたおトイレを設置してくれたの。
我が夫の理解が深い……。
とりあえずわたしは、スキルちゃんに頼んで、原価の安いスマホを作るのに必要な素材とコスト計算をしてもらう。わりとすぐにグループトークにスキルちゃん達からの結果が届いた。
スキルちゃんに原材料を買うという選択肢はなく、素材は採取。その殆どが元ティグノルの地であるネコノメにあるようだった。
わたしは追加でノクレイ製のスマホを二台作り、紋章ではなく、シンプルな猫の目のロゴマークと名前を入れたものを、リリーティア妃とセシリア妃に渡す。
離れていても、マリーシェラさんの様子がわかるように。
そして試作機と同じアイアンリザード素材のスマホを一台、春さんに渡してもらう。スマホの使い方は彼が詳しいのでと言っておくと、困った時にもなんとかなるだろう。
なんでも春さんは、リリーティア妃が部下にグランヒュームやケモリアの様子を探らせていた時に、その部下さんが迷い人だと気づいて、スカウトのかたちで保護して来たらしい。
アシャールさんはこれでもう用件は無しとばかりに立ち上がった。
「とりあえず、スマホ事業もネコノメでじっくり腰を落ち着けてからになるので、そろそろお暇しますね」
「ちょっと待ちなさい。貯蔵庫は?」
リリーティア妃の静止など聞かない。それがアシャールさん。
「それもまた、猫の目の事業として改めて。先に家と農園を整えてからです!」
マリーシェラさんは自身の荷物はすっかりアシャールさん作のマジックバッグに詰め終わったよう。長い白銀の髪を三つ編みにして、わたし達と同じズボンとチュニック姿だ。百年以上誰の手も入ってない土地だから、ドレスやスカートだと、足元を怪我しちゃうかもしれないからね。
「お母様、はやくライトモのアカウント作って下さいね。それに猫の目は週休二日制なので、可能な限り会いにきます。セシリア姉様にも」
母娘はしっかり抱き合って、別れを惜しんだ。
マリーシェラさんが馬車に乗ると、キトキト馬車は空を駆け上がった。
「とりあえず三階建てにしようかと思っています」
ネコノメがシュベルクラン皇国から外れたので、リガルさんの紹介状を書いてくれた職人さん達が仕事をしてくれるかわからない。いざとなったら、アシャールさんは自分で建てるつもりらしい。
「四人で三階も要る?」
「一階は居間や調理場、書斎など共有の場ですね。そして二階は私と香子、三階は奈々美さんとマリーシェラ、それぞれの寝室や衣装部屋、それにトイレと御所望のお風呂とやらです」
「叔父様、きっとお姉様や大叔父様も訪ねて来られますわ。客間が必要ですわよ」
「やはりそう思いますか。では敷地をもっと広げますか。そういえば、奈々美さんはトレーニングルームを御所望でしたね。こちらも各階に設けましょう」
トレーニングルームがそんなに必要かしら? ううん、お太り様のわたしがそんなこと口に出しちゃいけんちゃ。冬はウォーキングも出来ないし、きっと必要なんやわ。
わたし達が、呑気に家について話してる間、奈々美さんはライ様の神像を前に祈りを捧げている。めっちゃ真剣に。
ネコノメでの計画はこうだ。
1 まず元凶である元勇者の心臓魔石を掘り出す。
まあこれは、わたしの素材採取スキルちゃんの役目ね。
2 そしてそれを奈々美さんに渡し、浄化もしくは破壊してもらう。
だから奈々美さんは今真剣に祈りを捧げてるの。浄化スキルは信仰心によるものらしいので。
3 ゼルなんとかっていうドラゴンを素材にする。(正解はゼルヴァスヘルベインです)
わたしはもう、そいつを素材にして、その心臓と脳みそをあの皿で食すと決めたのよ。ノクレイでナイフとフォークも準備済みよ。
4 土地全体の浄化。
これはアシャールさんの神官らしいところを見せていただくのだ。
5 ひたすら開墾、宅地造成。
はいはーい。ここもわたしのスキルちゃん達の出番ですよ〜。
6 建築開始
言わずもがな。
5、6あたりで、職人さん達を呼べれば良いんだけど。
そしてこの辺りはサウナみたいにして身体を温めることはあっても、お湯に浸かる文化はないらしい。つまり、誰もお風呂を作った事がないのね。
まあきっと、なんとかなるちゃね。
そしてとうとう、ネコノメの上空に来た。
なんだか黒い霧に包まれてて、如何にも不吉な感じ。
でもスキルレベルが上がったのと、地図アプリのおかげで、馬車内でも魔石の位置はしっかりわかる。ここからでも採取出来るわ。
そう思った瞬間に、素材採取スキルちゃんのロックオンな光が無数に現れた。
それらが魔石と一緒に素材収納空間に入った途端に、眠気に襲われて、わたしはテーブルに突っ伏した。スヤァ。
「やあやあ、また会ったね」
ライ様に似た、フェイ族の青年が見下ろしている。
「リシャールさん……なんで? あ、勇者の魔石のせい?」
リシャールさんはふるふると首を横に振った。
「前回君が採取した魔導具の試作品さ。ゼルヴァスヘルベインに粉々にされた、そいつのカケラを香子のスキルが採取したんだよ。意識してなかったのかい?」
「してないわ。きっとスキルちゃん達が必要だと思ったからやったのね」
「自分のスキルを随分と信用してるんだなぁ」
「してますよー。本当に頼りになるし、大好きだもの」
リシャールさんは微かに笑った。
「では僕の親愛なる好敵手に、助言を。聖女のスキルはまだ魔石を完全に浄化するにも、破壊するにも力不足だ。彼女の特殊スキルは、かなり怠惰だからね。君が魔石の穢れた魔力を一旦素材として預かり、聖女の特殊スキルで徐々に浄化させるんだ。間違っても、親父の浄化スキルになぞ頼ろうとするな。特殊スキルが臍を曲げるぞ」
え? じゃあ今、思いっきり臍を曲げてるの? 奈々美さんのスキルさん。
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