21 アオリハへ
ふと奈々美さんが真剣に考えごとをしている。
「アシャールさん、一般的なレベルってどのくらいなんですか?」
「一般的……ですか? 難しい質問ですね。そもそもレベルというのは、その人が得た経験を数値化して成長の目安にしたもの。ステータスの伸び方も個人差があるのですよ」
アシャールさんはチラリとわたしを見た。
「香子はワイバーンを5千体以上素材にしてしまっているので、レベルも300前後まで上がっていると思われますが、ステータスに関しては、体力と物理攻撃力はそれほど変わっていないかと」
レベル……そんなに上がってるがけ?!
わたしは自分のステータスを鑑定する。
「本当だわ。体力がずっと20だったの、25になってる!」
わたしが喜ぶと、奈々美さんは慌てた。
「ちょっと待ってください。レベル300ですよね? 私いまレベル27で体力は1200以上あるんですよ?!」
「ふむ。大体の戦士職だとそのくらいが平均ですね。奈々美さんは心配せずに自分は一般的な範囲だと思っていて下さい」
「奈々美さんは戦士職じゃなくて聖女よ」
ここ、大事だと思う。聖女なのですよ。
「香子さん、防御はしっかりしてくださいね!」
「大丈夫よ。ライ様の加護があるもの。それに体力はパナマ草茶とお散歩でも上がるしね」
嬉しいことに、スキルレベルが上がって品質が上がったパナマ草茶で順調に内臓脂肪と体脂肪が落ちているようなの。お腹周りがちょっと変化して来たのよ。
「まあとりあえずレベルに関しては、人族の場合、よほど戦場に出ているか、多くの魔物を駆除しているのでなければ、30台にそうそう上がるものではないので、奈々美さんの場合はスキルを使用することでもレベルの経験値になっているようなので、やはり規格外のスキルですね」
「それを言うなら、香子さんのスキルでは……」
奈々美さんはちょっと困惑気味だ。
「素材採取のスキル自体は珍しくないですよ。普通はそのスキルでここまでレベルが上がらないので、使用者が規格外なのでしょう」
「……わたしはスキルちゃんの声に従ってるだけですよ?!」
それから、一番誘拐されやすそうなムウには、迷子防止魔法を付与したおリボンとベル付きのワイバーン革の首輪を造って付けておく。
ピホにはアシャールさんが黄金の足環を造ってあげた。「ピホ」と名前が彫ってある。
ミケ子は長毛で首輪が埋もれるから、生まれたままの姿だ。自力で帰還出来るスキルもあるしね。
✴︎ ✴︎ ✴︎
アオリハの上空を空飛ぶ大きな馬車が横切った。その光景は各地で話題になった。
そしてそれが首都の神殿に着陸した時、もちろん神官達が総出で迎えてくれた。決して、歓迎の意味ではなく。
「馬車を引いてたのは馬じゃないのか……?!」
「角がある魔物じゃないか!」
「デカい車体だな……まさかグランヒュームの軍用馬車か?!」
馬車の扉が開き、軽装から神官服に着替えたアシャールさんが、先に降りますよ。
スキルを込めて汚れを落とした、真っ白に輝く自慢の神官服です!
アシャールさんの黄金の髪が映え、まさに神の使いのごとくの美しさ。
一瞬あたりの空気が静まり返ったあと、悲鳴が爆発した。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「アシャールだ! なんで生きてるんだ?!」
「ひぃぃ、主よ助け給え!」
「主よ!」
「主よ!」
……えっと、その主が助けろと言った神官さんなんやちゃ、こちら。
馬車が降り立った時よりも、賑やかかつ、明らかな悲鳴が聞こえるんですけど?
わたしと奈々美さん出づらいわぁ。
アシャールさんは、よそ行き顔で綺麗に微笑んだ。
「おやおや。こんなに歓迎していただけるとは。私が不在の間、皆さんしっかり主を讃えていらっしゃいましたか? ハンカチは常に携帯していますか? 賄賂を受け取ってバレたりしていませんね?」
爽やかな笑顔が、一瞬で不穏な笑みに変わる。
「それでは治癒の腕がどれだけ上がったか確認させていただきましょう」
ゴゥと魔力の圧が放たれると、周囲にいた神官さん達の白い服が切り裂かれ、赤く染まっていく。
「がぁ!」
「うぅっ」
アシャールさんは優雅な足取りで彼らに近づく。
「治癒が遅い! 防御も遅い!」
「ぐぇう」
一人、蹴られて飛んだ。
と思ったら、次々と犠牲者がでてくる。
現場は阿鼻叫喚だった。
わたし、何を見せられているのかしら……。
「広範囲治癒どころか治癒すらまともにできないとは! 自己研鑽を怠っては死ぬのは自分達ですよ。神官の仕事をのんびり神殿に来た者に治癒を施すだけと思ってはならないと常に言っているでしょう」
白髪のお爺さんが慌ててやってきて、死屍累々たる神官さん達を一気に治癒した。
「すごい……」
奈々美さんが呆然と呟く。
神官さん達は慌ててお爺さんに膝を付いた。
「その傍若無人ぶり……間違いなくアシャール神官のようだ」
もしかしてアシャールさん、あれが通常運転なの……?
「大神官様、ただいま帰還いたしました」
「……神託では確かに勇者召喚が行われたとあった。……ならば、お前が生きているはずがないだろうアシャールよ。私の前でお前が偽物でない証しを立ててみよ」
お爺さんが大神官なら、アシャールさんより立場が上のはず。だけどアシャールさんは、大神官のお爺さんに、まるで弟子か孫でも見るような優しい微笑みを見せた。
「こちらの聖婚の印をご覧下さい。これこそが正常なフェイ族しか成し得ない主の祝福。まさに私が私である証でしょう」
あ。なんかすごく静かになったわ。
「いや、それ、一番信じられんわ!!!」
大神官様は叫んだ。
アオリハの神殿は、グランヒュームのそれに比べて、荘厳かつ清冽な雰囲気があった。ここは主神ライフォート様だけを祀る神殿とのこと。
大神官様は眉間に皺を寄せた。
「お前が結婚するなど、生きて帰ってきたことより信じられんわ。一体何の冗談だ」
「主がわたしの元に運命の相手を導いて下さっただけですよ」
アシャールさんはさも当然のように言うけど、いや、ライ様もそんなつもり無かったと思うよ。全然。……多分。
わたし達はまず、ライフォート様にお参りさせてもらうことにした。大神官様自ら案内してくれる。
ミケ子やキトキトコンビをはじめとする魔物達が付いて来るので、神官さん達の視線で穴が開きそうなのだわ。可愛くて珍しいから見ちゃう気持ちわかるけど。
この神殿のライ様は立派な石像で、どこぞの崩壊した神殿と違って掃除が行き届いているわ。それだけでこの神殿の好感度だだ上がりやちゃ。
わたし達は全員、手を合わせて祈りを捧げた。
「ブハハ! 香子、君本当にやってくれたね!」
あ、この笑い方。ライ様ですね。
「キトキト!」
「キトキト!」
「ピホウ!」
「ムきゅう!」
森のたまご出身者が、こぞってライ様を取り囲む。
「はいはい。みんなちゃんと加護をあげるからね」
大神官のお爺さんが呆然と呟いた。
「ここは……まさかイスタリオ?!」
そこは神像のある広間ではなく、緑の草原と澄み渡る青い空がどこまでも広がる主神ライフォート様の領域だった。
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