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スキルちゃん爆進⭐︎おばさん、気づけば異世界で最強夫婦してました (旧:ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜)  作者: 天三津空らげ
6章 ただのおばさんです

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20 一悶着

 ケモリア王国は獣人が多く、素朴で良い人達が多かった。

 どの町の様子も実用重視の装飾の少ない建物や道具が多く、自然と人々の助け合いが身に付いている。それほど裕福な国ではないとも聞いていたので、周囲で協力し合うお国柄なんだろうな。


 約十日かけてケモリアの王城に辿り着いたわたし達を、王と王妃は歓迎してくれた。

 トラブルもなくワイバーンの代金と報償金をいただいて、わたし達は心おきなくアオリハへと向かった。


 ――わけではなかったがいちゃ。



「わたくしを攫って下さい! 神官様」

「お断りしますね。己の目的のために、さらっと相手を犯罪者にしようなんて女は、まともな男は相手にしませんよ。男とは女性以上に損得を計算するものです。それが出来ない時は下半身の欲望に支配されている時です。そうなればどうなるか想像は出来ますか」

「どうなるんですの?」


 王女はアシャールさんの腕にしなだれかかれ……なかった。アシャールさんは素早く距離をとり、こっちに走ってくる。英断ですね。だが王女も負けじと追いかけて来た。

 走って。


 オイオイオイ……一国の王女がドレスであんな走っていいものなの? 流石獣人、足が速いわ。

 でもそれより足が速いアシャールさんも、どうかしてない? やっぱり足の長さなの?


 出立の準備をしていたわたし達の前で、とんでもない場面が展開しているよ。

 それにしても、結婚してる男に妻のいるところでこんなこと言うお姫様は、確かに国王夫妻の悩みの種よねぇ。


 実は事前に王妃様から、こちらの第四王女について注意喚起があったのです。


 なんでも、一年前に出会ったアオリハの商人と恋をして、別れ際にお相手が立派な商人になって迎えにくるよと言ったきり音沙汰がないらしい。

 まあだから、わたし達がアオリハに向かうので、付いてこようとするかもと。


 一緒に連れてってじゃなくて、攫ってって言った時点で、深読みすぎるかもしれんけど、「わたくし旅の間何もしませんわよ。おもてなししてね」という意思が透けて見える気がした。いや、わたしの警戒心が行きすぎてるだけかもしれんけど。


 お世話をするのが嫌というわけではなくて、そういう心根の人だと、予測できない困ったことを起こしそうで警戒しちゃうのよ。

 アシャールさんはまだ衰弱状態なのに、こんな立派な馬車まで造ってくれましたからね。わたしがフォローしきれないことには手を出したくないの。


 狼獣人のとても綺麗な王女様だから、いっときは王女の美貌に舞い上がって下半身優位になった男が、国に帰って冷静になったら王女と一緒になるためにかかる資金その他諸々の損得勘定して、王女のことを忘れることにしたに違いないわ。

 わたしも王妃様と同じく騙されたと思う派です。


 それに王女様はまだ十代。恋に恋するお年頃で、親の反対には反発するものよね。

 とにかく十代の恋は理屈じゃなく“燃える”ものだもの。


 とりあえずわたしの頭の上のピホにスマホを渡す。このひよこ、どういうわけか翼を手のように使って、器用にスマホ操作するがいちゃ……。謎だわ。

 それに飛ぶ。なんか翼以外にスキル的なものも使って。綺麗でかわいいから、なんでも許すけど。


 雛鳥特有の羽毛っぽさはなくなったけど、ひよこみたいなボディはそのままなの。しかも黄色い小さな嘴に、丸っこい頭部とつぶらな黒い瞳の配置が絶妙にかわいいを作ってるのよぉう。頭部にぱやぱやした若草色から金に光る羽毛が立っててふわっふわだし。



 フェイ族対若き獣人族のレースはなかなかの見どころ……姫さまがんばれー、なんて声も聞こえるわ。がんばっちゃっていいんけ?

 ピホはスマホのライトで巧みに王女の視界を眩ませながら、アシャールさんを援護した。

 流石に王女様は、侍女さん達に捕まって、アシャールさんは無事キトキト馬車に乗り込んだのよ。


「連れてって!」


 王女様の叫びが聞こえる。


「あの人に、会いたいのぉぉ!!!」


 それを振り切るように、馬車は空をかけた。




「一瞬アシャールさんに心変わりしたのかと思ったけど、そうじゃなかったんですね……」


 奈々美さんが浮かない顔で呟いた。


「たとえ相手の男が本気だったとしても、期限のない約束をしておいて手紙一つ寄越さないのは不誠実です。そんなの王女様がかわいそう……」


 わたしはムウ乳入りのパナマ草アイスミルクティーを配る。


「そうね。いっそアシャールさんに心変わりしてくれた方が良かったわよね」

「私に懸想したところで、応える気は一切ありませんよ」

「だからよ。スッパリ終わりにできる恋になるじゃない。今の区切りのつかない状態よりマシじゃないかな?」

「あー……確かに!」


 奈々美さんはムウを撫でながら、頷いた。そしてちょっとせつなそうな顔をしたわ。


 わたしもいっそ、そんなに会いたいなら会わせてあげればいいのにと思うのだけど、王と王妃が良しとしなかったのだから、他人が口を突っ込むことではないわよね。


「おそらくケモリア王家でも相手の男の素性を調べているはずですよ。よほど王女に近づかせたくない相手だったか、もう死んでいるかの二択でしょう」


 特に興味なさそうにそう言うと、アシャールさんはわたしを見た。


「このことはさっさと忘れてアオリハでの予定を話し合いましょう」


 アシャールさんは通常通りドライだ。騒動に巻き込まれた張本人だというのに、何事もなかったような顔をしている。長く生きていると切り替えがはやくなるのかしら。


「アオリハは商業主体の国家で豊かです。その分色んな人種が多く、ケモリア王国のように国民気質が親切で配慮のある方ばかりとはいきません」


 うん、この国の人達、口が悪かったり無骨だったりしても、皆気が利いて親切だったわ。……だからわたしは、春さんも上手くやっていけると信じたい。


「まずこの子達は珍しいので必ず目をつけられます。冒険者も乱暴な方がのさばっていたりします。勿論それに対処する警備隊などもいますが……」


 アシャールさんは垂れ(ぎぬ)付き菅笠を取り出した。


「街中ではなるべくこれを被って歩きましょう。香子(かおりこ)は足が遅いので、絡まれること自体無い方がいい」


 あっ、ハイ。そうですね。正論です。


「ピホウ! ピオウ!!」

「え? ピホが守ってくれるん?」


 まだこんな小さいひよこなのに、健気やわ〜。


「そういえばピホだけ、『他者を傷つけない』とはなってなかったですね……ヤレますか?」

「ピホウ!」


 アシャールさんの言葉に、ピホは元気に綺麗な声で鳴いた。

 え? ピホさん、こんなに美しくかわいいのに、物騒なの?


「それからまずアオリハに着いたら、私は神殿で所属を離れてシュベルクランに帰還する手続きをしますので、それが完了するまで数日アオリハの首都に滞在することになるかと。宿の心配は要りませんよ。神殿の内にこの馬車を停めておけば大丈夫でしょう」


 すでにアシャールさんは理解していた。わたし達がもうここのトイレ以外使いたくないことを。


「アオリハではワイバーンはどのくらい買い取ってもらえるかしら」


 わたしはちょっと心配になった。

 実は採取したワイバーンの数、5千体くらいあるのよね。お陰様でわたしのスキルは一気にSS-6まで上がっちゃったのよ。まあそのおかげであの魔導具との対戦に勝利できたんだろうけど。


 ちなみに、あの魔導具を採取したあとは、SSS-2になったそうです。スキルちゃんからの報告でした。


「流石に全部は無理ですね。百はければ良いところでしょう」


 ケモリアでのワイバーンの買取価格、2体で1千万ダルだったのよ。

 こちらは奈々美さんが討伐したので、奈々美さんの取り分にしてもらった。

 別途頂いた報奨金はパーティの資金……猫の目貯金にしてある。

 ワイバーン100体売れれば、単純に5億ダルか……。大きな取引だけど。


「売れるかなぁ」

「売れるでしょう。脳みそと心臓が完全に新鮮な状態でありますしね。普通は討伐したその時に食さないと無駄になってしまう貴重な部位なのですよ。今夜調理しましょうか?」

「食べたことない部位だから、まだ勇気が出ないの」

「では、新居が出来上がった時にでも、調理しましょう」


 新居……ドキドキしてきたわ。

 本当にワイバーン素材を売って、家を手に入れることってできるのかしら。ここまで順調に行き過ぎてて、なんだか逆に不安だわ。


『大丈夫』


 わたしの不安を感じて、スキルちゃんがそっと囁いた。

 そっか、大丈夫か。


 わたしみたいに弱くて根性もない人間が、こうやって異世界でまだ生きてること自体が奇跡だもんね。

 馬車の窓から空を眺める。なんて青くて綺麗なんだろう。


 そして冷静になった。


 ……なにもかも順調にってことはなかったわ。ついさっきも一悶着あったじゃない。

 でもきっと大丈夫なんだわ。

 アシャールさんがいて、奈々美さんがいる。スキルちゃん達もいるし、きっとなんとかなるんやちゃ。

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