ういさんの物語 8話 人間を超越した存在2
人間からは、魔物の一種として捉えられている半透明の元人間、思念体の集団が、
北方の巨大遺跡に集結してから3ヶ月が過ぎた。
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リーダー格として振る舞う 精霊使い 緑の衣を纏ったエレメンタルマスターは
一同を広場に集め、演説を行った。
「皆がここへ集ってから、3ヶ月が過ぎた。
この拠点もだいぶ様変わりした。また、各自、研鑽を行い様々な成果を得てきたと思う。
他にも気になった変化や不満などもまとめて、この場で各自発表を行って欲しいと願う。」
「了解した。では、私から発表させてもらおう。」
そう言ったのは、赤と白の鎧に身を包んだナイトの思念体。
広場に集まった思念体を前に、一歩前に躍り出た。横にドラゴンが見える。
「ドラゴンを一体、飼いならす事に成功した。次は騎乗まで飼いならすつもりだ。」
「おおー!」「やるな。」「さすがだ。」「ドラゴンナイトだね。」
評判は上々だった。
「次はアルケミストの私が発表しよう。新しいキメラの合成に成功した。」
そういうと、黄色の派手な衣装で着飾ったアルケミストが、
軟体動物に羽が生えた奇妙な生物を紹介した。
「さすがだね。」「やりおるわ。」「なんだこれは。」「珍獣だね。」
称賛の声が上がった。
次に、聖職者の思念体達が前に躍り出てきた。
「私達は、各地のダンジョンに出向いて、人間に滅ぼされた魔物達をすべて救済して来たわ。」
「ええ、ものすごく大変だったけど、すごく良い仕事をしたと思うの。」
「ただ、足りないものがあって。・・・そう聖水が足りないの。聖水自体は作れるのだけど、
容器が足りなくて。人間の街で買わないと行けないけど、私達の身なりでは・・・ね。
だから、もし、空き瓶があったら、集めてきて欲しいの。」
「なるほど、不足物資があるわけね。了解したよ。」
緑のエレメンタルマスターが答えた。
次に、漆黒の衣を纏った ウォーロックが前へ出て、話し始めた。
「暗黒魔法のさらなる研鑽を重ねた結果、未知の魔法の開発につながった。
ただし、まだ実験中のため、ミステリーイリュージョンと名付けている。」
「おお。」「さすが魔術師」「ミステリーね!」
こちらも評判は良い。
「次は・・・ハンターさん、どうぞ。」
緑のエレメンタルマスターが指名した。
「我々ハンターの思念体は、狩りの対象に飢えている。このままでは、魔王軍に突撃するか、
人間の街を襲いかねない。自制してはいるが、限界が来そうだ。」
「まずいね。アサシンさんは、どう?」
「我々も同じだ、暗殺する対象に飢えている。」
「なるほどね。狩りの対象を、本格的に決めなければならないか。」
そのように、各職業の、3ヶ月間の成果や問題点を洗い出して行った。
最後に、緑のエレメンタルマスターが話をした。
「みんなありがとう。現状は理解出来たし、すばらしい成果も上がっている事は確認出来た。
さて、ここでみんなに紹介したい人が居る。さぁこちらへどうぞ。」
すると、一人の人間が現れた。白いスーツを着こなした30台と思われる長髪の男だ。
「はじめまして、思念体のみなさん。私は 企業「欲望の導くままに」に所属する
世界転覆本部情報漏洩課の アチカです。」
「みなさんの素晴らしい成果を拝見させて頂きました。そして、問題も多数伺いました。
我々から提供できるものが多数あります。また、我々も必要とする技術があります。
そこで、我々との技術提携をご提案したい。」
「我々を恐れていないのか・・・。どのような提案を?」
上半身裸のブラックスミスが身を乗り出して聞いて来た。
「まず、空き瓶は大量に製造可能ですので、こちらは無償提供致しましょう。
また、人間の街でしか入手できないような素材等、必要な物資も提供しましょう。
こちらは手数料含めて料金を頂戴したいところですが・・・。
ただ、人間の通貨は持ち合わせていないでしょうから、その分、技術協力頂きたい。」
「鉄が足りない。皮は手に入るが、大量の鉄、ミスリル、そして貴重な鉱石の類が欲しい。
武器・防具の製造に不足しているのだ。どうしても入手したい。」
「私達の研究所では、生体と機械を組み合わせた通称「BOT」と呼ばれる機械人形の製作を
推進しています。が、まだ発展途上です。
そこで、是非ともブラックスミスさんには技術協力をお願いしたい。
いや、むしろ、我が社に来て頂けませんか?」
「スカウトは、遠慮願いたい。我々思念体一同、協力体制を構築しているところなのでね。」
緑のエレメンタルマスターは即座に断った。
「俺は、武器などの製造が出来ればそれでいいんだが。まぁいい。」
「続けさせてもらいますね。あぁそうそう、そこのアルケミストさん。
あなた私達の研究所から姿を消したマッドサイエンティストのエナミッシュではありませんか?」
突然、過去の記憶を失っていた思念体の一人の素性が判明した。
「えっ、私・・・あなたの企業の研究者だったの? まったく記憶にないのだけれど。」
「記憶がなくなってしまうようですね。あなたの胸に付けているバッジ。
それ、「欲望の導くままに」の企業のシンボルマークです。それが何よりの証拠です。」
「えっ、これ・・・?」
見ると、胸に「淀んだ液体に、ハートマークを重ね合わせたようなシンボル」が描かれた
バッチを付けていた。
「どうして、あなたが思念体になってしまったのか、それは私も知りません。
実験途中での出来事だったのか、社内に残っている記録を見ても、わかりませんでした。
とはいえ、技術力はさらに磨かれているようですね。引き続き、技術協力をお願いしたい。」
「わかったわ。色々な素材の提供を頼むわね。自分で集めるの大変だから。」
「さて、もうひとつの問題、狩りの対象ですが、我が社で研究製造している
通称「BOT」、すでに試作段階の物は出来上がっています。
これを提供しますので、是非、狩りや暗殺の対象として見て下さい。
姿形は、様々に用意できますが、試作段階の物は、赤い鎧を着たナイトさんに似たタイプです。」
「えっ、俺?」
ナイトは驚いていた。
「半透明ではないので、区別はつくはずです。機械っぽいですし。
AIの動作がまだおかしい上に、スキルも使えない。
まだまだ、改善が必要ですが、戦闘を重ねて、性能を向上させるテストに使えます。
そのため、それらをこちらの遺跡に数体侵入させますので、是非撃退して見て下さい。」
「なるほどね。」「非常に楽しみだ。」「ぞくぞくして来た。」
ハンターとアサシンは、喜んでいるようだ。
「反応は上々のようですね。では、今後、技術提携して頂けるという事で、よろしいでしょうか。」
「素材の提供は大変ありがたい。報酬等については、別途、細かく詰めさせてくれ。」
「承知しました。では、代表して、緑のエレメンタルマスターさんにサインを頂けますか。」
「サイン・・・・」
「みんな名前がない、いや、名前を憶えていないのだ。」
「おや・・・。では私が名付け親になりましょうか?・・・とはいえ、多いですね。」
「こういうのは、どうでしょうか。みなさん様々な色の装飾をしていますので、
色+職業名の短縮系で呼ばれては・・・。
例えば、エレメンタルマスターさんは、緑のエレマスさん。
ナイトさんは、赤白ナイトさん、漆黒のアサシンさん、漆黒の魚さん、といった感じで。」
「何故、私だけ、魚なんだ・・・。」
「いえ、ただ、なんとなく、うぉーろっくだったので・・・、うぉ・・・すみません。」
「いや、それで良い。」
「え・・・いいんですか?」
「気に入った。」
「あ、ありがとうございます。では、今後魚さんと呼びます。」
無事、商談は成立した。
こうして、思念体と呼ばれる魔物と、人間の企業との協力体制が成立した。
やがて、この協業から技術革新が起こり、世界に多大な影響を与える事となる。
9話へ続く。