ういさんの物語 36話 調査団
前回、緑の塔の屋上で、樹木の怪物と蝶々に敗退したういさんたちは、
再戦を期すため、南国の街でお買い物をし、さらにティッカさんという仲間を引き入れた。
戦力を増強したういさん達は、緑の塔へ向かった。
だが・・・様子が違った。
緑の塔の前に、大勢の団体さんが居たのだ。
ほぼ全員が白い作業着のような姿で、帽子をかぶっている。
ういさん達が近づくと、メガネのお姉さんが、声をかけてきた。
「こんにちは。こんなところにどうしたの?」
「きこりの初心者です。
きこりの練習のため、木を切りにやってきました。
みなさんはどうされたのです?」
「木なんてあったかしら、このあたり一帯、荒れ地のはずだけど・・・。」
メガネのお姉さんは、あたりを見回した。
「まぁいいわ。
私達はね。国からの依頼で、この西方の地を調査に来ている調査団なの。
地形、生物、遺跡、多様な変化のあった地を調査して報告するの。」
「大変なお仕事ですね。ところで、後ろに見える屈強な方々も同じなのですか?」
数十名の調査団とは明らかに別の集団が後方にいる。
青色に輝く武具で身を固めた20名程の一団だ。
「青い武具で身を固めているのは、護衛を担当しているギルド青の指輪の方々ですよ。」
ギルドマスターと思えるさわやかな好青年が、会釈しつつ、こちらへやってきた。
「はじめておみかけする。ギルド青の指輪、ギルドマスターのベルだ。
西方の地調査団の護衛を担当している。みなさんは?」
シェリーさんも会釈しつつ挨拶を交わした。
「きこり初心者のシェリーです。
みんな、きこりの超初心者なので、きこりの練習をしにやってきました。」
「えっ?木なんて生えてました?あたり一面荒れ地ですよ。」
ベルは、驚いた表情で、ういさん達を見た。
「あるじゃないですか、目の前に・・・。」
「まさか、あの塔の中に生えている植物の事を言っています?」
ベルは驚いた。
「危険ですよ、あの中は、魔物でいっぱいです。」
メガネのお姉さんも驚いていた。
その時、調査団の人々が手を振って合図を送っていた。
「おーい、そこの2人、そろそろ会議をはじめるぞ。」
「もう時間か。」「ミーティングの時間ね。」
「これから塔の調査についての打ち合わせがあります。
もし、本当に塔の中に行くのであれば、朝のミーティングに参加されますか?」
メガネのお姉さんからのお誘いだ。
だが、さわやかな青年のベルが待ったをかけた。
「待ってください。あの塔は魔物の巣です。
我々、青の指輪が護衛するのは、調査団の面々だけです。
きこりの方々の生存までは対応できませんよ。」
「ご安心下さい。私達も魔物に対する対策はしてきていますので
一緒に話を聞かせて下さい。」
シェリーさんは答えた。
「では、あちらのテント内で、ミーティングをはじめます。」
大型のテント内に大勢の調査団と護衛ギルドが集まり、打ち合わせが行われた。
メガネのお姉さんが、ういさん達を紹介してくれた。
「こちら、きこりの方々です。塔内の樹木を伐採するために来られたようです。」
「きこり・・・?」「なんで、塔の中に植物生えてるの知ってるんだ。」
「何故、わざわざ、調査対象の塔内で、木を切るんだ?」
反応は、様々だった。
「うん、私も意味がわかんない。ちょっと説明と挨拶してもらえる?」
メガネのお姉さんに促された。
「ご紹介に預かりました きこりのシェリーです。超初心者です。かよわいです。
木を切りに来ただけなので、守ってもらえるとうれしいです。」
「さっきと言ってる事が違うが・・・。」
青の指輪のギルドから突っ込みが入った。
「魔物への対策はしてきていますので、たぶん、大丈夫です。」
「ほら、魔物除けの護符も持ってきています。」
護符を掲げて見せた。
「う、うん、それだけじゃ、凶悪な魔物には、意味ないよね・・・。」
ギルド青の指輪の面々から、ため息が漏れて来た。
メガネのお姉さんとベルから、フォローが入った。
「まぁ、我々が先行して調査しますので、
魔物殲滅後に、自由に木を切ればいいんじゃないですかね。」
「それまでは見学しているといい。我々青の指輪が先行する。」
その後も重要そうな話がいくつか話し合われ、会議は終わった。
テントを出て、みな、塔の前に集まった。
「では、打ち合わせ通りに、魔法陣を展開します。」
調査団のメンバーが、塔を中心にして散らばり、青く輝く魔法石を地面に設置していった。
「あれは、何をしているんだ?」
ういさんはメガネのお姉さんにたずねた。
「あれはね、この塔にかけられている魔法を解除する全体魔法を発動するためのものよ。」
「全体魔法ってなんだ?」
「魔法についても初心者なのかしら?
複数名で発動する魔法よ。魔法石を起点にして大規模な魔法陣を展開するのよ。」
「ほえ~。」
「見てるといいわ。もうすぐはじまるわよ。」
調査団のメンバー複数名が、魔法を発動し、魔法石がそれぞれ共鳴し始めた。
塔を中心に、魔法陣が描かれ、地面が光り輝き始めた。
「でかい魔法陣だな。」
塔を中心に、巨大なサイズの魔法陣が展開された。端から端まで見えない。
「はじめてみるサイズだな。こんな大規模な魔法陣は、はじめてみる。」
調査団のメンバーが声を張り上げた。
「よし、魔法を発動する。全体魔法!転移封印!」
魔法陣を中心に、塔の最上階まで届きそうなくらいに、光り輝いたと思ったら、
すぐに光は消えた。
「成功したの?」
「・・・いえ、失敗のようだわ。」
「古文書班!古代の全体魔法が失敗したわ。
対策を検討してちょうだい。
我々は、別の封印魔法を行使するわ。」
メガネのお姉さんが指示を出している。実は、偉いのかもしれない。
そんな最中、魔法失敗に反応するかのように、一瞬、巨大な緑の塔が揺れた。
そして、塔の入口から大量の昆虫型の魔物がワラワラと現れた。
「我々の出番のようだ。」
青の指輪ギルドの面々が一斉に立ち上がり、入口へ向かった。
「アースストレイン!」「ソニックウェーブ!」「アローストーム!」
手練れのようで、大魔法、遠距離攻撃が乱れ飛び、魔物を全滅させて行った。
「魔物は、彼らに任せておきましょう。私達は、魔法陣を完成させるわよ。」
調査団のメンバーは、今度は別の石を並べているようだった。
「今度は何を並べているの?」
「四角い黒い石の事かな?あれは新開発された新魔法石よ。
都市建設の際に地下に埋め込む事で、都市では攻撃魔法が一切使えなくなるの。
召喚祭りが開催される闘技場の地下にも設置されているわ。」
「あぁそうだったのか、それで、都市では攻撃魔法が使えないのか。」
「そうよ。さらにね、立体的な配置をする事で、さらに高度な魔法陣も使えるの。」
「すごいな。調査団は物知りなんだな。」ういさんは感心していた。
「そうね、調査団は学者系が多いわ、それも最新魔法工学に詳しい人々が。
私だって、プロフェッサーの職だしね。」
「メガネのお姉さん、教授だったの?」
「そうよ、こう見えても、調査団の古文書解読班のリーダーよ。」
「お姉さん名前聞いてなかったけど、お名前は?」
「私は、プロンテラアカデミーで、教授をしているレイナーよ。」
「先生だったんだねぇ。」
「なんだと思ってたのかしら。さて、そろそろ魔法陣が展開されるわよ。」
見ると、新魔法石の配置を終えた調査団がそれぞれ魔法を発動し始めた。
塔を囲むように、巨大な魔法陣が展開され、黒いオーラが放たれた。
「成功だわ。」
「青の指輪ギルドの方達にも、成功したから、特定魔法が封じられた事を伝えて頂戴。」
「わかった。」
調査団のメンバーは、戦闘中の青の指輪ギルドへ伝達に行った。
「あなたたちにも説明しておくわね。」
「特定魔法が封じられた事?」
「そう、今回発動した魔法陣は、かなり強力なものね。
テレポートを含む すべての転移魔法、移動系の魔法はすべて使えなくなったわ。
飛行系の魔法も全部よ。あと、地面指定の広範囲大規模魔法も使えないわ。
ランドプロテクターのような地面指定の保護魔法、状態変化魔法なども使えないわよ。」
「逆に、使える魔法は?」
「支援魔法、回復魔法は使えるわ。
能力向上系、物理スキル、ギルドスキルなんかは大丈夫なはずよ。
ファイアーボルトのような対象指定魔法も使えるはずよ。」
「シェリーの得意とする大魔法全部だめかー。」
シェリーさんは落胆していた。
「ういさんは問題ないな、コビさん、ミノさん、ティッカさんも影響はないだろうな。」
「ないな。」「影響?ないない。」
シェリーさん以外は、お互いに問題ないという認識だ。
シェリーさんがメガネのお姉さんレイナーさんに声をかけた。
「ご協力感謝します。これより、私達は、この木を切り倒します。」
「え・・・?どこの木? まだ内部には入っていないわよ。」
「この塔、緑の塔だっけか、これは、樹木の化け物です。
つまり・・・この塔は、木です。
我々はきこりです。
そこに木があれば、切り倒す。魔法陣の展開、感謝します。」
「え?」
「いくよ、ものども!」
「えええーっ。ちょっと待った。シェリーさん、我々はこの塔を調査しに来たのよ・・・。」
「魔物の住処になってる巨大な木。切り倒してから調査してくれ。
ギルドスキル!きこり発動! いくぞやろうども!」
「野郎じゃなくて、乙女だけどな!」
ういさんも呼応した。
調査団の静止を振り切り、きこり騎士団の5人は、塔へ駆け寄り、
そして、緑の塔の壁へ、思い切り斧を振り下ろした。
塔の上層から、おそろしい雄叫びが聞こえた。
37話へ続く。




