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第36話 ゲディスたちの裏で クロケットが 疑問を抱く

「なんか厄介な状況になってきたね」


 銀髪で褐色肌のウッドエルフであるクロケットはぼやいた。氷のように整った美貌に胸はスイカのように大きく、腰は括れていた。臀部はむっちりとしており、脚もすらりと細長い。身に付けているのは黒いドレスだが、身体にぴっちりしているので体形がまるわかりだ。普通の男ならむしゃぶりつきたくなる女だが、彼女は男に興味がない。

 

 現在彼女はキャコタの北方に位置する海域にいる。そこでキャコタ海軍の軍艦50隻と戦っていたのだ。

 もちろん彼女一人だけではない。北にあるゴスミテ王国のヒシロマで50人の冒険者たちを集めて、ここに来たのだ。

 彼女は魔女ゴロスリから借りた霧のクジラを使っている。


 最初冒険者たちは圧勝であった。参加している軍人はイコクド派だとろくに訓練を受けていない愚者が多く、キョヤス派とは雲泥の差であった。

 クロケットはイコクド派の人間を次々と潰していく。自身の栗と栗鼠の魔法を屈指してだ。

 ところが異変が起きる。倒されたイコクド派の軍人たちが突如力を増したのだ。身体は倍以上に膨れ上がり、魔力も桁外れとなった。

 冒険者たちは苦戦を強いられることとなったのだ。


「ぷりぷりぷりぷりぷりぷりぷりぷりっー--!!」


 一人の中年女性が腰を懸命に振っていた。黒いもじゃもじゃ頭に胸はビキニ、腰はミニスカートという服装のおばさんである。剥き出しの腹がたぷんたぷんと揺れていた。

 彼女の名前はジャオメダ・プオリジ。冒険者の間では女性なのにぷりぷり親父という二つ名がついていた。


「……倒されたイコクド派の軍人たちが一斉に力を増している。キョヤス派はそのままですね。どうやら彼等は外法によって無理やり力を増している様子です」


 ジャオメダの特技の一つにぷりぷりレーダーというものがある。これは自身の身体を振動させることにより半径一キロメートル内にある生体の位置を把握する。

 それに母親のイラバキから教わった罠魔法を併用することで、より精度の高い情報を得られるのだ。


「うがー!! ごろじでやるぅぅぅ!!」


 男が一人ジャオメダに噛みつこうとした。大きな口で赤ん坊の頭なら軽く丸かじりできるだろう。

 ところが男が喰らったのは鉄の拳であった。男の顔はトマトのようにぐしゃっと潰れて、海に落ちた。


 殴ったのは全身甲冑の大男であった。銀色に輝き、兜には赤いモヒカンが風にたなびいている。

 ジャオメダの夫であるオニョメだ。彼はこの全身甲冑を身にまとい敵を倒す。彼にとって羽毛の服と同じなのだ。さらに魔法で空を飛べるのである。


「……魔力を込めて殴らねば、殺されてしまいました。申し訳ありません」


 オニョメは男に謝罪した。本来は暴力を嫌う性格だが、敵に対しては心を閉ざして戦っている。


「あなたが気を病む必要はありませんよ。悪いのは彼らに外法を施した人間です」


 ジャオメダが慰める。本当なら敵には気づいていたが、対処する前にオニョメが倒されたのだ。

 ジャオメダは18年前は男であり、オニョメは女だった。世間からはノミの夫婦と呼ばれていたがオニョメは気は優しくて力持ちなのである。


「父上、敵の勢力が増しています。ニゥゴ様の傀儡軍隊マリオネットアーミーが通用していない様子です」


 突如空から声がした。それは金髪の少女であった。金髪を腰まで伸ばしており、薄緑のドレスを着ていた。袖はなく白い長手袋をはいている。ドレスの裾は太ももがはっきりと出ており、白の二―ソックスを穿いていた。顔は間違いなく美少女なのだが、冷たい雰囲気があった。すべての男を見下す、そんな目をしている。


 彼女はメスム。ジャオメダとオニョメの娘である。彼女は弓矢を持っていた。そして矢を放つ。

 その相手は同じ味方の冒険者だ。身体中傷だらけになっているが、矢に当たった瞬間傷が消えてしまった。


 彼女は射手でありながら癒し手でもあった。二つ名は癒しの射手であり、遠距離から味方の補助をすることを得意としている。

 さらに敵に対しても弱体化の魔法を矢に宿すこともできる。彼女がいるかいないかで戦況に左右されるくらいだ。


「……本当にあんたはダコイクの息子なのかい? とても無能とは思えないね」


 クロケットはジャオメダの話を聞いていた。自分がまだ栗の木であった頃、ジャオメダの父親であるダコイクは彼を無能呼ばわりしていたのだ。だがここでの働きぶりからとても無能とは縁がないように思える。


「母上ならカホンワ領だけでなく、当時のゴマウン帝国も罠魔法を使って把握できてましたよ。それに父上は単独で軍隊を壊滅に追い込める実力を持ちます。残念ながら私はカホンワ家では落ちこぼれ扱いなのですよ」


 ジャオメダが自称気味に答えた。自分を落ちこぼれと呼んでいるが、その実力は花びらパドルクラスにふさわしいものを持っている。

 比べる対象がけた外れなだけなのだ。代わりに彼はカホンワ領の外交官として活動していたのである。


「ふむ。ニゥゴ殿たちは短剣で戦っておりますね。人を操ることは諦めたようです」


「ニゥゴは複数の人間を自在に操れるんだよね。最低でも1000人は軽いとか」


「その通りです。しかし覚醒した敵はその支配を受け付けないようですね。と言っても相手にとっては地獄以外の何物でもありませんが」


 ジャオメダは敵に同情していた。ニゥゴはゲディスの父親クゼントの側室であった。13年前に彼女はアヅホラ卿に命を狙われた。それ故に死を偽装して逃げたのである。

 クロケットは散らばった栗鼠たちの目を通して、戦況を把握していた。


 ニゥゴは年齢は40歳ほどで中肉中背で青い長い髪が右目を隠している。水色のゆったりしたドレスを着ており、自分の背丈より高い白い杖を手にしていた。


 垂れ目で肌は陶磁器のように白く、紫色の口紅をつけていた。両耳には髑髏のイヤリングを付けており、胸元には小さい藁人形が三体ほど下げられている。


 彼女は短剣を手に、敵の身体を傷つけていた。ただ傷をつけただけで相手は身体を爆発させて死んでいくのだ。彼女は相手が外法で無理やり身体を強化していることを気づいており、そのためどこで傷をつければ爆発するか理解していたのである。


 娘のイウモトは青い縦ロールの髪に、愛らしい顔立ち。十代後半だがすらりとした長身で水色のピッチりしたレオタードを身に着けていた。豊満な胸にくびれた腰、むっちりした臀部にすらりとした脚は芸術品のように見えた。

 彼女は母親と共に縦横無尽に敵を倒していた。


 さらに息子のカシクゴは黒髪で10歳の少年に見えた。実際はゲディスより4歳年上で23歳なのだがそうは見えない。


 敵は困惑していた。自分たちより弱そうにしか見えないのに、なんで圧倒的に潰せないのか。

 自分たちは最強で相手は最弱。徹底的に踏みつぶして命乞いさせて楽しむはずであった。

 それが次々と仲間たちは殺されていく。丸太のように太く、金棒よりも重い拳を振り下ろした瞬間に、青い髪の女が脇腹に短剣を突き刺すと、頭が一気に爆発して死ぬのだ。

 それは縦ロールの女とちびも一緒であった。


 そして彼女たちだけではなく、他の冒険者たちも一緒であった。

 花級や花びら級の冒険者は特技を潰されたら、無力のはずと決めつけていた。

 実際は特技に頼らずとも、自身が鍛えた力と技術により、敵は蹂躙されていくのだ。


「なるほどね。確かに最初は驚いたけど、みんなすぐに気を取り直して対処しているわけね。すごいわね冒険者は」


 クロケットはうなづいていた。栗鼠たちの眼を通して戦況を見ていたが、冒険者側の圧勝であった。特技を潰されてもすぐ対処される。彼女たちは一芸だけで冒険者になったわけではないのだ。


「敵はどんどん減っている。あとは慎重に対処すれば大丈夫のはず」


 メスムが答えた。ジャオメダも同じ意見である。


「彼らのほとんどは邪気中毒者だ。恐らく何かの術で刺激され、力を増したのだろう。何者かは知らないが恐ろしいことをしますね」


 ジャオメダは嫌悪感を隠さずつぶやいた。


「なんでもゲディスの話ではキラウンという奴が後ろから手を引いているってことだよね。いったいどんな奴なんだろ?」


 クロケットが疑問を抱くと、オニョメは一枚の写真を取り出した。


「以前クシュバの町で見た時、盗撮しました。これをどうぞ」


 そう言ってオニョメはクロケットにキラウンの写真を渡した。

 それを見たクロケットは目を見開く。


「私、こいつを見たことがある。一年前にアヅホラの隣にいた男だ」


 その発言にジャオメダとオニョメは驚いた。メムスは自分の仕事に集中している。


「ボンクラ皇帝と皇妃が言い争っている時に、一瞬だけ現れたんだ。そしてアヅホラの耳元でなんか囁いた後、アヅホラは廃人みたいな顔になったっけ」


「クロケットさん、あなたはなぜそのことを誰にも話さなかったのですか?」


「みんな復興で忙しかったからさ」


 ジャオメダが非難したがクロケットはけろっとしている。そもそもその当時キラウンがどれほど重要な役割を果たしていたか知らなかったのだ。

 皇妃バヤカロは魔王化して皇帝ラボンクは勇者化することで、魔王化で増幅された邪気を浄化するはずだった。それがバヤカロの父親アヅホラ・ヨバクリ侯爵が仲介してラバアという邪気を浄化する存在に生まれ変わったのである。


「この戦いが終わったら改めてゲディスに話をしないとね……」


 クロケットはそう誓うのであった。

 ニゥゴたちやジャオメダたちが忘れられそうなので、無理やりねじ込みました。

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[一言] 冒険者たちは強いです。
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