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第26話 ゲディスは キラウンに寝込みを 襲われた

 周りは真っ暗だった。上を見ても天井は見えずかと言って空も見えない。地面も土なのかふわっとした感覚でよくわからなかった。

 ただ自分の身体だけははっきりと見えている。いったいここはどこなのか、自分はなぜここにいるのかわからない。


「ゲディス」


 後ろから声がした。振り向くと筋肉隆々の男が立っていた。白い髪を刈り上げており、日焼けした肌は岩のようであった。黒いブーメランパンツとサンダルだけを身に着けている。

 先ほど名前を呼ばれたが、それこそ自分の名前であった。なぜ忘れていたのか理解できない。


「ガムチチさん!! 会いたかった!!」


 ゲディスはガムチチに走り寄った。彼にとってガムチチは愛しい人なのだ。男同士だが不覚愛し合っていると信じていた。


 だがゲディスは懸命に走ってもガムチチに近寄ることが出来ない。まるで見えない壁に阻まれているようだった。

 そんなゲディスをガムチチは冷たい目で見ていた。まるで汚物を見るような目だ。


「……ゲディス、お前は浮気したな?」


 その言葉にゲディスは固まった。心臓をナイフに突き刺された気分になる。ゲディスは慌てて否定するが、ガムチチはそれを認めない。


「お前は俺に内緒で男と寝たな? しかも俺にも許していない場所を受け入れたな」


 ガムチチの眼は鋭くゲディスの眼を睨んでいた。ゲディスはそれを言われるとぐうの音も出なかった。


「違うんだ! 僕は無理やり襲われたんだ、僕の意思じゃない!!」


「いいや、お前は喜んで受け入れたね。なぜなら4年間も禁欲生活を送っていたからだ」


「!?」


 ゲディスは4年間基本界という世界にいた。ブッラとクーパルの双子の娘とともに過ごしたが、ゲディスは自慰行為することはなかった。娘たちは美しく妖艶に育ったが血の沸けた娘に欲情することはない。彼女たちは女の形をした生物だからだ。ゲディスにとって女体より男の身体が恋しかった。

 ガムチチと抱き合い口づけすることが大好きだった。尻を許したことはない。これは男でなくてもできるからだ。


「男が欲しくてたまらなかったんだろう? それは俺でなくてもいいわけだ。お前にとって俺は単なる寒い夜に抱く湯たんぽみたいなものなんだよな?」


「違う!! なんでそんなことを言うの!! 僕はあなたを愛しているんだ!!」


 するとガムチチの横に一人の男が現れた。それは黒い髪を短く刈り揃えた美少年であった。

 ゲディスそっくりの少年である。だが目つきはゲディスより鋭く意地悪そうな顔をしていた。


「俺にはこいつがいる。ベータス、お前の双子の弟だ」


「そうだよ兄貴。オレはこいつの恋人になったんだ。もう兄貴はいらないんだよ」


「ベータスの方が俺の要望をなんでも応えてくれるからな。お前みたいなやきもち焼きなんかこちらから願い下げだ。あばよ」


 そう言ってガムチチはベータスの肩を掴む。まるで恋人のように抱き寄せると、ぷいっとゲディスに背を向けた。

 ベータス? この世に生を受けることができなかった双子の弟がなぜ? 

 ゲディスは必死に追いかけた。しかし追いつくことが出来ない。息苦しくて心臓が太鼓を叩いている。ふと自分の手を見るとけむくじゃらであった。

 顔を触れると顔中毛だらけで鼻も人間のものではなかった。


「お前みたいな醜い怪物なんか誰に好きになるかよ。殺されないだけありがたいと思え」


 ガムチチの言葉にゲディスの心は砕けた。そして目の前に鏡が現れる。そこにはヤギの角が生えた豚の姿があった。これこそ今のゲディスの姿である。


「ひぃ、ひやぁぁぁあああああ!!」


 ☆


 ゲディスは絶叫を上げて起きた。寝汗でべっしょりになっている。ここはどこだと周りを見渡すと白い壁にタンスやテーブルなどの調度品が並んでいた。自分はベッドの上で寝ていたようである。すでに深夜なのか、明かりは部屋にある薄明るい燭台のみであった。

 ベッドの横には二人の女性が椅子に座りながらベッドに向かって寝ていた。ブッラとクーパルである。

 傍には水の入った洗面器とタオルがあり、二人が看病してくれたのだろう。

 床には簡易ゴーレムが置かれていた。今の自分はブカッタ神の姿をさらしているのだ。

 

「むにゃむにゃ……、パパ大好き……」


「おとうしゃま……。しょうらいおとうしゃまのおよめしゃんになるの……」


 二人の寝顔を見ていると、先ほどの悪夢が嘘のように消えていった。二人はウッドエルフのクロケットが代理出産した子なのだ。ゲディスとガムチチのいのちの精を宿したのである。

 成熟した女性に見えるが中身は5歳の子供だ。豊富な知識はあるが経験が圧倒的に不足している。ゲディスは二人を守らなければと意思を固めた。


「アハハッ、ゲディスおはよう!!」


 突如背後から声がした。慌てて振り向くと窓には一人の少年が座っている。アクアマリン色の坊ちゃん刈りに右目は星のメイクを施していた。

 上半身は裸で肉付きの良い身体を晒している。皮製のショートパンツを履いており、吊りベルトで吊っていた。太ももは白と水色の縞々模様のタイツを穿いている。

 キラウンだ。クシュバで出会った男で最初はバセイクという一般人を装っていたのだ。


「なっ、キラウン!! どうしてお前がここに!?」


「アッハッハ、ちょいと君にいたずらをしたくてね。僕が寄越したケップリ君の味はどうだった? プリッケ族は成人式に村一番の勇者からいのちの精を注がれる儀式があるのさ。ケップリは勇者だからさぞかし素晴らしいものを体内に宿したと思うけどね」


 キラウンは無邪気に笑っている。この男は何を言っているのだろうか? ケップリが船に乗っていたのはキラウンの差し金のようだが、どこか引っかかるものがある。プリッケ族の成人の儀式にそんなものは存在しない。精々百年前のはずだ。


「疑問に思っているね? そうだよケップリは百年前の人間さ。僕のいのちの精を飲んだものは不老長寿になるんだよ。ちなみにキソレウも同じだよ。彼の場合はつい最近だけどね」


 キラウンがけらけら笑っていた。見た目に反してどこか老獪なものを感じていたが、中身はゲディスが想像している以上に年齢を重ねているかもしれない。


「あと君に悪夢を見せたのは僕だよ。どうだった愛しい人に否定される気持ちは? しかも死んでいたと思っていた双子の弟に寝取られた気分は? ねぇねぇどんな気持ち? ねぇねぇ?」


 キラウンが煽ってくる。ゲディスは段々と腹が立ってきた。ゲディスの大切な人を夢の中とはいえいじられたのだ。立腹しないわけがない。


「おっと、僕に手を出さないでよね。でなければ可愛い娘がどうなるかわからないよ?」


 そう言ってキラウンは指をパチンと鳴らすと、ブッラとクーパルの喉元にナイフが出現した。ナイフは二人の喉に向かっている。

 人質を取られてゲディスは身動きが取れなくなった。この男は一体何がしたいのだろうか?


「アハハ。今日は君とこうしたかったのさ」


 キラウンは窓から降りると、ゲディスに近寄った。そして両手でゲディスの顔を抑える。間近で見るキラウンの顔は整っていた。美少女と呼ぶにふさわしいがどこか悪戯っぽい感じがする。

 するとキラウンはゲディスの顔を近づけると、口づけを交わした。舌を執拗に絡めてくる。まるで毒蛇がうねっているように思えた。

 

「なっ、何を!!」


 ゲディスが抵抗するが力が入らない。そのままキラウンはゲディスをベッドの上に押し倒した。


「僕はねぇ、可愛い男が好きなんだよ。外見だけじゃない、心が可愛い男の子が大好きなのさ。女装を愉しむイターリは論外だね。君の場合は後者だからブカッタ神の姿でも問題ないよ。むしろモフモフのケモノも大好物なのさ」


 そう言ってキラウンはゲディスの顔を舐めまわした。さらに胸や腹も舐める。ブッラとクーパルは一向に目を覚まさない。恐らく二人は魔法か何かで深い眠りに落ちているのだろう。


「くそぅ!! 二人に何をした!!」


「僕の邪魔をしないために寝てもらったんだよ。あと二人を傷物にはしないから。そんなことをして君を本気にさせるのは本意じゃないからね」


 さらにキラウンはゲディスの脇腹をくすぐる。ゲディスの耳に息を吹きかけたり、頭の角を口に含んだりとやりたい放題であった。


「おっお前は何がしたいんだ!!」


 ゲディスがキラウンに殺意を抱く。自分を弄んで何がしたいのか。普段のゲディスなら論理的に考えるだろうが、今はガムチチのことで頭が混乱していた。


「君には僕の後継者になってもらいたいのさ。世界の調停者としてね。答えを教えてあげるけどアヅホラ・ヨバクリ侯爵は僕が操っていたのさ。自分の邪魔な人間は徹底的に排除しろってね。もっとも全部失敗しちゃったけどさ」


 それを聞いたゲディスは慌てて問い質そうとしたが、声が出なかった。キラウンは自分の股間を強く握ったからだ。


「今はどうでもいいじゃないか。夜はまだこれからだよ、一方的じゃなくてお互い愛し合おうじゃないか」


 キラウンはショートパンツを脱いだ。そしてゲディスに覆いかぶさるのだった……。


 ☆


「なっ、なんで!?」


 朝ブッラたちが起きたらゲディスはぐったりしていた。しかもケップリと同じようになっている。


「まさかお父様は手籠めに……? 何たる不覚!!」


 ブッラは泣きそうな顔になった。自分たちがゲディスを守ると誓ったのに、肝心の時は寝ていて役に立てなかった。

 クーパルも自分自身に激怒していた。相手が誰かはわからないが、必ず報いを受けさせる。


「その前にお父様を介抱しなくては。ブッラ、手伝ってちょうだい」


「もちろんだよ!!」

 

 双子は気を失った父親を急いでタオルで寝汗を拭くのであった。

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[一言] 苦戦が続きますね。
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