第21話 レッドモヒカンチーム 見参!!
「僕をどうするつもりですか?」
ゲディスがキソレウに尋ねた。この男は何を言っているのだろうか?
「言ったとおりです。僕は君を抱きます。そう寝取るのですよ、ガムチチからね」
キソレウはにやりと笑った。欲望にまみれた厭らしい笑みである。それを見たゲディスは背筋に寒気を感じた。
「馬鹿なことは言わないで!! ゲディスパパはガムチチパパのものだよ!!」
「そうですわ!! あなたみたいな気持ち悪い男と、ゲディスお父様は相性が悪いに決まっています!!」
ブッラとクーパルは抗議の声を上げた。当然だろう。彼女たちにとってゲディスとガムチチは夫婦なのだ。もっともどちらとも夫だと二人に教えている。
それなのにキソレウは初対面の人間なのに、図々しくも自分たちの父親を寝取ると宣言した。これで腹を立てないのはどうかしている。
キソレウは癇癪を起した二人を見ても冷静なままだ。寧ろ二人をゴミムシのように見下している。
「やれやれ……。僕は女には興味がないんだよ。邪魔をしないでもらえないかな?」
キソレウは肩をすくめながら、そう言った。それを聞いたブッラ達はますます怒り出す。
「邪魔するに決まってるよ!! あなたみたいな不気味な人にゲディスパパを寝取らせるわけにはいかないもん!! ところでクーパル、寝取らせって何?」
「一緒にお布団の中に入ることじゃないかしら?」
どうやら二人は寝取らせの意味が分かっていないようだ。キソレウは二人をやり取りを見てイライラを募らせていた。この男は本当に女が嫌いなようである。
「本当なら女なんか殺してやりたいけど、ゲディスの娘だから見逃してあげるよ。二人とも僕とゲディスが愛し合うところを黙ってみてもらおうか」
そう言ってキソレウは右手を上げると指を鳴らした。
するとキソレウの影から無数の人影が現れたのだ。それはキソレウの面影があるがどれも感情が千差万別である。
体格のいい者や身体が細い者、丸く太っている者から背がやたらと小さい者など様々であった。
「僕の人格から生まれた人間たちだよ。その名も一人の軍隊さ。君たちウッドエルフの相手は彼等がするよ」
人間の人格は一つだけではない。それこそ無限大に人格が存在するのだ。心が不安定な人間ほど別人格に乗っ取られる可能性が高いという。
キソレウの場合はそれらの人格をうまく操り、自分の兵士として活用しているようだ。問題はどうやって身体を作っているかだが、ゲディスはまだ見当がつかなかった。
「いくよクーパル!!」
「ええ、ブッラ!! こいつらを倒しましょう!!」
ブッラは剣を、クーパルは杖を取り出した。
男たちは全部で6人。ブッラの前にはノッポとデブ、ちびの三人が立っていた。
それぞれ額に番号が描かれてあり、ノッポは2,デブは4、ちびは6と描かれている。
三人とも黒いビキニパンツ一丁で何も持っていなかった。
全員キソレウと同じ顔だが、体格が違うだけで印象ががらりと変わっていた。
ブッラはどこか不気味なものを感じたが、相手は素手なのだ。手の筋を斬ればすぐに無力化されると考える。
ブッラは瞬時でノッポの手首を切ろうとした。しかしノッポの手は切れない。まるで柳の枝を相手にしているようだ。
そしてそのまま長い腕を回転させると、ブッラの頬に平手打ちを叩きつける。彼女の身体は吹き飛ばされ、冷たい床に倒れてしまった。
その隙を逃すまいとデブがブッラの腹に乗っかかった。水の入った酒樽並の重さでブッラは思わず白目をむいてしまう。
さらにちびが動けないブッラに対して、靴を脱がし、足の裏をくすぐり始めたのだ。
「あはっ、あはっ、あひゃひゃひゃひゃあ!! やっ、やめてぇ、ブッラは、くすぐりがっ、苦手なのぉぉぉぉ!!」
ブッラは白目をむき、涎を垂らしながら悶えていた。涙を流してもちびはくすぐりをやめない。
そこにノッポも参加する。こいつは脇をくすぐり始めたのだ。脇と足、同時に責められたブッラはだらしない顔をさらけ出している。
「あひぃ、あひぃぃぃ!! やめでぇぇぇ、やめでよぉぉぉ!! もう、くしゅぐらないでぇぇぇ!!」
ブッラはあへ顔を晒しながら、無様な声を上げていた。
クーパルは彼女を助けに行きたかったが、目の前の三人に苦戦していた。
大男にハゲ男、覆面を被った男がそびえ立っていたのだ。大男は1、ハゲ男は3、覆面男は5と額に数字が描かれている。
こいつらの見た目は屈強である。クーパルほどの身体なら簡単に背骨を折ってもおかしくない。近づけたら即組倒されることになるだろう。
あえて近づき、腹痛呪文で無力化させるのも悪くない。
だが大男たちは彼女に近づかなかった。口から舌を出し、クーパルを拘束したのである。
その強靭な舌はまるで毒蛇であった。彼女は両手を高く上げられ締め付けられた。さらに足首も締め付けられ身動きが取れない状態である。
「くっ、私をどうするつもり!! まさかエッチなことをするんじゃないでしょうね!!」
クーパルは大男たちをにらみつけた。しかし大男たちの口から涎が垂れてきた。その涎はクーパルの身体を包みだしたのである。
すると体中がかゆくなりだしたのだ。搔きたくても手足が動けない。どんどん痒みはひどくなる一方である。
「かっ、かゆいぃぃぃぃぃ!! お願い! 掻かせてっ、掻かせてぇぇぇぇぇ!!」
クーパルは狂ったように懇願し始める。目を剥き出し、涙を流している。鼻水と涎を垂らし、犬のように舌を出していた。
かゆいのに掻けない。これは地獄の苦しみであった。
悶えるクーパルはくねくねと身体を動かすも、痒みは一向に収まらない。このままでは気が狂いそうであった。
「パパァ!! ゲディスパパ助けて!!」
「お父様ぁ!! お願い、助けてぇぇぇ!!」
娘たちの悲痛な懇願にゲディスの怒りは爆発する。しかしゲディスは身動きが取れない。
キソレウから延びた影が彼の手足を拘束したからだ。
「ふふふ。うるさい女は放置しよう。これから僕とお楽しみの時間だよ」
キソレウはゲディスの頭に手を載せた。すると簡易ゴーレムが解除され、ゲディスの姿が現れた。
山羊の角が生えた子豚の姿である。ブカッタ神の像と同じだ。
「ふふふ……。僕はモフモフのケモナーなのさ。男も好きだけど、獣人も好きだね。でも人間の姿に犬耳や猫耳が生えただけの存在は認めないよ。僕は全身モフモフの獣が好きなんだ。花級のケダンなんかは論外だね」
ケダンとは犬耳が生えた冒険者である。ゲディスの姉、バガニルの夫の弟、サリョド・サマドゾの子供である。ケダンには双子の姉、ナイメヌがいるが、キソレウにとって女は論外のようであった。
「ふふふふふ。良い肌触りだねぇ。獣人は大抵つがいがいるから触らせてくれないんだよ。それにしてもアジャック枢機卿はおろかだねぇ。こんな可愛い獣を殺そうとするんだから」
「くっ、アジャック伯父上がなんだというんだ!!」
「君は知らなかったのかい? 闇ギルドで君たちの抹殺を依頼したのは枢機卿だよ。よほど君たちの存在が気に入らないと見えるね。バガニル夫人はおろかその子供たちの抹殺まで望んでいるんだから」
キソレウはどうでもよさそうに言った。ゲディスの胸や脇を触り、股間の部分も指ではじく。ゲディスの股間は気持ちとは裏腹に身体が反応しているのだ。息が苦しくなり、舌を出して息を吸っている。その様子を見てキソレウは興奮していた。
身動きが取れないゲディスを弄んでいるのだ。
だがゲディスはキソレウの話に疑問を抱いた。なぜ伯父のアジャックは自分たちの命を狙うのだろうか。
例え自分たちを殺してもアジャックには何の得もないのだ。確かに伯父は自分と姉のバガニルを憎んでいた。思えばなぜ自分たちを忌み嫌っているのか理解できていない。
もうゴマウン帝国は存在しないのだ。アジャックはスキスノ聖国で形ばかりの枢機卿の座についている。実際は何の権力もなく、次期法皇にもなれない。
そもそもゴマウン帝国を離れた伯父が、なぜ執拗に自分たちを狙うのだろうか。皇妃バヤカロの父親であるアヅホラ・ヨバクリ侯爵ならわかる。彼はゲディスの兄ラボンクと結婚させて自分の地位を高めようとしていた。そのためほんの少しでも邪魔になる人間は徹底的に始末してきたのだ。
だがアジャックはどうだ? 彼が殺意を抱くのはなぜだろうか。理由がさっぱりわからないでいる。
「さてと念願の初物をいただこうかな?」
そう言ってキソレウはゲディスの唇を奪った。豚の鼻が邪魔しているが、それを気にせずキソレウは口づけをしてくる。舌を丹念に絡ませてきた。そしてゲディスを抱きしめ右手を背中に回し、左手で尻を撫でまわした。
まるで蛇のようにねちっこく、ゲディスは悪寒が走った。
「ふぅ、獣人を抱くのは最高だな。人間の体とはまったく違う味わいだよ。これをガムチチが見たらどう思うかな? 浮気したと激高し絶縁状を叩きつけるかもね」
キソレウがそう耳元でささやいた。それを聞いた瞬間ゲディスの顔から血が引いた。
「そっ、それだけはやめて!!」
「そうしようかな~? 君が僕の愛人になるなら黙ってあげてもいいけどな~」
「そっ、それは……」
キソレウは困惑するゲディスを眺めながら厭らしい目で見た。まるでクズの発想である。
キソレウはゲディスの尻をつねった。激痛が走り、思わずうめき声を上げる。その様子を見たキソレウはますます満悦していた。
「表ではガムチチの夫で、裏では僕の奴隷になるんだ。乳首にピアスを付けたり、お尻に異物を入れたり、色々楽しめるかもね。君の幸せな生活が壊れるかは君の心がけ次第だよ?」
それは悪魔のささやきであった。ゲディスはガムチチの事で頭がいっぱいになる。
ゲディスは悪に屈しそうになった。ところが。
「そんなことは、させん!!」
突如天井が崩れ落ちた。そして埃が舞い上がる。それが落ち着くと現れたのはチンコケースをはめた全裸の男が立っていたのだ。それも7人も。
彼等はフチルン。冒険者である。
今回キソレウを手強くしたのは、この話があまりにも主人公側が強すぎるためつまらないと判断しました。
当初はキソレウは幼稚的万能感の持ち主でしたが、ワンパターンになるので止めました。
下ネタとBLが多いファンタジーと言いながら、BL要素が少なかったためです。
世の中にはケモナーといい、獣が好きな人もいます。
ケモナーBLはニッチですが、いないとも限りません。




