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第16話 ジャオメダは ゲディスの義理の兄

「ありぇ、ありぇりぇ~~~? らんれ、おまえりゃぎゃ、ぴんぴん、しちぇるにょぉぉぉぉ!?」


 イラックは完全に混乱していた。彼はこの町に来たプオリジ一家に対して、町の人間を人質に取ったのだ。彼等はすぐ降伏し、イラックは気をよくして町の男たちにプオリジ一家をリンチに掛けるよう命じたのだ。

 花びらペドルクラスの冒険者が人質を取られただけで無力になる。イラックは最高に気分がよかった。巨漢のオニョメをナイフで傷つけ、小太り中年女のジャオメダは身体中に針を刺して楽しんだ。その度に泣き叫ぶ声を聴いて、イラックは絶頂に達したのだ。


 それなのにプオリジ一家は平然としている。身体には傷一つない。こんなことはありえない。こんなの自分が信じていい現実ではないと思い込んでいた。


「あなたたち、もう芝居は終わりです。ご苦労様でした」


 ジャオメダが動けない一般人に声をかけた。すると彼等は一斉に動き出す。先ほどのように恐怖で歪んだ顔ではない。精悍な顔つきになった。

 

「ふぅ、やっと解放されたか。ジャオメダ様の命令とはいえ面倒だったぜ」「イラックの力は弱すぎだからな、演技をするのに一苦労したよ」「それにゲディス様だと俺たちの声が筒抜けらしいからな。声を殺すのも大変だったぜ」


 彼等の会話から察するに彼等はジャオメダの命令で動いていたらしい。町の人間がゲディスたちを狙ったのも織り込み済みのようであった。


「にゃっ、にゃにゃ!!」


「ついでに言えば女たちはすでに解放されている。というか自力で脱出した。この町の人間たちは全員私の弟子でね。一人一人が蕾級バドクラスの実力を持っている。クシュバを治める貴族も私の弟子だ。君がここに来ると聞いてね、一芝居を打たせてもらったよ」


 ジャオメダが説明した。だがイラックを誘うにしても準備が整いすぎている。そもそもイラック自身がこの町に来なければ意味がない。もしかしてイラックは闇ギルドに騙されていたのではないか。

 ムカックも闇ギルドの命令で動いていたが、協力者がいた。今回も仕込みのある茶番劇だったのかもしれない。


「あーっはっはっは!! こいつはすごいね、さすがはプオリジ一家、いやジャオメダ・カホンワの実力か!!」


 突如バセイクが腹を抱えて笑い出した。一体何事かとゲディスは彼に振り向いたが、バセイクの姿が変化していく。

 アクアマリン色の坊ちゃん刈りに右目には星のメイクを施してある。上半身は裸で肉付きの良い身体であった。皮製のショートパンツを履いており、それを吊りベルトで吊っている。

 城と水色の縞々模様のタイツを穿いていた。まるで道化師のような格好である。


 さすがのゲディスも呆気にとられた。着替え呪文コプスレを使ったのだろうが、バセイクには怪しい気配は感じられなかった。

 それに道化師のような姿でもどこか油断ならない雰囲気がある。迂闊に近寄れば首を刎ねられそうな気配があった。


「あっ、あひゃー!! おみゃえ!!」


 イラックがその姿を見ると、ずるずると這っていった。どうもイラックはバセイクの事を知っているようである。


「あー、イラック君、残念だったねぇ。あのゴーレムは結構強いはずなんだけどねぇ。まさかゲディスの娘にしてやられるとは、まいったまいった」

 

 バセイクはおどけた口調で言った。語感からしてあまり衝撃を受けてはおらず、むしろゲディスの娘だからできて当たり前というニュアンスがとれた。

 だがイラックは収まらない。自分がなんでこんな目に遭うんだと抗議していた。

 するとバセイクはショートパンツから一枚の髪を抜き出した。それには魔法陣が描かれている。


「ここは僕がなんとかするよ。君はすぐに逃げるべきだね。後日彼等に復讐するために……。いや彼等の友人や家族を狙うべきだ。それも一言しゃべっただけの人間も殺しちゃおう。そうすれば彼等は世界中の人間から嫌われる。もちろん君は彼等のいない安全な場所で自分の復讐を果たすといいよ」


 バセイクの言葉にイラックは禍々しい笑みを浮かべた。バセイクの提案を聞いて最高だと思ったのだろう。そして貰った紙を広げると、魔法陣から光が放たれる。


「父上、あの魔法陣は転送系では……」


 ジャオメダの娘、メスムが声をかけたが遅い。イラックは光りに包まれると、ぎゅっとその身体がひとつの宝玉に変化したのだ。そしてころんと地面に落ちる。町の人間も驚いていた。


「なんですかあれは……。あの魔法陣は転送系ではありません。まるでイラックが宝玉に変えられたようです」


 髭もじゃの巨漢であるオニョメがつぶやいた。


「文字通り、宝玉になったのです。あれは人間を魔玉に変える魔法陣なのですよ」


「……なるほど。子供の頃、エロガスキーのところで見たことがあるな。あの少年はエロガスキーの関係者なのか?」


 ゲディスの言葉にジャオメダが答えた。だがバセイクは首を振る。


「違うよ~。僕はキラウン、この世界の調停者さ。今の魔法陣はエロガスキーの技を盗んだだけだよ。僕は女性には興味がないんだ、むしろゲディスのような可愛い男性が好きだね」


 そう言ってバセイクことキラウンがゲディスの背後に潜り込んだ。ブッラとクーパルも察知できなかった。

 キラウンはゲディスの身体を撫でまわす。まるで娼婦が客にこびるような手つきだ。ゲディスは見知らぬ男に撫でられて背筋に悪寒が走った。


「離れて!! ゲディスパパに触れていいのは、ガムチチパパだけだよ!!」


「そうですわよ。私たちのお父様を甘く見ないでほしいですわね」


 ブッラは剣を、クーパルは杖をキラウンに向ける。だがキラウンは慌てた様子はない。


「……今回の件、お前の差し金か? グランドマスターはこの事を知っているのか?」


 ジャオメダが睨む。普通の人間なら途端に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる胆力だ。

 町の人間たちも無関係なのに肌寒くなる感覚になる。だがキラウンは平然としていた。


「おーこわっ。さすがはダコイクの息子だね。にらまれただけで股間の金塊が縮み上がりそうだよ。でもグランドマスターは関係ないね。彼は何も知らないよ。ムカックたちの抹殺計画を利用させてもらっただけさ。もちろん彼の顔は潰さないよ」


 キラウンはなんでもない風に答えたが、ジャオメダの顔は険しくなる。ゲディスも闇ギルドのグランドマスターを聞いたことはあるが、キラウンの口調だとまるで子供のように扱っていた。

 無知な子共ではなく、まるで母親が子供を見守るような雰囲気がある。


「さてその魔玉は君たちに預けるよ。今のところ僕には必要ないからね。残りはキソレウだけどみんなが驚くようなイベントを用意しているから楽しみに待っててね。じゃあ」


 そう言ってキラウンは白い煙を上げて消えた。町の人間たちも驚いている。彼等は蕾級の実力者だ。隙あらばキラウンを捕らえるつもりであったが、動くことなく逃がしてしまったのだ。


「転送呪文……? いいえ、そんな気配はなかった。まるで最初からそこにいなかったように……」


 クーパルが驚いていた。魔法というのは何でもありに見えるが、実際はそこに至るまでの過程が長い。火を出すのも呪文の詠唱が必要になるし、道具もいる。転送呪文ならあらかじめ転送する場所を設定する必要がある。磁石のように二つの力が必要なのだ。

 そのため転送呪文を使えば人間を転送するための魔力が発生するのだが、クーパルはそれを感じなかった。そもそも着替え呪文ですら気配を感じなかったのだ。


「……とりあえず今回の件はこれで終わりだな。冒険者ギルドにもキラウンの事は報告しておくが……、正直あの男を捕らえるのは、蕾級では無理だ。花級フラワークラスや花びら級ですら厳しいかもしれん」


 ジャオメダが言った。さてイラックに捕らえられた女性たちは全員無事であった。というかわざと囚われており、イラックの欲望も素直に受け入れていた。もともとクシュバの町は名産がない、ヒシロマへの通り道であった。そこに10年前、ジャオメダがやってきて彼等を冒険者として鍛えた。その技術を自分の子供に継承する術も教えたのだ。

 もっともこれは他の町には内緒にしている。強盗やならず者を騙し討ちにするためだ。今回はイラックを抹殺するために町の住民に協力してもらったのだが、キラウンという謎の少年の存在はしこりを残した。


「ところでジャオメダ様はダコイクおじい様の息子なのですか? さっきキラウンが言っていたけど」


 ブッラがジャオメダに尋ねた。だがジャオメダは女だ。見た目は小太りの中年男性に見えるが、胸は大きく、股間はへこんでいる。それに女性特有の甘い香りが漂っていた。


「……やはりあなたはジャオメダ兄さまなのですね。なんとなくそんな気はしてました」


 ゲディスが言った。どうも彼はジャオメダの正体を最初から知っていたようである。


「あなた。もうこうなったらゲディスさんたちにすべてを話しましょう。私たちの正体とその過程に至った道筋を」


 オニョメが答えた。髭もじゃの巨漢だがどこか女性的な感じがする。


「どうせ、いつかはばれること。ゲディスたちにはっきりと言った方がいい」


 メスムも後押しした。美人なのだがどこか冷たい感じがする。


「そうだな。我々の正体を明かすべきだ。知っている人は知っているけどな」


 ジャオメダが深く息を吸うと、吐き出した。そして説明を開始する。


「私の本名はジャオメダ・カホンワ。父はダコイク、母はイラバキだ。プオリジは母方の性なのだよ」


「私はオニョメ。ジャオメダの妻。でメスムは私たちの娘よ」


「メスム……。亡くなったジャオメダ兄さまの娘と同じ名前ですが、やはり本人でしたか……。性別が違うのはギメチカの性転換呪文で変えたのですね」


 ゲディスが訊ねると、ジャオメダとオニョメは首を縦に振る。ギメチカはカホンワ家のメイドだ。そして執事でもある。性転換呪文で男女を入れ替えているのだ。


「我々が死を偽装したのは、アヅホラ卿に狙われていたからだ」


 ジャオメダはそう答えた。

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