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第14話 プオリジ一家は 凄惨な状態であった

 小太りの冴えない青年と共に、二人の美しい褐色肌のウッドエルフを左右に従えていた。

 一人は銀髪を短く切り揃え、マイクロビキニのみを着ている。

 もう一人は豊かな銀髪を腰まで伸ばしており、薄緑色のドレスを着ていた。

 どれも豊満な胸で腰は括れており、臀部はミツバチのようであった。さらに足もすらりと長い。極上の美女である。


 ゲディスとその娘、ブッラとクーパルである。本当のゲディスはブカッタという、小柄な二足歩行のブタだ。ヤギの角が生えており、人間の手がある。簡易ゴーレムを身にまとっており、小太りの冴えない青年になっている。

 三人は南にあるクシュバの町まで歩いていた。街道は開けており、実のなる木が感覚を開けて生えてある。旅人の為に食べられる実を植えているのだ。森は遠く、魔獣が出てきてもすぐに対処できる。安全な道であった。

 定期的に馬車が運行しているがそれには乗らない。何が起きるかわからないからだ。

 実際に道中では双子を狙うために盗賊たちが何度も襲ってきた。大抵はブッラの剣とクーパルの魔法で一掃される。

 道中ですれ違った商人なども二人を見て、涎を垂らし執拗に馬車に乗れだの、飲み物を飲めと強要してきた。

 もちろんそれらの誘いは一切突っぱねた。


「うーん、どうしてみんなボクたちを狙うのかなぁ? 意味が分かんない」


「馬鹿ねブッラ。みんなゲディスお父様の素晴らしさに嫉妬しているんですのよ。お父様は世界で一番美しくて強いのですから」


「そうだよね!! でもガムチチパパも同じだよ!!」


 二人は楽しそうに話しながら旅を楽しんでいた。宿には泊まらず野宿することが多かったが、三人にとって野宿など家の中で昼寝をするのと同じである。基本界では砂糖菓子が吹き荒れる砂漠や、海草が溢れるジャングルで野宿をする羽目になったことがある。それに比べれば自分たちの世界はとても平和であった。モンスター娘や魔獣の強さも向こうと比べればかなり弱く感じる。大魔獣ですら雑魚に思えてきた。


 とはいえそれは自分たちの体感である。他の人に強要してはいけない。ゲディスはそれを肝に銘じていた。


「おやぁ、ちょっとよろしいですかぁ?」


 街道を歩いていると、木の影から一人の少年が出てきた。アクアマリンの髪の毛をポニーテールに纏めている。全身黒タイツに身を包んでおり、身体の線がはっきりしていた。腰には2本の剣を佩いてある。

 胸はなく、股間は膨らんでいる。だが顔は愛らしい目がくりくりした美少女であった。


「……何用ですか?」


 クーパルがにらみつける。彼女は見知らぬ女性より男を警戒していた。愛するゲディスに悪い虫がつかないようにするためである。


「私の名前はバセイクっていうんだ。クシュバに行く用事があるから、一緒について行っていいかな?」


「断ります。クシュバはあと一日歩けば着きますよ。一人でいけばいいでしょう?」


 クーパルはバセイクの提案を断った。そもそもこんなところに一人でいる方がおかしい。それも旅人には見えない軽装だ。もっとも冒険者なら収容呪文ボバテラがあるから、案外彼も冒険者の一人かもしれない。


「えー、そんなこと言わないでよ! せっかく出会えたんだから付き合ってくれてもいいでしょ?」


 そういってバセイクはゲディスに抱きつく。ゲディスの作りものであるお腹をいやらしく撫でまわした。まるで娼婦が客にこびているように見える。

 それを見てクーパルは激怒する。


「あっ、あなたねぇ!! ゲディ、いいえエディス様になれなれしくするんじゃないわよ!!」


「え~、この人君の何なのさ? 大切な人なわけ? こんな小太りの―――」


 バセイクがニヤニヤ笑っていると、急激に周囲の温度が下がった。まるで冬の草原に放り込まれたように体が冷える。

 それはブッラであった。彼女はバセイクを氷のように鋭い目でにらみつけている。


「……バセイクさん? その人を撫でまわすのはいいけど、侮辱するのは許さないよ?」


 いつもの天真爛漫な彼女らしくない、殺意を剥き出しにした言葉であった。初対面の人間が聞いたらたちまち恐怖で心臓が止まってしまうだろう。


「ごめんなさい。本当は気になってたんだよね。この人、エディスさんだったっけ? 私はこういう人が大好きなんだよ。だから一緒にいたいんだよね」


 バセイクはゲディスから離れると頭を下げた。ブッラの殺気を浴びても平然としている。ゲディスとクーパルは、この男はただものではないと判断した。

 それに体つきからしてかなり鍛えてあるし、隙もない。腰の剣は伊達ではなさそうだ。


「どうせクシュバにはいくんだから、一緒でいいよ。でも僕らは僕らの用事があるから、足を引っ張るなら置いていくからね」


 ゲディスが許可を出すと、バセイクは目を輝かせてゲディスに抱きついた。まるで子供である。

 それを見たクーパルは嫉妬に狂うが、ブッラは相変わらず目が冷たい。それを横で見たクーパルは冷や汗をかいていた。そして一言呟いた。


「一番怒らせちゃいけないのは、ブッラなのよね」


 ☆


 夕方、太陽が山の方へ沈みかけると、周囲は茜色に染められていた。気温も少し下がっており、肌寒くなっている。

 ゲディスたちは無事にクシュバへたどり着いた。宿場町として栄えているところだ。

 だが周囲には人がいない。まるで廃墟のようである。この町を治めているのは平凡な領主のはずだ。スドケベ伯爵のように領民をゴミのように扱う性質ではないと、調べは付いている。

 

「なんかさびれているね。みんな晩御飯で家に帰ったのかな?」


「そんなわけないでしょう? 旅人はともかく、住民すら外に出ないなんて異常よ。これは何かがあるとみて間違いないわね」


 ブッラとクーパルは警戒していた。ゲディスも事前に体毛にしかけた罠魔法を発動させる。体毛は蜘蛛の巣のように広がっていき、周囲の家に張り付いていた。情報を得るためである。


『うぅぅ、どうして俺たちがこんな目に……』『闇ギルドの奴ら、俺たちをいじめて楽しいのか……』『イラックという奴、町中の女を連れ去りやがった』『イラックに命じられると逆らえないのはなぜだ……』『イラックはゲディスの一行を差し出せば解放すると言った。早く来てほしいよ……』


「……どうやらこの町はイラックという闇ギルドの人間に支配されているようだね」


「へぇ、君ってそんなことがわかるんだ。すごいね」


「すごくて当然ですわよ! ゲディ、エディス様はこの世で最も優れた魔法使いですもの!! そこら辺にいる一山いくらの冒険者と一緒にしてほしくないですわね!!」


 ゲディスとバセイクの会話に、クーパルが横やりを入れた。高笑いを上げると家から住民が飛び出す。全員顔色は怒気に染まっており、くわなどを手にしていた。


「ゲディスだと!!」「双子のウッドエルフも一緒だ!!」「女もいるけど関係ない!!」「こいつらを捕まえれば俺たちは解放されるんだ!!」


 ゲディスたちは住民に囲まれていた。全員怒りで我を忘れている。理路整然とした説明も受け付けない状況だ。


「まってよ、この人はゲディスじゃなくて、エディス……」


「待った。今のこの人たちには誤解を解かせるより、そのまま流れるように付き合った方がいいね」


 バセイクが説明しようとしたらゲディスが止めた。暴徒は思考停止している。自分の思い通りにならないと暴走してしまう傾向が強い。ここは彼等に囚われることで感情を抑えることにした。


 ゲディスたちは拘束される。といっても両腕を組まれるだけだ。縄で拘束する発想はないらしい。

 ゲディスとブッラ、クーパルとバセイクが連行された。バセイクは無関係なのだが、彼は素直に捕らえられる。


 クシュバのひときわ大きな屋敷に連れていかれた。そこは本来なら領主の屋敷のはずだが、今はイラックに支配されているようだ。

 石造りの二階建てで、広い庭があった。そこに三本の十字架が立ってある。それに三人の男女が縛られていた。ぐったりとしている。


「え……」


 ゲディスは絶句した。左側には金髪の二十代前半の女性がぐったりとしていた。顔や身体中あざだらけである。

 右側には金髪の長髪で中年の筋肉隆々の男が全身切り傷になっていた。目をぎょろりと剥いており、舌を出している。

 最後に真ん中には茶色の天然パーマの小太りの丸っこい中年女性が全身針だらけになっていた。

 見るも凄惨な姿である。血の臭いが届いており、吐き気がする。


 ゲディスはその顔に見覚えがあった。自分がカホンワ男爵の養子になって4年後、よく顔を合わせに来たプオリジ一家である。

 中年男性はオニョメ。中年女性はジャオメダ。一番若いのは娘のメスムだ。

 オニョメとジャオメダは花びらパドルクラスで、メスムは花級フラワークラスである。

 あの三人が捕らえられ、拷問を加えられるなんて信じられない。


 そこに一人の男が現れた。すらりとした体形に黄色の長髪、赤いコートに黒い革の手袋と靴を履いている。美形ではあるが軽率そうであり、にやにや笑う顔は不快感が湧く。


「ケッケッケ。よく来たねぇ。俺様は闇ギルドで一番偉くて強い男、イラック様だよ。今日はお前らを殺し俺様が組織で一番になる日なんだ。グランドマスターすら殺してやるぜ」


 イラックはけらけら笑っている。それを見てゲディスは不快な顔になった。ブッラとクーパルも同じである。バセイクだけは何を考えているかわからない。


「……あの三人をひどい目に遭わせたのは君なの?」


「当然だ!! 俺様の力は万能無敵なんだ!! 俺様に命じられたら誰であろうと逆らえない!! ひっひっひ!! 俺様ってなんて最高なんだろう!!」


 イラックは酔っていた。目は虚ろであり、涎を垂らしている。見ている物を不快にする笑い声であった。背筋に寒気が走る。


 ゲディスはちらりとジャオメダを見た。そして目が合う。ジャオメダの眼は生気に溢れていた。オニョメとメスムも同じである。


『あの三人をどうにかできるわけないじゃないか。多分油断を誘うためだな』


 ゲディスはあの三人を信頼していた。とりあえず無事なのでほっとする。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も成敗でしょうか。
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