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第八話 ゲディスの 義理の兄が 待ち構えていた

「ウッドエルフ共はどこだ!!」


 何とも偉そうな20代の貴族スドケベがずかずかと入ってきた。そしてギルド内を見回すと茫然としていたブッラとクーパルに眼をつけた。


「おお! 門番のいう通りだ!! なんともエロい体のウッドエルフだろうか!! お前たち、これから吾輩の精奴隷にしてやる、ありがたいと思え!!」


 スドケベがブッラ達を指差して叫んだ。だがゲディスたちはさっぱり理解できなかった。


「嫌です。なんでブッラたちがあなたの精奴隷にならなくちゃいけないの?」


「ブッラ、この男はキチガイよ。まともに相手にしてはダメ。さっさと宿を探しに行きましょう」


 そう言ってクーパルはブッラとゲディスの手を取って、ギルドを出ようとした。しかしギルドの入り口は鎧に身を包んだ兵士たちが封鎖している。二人を逃がさないためのようだ。


「がっはっは!! この町では吾輩の命令は絶対なのだ!! お前らのような双子のウッドエルフは珍しい!! 思う存分楽しみ、飽きたらオークションで高値で売ってやるわ!!」


 スドケベが高らかに笑っている。だがゲディスは違和感を覚えた。

 この男は性奴隷と言ったが、スキスノ聖国はそれを認めていない。ブカッタ教も認めていないが、奴隷となるのは生まれつき障害を持つ者だけだ。そんな彼等を買うのは大手の商会であり、所有物として生涯面倒を見るのである。

 これは障碍者も社会にきちんと貢献させるためであり、商会の所有物扱いすることは商会の会頭が変わっても、財産なので破棄することを防ぐためである。

 障碍者の中には生まれつき目が見えない者や耳が聴こえない者もいる。彼等を魔道具で補佐したり、特訓させることで常人より優れた人材を生み出すことが可能なのだ。


 しかしスドケベ伯爵はブッラたちを性奴隷にした挙句、オークションで売るという。つまり闇の世界ではそういうことが横行しているのだとゲディスは考えた。

 この手の人間をすべて取り締まるのは難しい。ゴスミテ王国はその闇に気づけなかったかもしれないが、広い国をくまなく調べるのは至難の業だ。


「ところであなた様はどなたでしょうか? 下賤で無知な私たちはまったくわからないのでございます」


 ゲディスが前に出てへりくだった。それを見たクーパルは頭に血が上りそうだったが、ブッラが止める。


「がっはっは!! そうかそうか!! お前たちのような下賤の輩は偉大なる吾輩の名前を知らんと見える!! いいだろう教えてやる!! 吾輩はスドケベ・ヤキジタ伯爵!! この町の支配者であるぞ!! がっはっは!!」


 改めて自己紹介するスドケベであった。ゲディスはこの男がなぜここに来たのか考えている。

 先ほど門番の報告と言っていたから、自分たちが町に入ってきたときに、伯爵に報告を入れたのだろう。見目麗しい女性を見たら報告するように指導されていたのかもしれない。

 それにしても女性を無理やり性奴隷にすると宣言している以上、これが最初ではないだろう。恐らく町の住民はもとより、旅人もその犠牲になっているかもしれない。

 さすがに花級フラワークラスや花びらパドルクラスは危険を察知して近寄らないだろうし、例え伯爵の私設軍に囲まれても突破するのはたやすいだろう。


「というわけでそこのウッドエルフは吾輩の物だ!! お前はそいつらの飼い主か? ならさっさとこの町から消えろ。おっと金目の物はすべて置いていくようにな。素っ裸になって魔獣に食い殺されてほしいものだ、おっと、お前みたいな醜いゴミなど魔獣から願い下げだろうな!! がっはっは!!」


 それを聞いたゲディスの心に怒りが湧いた。侮辱されたことではない、この男は女性を自分の物とし、さらに相手に男がいればそいつからも金目の物を奪う。恐らくは盗賊のようなやり方が広まり、旅人や商人たちはこの町に近寄らなくなったのかもしれない。


「おい、そこのクズ」


 クーパルが言った。とても冷たい口調で、目が据わっている。


「さっきからわけのわからないことをほざいて、何様のつもりかしら? しかも私たちのお父様に対しての侮辱、死をもって償ってもらいますわよ?」


 クーパルはゲディスの事になると特に切れやすくなった。彼女は父親であるゲディスとガムチチ、産みの母親であるクロケットを愛していた。愛する者を侮辱されるとクーパルの沸点は限りなく低くなるのである。


「待って!! 僕はこの二人を差し上げます!! ですから僕を見逃してください!!」


 ゲディスは床に這いつくばり土下座した。それを見たスドケベはにやにや笑いながら、ゲディスの後頭部に足を載せる。


「がっはっは!! 話が分かるなぁ!! いいだろう、身ぐるみを剥がずにすぐ町を追放することで勘弁してやろう!! おい兵士共この男を町へつまみ出せ!!」


 そう言って兵士たちはゲディスたちを拘束し、家畜のように乱暴に引っ張っていった。


 ゲディスは念話で二人に連絡を入れていた。スドケベ伯爵の元に行き、情報を集めてくれと頼んだのだ。自分も後から合流するので、自分がスドケベに何かされても怒らないようにクーパルに指示したのである。


 二人は我慢ならない顔をしていたが、愛する父親の頼みなので我慢していた。


 ☆


 ゲディスは町の外に放り出された。兵士たちが6人ほど囲んでいる。どこかチンピラじみており、とても町を守る兵士には見えない。

 すでに時刻は夜更けで何も見えない。周りは森の中で兵士たちの持つ松明の灯りだけが照らされていた。


「くっくっく、さてお前さんには死んでもらおうかな」


 兵士の一人がニヤニヤ笑いながら答えた。ゲディスは推測していたので平然としていたが、ここはあえて被虐的な態度をとる。


「そんな!! 約束が違います!! どうして僕が殺されなくちゃならないのですか!!」


 ゲディスは嘘泣きをした。身体を震わせて怯えているように見せる。兵士たちはそれを見て楽しそうにほほ笑んだ。どうやら一度や弐度ではなさそうである。


「決まっているだろう? 伯爵さまは金と女が欲しいんだよ。ゴスミテ王国になったせいで、伯爵さまは前より稼げなくなったんだ。しかもふざけたことにトニターニの出っ歯が規則を厳しくしやがった。だから女を攫っては金に換えて、いつか出っ歯野郎を殺すための資金を稼いでいるわけさ。ついでにあの野郎に不釣り合いなユフルワを自分の女にしたいらしい。遠目で見たが男好きする熟女だなぁ。もちろん子供は邪魔だから殺すけどな!! ひゃっひゃっひゃ!!」


 兵士はべらべらとしゃべっている。よほど余裕があるようだ。集団で弱い者いじめを楽しむ性質のようである。


「最近では闇ギルドのムカック様と、瞋恚しんいの戦士カシクゴを引き入れたからなぁ。近いうちにヨワシラを襲撃してやるんだ。そして略奪と強姦、虐殺を楽しむんだよ、くっくっく」


 なんということだろうか。闇ギルドのムカックは耳にしたことがある。人を爆破させて殺害しる危険人物だ。カシクゴの方は炎の剣を操る男と聞いている。名前は知人と同じだが別人だろう。


「……あの二人はどうなるんだ?」


「決まっているだろう? まずは伯爵さまの家の地下にある、地下牢に閉じ込めるんだよ。そこではあらゆる魔法を封じる結界が張られているんだ。そこではどんな冒険者でも無力にされるんだぜ? そこで伯爵さまは女どもとしっぽり励むというわけさ。ひゃっひゃっひゃ!!」


「そうですか。では急がないといけませんね」


 ゲディスは立ち上がった。その態度に兵士たちは真っ赤になった。今まで怯えていた獲物が余裕綽々になることが許せないのだ。

 無力な相手を徹底的になぶり、命乞いしても無視して無慈悲に殺す。それが彼等のやり口であった。


 彼等は手に持った棍棒でゲディスを殴ろうとした。しかし彼等はピクリとも動かない。いいや動けないのだ、彼等の身体は目に見えない糸で張り巡らされていた。

 ゲディスが得意とする罠魔法だ。ゲディスの体毛を使っており、ゲディスの意思で自由にできる。


「なっ、何をしやがった!!」


「教えないよ。何も知らないまま死ぬがいい」


「ふっ、ふざけるな!! なんで俺たちが死ぬん―――!!」


 兵士たちがもがくと、彼等の身体は爆発した。正確には首を含む両腕と両足がぶちんと切断されたのである。彼等は瞬時でバラバラ死体へと変わったのだ。

 ゲディスの罠魔法が発動し、彼等を無慈悲に命を奪ったのである。ゲディスとて人殺しは嫌いだし、冒険者ギルドに登録しているので、殺人はご法度だ。だが彼等は明確に強盗殺人を楽しもうとしていた。


 これは冒険者にしか知らないことだが、ギルド内に設置された賢者の水晶サージ クリスタルは相手の殺意を感知する機能がある。冒険者による強盗殺人はすぐ察知されるが、相手が殺意を剥き出しにしていれば正当防衛と見なされ、除外される。

 

 今回はゲディス一人なのに、6人もの相手が囲んでおり、正当防衛は認められた。そしてゲディスはヨワシラにある冒険者ギルドに連絡を入れる。ヤキジタでは伯爵の手にあるからだ。

 ギルド経由から憲兵団に報告されるだろう。あと数日でヤキジタの町に来るはずだ。


 ☆


 ゲディスはすぐに町へ戻った。夜の森などゲディスにとっては散歩道でしかない。夜行性の魔獣にも遭遇せず、物の数分もかからないうちにゲディスは町の中に入った。

 そしてスドケベ伯爵の屋敷へ向かう。ゲディスはブッラとクーパルの居場所が手に取るようにわかるからだ。

 二人は魔法が使えない場所に捕らえられているだろうが、まったく関係ない。

 自分たちは魔法が使えない時を想定して、色々な隠し武器を持っている。

 ゲディスがわざと二人を差し出したのは、スドケベ伯爵の不正を暴くためだ。彼の行為は貴族として逸脱しすぎている。

 状況証拠次第ではスドケベ伯爵を殺害するかもしれない。ゲディスはそう思った。


 やがて立派な屋敷を見つけたが、見張りは一人もいない。

 だが玄関の前に一人の男が立っていた。それは赤い炎のような髪型に、真っ赤な大きい顔。両手両足は短く、小人に見えるが大きさは牛ほどである。手には剣が二本握られていた。


「待っていたぞゲディス!! 俺はカシクゴ!! お前の義理の兄だ!! そして母と妹を殺した憎き仇だ!!」

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[一言] 伯爵は罰せられるべきですが、さて。
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