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第2話 ゲディスは ドジョクから 衝撃的なことを 教えてもらった

「基本界とはいったいなんでしょうか?」


 ゲディスが質問した。今初めて聞いた言葉だから当然である。

 ドジョクはコホンと咳払いをして説明した。


 基本界とは別名地球と呼ばれる世界である。そこは魔法は一切存在せず、代わりに科学の力が発達した世界だそうだ。

 百数の国が存在するが、貧富の格差が激しく、飢えに苦しむ国があれば、食べる物を嫌いと言って捨てる国もあるという。

 魔法はなくとも科学の力で人々は寒く暗い夜を克服したそうだ。虫や獣たちも科学で作った薬品のおかげでなんとかなっているという。もっとも獣の方は増えすぎたり、減りすぎた個体を保護するため人間同士が争うことが多いそうだ。


「僕たちの世界と変わりありませんね」


 ゲディスは神の生まれた世界に対して、そうつぶやいた。この世界も便利な魔法が存在するが、それほど幸せとは思えない。むしろ魔法のせいで不幸になっている人間も多いのだ。

 魔法とは無から有を生み出すものではない。例えば水を生み出す魔法を使うとしよう。雲や地下の水源を引っ張ったりできる。しかしそのせいで他の地域から水を奪う結果になるのだ。

 塩湖から塩だけを抜き取り、真水にする魔法のほうがまだマシと言える。それでもその魔法の有無でその地域の支配権が決まることもあった。


「魔法も科学も善悪はありません。すべて使い手次第なのですよ」


 ゲディスはさらりと言った。それを聞いてドジョクは満足げにほほ笑む。


「オッホッホ。お主はなかなか話の分かるワッパじゃな。さて本題に入るとするか。お主たちをこの世界へ呼び込んだのは、ブカッタ教団最高指導者のアブミラなのじゃ」


「アブミラ様、ですか? なぜ彼女は僕たちをこの世界へ飛ばしたのでしょう」


「ひとつはお主たちを守るためじゃな。敵はスキスノ聖国のアジャック枢機卿とキャコタ王国海軍司令官イコクドじゃ。こ奴らはお主たちだけでなく、魔女バガニルとその子供たちの命を狙っておるのじゃよ」


 ドジョクの言葉にゲディスは衝撃を受けた。アジャックは伯父で、兄ラボンクを可愛がっていた。だがイコクド司令官に恨まれる筋合いはない。それに姉のバガニルとその子供たちを狙うなど、どういう理由があるのだろうか。


「二人は魔王化の影響を受けておるのじゃよ。ご存じの通り、魔王とはその国の邪気を百年近く集め、勇者によって浄化される仕組みじゃ。勇者とは太陽の力を蓄積する者のことを言う。魔王も勇者も百歳である必要はない、相応しい人間に素質を受け継ぐ感じじゃな」


「それと僕や姉上たちを殺す意味が分かりません」


「普通はそう思うわな。実は魔王と勇者の素質を持つ者は、自分の血縁を憎み、殺さずにいられない性質を持っておるのじゃ。妾も昔はただの妾じゃったが、当時の国王と正室が暴走して殺戮の宴を楽しんでおった。自分の両親や兄弟を皆殺しにしたのじゃよ。それを後年では妾の甘言で起きたことにされておる、まったく忌々しいわ……」


 ドジョクは怒っていた。だが今の話を聞いてゲディスは納得した。なぜ兄ラボンクが自分たちを忌み嫌っているのか、そして初代皇帝ゴロスリが皇帝以外の人間を帝都から追い出す法律を作ったのも納得が出来る。


「では僕たちをここから出してください。ガムチチさんが心配しているので」


「それは出来ん相談じゃな」


「なぜですか?」


 ゲディスが訊ねると、ドジョクは渋い顔になった。


「お主たちをここに運んできた鏡には特殊な術式が施されておる。お主たちが元の世界へ戻るにはあの鏡を使うしかないが、次に使えるのは4年後なのじゃ」


「4年!? 僕たちは4年もガムチチさんたちに会えないのですか!!」


「そうじゃ。じゃが向こうでは四日しか経っておらんぞ。この世界と向こうの世界は時間の流れが違うのじゃよ」


 それを聞いてゲディスは安堵した。自分たちは4年間この世界に留まることになるが、ガムチチたちは四日しか経っていないのだ。とはいえブッラとクーパルが自分以外の身内と4年も会えないのは厳しいと思った。


「そういえばドジョクさんは今幾つなのですか?」


 これは気になることだった。時間の流れが違うなら、彼女は見た目通りの年齢ではないはずだからだ。


「妾は40万歳じゃな。ここが生まれて70万年以上経っておる。この世界は死んだ魔女や法皇が最後に行きつく場所なのじゃ」


 それを聞いてゲディスは驚いた。彼女は神の領域を超えていたからだ。来る途中で見た不思議な生物や生きている家具なども神の技と考えれば納得がいく。


「あの、お願いがあるのです」


「なんじゃ、言ってみよ?」


「僕の母上、ハァクイと会わせてください」


 ゲディスは声を絞り出しながら頼んだ。6歳の頃彼女のお尻に木刀を何度もぶった罪悪感が残っている。のちに彼女が邪気収集の儀を行い、ゲディスがそれに巻き込まれたと姉のバガニルから聞いても心は晴れなかった。

 ハァクイはすでに神になっているかもしれない。自分のことなど忘れているかもしれないのだ。

 それでもゲディスは会いたかった。会って一言謝りたかったのだ。だがドジョクは拒否する。


「それは出来ん相談じゃな」


「なぜでしょうか。母上は僕に会いたくないのでしょうか?」


「そもそもお主の母親、ハァクイはまだ死んでおらんのだ。先ほど説明したアブミラこそ、お主の母親ハァクイなのじゃよ」


 今日初めてゲディスはそれを聞いて絶句したのだった。

 ちなみにブッラとクーパルは寝ていた。話が退屈だったからだ。どこからともなく羊の魔物が現れて眠りかけている彼女たちを抱きかかえる。羊たちは心地よい声色で子守唄を歌っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外伝お疲れ様です。 長い冒険になりそうですね。
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