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第一話 目覚めた先は 

これはゲディスとその娘、ブッラとクーパルが巻き込まれた話である。


 ゲディスは夢を見ていた。それは幼い頃、母親の腕でスヤスヤと眠っている時の事だ。

 夢を見ているのに、眠っているなど矛盾していると思われるだろうが、夢とは矛盾だらけなのだから致し方ない。

 夢の中のゲディスはとても柔らかく暖かい気持ちでいっぱいになった。

 そこに屈強な男の固い胸が背中にくっつく。母親のふんわりした身体とは対照的だが、なぜか心地よかった。


「ぱーぱ!」


 突如声がした。そして身体をユサユサとゆすぶられる。何事かと目を覚ますと、目の前には4歳ほどの褐色肌の女の子が現れた。銀髪で短く切り揃えている。

 ゲディスの娘、ブッラだ。


「ぱぱ、だいじょうぶ?」


 同じように褐色肌で長い銀髪の女の子が心配そうに声をかける。ブッラの双子の妹、クーパルだ。

 ゲディスは自分の手を見る。そして両腕は毛むくじゃらで幼児のように小さくなっていた。

 さらに顔を触れてみる。豚の鼻に頭部には二本の角が生えていた。足は山羊のように蹄が付いている。


 ゲディスは自分の顔を見たくなり、周りを見回した。見渡す限りの草原で、所々に数本の樹木が生えている。そのひとつに泉があったので、そちらへ駆け寄った。そして水面を見て自分の顔が変わり果てていることに驚いたのだった。


「!? この姿、ブカッタ神そっくりじゃないか!!」


 ゲディスは醜い怪物に代えられたことより、その姿形を見て衝撃を受けていたのだ。


「ぶかったしんて、なーに?」


 ブッラが訊ねた。


「キャコタ王国に伝わる神様の名前だよ。正確にはブカッタ教は商人たちの組合みたいなものなんだ」


「くみあい……。みんななかよしって、ことですかぁ?」


 今度はクーパルが訊ねる。ゲディスは似たようなものだと答えた。

 それもブカッタ教はタダの宗教ではない。大抵の商人はブカッタ神の像を店先に飾っている。これは一種の魔道具であり、通信の魔法がかけられているのだ。

 例えば食料や薬品が不足している国があるとする。ブカッタ神の像を使えばその情報はいち早く手に入るのだ。そしてその国に食料と薬品を高く売りつける。もっとも売るにしても最高指導者のアブミラの指示がなければ許されない。そのアブミラは世界情勢を調べながら商売の指示をするのである。

 ただ一般の商人たちは何の力を持たない像を所持している。目が飛び出るような大金を定期的に寄付できる商会でなければ、本当の像は渡されないのだ。


「だけどどうして僕はブカッタ神の姿にされたんだろう……。それにここはどこなんだ? なんとなくだけど現実とは違う世界なのはわかるけど……」


「ここはフォウォールという世界じゃよ」


 ゲディスが悩んでいると、頭の上から声がした。空を見上げると一人の女性が空の上に浮かんでいた。

 腰まで伸びた茶髪の女性で、頭部には狐耳が生えている。志熊荷しぐまに王国の着物を着ており、赤く星柄で、胸元ははだけており、豊かな胸がこぼれそうであった。

 年齢は二十代後半に見えるが、どこか老齢にも見える不思議な雰囲気がある。

 手にはキセルを持っており、臀部には9本の狐のしっぽが生えていた。


「……モコロシ王国に伝わる魔女、ドジョクに似てますね」


 ゲディスがつぶやいた。ドジョクはモコロシ王国がまだ一つの強国だった時代に登場する魔女だ。彼女は時の権力者に取り入り、酒池肉林を作り、放蕩の限りと尽くした挙句滅ぼしたと言われている。

 だがモコロシ王国が滅んだのは魔王化が原因だ。彼女の仕業ではない。


「オーッホッホッホ!! いかにも妾はドジョク本人よ!!」


 狐女は高笑いをした。しかしドジョクは普通の人間だったはずだ。もう千年以上も昔の話である。

 するとドジョクは地に舞い降りた。そしてにんまりと笑う。


「まあ詳しい話は後じゃ。今はお主たちを妾たちの家に案内せねばならんでな」


 そう言ってくるりと背を向けると、すたすた歩きだした。ゲディスはわけがわからないと思っても、行く当てがないのでついていくしかなかった。

 ブッラとクーパルは不安そうだが、逆に二人を左右に抱きしめてやる。すると二人とも安心した様子になった。


 ☆


 ドジョクに案内されたのは城だった。それは城としか言いようがなかった。豪華絢爛でキラキラした家であった。

 だがゲディスは別の事で驚いていた。ドジョクについて行って数分も経たないうちに、巨大な城にたどり着いたからだ。

 もしかしたらこの世界は空間が滅茶苦茶なのかもしれないと思った。義母のイラバキ・カホンワから幼少時に魔法の事を習ったからだ。結界の中には空間をゆがめるものがあり、遠くに見えても近くだったり、その逆だったりといろいろあるらしい。


 城の周りは数多くの魔物がいた。ぬいぐるみのようにふわふわした青い角の生えた熊や、蝙蝠の翼が生えたうさぎのぬいぐるみなどが所狭しと働いていた。

 中には小太りの中年女性が大鍋で料理を作りながら、魔物たちに指示したりしていた。

 男もおり、細腕で大木を三本も掲げたりしている。なんとも不思議な空間であった。


 空を見上げると紫色の夜空に虹がかかっていたり、星がキラキラと輝いていた。まるで夢の世界だ。

 ドジョクはこの世界をフォウォールと呼んでいた。いったいどういう意味であろうか。


 ブッラとクーパルは幻想的な世界に感動しており、はしゃいでいた。

 ゲディスは二人と窘めながら、城の中に入る。城の中はほうきやバケツが生き物のように動いており、家具もひとりでで動いていた。壁に掛けられた絵画もゲディスたちに挨拶している。

  ドジョクはとある部屋に入った。そこは丸い部屋だった。壁一面に無数の星空が描かれている。


 その内青く大きな星があった。それはとても美しい星であった。


「オホホホホ。この部屋が気になるかの?」


「はい、この部屋はどういった趣旨なのでしょうか?」


「基本界じゃ」


 ゲディスの問いにドジョクが答えた。基本界とはなんであろうか?


「光の神ヒルカ様と闇の女神ヤルミ様が生まれた場所でもある。そしてお主たちの住む世界を生み出したのも基本界なのじゃ。あの青く大きい星は地球と呼ばれており、そこの住人が生み出す夢によって、この世界は作られたのじゃよ」


 ドジョクの言葉にゲディスは呆気にとられた。ブッラとクーパルはよくわからず、きょとんとしている。

 2023年あけましておめでとうございます。


 きまぐれで下ネタファンタジーの外伝を書きました。やはりブカッタになったゲディスたちが気になる人がいると思ったからです。

 正月は1日に4篇掲載し、2,3日は一遍づつ。その後は水・土の連載になります。

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